2023年も残すところ1か月となりました。2021年以来の世界規模でのワクチン接種キャンペーンにより、新型コロナウイルスの流行は沈静化し、国際渡航はほぼ完全に正常化したと言えるでしょう。日本では、今年5月の新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけ変更により水際対策が解除され、10月には訪日旅行者の数がコロナ流行前の水準を上回りました。カナダから日本へ里帰りする人の数も増えたと思いますが、私自身も、2019年以来の久々の里帰りをし、親や親戚に会ってきました。これとは逆に、待ちに待った留学やワーキングホリデーなどで新たに日本からカナダへ来られた人の数も多いと思います。そこで今回は、多くの日本人が気になる「カナダの薬は日本に比べて強いのですか?」という質問にお答えしたいと思います。
まず、このような質問を頂いた場合、処方せんなしでも買える市販薬(over the counter drugs)について聞かれている場合が多いように感じます。簡単な例でいうと、カナダ滞在中にちょっと風邪を引いたので、薬局の棚に並んでいる風邪薬を購入したいけど、カナダの薬は強すぎて、副作用が出るのが心配になると言ったケースです。
そこで具体的に、薬局の棚でよく見かける「TYLENOL® Complete Cold, Cough & Flu」の成分と含有量を見てみましょう。こちらの製品は、日中用(Daytime)と夜用(Night time)の薬が一つのパッケージに入っており、日中用の錠剤には咳を抑えるデキストロメトルファン(Dextromethorphan)が15 mg、鼻づまりを解消するスードエフェドリン(Pseudoephedrine)が 30 mg、痰を切る効果をもつグアイフェネシン(Guaifenesin)が 100 mg、そして解熱・鎮痛効果をもつアセトアミノフェンが500 mg含有されています。
また、夜用の錠剤には、スードエフェドリンが 30 mg、アセトアミノフェンが500 mg、そして鼻水を抑えるジフェンヒドラミン(Diphenhydramine Hydrochloride)が 25 mg含有されています。
抗ヒスタミン作用を持つジフェンヒドラミンは、副作用として眠気を起こすために夜用の錠剤のみに含有されていますが、このような使い方は他の総合感冒薬にも共通しています。「Nighttime」という表記のある商品には、ジフェンヒドラミンのような眠気成分が含有されていると考えてください。
日本の総合感冒薬からは、まず「パブロンゴールドA錠」を見てみます。総合感冒薬としての成分構成は似通っていますが、完全に同じではありません。パブロンゴールドA錠は1回1錠を朝、昼、夜の1日3回服用する指示になっており、1日の合計量としてはグアイフェネシンが60mg、アセトアミノフェンが300mg、また鼻水止めの成分としてはクロルフェニラミン2.5mgが含まれています。その他の有効成分として、咳止めのジヒドロコデイン(8mg)、気管支を広げるメチルエフェドリン(20mg)、頭痛を鎮める無水カフェイン(25mg)も入っていますが、カナダの総合感冒薬にはこれらの薬は含有されていません。
TYLENOL® Complete Cold, Cough & FluとパブロンゴールドA錠に共通する2つの成分の1日量を比較すると以下の表のようになり、Tylenol Completeは強い薬のように見えます。
- グアイフェネシン:100 mg(Tylenol Complete)vs. 60mg(パブロンゴールドA錠)
- アセトアミノフェン:1000 mg(Tylenol Complete)vs. 300mg(パブロンゴールドA錠)
比較のために、日本からもう一つ「新コンタックかぜ総合」を見てみましょう。1回につき2カプセルを朝と夕の1日2回服用しますが、共通成分の1日量としてアセトアミノフェンが900mg、デキストロメトルファンが48mg、クロルフェニラミンマレインが3.5mg含まれています。またその他の有効成分として、気管支拡張剤のメチルエフェドリン(40mg)、去たん剤ブロムヘキシン(8mg)、無水カフェイン(75mg)が含まれています。
上記の「TYLENOL® Complete Cold, Cough & Flu」との共通成分の1日量を比較すると以下のようになります。
- アセトアミノフェン:1000mg(Tylenol Complete)vs. 900mg(新コンタックかぜ総合)
- デキストロメトルファン:15mg(Tylenol Complete)vs. 48mg(新コンタックかぜ総合)
アセトアミノフェンはほとんど変わりませんが、咳止めのデキストロメトルファンに関しては、新コンタックかぜ総合にTylenol Completeの3倍量が含まれています。参考までに、デキストロメトルファンは、Robitussin®やBenylin®の商品名で、単一成分の咳止めとしても販売されていますから、咳が主症状の場合にはこちらをお勧めします。
パブロンゴールドA錠と新コンタックかぜ総合に含まれる鼻水止めのクロルフェニラミンは、ジフェンヒドラミンと同様に抗ヒスタミン作用を有する成分です。クロルフェニラミンを花粉症の症状を緩和するために用いた場合、カナダでは1回量が4mgで、症状に応じて4〜6時間おきに服用するのに対し、日本では1回2mgを1日1~4回服用します。
この比較を見て頂くと分かるように、風邪薬に限定した場合、確かにカナダの製品の方が日本の製品と比較して成分量が多い場合もありますが、製品によってはそれほど差がないということが分かると思います。特にパブロンゴールドA錠と新コンタックかぜ総合を比較すると、アセトアミノフェンの量は1日あたり3倍の差があるため、カナダのTYLENOL® Completeはとりわけ強くないことが分かります。
TYLENOL® Completeで、あえて生活に支障が出るレベルの副作用が起こるとすれば、ジフェンヒドラミンによる眠気です。ジフェンヒドラミンは、「Nytol」や「Unisom」の商品名で処方せん不要の睡眠改善薬としても販売されており、これらの製品では1錠あたりの含有量は50mgとなっています。これは結構な量かと思いきや、日本で販売されている「ドリエルEX」にも、1錠あたり50mgのジフェンヒドラミンが含有されていますから、この比較においてはカナダの薬が強いわけではないことが分かります。
本日のまとめです。総合感冒薬に関しては、日本の製品の間でも含有成分量に幅があり、カナダの薬は必ずしも日本の薬よりも強いとは言えないということが分かって頂けたかと思います。奥の深い話になってしまいましたが、次回は処方せん薬の強さを比較してみたいと思います。
*薬や薬局に関する質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca
佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)
全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。