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佐藤厚

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カナダで薬剤師(3)やっぱり勉強

 私は、今や「ノスタルジック」と言われる昭和の田舎に生まれ、平成に学生時代を過ごしました。大学生の頃は、東京にある薬科大学で体育会系テニス部に所属し、対外試合で誰よりも大きな声で吠えていたのはそれほど昔のことではありません(と、自分では思う)。

 だから、デジタルネイティブの若者が、昭和の雰囲気に感情揺さぶられるという意味でエモいと表現し、そのレトロブームをターゲットにして企業がマーケットを開拓するというのは、カナダにいる私から見ると不思議な感覚を覚えます。なぜなら、昭和が終わった頃から、北米ではスティーブ・ジョブスやイーロン・マスクのようなカリスマ的リーダーの出現により、強力な推進力を持ってテクノロジーと経済が前に進んできたのですから。

 そして、薬剤師の仕事も例外ではありません。

 カナダで、普段は患者さんに触れることがない薬剤師がその殻を破ったのは、ワクチン接種です。2009年のH1N1鳥インフルエンザの大流行に備えて、薬局で薬剤師が集団予防接種を行いますと、トップダウンの決定でした。大学院生の頃に毎日ラットのしっぽに注射をしていたので注射針やシリンジの扱いには慣れており、その経験が初めて役に立ちました。

 2021年初頭に始まった新型コロナウイルスの集団予防接種でも、薬局は当たり前のように接種機関に含まれ、2023年にはワクチン以外の薬物、つまりビタミンB12やテストステロン製剤の筋肉内注射、生物学的製剤の皮下注射も認められるようになりました。カナダ全土における慢性的な医師・看護師不足という背景はあるにしても、利用可能な人的資源を最大限に活用することを厭わないという姿勢が強いと感じます。もっともカナダは世界各地から人が集まっている国ですから、変化に対する免疫が強いのでしょう。

 また、ここ数年は特に薬の欠品が多いので、同効薬への変更や、用量・用法の変更、治療継続のため、現在の処方箋の更新を行うのは、全く特別なことではなくなり、2003年の6月1日からは、Minor Ailments(マイナーイルメントと発音、軽度の疾患という意味)において、薬剤師が薬を処方できるようになりました。(過去記事参照「薬剤師の新しい仕事」またお薬の時間ですよ!)。マイナーイルメントに含まれる疾患の中でも、尿路感染症、口唇ヘルペス、細菌性結膜炎に対する抗菌薬や抗ウイルス薬の処方せんを発行したことが多いように見受けられ、薬局の利便性が増したことは間違いないと思います。

 このように色々なことが変わっていくカナダで生き延びるために、大学で勉強することにしました。私が2022年の1月からスタートしたのは、ブリティッシュ・コロンビア大学(University of British Colombia:UBC)のFlex PharmD(Doctor of Pharmacy)プログラムで、社会人薬剤師が仕事を続けながらフレキシブルなスケジュールで学位取得を目指すものです。ちなみに、Doctor of Pharmacy(直訳すると薬剤師博士)とは、薬剤師の専門職学位です。時代の要請に合わせて変化を続けるUBCでは、2019年から薬学部卒業時に得られる学位が「Bachelor of Science in Pharmacy」から「Doctor of Pharmacy」へと変わり、また、これに合わせるように社会人向けのFlex PharmDプログラムが設置されました。

 PharmDの学位をとったからといって給料が増えるわけではないにもかかわらず、なぜ今、Flex PharmDプログラムにたどり着いたかいうと、これはひとえに長年の憧れに尽きます。実は、北米の薬剤師に憧れていた大学生の頃、アメリカの大学にはPharmDという学位があることを知り、研究室にこもって実験をするのではなく、臨床的な勉強をして薬剤師が「ドクター」と呼ばれるようになるのは滅茶苦茶カッコ良い(!)と思ったものでした。それから20年、晴れてカナダでPharmDプログラムに入ることが出来た訳です。また、志望動機に「薬剤師のエッセンスは、生涯学び続けること」と記したように、薬剤師としての仕事を再確認し、自分の知識をアップデートし、仕事の幅を広げたいという思いが強いです。

 プログラムが開始してから早2年が経過しましたが、この間オンラインによる座学は全て終了し、現在は実習に取り組んでいます。今年の1月から2月にかけて、毎朝6時のフェリーでギブソンズからノースバンクーバーにあるSave on Foods(Park&Tilford)に通いました。毎日フェリーで往復する生活は中々大変でしたが、バンクーバーに通勤するロンドンドラッグスの常連の患者さんや、バーナビーにあるBCIT(British Columbia Institute of Technology)に通うお父さん仲間もいて、通勤に孤独感はありませんでした。また私にとっては、薬剤師としてロンドンドラッグス以外の薬局に通うのは初めてのことで、大変有意義な時間となりました。これからも仕事のスケジュールと相談しながら、断続的に実習が続きますが、一生懸命新しい知識を取り入れていきたいと思います。

 プログラム終了後の私のプランですが、現時点ではキャリアチェンジは考えていません。ロンドンドラッグスの薬局薬剤師の仕事には大きなやりがいを感じており、最近UBCの学生向けに郊外の薬局で働く魅力について話をしたばかりです。しかし、今後病院での実習を終えた頃には、薬剤師としてのモノの見方や考え方が変わる可能性はありますから、私自身、どのような未来になるかは分かりません。

 若い頃の夢を追って、一歩一歩階段を登ってきた私ですが、それなりに行き詰まって大変な時期があったことも今回のコラムでお伝えできたかと思います。しかも、私と同年代の方であれば、それなりの地位について社会に貢献している方も多いでしょうから、今さら学生生活とは能天気な人間と思われるかもしれません。しかし、カナダで薬剤師免許をとることに人一倍時間と労力をかけた私としては、小さなコミュニティーで薬剤師として認められているのは、純粋に嬉しいと感じるばかりです。今後も、地域の患者さんのため、またカナダの日系コミュニティーの役に立てるよう精進して参ります。

*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

カナダで薬剤師(2)荒波に揉まれて

 2020年の年初から世界を騒がせてきた新型コロナウイルスは、もはや未知の恐怖ではなくなり、先進国の中でもとりわけ慎重な水際対策を行なってきた日本でさえも、2023年5月からは感染症法上の扱いが季節性インフルエンザと同じ5類になりました。

 2024年に入ると、日経平均株価がバブル期の1990年2月以来の高値を更新。一方で、日本政府の賃上げ支援策を背景に企業で賃上げの取り組みは見られるものの、この30年以上に渡り停滞した賃金を短期間で北米レベルに引き上げるのは非現実的なこと。さらには最近の円安も追い打ちをかけ、海外留学を希望する若い世代にとっての経済的な負担はこれまでになく大きいものであると言えます。

 しかし、そんな時代だからこそ、海外で夢を追いかける皆さんを応援したく、私がカナダで薬剤師になった道のりを前回紹介させて頂きました。あの頃は、先が見えないという意味で本当に大変でしたが、その経験があったからこそ、ちょっとやそっとのことでは心が折れなくなったような気もします。今回は、私がカナダで薬剤師になってからのお話です。

 2007年の春に、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)の外国人薬剤師向けブリッジングプログラム、Canadian Pharmacy Program(CP3プログラム)に滑り込んでスタートしたことはお話ししましたが、このプログラムの薬局実習でロンドンドラッグスにお世話になった縁から、薬剤師免許取得前から仕事のオファーを頂くことができました。いわゆる内定です。ロンドンドラッグスには、その後、Provincial Nominee Programを通した移民申請手続きのサポートまでして頂きましたから、当時から現在に至るまでお世話になりっぱなしです。

 そして2008年の春から働くことになったのは、ウエストバンクーバーからフェリーで40分のところにある、ギブソンズ(Gibsons)という人口5千人弱の小さな町です。バンクーバーの喧騒から少し離れた自然に囲まれた静かな町ということで、リタイヤした人が多く集まる土地です。2021年の統計では、バンクーバー市の65歳以上人口が17%であったのに対し、ギブソンズは人口の40%でしたから、町がシニア層を中心に成り立っていることが分かります。

 私が薬局勤務を始めた頃は、ベテラン薬剤師が二人で薬局を切り盛りしていました。私より少し後にもう一人の薬剤師が加わりましたが、彼はそれまで同じ町で30年以上に渡り個人薬局を営んでいたレジェンドのような方でしたから、彼らは全員、患者さんの信頼度の桁が違いました。一方で、私のように何でもゼロから説明しないと話がわからないようなアジア人の若造では話にならず、私以外のベテラン薬剤師を指名する人も多くいました。当たり前こととは分かっていても、あまりにこれが続くと人間としてはヘコみます。心の中では「またかよ!」みたいな感じで(笑)。私が特に悪いことをしているわけではありませんし、やる気だけはあったので、仕事を覚える機会が奪われることがフラストレーションでした。

 実際、仕事を始めて最初の5年位は仕事に慣れることで精一杯。この間、特にこれといったことを成し遂げた感覚はゼロです。要領と物覚えの両方が悪いタイプであることは十分自覚していますし、あれだけ苦労して取得したカナダの薬剤師という資格ですから、1つずつ仕事を覚えるしかありません。

 その頃は知りませんでしたが、現地の大学(UBC)を卒業した薬剤師でさえも、スピードを身に付け、テンポよく仕事が出来るようになるまでは、ニュービー(New babyのこと)やグリーン(未熟なこと)と呼ばれます。当時の私はニュービー中のニュービーでしたから、周りのスタッフも半ば諦めていたことでしょう。それでも、薬局業務は良くも悪くも同じ仕事の繰り返しですから、時間が経つにつれて最低限の仕事はこなせるようになっていきました。桃栗三年柿八年、何事も一人前になるには相応の歳月を要するものだからと思えるプラス思考だけが私の取り柄です。

 2010年には初めての子供が生まれましたが、悪性小児がんのために9ヶ月にして亡くなりました。ブリティッシュコロンビア州(BC州)唯一の小児病院であるBCチルドレンズホスピタルと、小児ホスピスCanuck Placeで、カナダの小児医療と小児緩和医療を患者の家族という立場で経験しました。幸いにも、その後2人の健康な子供に恵まれ、それ以来子育てに追われているうちにあっという間に時間が過ぎていきました。

 このようにプライベートは忙しくなったのと同時に、仕事にも結構慣れてきましたので、資格試験に挑戦しようと思いました。薬剤師としては一生勉強を続けなければなりませんし、もともと勤勉な日本人の遺伝子も持っている私です。Eメールで案内のあった、国際渡航医学会(International Society of Travel Medicine; ISTM)の渡航医学(travel medicine)医療職認定に挑戦することにしました。

 渡航医学とは、海外渡航者の健康管理を扱う分野で、薬局薬剤師としては、出発前に渡航先に応じた健康相談と予防接種を行い、人の移動に伴う健康リスクを包括的に管理します。具体的には、中南米や東南アジア、アフリカ大陸への旅行者へのA型肝炎や腸チフスの予防接種、旅程に応じた黄熱ワクチンの接種または免除証明、旅行者下痢症の対策と治療方法、新型コロナウイルスの流行で大きな話題になったクルーズシップ旅行の際に気をつけること、留学や駐在での海外滞在中のメンタルヘルス、高山病対策、海外出張、移民・難民の健康問題、海外でのスポーツ、スキューバダイビングの際に注意することなど、渡航先と渡航目的に合わせたコンサルテーションを行います。これらのバックボーンとなる知識をテストするのが ISTMの医療職認定試験です。

 日本のパスポート保持者が20%前後であるのに対して、カナダのパスポート保持者の割合は70%と高いことが挙げられます。これはカナダという国が多くの移民で成り立っていることと、また米国に隣接していることを考えれば自然なことかもしれませんが、とにかく国外に出かける人の数が多く、渡航前健康相談と予防接種は大きな需要のある分野であるといえます。

 これに加えて、2009年には鳥インフルエンザの大流行に備えて、BC州では薬局薬剤師によるインフルエンザの予防接種が始まり、薬剤師が注射を打つことが普通になっていたという背景もあります。そもそも私自身が日本からの移民である上、元添乗員の妻は海外旅行が大好きですから、もしかして渡航医学って面白いんじゃない?といった軽いノリで試験準備を始めました。

 現在はオンラインでも行われているこの試験も、2013年当時は世界各地の学術集会に合わせた現地受験のみしか選択肢がありませんでした。そこで、2013年の試験はオランダのマストリクトという小さな町へ行って、強烈な時差ぼけの中でこの試験を受けましたが、あと1歩のところで不合格。飛行機で一番揺れの少ないところはどこかという問題を間違えました。(答えは主翼の上です)。合格の場合には、会社からの金銭的なサポートが出るはずでしたが、不合格の場合はサポートゼロということで、全額自費のただのヨーロッパ旅行になってしまいました。

 この旅の途中、フランスのとある駅で、券売機でチケットを買うのを手伝ってあげるという人を信用してお金を払って、ゲートを通過しようとしたら子供用の一駅分のチケットだったという詐欺にも遭いました。旅の疲れで注意力が下がっていたとはいえ、踏んだり蹴ったりです。

 それでも私にとって人生初のヨーロッパ旅行で、アムステルダムとパリを観光したのが非常に良い刺激となりました。UBCのCP3でお世話になった先生の一人が、その頃フランスに帰国していましたので、パリで再会しました。

 肝心の医療職認定試験ですが、カナダの国家試験に何度も落ちた経験を持つ私としては、たかが一回失敗したぐらいではめげません。1年の勉強期間を経て、2014年の6月にはベトナムのホーチミンシティーで同じ試験に再挑戦。手応えはイマイチでしたが、無事合格することができました。何かを成し遂げるために一番大事なことは、やっぱり諦めないことですね。

 ここにも余談があり、ホーチミンシティー滞在最終日に街を散策した後、喫茶店でアイスコーヒーを飲んでお腹を壊してしまい、カナダに戻ってからメディカルクリニックに行く羽目になりました。ベトナムも最終日だし、蒸し暑しいので、一杯くらいはいいかなという気の緩みがいけませんでした。でも、そんな体験が人間を成長させてくれるもの。薬局に渡航前の相談に訪れる患者さんには、東南アジアは、蒸し暑いですが、とにかく氷には気をつけて水分補給してくださいねと、身をもってアドバイスしています。

 薬局薬剤師としてトラベルクリニックを標榜してから早10年が経過しますが、この間、日本渡航医学会に所属する薬剤師の先生とバルセロナの学会で知り合い、日本の学会で発表する機会を頂きました。さらに2023年には、国際渡航医学会の薬剤師専門部会運営委員に立候補し、選出されました。薬局勤務のため、研究実績がほとんどない私は、気合いと好奇心だけでこのようなポジションに辿り着いたといえます。

 波にノってくると、たまには良いことが続くもので、2023年のロンドンドラッグスのファーマシーマネージャーカンファレンスにおいて「Operation Efficiency」部門の社内表彰を受けました。2019年からマネージャー職を務めておりますが、2020年初頭からの新型コロナウイルス流行に伴う混沌とした状況でチームをまとめ、朝4時から働くこともあれば、オーバーナイトのシフトを入れて夜中に一人で処方せんの入力をしていた時期もありました。カナダという国にしてはかなりブラックな働き方であるとは思いつつも、毎日10〜12時間シフトを働くのが日常となりました。薬局の仕事を回すために、考え方と働き方を変えることで荒波を乗り越えてきたことが認められて大変嬉しく思いますが、こんな私をサポートしてくれる薬局スタッフと家族に恵まれたのはいうまでもありません。

 次回は、私の次のステップを紹介します。

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佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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カナダで薬剤師(1)

 令和6年能登半島地震により被害に遭われた皆様には、心からのお見舞いを申し上げます。そして、ご家族や大切な方々を亡くされた皆さまへ、謹んでお悔やみを申し上げます。また、被災地への物資輸送の際に航空機接触事故で犠牲になられた自衛隊の方々に、ご冥福をお祈り致します。

 さて、2020年に新型コロナウイルスが流行してから数年間の充電期間を経て、コラムを再開しましたが、日加トゥデイオンライン版ではきちんと私の自己紹介をしていませんでした。そこで今回は、私がどのような経緯でカナダで薬局薬剤師になったかについて書いてみたいと思います。どうか気軽に読んでください。

 まずは名前ですが、佐藤厚(さとうあつし)です。カナダで生活しやすいように、日本人でもニックネームを持っておられる方も結構いますが、私はそのまま本名で生きています。一回で名前を覚えてもらえることは稀ですが、それでもAtとsushiと綴りを分けて説明すると「おー、君はスシか!」と言った具合にスッと覚えてもらえます。

 両親ともに日本人で、生まれ育ちも新潟県という生粋の日本人ですが、「これからは海外だ!」という、田舎にしては先見の目と気合を併せ持つ母親の影響で英語と海外生活に興味を持つようになりました。大学1年生の春休みに、当時宣伝していたバンクーバー短期語学留学に参加し、人生初の海外渡航でバンクーバーを訪れました。到着早々、右側通行する車や街に溢れるコーヒーの匂い、誰でも気軽に「ハウズイッゴーイン?」と話しかけてくるような陽気でオープンかつ大雑把なところがピタッとハマり、こんなところで生活してみたいと思いました。

 また、普通の人なら渡航前に地球の歩き方のようなガイドブックで色々下調べすると思いますが、田舎者の私は世の中にそんなガイドブックがあることさえも知りません。またインターネットはようやく社会に普及し始めたばかりで、サッと調べ物ができるようなスピードではありませんでした。ですから、渡航前の資料は留学エージェントのパンフレットぐらいだったと思います。だから尚更のこと、人生で初めてみる外国カナダに、色々な意味で衝撃を受けた訳です。

 もう一つ海外を目指した理由として、ちょうど私が大学生の頃、日本の薬剤師の在り方が大きく変わろうとしていたことがあります。1990年に政府主導で医薬分業が推進されたことで、薬剤師が病院の調剤室にこもって薬を取り揃える時代は終わり、病院やクリニックの門前薬局で、薬剤師が患者さんにお薬の説明をし、服薬管理をするようになっていました。

 それでも、日本の薬剤師業務は北米より30年遅れているというのが当時の通説で、しかも当時の米国のギャロップ社による信頼される職業ランキングでは、薬剤師が毎年のように一位を獲得していた時代です。大学の入学式でも、学長先生が「北米の薬剤師に追いつけ追い越せ」という旨の訓示をされました。

 良く言えば素直、別の言い方をすれば恐ろしいほどの単純思考を持つ私は、今風にいえば「ヤバい(カッコ良すぎるという意味)!やっぱりこれからは北米で薬剤師でしょ!」と思わずにはいられませんでした。その後、毎回切羽詰まりながらも留年することなく薬学部(当時は4年制)を卒業し、また合格点ギリギリ薬剤師免許を取得。近いうちに薬学教育は6年制になるだろうということで、そのまま大学院にも進みましたが、日本国内で薬剤師として働いたり、研究者として生きていく人生は全くイメージできませんでした。むしろ海外生活への憧れは年々強まり、DVD(当時はかなり最新のテクノロジー)で米国の医療ドラマ「ER」を何度となく見て、海外の医療現場で働く自分をイメージし、鼓舞していました。

 私の海外志向が固まったのはそんな経緯ですが、その後すんなりカナダで薬剤師になれたという訳ではありません。主に薬のサイエンスにフォーカスした日本の薬学教育と、その頃すでに患者さんの薬学的ケアに重点を置くカナダのそれとは大きく異なっていたため、カナダの薬剤師国家試験で求められる知識の枠組みを理解するのに苦労しました。特に模擬患者さんに対応し、問題解決することが求められる実地試験に関しては、コツが掴めず最後まで非常に苦労しました。大きな理由として、そのような実地トレーニングをしていなかったことと、日本では薬剤師の仕事の範囲外の内容まで出てきましたから、当然といえば当然の成り行きです。

 薬局でアシスタントやボランティアとして働くことでも出来れば、現場の薬剤師のやることを習うよりも慣れる感じでどんどん吸収できたとは思いますが、長期滞在できるビザがなく、日本と往復しながら短期滞在を繰り返していたため、それも叶いませんでした。もっとも薬局マネージャーという現在の私の立場で考えれば、履歴書にどんなに立派に「日本で薬剤師、現在カナダの薬剤師免許に挑戦中です」と書いてあっても、どこの馬の骨とも分かりませんから、そんな人を短期でボランティアで預かるリスクは大です。薬剤師は人の命を預かる仕事ですし、薬局には多くの麻薬も保管してありますから、よほど信頼できる人でなければ、薬局でボランティアをするのはかなり難しいことだと思います。

 そして極めつけは、やはり日頃から英語で話せる友達やガールフレンドがいなかったことで、現実的にカナダで薬剤師として仕事ができるレベルのスピーキング力を独学で身につけるのは困難を極めました。

 では、どうしたか?

 カナダの国家試験で失敗を繰り返し、先の見えない暗いトンネルを歩いている間も時間は流れ、日本でソーシャルネットワークサイトの先駆けとも言える「ミクシィ」が流行するようになりました。そのミクシィの海外医療従事者グループで、現在はビクトリアにあるウォールマートのVictoria Hillside店で薬剤師として勤務する苗村英子さんと知り合い、アドバイスをもらうことができました。

 苗村さんは、ブリティッシュコロンビア大学(UBC)で導入されたばかりのCanadian Pharmacy Practice Program(CP3プログラム)を第2期生として受講し、その後国家試験に合格したとのこと。薬剤師の移民に免許取得をサポートする目的として、トロント大学で始まった外国人薬剤師用のブリッジングプログラムがUBCでも取り入れられ、これがかなり役に立ったとのことでした。

 その時点の私は、かろうじて筆記試験には合格したものの、実地試験は3回の失敗を重ね、次の試験が不合格なら、もう一生カナダでは薬剤師になれないというピンチな場面にありました。良くも悪くもカナダの薬剤師国家試験では受験回数に制限があるのです。

 これは人生最後のカナダ長期滞在になるかもしれないということで、この年のワーキングホリデービザを取得して渡加。まずはUBCのCP3プログラムに入ることを目標にし、英語の基準を満たすためにIELTSを何度も受験。これも私にとっては簡単なものではなく、特に悪戦苦闘していたスピーキングのテスト(当時は試験官との面接)の前にはリラックスして頭を柔らかくするためにビールを飲んでみるなど、あらゆる手を尽くしました。その甲斐もあってか、ギリギリのところでCP3の受講要件を満たすことができ、CP3プログラムに入ることができました。実際、最終スコアの通知が届いた時点で、2007年のCP3春クラスは既に始まっていましたから、滑り込みでギリギリセーフといった感じでしょうか。

 小さなクラスで10人程度クラスメートがいましたが、私と同年代か年上の人がほとんど。様々な国から同じ目的を持った人が集まり、当たり前のようにテストに合格するぞという雰囲気があったので、私も最後までやる気を維持することができました。

 4ヶ月の座学と2ヶ月の薬局実習という2部構成でしたが、もっと実地訓練が必要だと認識していた私は先生に実習の延長をお願いしてみたものの叶わずじまい。プログラム終了から試験本番までの1ヶ月間は、クラスメートと服薬指導の練習を繰り返しました。

 本当に人生最後のチャンスとなると逆に気持ちが落ち着くもので、試験中はそれなりに問題の意図を汲み取りながら対処することが出来ました。そして、30歳にして、晴れてカナダの薬剤師になることができました。

 ここに至るまで色々な出会いがありましたが、あの時ミクシィで苗村さんと出会っていなければ、私は今頃カナダで薬剤師になっていなかったと思います。また、当時バンクーバーで出会った現在の妻の励まし抜きには、今の自分はありません。

 しかし、何かになるというのは、何事においてもそうであるように、新たなスタート地点に立ったということを意味します。次回は、これまでのカナダでの薬剤師人生についてお話しします。(続く)

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佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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カナダで薬のさじ加減を考える

 いよいよ2023年最後の記事となりました。今年は、久しく遠ざかっていたコラムを再開しましたが、新型コロナウイルスが流行している間に情報の伝達・共有のグローバル化が一気に進み、さらにはChapGPTのような生成AIも登場したことで、読者の皆様に求められている薬の情報を手探りする状態が続きました。いつも親身に助言して頂いた日加トゥデイ編集長の三島直美様には、感謝の言葉も見つかりません。

 さて、この「情報」というのは、薬の世界でも大きなキーワードになっているのをご存知でしょうか?医薬品の効果や副作用の発現には個人差が存在し、その背景には遺伝情報の違いがあります。遺伝子(DNA)の塩基配列の違いが、肝臓にある薬物代謝酵素の違いに反映され、薬の効き方に差が出てくるわけです。逆にいうと、治療を開始する前に、薬を代謝する酵素の量を測定し、薬の量を調節したり、効果のある薬、副作用の少ない薬を効率的に選ぶことができます。このような内容は、2017年にCBCニュースでも取り上げられています。Test your DNA at a pharmacy? Now you can

 しかし、このような遺伝子情報を利用した薬物治療はまだ限定的なもので、薬局レベルではまだそこまで浸透していません。また、これまで長年に渡り臨床現場で使用されており、薬効や副作用の発現に個人差・人種差がない薬、または薬のさじ加減がすでに分かっている薬に関してこのような個別化治療を行うことの利益は少ないとも言えます。すると、やはり患者さんの体重、病状、そして薬物代謝の中心的な役割を担う肝臓や腎臓の具合を見ながら薬の量を決定するのが、現在の標準的な方法といえます。

 以上の点を踏まえて、前回に引き続き、カナダの薬は日本に比べて強いのかというテーマで、いくつかの処方せん薬を取り上げて薬の量の違いを見てみます。

 まずは、高血圧の薬のアムロジピン(ブランド名:ノルバスク)です。アムロジピンは、カルシウム拮抗剤(Calcium channel blocker)と呼ばれるグループの薬の一つで、細胞内へのカルシウムの流入を減少させることにより冠血管や末梢血管を広げることで、血圧を下げたり、狭心症の発作を起こりにくくします。

 日本では、1日量として2.5mg、5mg、10mgの規格があり、症状に応じて薬の量は増減されますが、降圧効果が不十分な場合には1日最大10mgまで増量することができます。この用量の幅はカナダでも変わりません。患者さんの体格や年齢、そして血圧の高さに応じて用量を決定すると、日本人の場合は自然と低用量が、カナダでは相対的に高用量が処方されることが多いように見受けられます。

 ちなみにアムロジピンが、1993年に日本でノルバスクという商品名で発売開始された当初は1日5mgまでの使用しか承認されていませんでしたが、当時すでに国外では1日10mgまでの使用が承認され、その後日本人においても増量による優れた降圧効果と安全性が確認されたことで、2009年には日本でも10mgの錠剤が承認されたという経緯があります。https://www.viatris-e-channel.com/viatris-products/di/pdf/nor01if.pdf

 次は「スタチン」という薬を見てみます。薬の名前の最後に必ず「スタチン」がつくことから、そのまま総称されていますが、正式名称は「HMG-CoA還元酵素阻害薬」で、日本の遠藤章博士が世界で初めて開発したことで知られています。遠藤博士は、応用微生物学とコレステロール代謝を研究する中で、青カビからコンパクチンという、現在のスタチンの元になる物質を発見しました。抗菌薬のペニシリンも青カビから発見されましたから、何万種も存在する菌類の中で、ペニシリンもスタチンも青カビから発見されたことは自然の奥深さを感じると述べられています。

 現在ではジェネリック薬として幅広く使用されているプラバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、ロスバスタチンなどのスタチンは、いずれもコレステロール生合成を制御するHMG-CoA還元酵素を阻害することで悪玉コレステロールを減らし、結果として動脈硬化や脳卒中のリスクを下げる効果があります。

 現在カナダでよく使われているスタチン薬であるロスバスタチン(rosuvastatin)について、用量を日本とカナダで比較してみます。日本の錠剤の規格は2.5mg、5mg、10mgであるのに対し、カナダの錠剤の規格は5mg、10mg、20mg、40mgとなっており、カナダではかなり高い用量まで使われることが分かります。もう一つの例としてアトルバスタチン(atorvastatin)をみてみると、日本での承認1日最大用量が40mgであるのに対し、カナダでは80mgとなっています。

 スタチン服用による副作用の一つに、大腿や背中、お尻などの比較的大きな筋肉に現れる筋肉痛があり、用量が増えるにつれて筋肉痛が起こる確率も高くなります。従って、いずれのスタチンにおいても、低用量から必要に応じて用量を増やしていくという方法が取られます。

 長い枕と字数の関係で多くの例を取り扱うことが出来ませんでしたが、本日の内容をまとめると、カナダには日本に比べて強い薬はあるものの、体重や病状、肝機能や腎機能に合わせて薬効と副作用のバランスの取れた量が処方されるということになります。従って、カナダの薬は強いから危ないのではないかという心配は不要かと思います。また、薬物代謝の個人差や人種差が大きな薬に関しては、遺伝子検査に沿った薬物治療が今後期待されますので、こちらはぜひ注目していきましょう。

 最後になりましたが、コラムの読者の皆様におかれましては、どうか良い新年をお迎えください。そして来年は、皆様からのリクエストをお待ちしておりますので、どうか宜しくお願い致します。

参考:

*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

カナダの薬は強いのですか?

 2023年も残すところ1か月となりました。2021年以来の世界規模でのワクチン接種キャンペーンにより、新型コロナウイルスの流行は沈静化し、国際渡航はほぼ完全に正常化したと言えるでしょう。日本では、今年5月の新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけ変更により水際対策が解除され、10月には訪日旅行者の数がコロナ流行前の水準を上回りました。カナダから日本へ里帰りする人の数も増えたと思いますが、私自身も、2019年以来の久々の里帰りをし、親や親戚に会ってきました。これとは逆に、待ちに待った留学やワーキングホリデーなどで新たに日本からカナダへ来られた人の数も多いと思います。そこで今回は、多くの日本人が気になる「カナダの薬は日本に比べて強いのですか?」という質問にお答えしたいと思います。

 まず、このような質問を頂いた場合、処方せんなしでも買える市販薬(over the counter drugs)について聞かれている場合が多いように感じます。簡単な例でいうと、カナダ滞在中にちょっと風邪を引いたので、薬局の棚に並んでいる風邪薬を購入したいけど、カナダの薬は強すぎて、副作用が出るのが心配になると言ったケースです。

 そこで具体的に、薬局の棚でよく見かける「TYLENOL® Complete Cold, Cough & Flu」の成分と含有量を見てみましょう。こちらの製品は、日中用(Daytime)と夜用(Night time)の薬が一つのパッケージに入っており、日中用の錠剤には咳を抑えるデキストロメトルファン(Dextromethorphan)が15 mg、鼻づまりを解消するスードエフェドリン(Pseudoephedrine)が 30 mg、痰を切る効果をもつグアイフェネシン(Guaifenesin)が 100 mg、そして解熱・鎮痛効果をもつアセトアミノフェンが500 mg含有されています。

 また、夜用の錠剤には、スードエフェドリンが 30 mg、アセトアミノフェンが500 mg、そして鼻水を抑えるジフェンヒドラミン(Diphenhydramine Hydrochloride)が 25 mg含有されています。

 抗ヒスタミン作用を持つジフェンヒドラミンは、副作用として眠気を起こすために夜用の錠剤のみに含有されていますが、このような使い方は他の総合感冒薬にも共通しています。「Nighttime」という表記のある商品には、ジフェンヒドラミンのような眠気成分が含有されていると考えてください。

 日本の総合感冒薬からは、まず「パブロンゴールドA錠」を見てみます。総合感冒薬としての成分構成は似通っていますが、完全に同じではありません。パブロンゴールドA錠は1回1錠を朝、昼、夜の1日3回服用する指示になっており、1日の合計量としてはグアイフェネシンが60mg、アセトアミノフェンが300mg、また鼻水止めの成分としてはクロルフェニラミン2.5mgが含まれています。その他の有効成分として、咳止めのジヒドロコデイン(8mg)、気管支を広げるメチルエフェドリン(20mg)、頭痛を鎮める無水カフェイン(25mg)も入っていますが、カナダの総合感冒薬にはこれらの薬は含有されていません。

 TYLENOL® Complete Cold, Cough & FluとパブロンゴールドA錠に共通する2つの成分の1日量を比較すると以下の表のようになり、Tylenol Completeは強い薬のように見えます。

  • グアイフェネシン:100 mg(Tylenol Complete)vs. 60mg(パブロンゴールドA錠)
  • アセトアミノフェン:1000 mg(Tylenol Complete)vs. 300mg(パブロンゴールドA錠)

 比較のために、日本からもう一つ「新コンタックかぜ総合」を見てみましょう。1回につき2カプセルを朝と夕の1日2回服用しますが、共通成分の1日量としてアセトアミノフェンが900mg、デキストロメトルファンが48mg、クロルフェニラミンマレインが3.5mg含まれています。またその他の有効成分として、気管支拡張剤のメチルエフェドリン(40mg)、去たん剤ブロムヘキシン(8mg)、無水カフェイン(75mg)が含まれています。

 上記の「TYLENOL® Complete Cold, Cough & Flu」との共通成分の1日量を比較すると以下のようになります。

  • アセトアミノフェン:1000mg(Tylenol Complete)vs. 900mg(新コンタックかぜ総合)
  • デキストロメトルファン:15mg(Tylenol Complete)vs. 48mg(新コンタックかぜ総合)

 アセトアミノフェンはほとんど変わりませんが、咳止めのデキストロメトルファンに関しては、新コンタックかぜ総合にTylenol Completeの3倍量が含まれています。参考までに、デキストロメトルファンは、Robitussin®やBenylin®の商品名で、単一成分の咳止めとしても販売されていますから、咳が主症状の場合にはこちらをお勧めします。

 パブロンゴールドA錠と新コンタックかぜ総合に含まれる鼻水止めのクロルフェニラミンは、ジフェンヒドラミンと同様に抗ヒスタミン作用を有する成分です。クロルフェニラミンを花粉症の症状を緩和するために用いた場合、カナダでは1回量が4mgで、症状に応じて4〜6時間おきに服用するのに対し、日本では1回2mgを1日1~4回服用します。

 この比較を見て頂くと分かるように、風邪薬に限定した場合、確かにカナダの製品の方が日本の製品と比較して成分量が多い場合もありますが、製品によってはそれほど差がないということが分かると思います。特にパブロンゴールドA錠と新コンタックかぜ総合を比較すると、アセトアミノフェンの量は1日あたり3倍の差があるため、カナダのTYLENOL® Completeはとりわけ強くないことが分かります。

 TYLENOL® Completeで、あえて生活に支障が出るレベルの副作用が起こるとすれば、ジフェンヒドラミンによる眠気です。ジフェンヒドラミンは、「Nytol」や「Unisom」の商品名で処方せん不要の睡眠改善薬としても販売されており、これらの製品では1錠あたりの含有量は50mgとなっています。これは結構な量かと思いきや、日本で販売されている「ドリエルEX」にも、1錠あたり50mgのジフェンヒドラミンが含有されていますから、この比較においてはカナダの薬が強いわけではないことが分かります。

 本日のまとめです。総合感冒薬に関しては、日本の製品の間でも含有成分量に幅があり、カナダの薬は必ずしも日本の薬よりも強いとは言えないということが分かって頂けたかと思います。奥の深い話になってしまいましたが、次回は処方せん薬の強さを比較してみたいと思います。

*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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RSVワクチンって、知っていますか?

 新型コロナウイルスは、人々の生活と価値観を大きく変えました。これを薬剤師的な視点で見ると、世界レベルで取り組んだ新型コロナウイルスワクチンの集団予防接種は、感染後の死亡率を下げただけではなく、人々のワクチン全般に対する意識と信頼度を大きく変えたと思います。

 もっとも新型コロナウイルスが流行する以前から、帯状疱疹(Shingles)や破傷風(Tetanus)のワクチンは認知度が高く、多くの方が接種を受けてきました。また毎年秋になると、薬局ではインフルエンザや肺炎球菌(Pneumococcal disease)、またCOVIDワクチンの予防接種キャンペーンを張って、プロモーションを行います。

 さらに、海外旅行者にとって、トラベルクリニックで渡航前の健康相談とワクチン接種を受けるのは、渡航中の健康を守る一つの手段です。東南アジアや中米は特に人気のある渡航先ですが、A型肝炎、腸チフスといった、病原体が経口感染する疾患に対するワクチンは欠かせません。アフリカ大陸や中南米に渡航する場合、国によっては黄熱ワクチンの接種証明が必要となる場合もあります。

 ちなみに私の息子(グレード6の小学生)は、最近、一回目のヒトパピローマウイルス(HPV)の予防接種を受けてきました。HPVは、主に性器接触で感染し、ほとんどすべての子宮頸がんがHPV感染症に起因すると言われています。しかし、肛門、外陰部、膣、陰茎のがんにおいてもHPVが関連するというエビデンスが増えてきており、最近では男女問わず、性交渉が始まる前の段階で、HPVワクチンの集団接種を行うようになりました。

 ここまでくると、私の薬局の患者さんの中には、「まだ受けていないワクチンがあったら何でも打っちゃって!」という方もいるほど、ワクチンに好意的な人が登場してきました。そこで本日紹介するのは、今年の夏にカナダで承認されたばかりのRSVワクチンです。

 RSVとは、日本語で「呼吸器合胞体ウイルス」、英語ではRespiratory Syncytial Virus Infectionですが、略してRSVと呼ばれます。RSVは呼吸器に感染する、いわゆる風邪症候群の一種です。十分な免疫力のある成人の場合は、感染しても軽い症状で済みますが、新生児と高齢者で時に重篤な症状を引き起こすことがあり、特に高齢者の場合、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、慢性心不全などの悪化により、肺炎を起こして、入院や死亡などにつながる可能性があります。

 このRSVに対して、現在カナダでは、GSK社の「Arexvy」が承認されており、60歳以上の方を対象に、筋肉内注射により投与されます。GSK社によると、RSVによる下気道呼吸器疾患に対して82%という高い有効性が認められ、また重症化を防ぐ効果は94%と報告されています。1回の接種は、RSV流行期2シーズンに渡り有効とされていますが、より長期の有効性や追加接種の最適な時期については、引き続き評価が行われています。

 このRSVワクチンの最大の問題は、約270ドルという値段です。人によっては、雇用者の加入する民間保険(Extended care plan)が費用の一部を負担することはあるかもしれませんが、現時点ではブリティッシュコロンビア州による公費負担はゼロです。

 実は、薬局にワクチン入荷した当初は、高額な在庫を抱えてしまったかと心配しましたが、嬉しいことにRSVワクチンについての問い合わせが続いています。参考までに、帯状疱疹のワクチン「Shingrix」も実は結構高額で、1回につき約150ドルですが、2回の接種が必要なため、合計費用は約300ドルです。このような比較対象があることで、ワクチンのコストに対しても免疫ができている方は、RSVワクチンにも早めに踏み切っているかもしれません。

 それでもRSVワクチンは高すぎる!という方、大丈夫です。RSVの基本的な予防方法は、日頃の手洗い・うがいの徹底とマスク着用です。コロナ後のカナダでは、マスクをしている人の数は減りましたが、それでもコロナのおかげでマスクをするという文化が根付きました。年末に向けて人の多い場所に出かける際には、是非マスクを着用し、RSVの予防に努めてください。

【追記】

 皆さんは、新型コロナウイルスワクチンのブースタードースやインフルエンザの予防接種を受けられましたか?BC州が予約システムをオンラインに一本化(https://www.getvaccinated.gov.bc.ca/s/)したことで、インターネットのない高齢者の方は、インフルエンザワクチンの接種予約をとるのも大変という方が結構な数いらっしゃいます。フリーダイヤル(1-833-838-2323)もありますが、非常に待ち時間が長いと不評です。ただ、11月に入ると、予約のピークが過ぎて、枠に余裕が出てきます。もしも、これから接種を考えているという方は、タイミングとしてはちょうど良いかと思いますので、是非近所の薬局にお問い合わせください。

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佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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薬のバックオーダー???

 9月も下旬に差し掛かり、バンクーバー近郊はだいぶ秋らしい日が増えてきましたね。日本ではいまだに気温の高い日が続いているようですが、この異常気象は果たしてニューノーマルなのか。

 実は薬の世界でも、「えー、そんなの困ります!」と思うようなことが日常的に起こっており、それが薬の供給不足の問題です。英語ではより具体的に「manufacturer short」や「manufacturer back order」(以下、バックオーダー)と呼ばれ、薬の製造段階で問題が生じて、薬局がどんなにオーダーしても、薬を入荷することが出来ないのがバックオーダーという現象です。

 ここで、薬の流通システムを簡単に説明すると、薬局で販売されている薬は、製薬会社(Manufacturer)→卸売会社(Wholesaler)→薬局(Pharmacy)という流れで入荷されます。しかし、各国の製薬会社が原薬、すなわち有効成分を一からすべて作るとは限りません。

 最近では、原薬の製造、特にジェネリック医薬品の原薬製造は、コスト面での効率化を図るために、インドと中国にほぼ一極化し、世界の他の国々はこの原薬を輸入して、薬として販売できる形にします。逆に言うと、原薬の製造過程で問題が発生してしまうと、世界中至る所で薬がないという事態となるわけです。

 カナダでは、私が仕事を始めた頃から慢性的なバックオーダーの問題を抱えていましたが、それはジェネリック医薬品の使用率が既に非常に高かったからです。しかし、最近になってその状況は特に悪化、特にコロナ禍における国際的な輸出規制は、カナダのサプライチェーンに大きな影響を与えました。

 参考までに、日本では、この10年間でジェネリック薬の使用率は大きく上昇しました。しかし、日本国内の製薬会社の不祥事により、薬の供給不足が顕在化し、原薬不足がそれに追い打ちをかけ、今では大きな社会問題となっています。少し前の話になりますが、とある自治体の薬剤師会長が、卸売会社に強いプレッシャーをかけて薬の調達を求めたという話もありますし、大きなフラストレーションを抱えた医師も多いと聞きます。でも、もっとも一番不安なのは患者さんですよね。

 ただ、これは誰かに怒ってどうにかなるレベルの問題ではありません。全ての医療関係者と患者さんの全てが非常に難しい国際問題に直面していることを理解し、その代替策を模索する、すなわちニューノーマルに順応していくのが、私たちの新しい薬との付き合い方であると考えます。では、薬局がどのようにバックオーダーを乗り切っているか、以下に紹介します。

1.バルサルタンの場合
 バルサルタンは高血圧や心不全の治療に使用される薬で、血圧を上昇させる一因となるアンジオテンシンIIという物質の受容体に結合することで、その作用をブロックします。2018年、バルサルタンの原薬製造の際に発がん性物質であるニトロソアミン類が混入していたことが判明し、同一工場から原薬を輸入していた製薬会社(カナダでは全社)は軒並み大規模な回収(リコール)を行いました。これによりバルサルタンは長期のバックオーダーとなりましたから、この薬を飲んでいた患者さんは、バルサルタンと同じ作用を持つ別の薬(ロサルタンやテルミサルタンなど語尾に「サルタン」のつく薬)を飲むことになりました。しかし、この薬剤変更のために血圧が不安定になったということはありません。このように、同じ作用機序と薬効を持つ薬がある場合には、その中で変更することが出来ます。

2.アモキシシリンの場合
 今年の話になりますが、アモキシシリンという抗菌剤の小児用液剤がバックオーダーとなりました。私の会社では、アメリカからこの薬を輸入して使用していた時期もありましたが、それでも薬の在庫がなくなった時には、原因菌を殺菌する作用が一番近い薬を選び、処方の変更をしました。アモキシシリンはペニシリン系の薬ですが、患者さんにペニシリンアレルギーがある場合には、アモキシシリン以外の薬を使うのが普通です。このように、同じ薬効を持つ薬で代替することは、頻繁にあるのです。

3.Ozempic®(化学名semaglutide)の場合
 週1回皮下注射を行うことで、主に膵臓にはたらきかけ、血糖値が高くなるとインスリンの分泌を促すことで血糖値を下げる効果があり、2型糖尿病の治療に用いられます。さらには、胃内容物の排出を大幅に遅延させることで、エネルギー摂取量減少および食欲減退により、体重を減少させる効果もあります。この減量効果を目的にOzempic®を使用する人が世界中で激増し、Ozempic diet(オゼンピックダイエット)という名前のついた社会現象にまでなりました。しかし、このような急激な需要の増加もまた、薬のバックオーダーの原因となります。
 製薬会社なんだから、需要を見越して薬を製造して欲しい!と思う方も多いかもしれませんが、それがなかなか簡単にはいきません。オゼンピックが皮下注射を行わなければいけないのに対し、リベルサス®という同成分を用いた飲み薬が登場。また、Ozempic®と同成分で週1回皮下注射するWegovy®は、Ozempic®よりも高用量を投与できる肥満症の治療薬として各国で承認されており、カナダでも近いうちに発売予定です。このような競合製品の登場により、製造量の見通しや、販売量のバランスを取るのが難しいのではないかと考えます。
 では、薬局はどのようにOzempic®バックオーダーに対処しているかというと、異なる規格のペンに変更しています。Ozempic®には2mgペン(0.5mgで4週間分)と4mg(1mgで4週間分)のペンがありますが、現在バックオーダーとなっているのは4mgのペンです。4mgのペンを使用していた方には、2mgのペンをお渡しすることで、用量を合わせて頂いています。不思議なことにOzempic®の2mgペンと4mgペンのコストは同額のため、4mgから2mgのペンに変更するとコストが2倍になってしまいますが、少なくとも治療中止という事態は避けられます。

4.ニトログリセリンスプレーの場合
 ニトログリセリンは狭心症の発作時に使用するお薬です。狭心症とは、心臓を囲む冠動脈が詰まって狭くなることで十分な酸素や栄養分が届かなくなり、胸に痛みや圧迫感を起こします。この時、血管を広げて胸痛を和らげる薬がニトログリセリンです。多くの患者さんが、舌の下に向けて噴射するスプレー剤を使用していますが、これがバックオーダーとなりました。しかし、幸いなことに、スプレー剤が発売される以前に主流であった舌下錠(sublingual tablet、口腔粘膜から吸収される錠剤)が今でも製造されていましたから、この薬をスプレーの代わりに使用して頂いています。

5.葉酸(Folic acid)の場合
 葉酸はビタミンB群の1つで、サプリメントとして1mg錠が、処方せん薬として5mg錠が販売されています。関節リウマチの治療に用いられるメトトレキサートという薬を服用する場合、体内の葉酸レベルが低下するため、これを補うために5mg錠の葉酸が同時に処方されます。しかし、この5mg錠がバックオーダーとなりました。不思議なことに聞こえるかもしれませんが、1mgの錠剤の入荷が途切れることはありませんでした。そこで、葉酸の必要な患者さんは1個の5mg錠を飲む代わりに、5個の1mg錠を飲んで頂くことになりましたが、これが患者さんには非常に不評でした。バックオーダーが続いていた期間、入荷状況の問い合わせが多かったのを覚えています。

 これらの実例を見て頂けると分かるように、無差別的に発生する薬のバックオーダーは非常に厄介ですが、いつも何かしらの代替手段が存在します。しかも、完全に供給不足になる前に、薬局には「この薬はもうすぐバックオーダーになりそうです」という旨のお知らせが届きますから、代替薬の候補を多めに発注して、本格的なバックオーダーに備えます。

 バックオーダーが始まってから解消までの期間は、数週間のこともあれば、何ヶ月にも及ぶこともあります。この間、薬局はバックオーダーとなっている薬の発注を毎日繰り返します。すると、ある日突然薬が現れ、その後は継続的に納品されて、通常に戻るというパターンを繰り返します。

 残念なことに、ワールドワイドな薬のバックオーダーはこれからもしばらく続きそうです。もしも服用中の薬がバックオーダーとなり困った場合には、気兼ねなく薬剤師にお尋ねください。

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最近のBC州の避妊薬事情

 最近インターネットで日本のニュースを見ていると、女性の健康や性に対して、オープンになってきたという雰囲気が感じとれます。これは、新型コロナウイルスの流行が女性の仕事や生活に影響を与え、生理用品の支援を必要とする人が増えているというニュースが世界的に流れたことにもよるでしょう。

 この「生理用品を購入できない」という問題は、「生理の貧困(Period Poverty)」と呼ばれ、社会課題として解決していこうという動きが世界中で見られます。生理用品を無償配布する自治体や学校も増えているようです。

 女性の生理は生殖に直結していますが、北米では、女性が主体的に行える避妊法として、経口避妊薬は1960年代から使用されてきました。これは生理用品同様、女性に対してコストのかかる避妊法でしたが、今年の4月からブリティッシュコロンビア(BC)州では、ほとんどの避妊薬が自己負担金なし(全額公費負担)で購入できるようになりました。

 自己負担なしで購入可能な避妊薬は、経口避妊薬(ピル)、銅付加子宮内避妊具(copper IUD)、ホルモン付加子宮内避妊具(hormonal IUD)、注射剤、皮下インプラント、子宮内リング、そして緊急避妊薬(別名:モーニングアフターピル)です。避妊パッチ(Evra®)、避妊リング(Nuvaring®)はプログラム対象外のため自己負担になります。公費負担の避妊薬の詳細なリストは、こちらになります。

Goverment of BC: Free contraceptives https://www2.gov.bc.ca/gov/content/health/health-drug-coverage/pharmacare-for-bc-residents/what-we-cover/prescription-contraceptives

 一般的な傾向として、カナダでは経口避妊薬の使用率は高く、経口避妊薬は避妊効果の他にも月経痛や月経不順の緩和、皮膚の健康などの利点があるため、幅広い年齢層の女性が服用しています。ただ、このリンクのリストを見ていただくと分かるように非常に種類が多いのですが、これには理由があります。

 経口避妊薬には、プロゲスティンとエストロゲンというホルモンを組み合わせた混合型のものと、プロゲスティン単独のものがあります。プロゲスティンの種類によっては、アンドロゲン(男性ホルモン)作用が強く、食欲増進、体重増加、多毛、ニキビといった副作用を起こすことがありますが、ホルモンバランスは女性によって異なりますので、これを考慮してエストロゲン優位、プロゲスティン優位、アンドロゲン優位なタイプのピルを選ぶという流れになります。

 ピルには、開発された順に第1~第4世代の製品がありますが、これはアンドロゲン作用による体重増加やニキビといった副作用軽減のために改良が続けられてきたためです。黄体ホルモンの違いが、そのままアンドロゲン作用の強さの違いであり、第4世代のピル(先発品商品名YasminやYaz)にアンドロゲン作用はほとんどありません。

 また、ピルの選択は、年齢、体重、喫煙習慣、高血圧・血栓症・乳がん・冠動脈疾患・肝腫瘍の既往歴、そして併用薬の有無等により変わってきます。

 最近では、飲み忘れの心配がなく、経口避妊薬に比べて避妊効果の高い子宮内装具(Intrauterine device ; IUD )や皮下インプラント(皮下に埋め込むタイプの避妊具、商品名Nexplanon)を選ぶ人が増えています。一度装着されれば長期に渡り効果が継続し、銅付加IUDでは最長10年、ホルモン子宮内避妊具で5年、最も避妊効果の高い皮下インプラントは埋込後3年間の効果があります。

 こちらのリンクは、それぞれの避妊薬の効果を比較した表になりますので参考にしてください。

The Society of Obstetricians and Gynaecologists of Canada (SOGC):  HOW EFFECTIVE IS MY BIRTH CONTROL?
https://www.sexandu.ca/wp-content/uploads/2018/09/Failure-Rate-2018.pdf

 さらに、前回の記事でも紹介したように(「薬剤師の新しい仕事」)、今年の6月1日からは薬剤師が避妊薬を新規処方できるようになりました。緊急避妊薬は以前から市販薬として購入できるものでしたが、現在では薬剤師が処方箋として調剤することで、自己負担なしで購入できるようになりました。緊急避妊薬が欲しい旨を薬剤師にお伝えください。

 一点だけ注意になりますが、女性用の避妊薬では性感染症を防ぐことができません。バリア法(男性用および女性用コンドームのこと)は公費負担の対象外ですが、性感染症の予防には大きな効果がありますので、性感染症リスクのあるシチュエーションにおいてはこちらを適切にご使用ください。

 BC州では、女性主導の避妊において費用はネックではなくなりました。薬剤師とコミュニケーションをとりながら、健康とライフスタイルに合った避妊方法を選んで頂けると幸いです。

(1)避妊薬の無償支給の対象は、BC州の健康保険システムであるメディカルサービスプラン(MSP)に登録しているBC州民です。
(2)IUDは、患者さんが薬局でピックアップした後、ナースプラクティショナーやドクターが挿入処置を行います。

私の薬局で患者さんのピックアップを待つIUDの箱。
私の薬局で患者さんのピックアップを待つIUDの箱。

関連資料:

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佐藤厚(さとう・あつし)
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「薬剤師の新しい仕事」またお薬の時間ですよ!

 日加トゥデイ読者の皆様、こんにちは。カナダ西海岸、ギブソンズという小さな町で薬局薬剤師をしている佐藤厚と申します。今回は記念紙の発行に合わせて久々にコラムを書かせて頂きます。

 まずは、新型コロナの流行が始まってから薬局でどのような変化が起こったかを大雑把に紹介します。2020年の初頭、誰もが「新型コロナウイルスって一体何なの?」と思っていた頃、その感染力の強さからラジオやテレビでは盛んに「ステイホーム!」と呼びかけられました。しかし、このステイホーム作戦こそが、人々のマインドセットに大きな影響を及ぼしました。

 薬局に関していうと、ステイホームによりストレスを募らせた患者さんと接する場面が激増し、心無い言葉などに疲弊した多くのスタッフが職場を去っていきました。カスタマーサービスを主とする他の産業でも同様の現象が起き、「Great Resignation」(大量自主退職)という社会現象が起こりました。

 少ない労働力で、それまでと同じ量の処方せんのオーダーに対応するために、営業時間を短縮したり、週末を休業して対応する薬局が増えました。今でも、多くのチェーン薬局で、早い時間に薬局だけがドアを閉めているのはそのためです。最近になって、ようやく労働力確保に改善の兆しが見られてきましたが、コロナ前の水準には戻っていません。

 Great Resignationは、病院やメディカルクリニックにも大きな影を落としました。医師や看護師の不足により、ウォークインクリニックや病院の救急外来(ER)での受診は待ち時間は伸び、ファミリードクターの予約は2、3週間以上先というのが新しい日常となりました。もっともコロナを機にリタイアしたり、新たな専攻を選んだ医師も続出し、ファミリードクターを持たない「ファミリードクター難民」が多く生まれました。

 このような医療難民の救済に向けて、薬剤師に白羽の矢が立ちました。まず、2022年10月に発効したのは、薬剤師による処方せん期間の延長で、正式には「adaptation」と呼ばれるものです。6ヶ月以上用量の変更のない慢性疾患の治療薬で、患者さんの状態が安定している場合に限り、医師の処方せんを発行日から最長2年間まで継続することができるようになりました。

 これはまるで医師の診察を受けなくてよいというものではありませんし、どんな薬でも延長可能という訳ではありません。薬剤師には次回の受診予定がいつ予定されているからそれまで処方せんの延長をしてほしいといった風に相談してみてください。

 さらに今年の6月1日からは、Minor Ailments(マイナーイルメントと発音、軽度の疾患という意味)において、薬剤師が薬を処方できるようになりました。メディアでは、あたかも新しいサービスのように紹介されることもありますが、他の州では既に導入されていた制度です。BC州の隣のアルバータ州では10年以上前から薬剤師が薬を処方していましたから、実績のあるシステムと言えるでしょう。以下、Minor Ailmentsに含まれる疾患のリストになります。

にきびアレルギー性鼻炎 結膜炎  皮膚炎  
月経痛消化不良逆流性食道炎頭痛
口唇ヘルペスとびひ筋骨格系の痛み 
ニコチン依存症口内炎口腔カンジダ帯状疱疹
線虫症尿路感染症虫刺され膣カンジダ
真菌感染症(水虫、爪白癬など)避妊薬(ピル、IUD、緊急避妊薬)💊💊

 薬剤師は、問診により、自覚症状や既往歴、内服薬、家族歴、アレルギー歴等の情報を収集して処方の可否を判断しますが、触診や血液検査はありません。処方が適切とみなされる場合には、用法・用量などを説明し、薬局でそのまま調剤作業に入りますが、アセスメントの結果によっては、すぐに医師の受診をお勧める場合もありますので、ご留意ください。

 最後に、私の初めての処方経験をお話しします。2歳の男の子の顔にとびひが疑われる箇所があり、お母さんは市販の抗菌薬を何日が塗り続けたものの改善が見られなかったとのこと。皮膚症状以外の健康上の問題はなかったため、抗菌剤の塗り薬を処方しました。数日後、おばあちゃんと買い物に来た男の子の患部は綺麗に治っているではありませんか。おばあちゃんに「この前はありがとう」という感謝の言葉を頂きましたが、私の方こそ薬剤師として信頼して相談して頂き、非常に嬉しく思いました。

 最後にお知らせですが、コラムを「またお薬の時間ですよ!」と改め、再開することに致しました。薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。これからも宜しくお願い致します!

 編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

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