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被爆3世代の記憶をつなぐドキュメンタリー「ある家族の肖像」海外初上映

左から、金谷康佑さん、鈴木カオルさん、日本カナダ商工会議所の高橋サミー会長、吉崎大貴さん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:田上麻里亜
左から、金谷康佑さん、鈴木カオルさん、日本カナダ商工会議所の高橋サミー会長、吉崎大貴さん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:田上麻里亜

 戦後80年の節目を迎えた今年。広島の被爆1世、2世、3世の歩みを記録したドキュメンタリー映画「ある家族の肖像~被爆三世代の証言~」が11月22日、ブリティッシュ・コロンビア州バーナビー市の日系文化センター・博物館で上映された。

 初の海外上映となった今回のイベントでは、映画に出演した被爆2世の鈴木カオルさん、音楽を担当したジャズピアニスト金谷康佑さんが日本から参加、家族の記憶と被爆に向き合う自身の思いについて語った。

旧知の縁がつないだバンクーバー上映

 上映会を主催したのは日本カナダ商工会議所。高橋サミー会長は日本でカオルさんと同じ職場に勤めていたことがあり、カオルさんの父、鈴木照二さんとも面識があったという。この旧知の縁が再び結び、今年3月に「海外で上映したい」と相談を受けたことから企画が動き出した。バンクーバー広島県人会の後援を得て、家族3世代の被爆の記憶が初めて国外の観客へ届けられた。

 映画はテレビ朝日の報道番組を数多く手がけた上松道夫監督が2023年に制作。旧制広島高等学校在学中に勤労動員先の寮内で被爆した被爆1世の祖父の照二さん、高校生の時に心臓に異常が発見され体調不良の日々を過ごしてきた被爆2世のカオルさん、大学4年で甲状腺がんを宣告された被爆3世の万祐子さん。兵庫県神戸市の3世代が広島を訪ね、戦争と原爆の記憶、そして未来への思いを語った旅が記録されている。

 カオルさんと金谷さんがこの活動を始めたのは2020年ごろのこと。もともとカオルさんは金谷さんのマネージャーを務めており、福島第一原発事故で避難を余儀なくされた子どもたちをサマーキャンプに招き支援した経験をきっかけに、「平和のために自分も行動したい」と考え、活動へと歩みを進めた。

自身と家族の体験を語り、世代を越えて記憶を継承する意義を伝えるカオルさん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:田上麻里亜
自身と家族の体験を語り、世代を越えて記憶を継承する意義を伝えるカオルさん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:田上麻里亜

 上映後に観客の前でマイクを握ったカオルさんは、「Can I be very honest with you?」と始め、「映画の中では強い人間だと話しましたが、私はただの母親で、娘のことを心配しているだけです」と静かに語り始めた。娘の病気や当時の心境に触れると声を詰まらせ、言葉を続けながら涙を拭う場面もあった。その姿に目頭を押さえる参加者の姿も見られた。

 イベント後、「初めてですね。一人の母としての気持ちを伝えたいなと思ったのは」とカオルさんは打ち明けた。「いつもなら映画がどう作られたか、音楽がどう生まれたかを話すんですけれど、今日は全くそういう雰囲気ではなくて」と続け、「私の本当に一人の母としての気持ちを伝えたいと思った」と穏やかに語った。

残された記憶をどうつなぐか

 被爆3世でありバンクーバー広島県人会の理事を務める吉崎大貴さんは、祖母が原爆投下時に爆心地から約2.5キロ地点で被爆した体験を紹介した。

 祖母は閃光と爆風を受けた後、行方が分からなくなった母親を捜して町へ向かい、「シャベルを持って数え切れないほどのがれきと遺体を掘り返し、ようやく母の遺体を見つけた」と語っていたという。吉崎さんはその証言を受け継ぎながら、「(非核は)世界的な責任」と語り、二度と同じ悲劇を繰り返してはならないと強く訴えた。

 さらに、被爆者の平均年齢が80〜90歳に達し、直接体験を語れる人が急速に減っている現状に、「だからこそ、私は今日ここに立っています」と述べ、継承の重要性を参加者に呼びかけた。

 質疑応答では、さまざまな形で被爆の記憶や家族の体験が語られた。就労先の長崎で被爆した父を持つ参加者は、帰郷後も支援を受けられず後遺症と闘い続けた過去を話した。また、被爆3世として参加した来場者は、祖母の死の間際に自身の体調不良が被爆の影響かもしれないと告げられた経験を明かし、世代を越えて続く不安と向き合ってきた胸中を語った。

音楽が導いたドキュメンタリー

 上映後には音楽を担当した金谷康佑さんが、映画のタイトル曲「A Portrait of a Family(家族の肖像)」をはじめ3曲を演奏した。

映画楽曲などを生演奏する金谷康佑さん。美しいピアノの音に、観客は息をのむように静まり、作品の余韻を楽しんだ。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:日加トゥデイ
映画楽曲などを生演奏する金谷康佑さん。美しいピアノの音に、観客は息をのむように静まり、作品の余韻を楽しんだ。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:日加トゥデイ

 ピアノの一音が響いた瞬間、会場の空気は静まり、観客の意識が一斉に音楽へと向かう。曲調が変わるたびに深い集中に包まれ、アンコールでさらに2曲を披露。映画の挿入曲も演奏され、会場には揺らぐような余韻が残った。

 ドキュメンタリー制作の経緯について金谷さんに聞くと、監督の上松道夫さんが金谷さんのコンサートに通い、演奏を聴き込む中で映像の構想を固めていったことを明かした。上松監督はソロアルバムに収録されている「家族の肖像」に強いインスピレーションを受けたといい、「監督から『曲から映画のイメージができた』と言われた」と振り返った。映画の核となる世界観が音楽から立ち上がった。

 また、「第2次世界大戦から、まだ終わってないと感じています」と、被爆の歴史をめぐる問題が現在も続いていると思うと語った。今回の上映と演奏については、「若い人にとっても意味のあるイベントだったと思う」と、海外での上映や演奏の機会を今後も広げていきたいと話した。

母としての胸の内と、音楽がつないだ力

会場となった日系文化センター・博物館で。左から、金谷さん、在バンクーバーの被爆者ランメル幸さん、鈴木さん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:日加トゥデイ
会場となった日系文化センター・博物館で。左から、金谷さん、在バンクーバーの被爆者ランメル幸さん、鈴木さん。2025年11月22日、バーナビー市。撮影:日加トゥデイ

 イベント終了後も会場では参加者がカオルさんたちと言葉を交わし続け、温かな余韻が漂っていた。インタビューに応じたカオルさんは、ふっと表情を緩め、「(今日のイベントは)すごく身内のファミリー感があって。初めてお会いするのに、お客様というより家族のように感じました」と笑顔で振り返った。

 映画の中では、被爆1世である父の体験とともに、カオルさん、そして娘の万祐子さん、それぞれの視点から被爆の影響が描かれている。カオルさんは娘に対して病気や被爆のことを「怖くて、今まで聞いたことがなかった」と明かし、映画を通じて初めて娘の本心を知ったと話す。

 またこの活動を続ける上で、音楽の存在が大きな支えになったとカオルさんは語る。手術を控えて不安定だった時期、万祐子さんが一人で暮らす小さなアパートには、大学時代の友人たちが入れ替わりで泊まり込み、万祐子さんを見守った。そしてカオルさんに向けても、「僕たちが守りますから。寂しい思いをさせないから、お母さん大丈夫だからね」と声をかけ続けたという。

 「みんな音楽で繋がった仲間です」とカオルさん、手術が無事終わったことについて「音楽の友達が起こしてくれた奇跡」と目を潤ませた。

 音楽が家族を支えた経験は、この活動の原動力にもなっている。「音楽が心に残って映画を思い出してくださればいいんです」、言葉ではなく音として残る記憶にも意味があると話した。さらに今後の活動への思いとして、「若い人に種を植えたい」と繰り返し、「映画の内容を覚えてなくても、原爆ドームを思い出すだけでいい。小さな種でいい」と力を込めた。

原爆ドーム。広島市。撮影 日加トゥデイ
原爆ドーム。広島市。撮影 日加トゥデイ

(取材 田上麻里亜)

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2025年 バンクーバーイルミネーション特集

ライトナイトの屋外エリアの様子。2025年11月26日、サレー市。撮影:日加トゥデイ
ライトナイトの屋外エリアの様子。2025年11月26日、サレー市。撮影:日加トゥデイ
約300万個のライトが作るトンネルを歩く来場者。幻想的な空間が広がる。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜
約300万個のライトが作るトンネルを歩く来場者。幻想的な空間が広がる。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 冬の訪れとともに、今年も街が鮮やかな光に包まれる季節がやってきた。メトロバンクーバーでは、湖畔を照らす大規模なイルミネーションから、サンタやトナカイと触れ合えるクリスマスイベントまで、各地で個性豊かな光の景色が広がる。

 今回はメトロバンクーバーで、この冬訪れたいイルミネーションを紹介する。

ブライトナイト復活!ロック市長「サレーの誇り」に

 28年の歴史を持つ「ブライトナイト(Bright Nights)」が今年、これまでのスタンレーパーク(バンクーバー市)から発祥の地であるサレー市へ帰ってきた。11月26日には開幕イベントが行われ、熱傷患者支援のためのブリティシュ・コロンビア(BC)州最大の募金活動の復活を祝った。

火傷基金の寄付金贈呈式に登壇したサレー市ブレンダ・ロック市長。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜
火傷基金の寄付金贈呈式に登壇したサレー市ブレンダ・ロック市長。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 火傷基金の寄付金贈呈式にはサレー市ブレンダ・ロック市長があいさつ、「ブライトナイトはメトロバンクーバーで最も愛されてきた伝統の一つ」と述べ、多くの都市がブライトナイトの開催を希望する中でサレー市が選ばれたことを「大変誇りに思い、感謝している」と笑顔を見せた。

  ブライトナイトは、BC州消防士協会火傷基金の最大チャリティイベント。ロック市長は自身も家族と訪れた思い出を語りながら「このイベントは地域コミュニティの象徴であり、支え続けてきた消防士やボランティアの努力があって成り立っている」と感謝を表明。 500人を超える消防士の設営協力や地域企業の支援が紹介されると、会場には大きな拍手が沸き起こった。

火傷基金(BC Professional Fire Fighters’ Burn Fund)のトッド・シアリング会長。開幕式のステージ前で。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜
火傷基金(BC Professional Fire Fighters’ Burn Fund)のトッド・シアリング会長。開幕式のステージ前で。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 個別のインタビューに応じたBC州消防士協会火傷基金トッド・シアリング会長は、サレーでの開催について「1990年代にボブとマージがニュートンの住宅街で始めた場所に戻ってこられて本当にうれしい」と語った。「バンクーバー市での長い開催を経てサレー市に戻ることは、地域にもBurn Fundにも大きな意味がある」と話す。

 準備では新しい環境に合わせた再設計が必要で、「会場や構造を一から作り直す作業が大変だった」と振り返った。一方で、約2,800平方メートルの屋内会場や広いスペースが今回の魅力を引き立てていると説明。「暖かい屋内で過ごせること、食事や展示を楽しめること、駐車場の広さも大きな特徴」と話した。

Vancouver Fire & Rescue Services Bandによる演奏。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜
Vancouver Fire & Rescue Services Bandによる演奏。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 来場者には「寄付する気持ちや喜び、そしてコミュニティの一体感を感じてほしい。ブライトナイトがここに帰ってきた特別な雰囲気を味わってもらえれば」と期待した。

 屋外では、池の周囲に約300万個のライトが装飾され、来場者は光に包まれた遊歩道を自由に散策できる。ライトのテーマエリアが点在し、写真撮影スポットも多く、ゆったりと歩きながら見どころを巡ることができるのが特徴だ。会場内には15メートルの観覧車も設置され、光に囲まれた会場を高い位置からも楽しめる。

 屋内の「Noel Village」には、サンタとの撮影会、音楽、クリスマスマーケットを楽しむことができ、約2,800平方メートルの会場を活かした多彩なアクティビティが用意されている。

ライトで装飾された消防車。ブライトナイトを支える消防士たちの存在を象徴する展示となっている。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜
ライトで装飾された消防車。ブライトナイトを支える消防士たちの存在を象徴する展示となっている。2025年11月26日、サレー市。撮影:田上麻里亜

期間:2025年11月28日〜2025年12月28日
時間:16:00〜22:00(チケット制・日付指定)
場所:ブリティッシュ・コロンビア州サレー市クローバーデール・フェアグラウンド
公式サイト:https://www.noelfestival.com/

ライト・アット・ラファージュ(Lights at Lafarge)

ライト・アット・ラファージュ。Photo by City of Coquitlam
ライト・アット・ラファージュ。Photo by City of Coquitlam

 メトロバンクーバー最大の無料屋外イルミネーションが今年も湖畔を鮮やかに照らす。湖の周囲に延びる遊歩道を歩きながら、多彩な光のアートを楽しめるほか、毎年新しい演出が加わるため、今年もこれまでとは違った景色が広がる。

期間:2025年11月28日〜2026年2月16日
時間:16:00〜23:00
場所:ブリティッシュ・コロンビア州コキットラム市、Lafarge Lake
公式サイト:https://www.coquitlam.ca/784/Lights-at-Lafarge

フェスティバル・オブ・ライト(Festival of Lights)

フェスティバルオブライト。Photo by VanDusen Botanical Garden
フェスティバルオブライト。Photo by VanDusen Botanical Garden

 バンクーバー市中心部・ショーネシー地区にあるバンデューセン植物園で開催されている冬の名物イルミネーション。約6万平方メートルの敷地に100万球以上のライトが灯り、池や森が幻想的な光の庭園に変わる。特徴はなんといっても、植物園ならではのボタニカル・ライトアート。自然を活かした光の演出を楽しめる。

期間:2025年11月28日〜2026年1月4日 ※12月25日は休園
時間:16:00〜22:00
場所:ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市ショーネシー地区
公式サイト:https://vandusengarden.ca

キャニオンライト(Canyon Lights)

キャニオンライト。Photo by Capilano Suspension Bridge Park
キャニオンライト。Photo by Capilano Suspension Bridge Park

 深い渓谷にかかる「キャピラノ・サスペンションブリッジ」で行われるバンクーバー屈指の人気イルミネーション。長さ140m、高さ70mのつり橋がライトアップされ、谷を横断する光のラインが浮かび上がる迫力のイベント。森を歩く「Treetops Adventure」や、ライトをまとった木々が鏡のように反射するリフレクションも美しく、森全体が幻想的な空間へと変わる。

 2025年は新たに「3Dワイルドライフプロジェクション」が登場し、森の動物たちが立体的に動いているかのような新演出も。自然、光、テクノロジーを融合させた唯一無二のイルミネーションが楽しめる。

期間:2025年11月21日〜2026年1月18日 ※12月25日は休園
時間:11:00〜21:00(閉園後1時間滞在可)
場所:ブリティッシュ・コロンビア州ノースバンクーバー市
公式サイト:https://www.capbridge.com

ピーク・オブ・クリスマス(Peak of Christmas)

ピーク・オブ・クリスマス。Photo by Grouse Mountain
ピーク・オブ・クリスマス。Photo by Grouse Mountain

 ノースバンクーバーの象徴であるグラウスマウンテンでは、「バンクーバーの北極」として親しまれるクリスマスイベントが開催される。

 山頂ではライトウォークやサンタのワークショップ、トナカイとの触れ合い、そり、映画の上映会など、多彩なアクティビティが楽しめる。雪景色とイルミネーションの中、家族で冬を過ごす毎年人気のイベントだ。

期間:2025年11月21日〜12月24日
時間:アクティビティにより異なる。ウェブサイトを要確認
場所:ブリティッシュ・コロンビア州ノースバンクーバー市グラウスマウンテン山頂
公式サイト:https://www.grousemountain.com/peak-of-christmas

(取材 田上麻里亜)

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「よさこい、海を越えて」北米初の国際祭りがカナダで実現

桜の模様が鮮やかな青い衣装をまとい、和傘を手に舞う「桜舞トロント(Sakuramai Toronto)」の踊り子たち。トロントを拠点に、カナダ各地でよさこいの魅力を伝えている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
桜の模様が鮮やかな青い衣装をまとい、和傘を手に舞う「桜舞トロント(Sakuramai Toronto)」の踊り子たち。トロントを拠点に、カナダ各地でよさこいの魅力を伝えている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
日加友好日本庭園という特別な舞台に、北米と日本からの踊り子たちが集結。池に映る衣装の彩りが秋空に美しく映えた。2025年9月28日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
日加友好日本庭園という特別な舞台に、北米と日本からの踊り子たちが集結。池に映る衣装の彩りが秋空に美しく映えた。2025年9月28日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee

 北米で初めてとなる「北米国際よさこい祭り」が9月27日と28日の2日間、アルバータ州レスブリッジ市の日加友好日本庭園で開催された。日本、カナダ、アメリカのチームから踊り子とボランティア約200人が集結、訪れた約2,000人の観客を魅了した。

 イベントを主催した楓文化協会の本田朋之さん、田中恵美子さん、井上昇さんに話を聞いた。

日加3人の情熱が動かした初開催

多くの挑戦を乗り越え、笑顔で当日を迎えた北米国際よさこい祭りの主催者3人。左から井上昇さん、本田朋之さん、田中恵美子さん。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
多くの挑戦を乗り越え、笑顔で当日を迎えた北米国際よさこい祭りの主催者3人。左から井上昇さん、本田朋之さん、田中恵美子さん。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者

 イベントの発端は3人の共通した「日本文化を自らの手で伝えたい」という思いだった。

 本田さんは、愛知県出身でアルバータ州カルガリー市に移住後、日本では当たり前にある地域の祭りや季節の行事がほとんどないことに気づいたという。日本人の人口は増えているのに、日本の祭りが増えていない。

 そこで2017年にカルガリーでよさこいチームを立ち上げた。その後、地元のパレード「カルガリー・スタンピード」への参加を続ける中で、2023年ごろから「自分たちでよさこいの祭りを開きたい」という構想が本格的に芽生えた。レスブリッジ市の日加友好日本庭園を訪れた時、「ここでよさこいができたらおもしろい」と直感し、開催の可能性を関係者に相談したという。

 しかし当時、本田さんには自身が所属するカルガリーのチーム以外につながりがなく、実現は容易ではなかった。そんな中、よさこいメンバーに紹介してもらい出会ったのが高知県よさこいアンバサダーとして、オンタリオ州トロントを中心に海外や日本で活動する田中さん。田中さんは「海外でよさこいは30カ国以上に広がってはいますが、まだまだその間の壁は大きい。お互いをつなげるきっかけにしたいと思いました」と語る。

 当初は迷いもあった。「お会いしたことがなかったので」と正直に振り返る。それでも「子どもたちの未来のために何かを残したい」という本田さんの言葉に心を動かされ、一緒にやろう、と決意した。

 さらに、田中さんの紹介で日本から井上さんが加わった。本場の高知や東京で18歳から30年以上よさこいに携わる井上さんにとっても、北米での開催は未知の挑戦だった。「最初に話を聞いたときは、正直ハードルが高いと思いました」。それでも「本田さんの情熱に圧倒された」と語り、「日本では考えられないスピード感で動き、地元の理解を得ていく姿を見て、これは本当に実現するかもしれないと思うようになった」と話した。

 こうして日本、カルガリー、トロントの3拠点がつながり、準備は本格的に動き出した。

「歴史を一緒に作りたい」

 しかし、前例のない試みは困難の連続だった。スポンサー探し、助成金申請、チーム集め。資料も実績もない中での説得は容易ではない。本田さんは「見せられるものがない状態で賛同を得るのは大変だった」と本音を漏らす。田中さんは「一番難しかったのは日本のチームで、実際に旅費を伝えた時に高額だったので、そこの壁を感じた」と説明した。

 それでも3人は、北米で初めてのよさこい祭りを開催するという歴史を一緒に作りたいと訴え続けた。その姿勢が支援者の共感を呼び、よさこい発祥の地である高知県で、1954年に結成された最古のよさこいチーム「帯屋町筋」が協力したことが大きな転機となった。その後日本各地や北米のチームにも参加の輪が広がった。

 本田さんは「日系コミュニティの発展を含め、自分たちで作るということがすごく重要だと思った」と語り、北米で文化を自らの手で形にする意義を強調した。

北米で芽生えた新しい文化の輪

 鳴子の音が響き、祭りの始まりを告げた。開会パレードでは、色とりどりの衣装をまとった踊り子たちが庭園を進み、観客の拍手が会場に広がった。来場者は約2,000人、踊り子とボランティアを合わせ約200人。北米や日本各地から集まった人々が、言葉や文化の違いを越えて一体となった。

カナダ・アルバータ州レスブリッジ市で行われた北米国際よさこい祭り。色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが、鳴子の音に合わせて総踊りを披露し、会場を盛り上げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
カナダ・アルバータ州レスブリッジ市で行われた北米国際よさこい祭り。色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが、鳴子の音に合わせて総踊りを披露し、会場を盛り上げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者

 本田さんは全体統括として会場を駆け回っていた。「当日は本当に走り回っていました。Tシャツが届かない、スピーカーの準備ができていないといったトラブルも多かったけれど、みんなが笑顔で楽しんでくれた。それだけでうれしかった」と笑顔で振り返る。

 開催前日に、予約していた大型バス2台から日本チームの踊り子約80人が降り立った瞬間を今でも忘れられないという。「150人来るとは聞いていたけれど、実際に目の前で降りてきた時は震えました。ああ、本当にこの日が来たんだなって実感しました」と目を細めた。

司会を務めた田中恵美子さん(右から2人目)が出演チームを紹介。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
司会を務めた田中恵美子さん(右から2人目)が出演チームを紹介。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee

 司会を務めた田中さんは、観客と踊り子の笑顔があふれる会場の雰囲気を印象深く覚えている。「高知の帯屋町筋のチームの方が『何も考えず純粋にこんなによさこいを楽しめたのは久しぶりだった』と言ってくださって、とてもうれしかった」。異なる文化や背景を持つ人々が鳴子を手に一体となって踊る姿は、主催者や観客、全ての参加者の心に残った。

 井上さんも「余韻がすごくて、単に幸せだったなというところに行きつく」と語り、「北米という縁もゆかりもない土地で、自分と同じ思いを持つ人たちと出会えた幸せを強烈に感じました」と続けた。

秋空の下、色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが舞台に立つ。芝生に座る観客も手拍子で応え、会場が一体となった。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
秋空の下、色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが舞台に立つ。芝生に座る観客も手拍子で応え、会場が一体となった。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者

 また、会場ではワークショップや共同パフォーマンスも行われ、日本チームと北米チームが一緒に作品を踊る場面もあった。田中さんは「よさこいは子どもから大人まで鳴子を握れば誰でもできるところ、そして言語や育った背景に関係なく踊れるところが一番の魅力」と語り、「だからこそ現在世界30カ国以上に広まっているんだと思います」。

「続けていくことで初めて文化になる」

首都オタワから在カナダ日本大使館・山野内勘二大使も駆けつけた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
首都オタワから在カナダ日本大使館・山野内勘二大使も駆けつけた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者

 初開催を終えた今、3人はすでに次の目標を見据えている。アンケートでは「また来たい」という声が9割を超え、予想を上回る反響が寄せられた。イベントを終えてなお、会場で芽生えたつながりが広がり続けており、この流れを絶やさずに次へつなげたいという思いが3人を再び動かしている。

 井上さんは、現地での経験を通して感じた変化を語る。「日本にいると当たり前のことが、外に出ると当たり前ではないと気づきます。そうした経験を通じて、日本の人たちにも新しい視点で文化を見つめ直してほしい」と話し、よさこいを広めるだけでなく文化のあり方を見直す契機にもなったという。

 田中さんも「文化は子どもたちに伝えていかないと消滅してしまう。未来につないでいけるようなお祭りにしていきたい」と強調する。「(イベント名に)国際という言葉を入れたのは、北米だけでなく世界中の人に参加してほしいという願いから。将来的にはヨーロッパやアジアからもチームが集まるお祭りにしたい」と展望を語った。

 2回目の開催は2026年秋に予定されている。本田さんは「日本では当たり前にあるお祭りも、ここカナダでは誰かが動かないと始まらない。待っているだけでは何も生まれない」と語り、「北米にいる日本人一人ひとりが、自分の得意なことを生かして動き出せば、日系コミュニティはもっと豊かになる」と呼びかけた。

 2026年の開催について、詳細については以下のウェブサイトから。https://kokuyosa.com/

色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが、日加友好日本庭園の小道を進む。鳴子の音が響き、祭りの幕開けを告げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
色鮮やかな衣装をまとった踊り子たちが、日加友好日本庭園の小道を進む。鳴子の音が響き、祭りの幕開けを告げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供:北米国際よさこい祭り参加者
桜の模様が鮮やかな青い衣装をまとい、和傘を手に舞う「桜舞トロント(Sakuramai Toronto)」の踊り子たち。トロントを拠点に、カナダ各地でよさこいの魅力を伝えている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
桜の模様が鮮やかな青い衣装をまとい、和傘を手に舞う「桜舞トロント(Sakuramai Toronto)」の踊り子たち。トロントを拠点に、カナダ各地でよさこいの魅力を伝えている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
アメリカ・サンノゼを拠点に活動する「渦丸(Uzumaru)」の演舞。赤い和傘を使った華やかな舞で、よさこいの魅力を力強く表現した。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
アメリカ・サンノゼを拠点に活動する「渦丸(Uzumaru)」の演舞。赤い和傘を使った華やかな舞で、よさこいの魅力を力強く表現した。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
カルガリーを拠点に活動する「夜奏華(YOSOCA)」。主催団体Kaede Cultural Societyが所属するチームとして、力強い演舞で北米初のよさこい祭りを盛り上げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
カルガリーを拠点に活動する「夜奏華(YOSOCA)」。主催団体Kaede Cultural Societyが所属するチームとして、力強い演舞で北米初のよさこい祭りを盛り上げた。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
「高知県よさこいアンバサダー絆国際チーム」が華やかな演舞を披露。言語や文化の違いを越え、世界に“よさこいの絆”を広げる活動を続けている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee
「高知県よさこいアンバサダー絆国際チーム」が華やかな演舞を披露。言語や文化の違いを越え、世界に“よさこいの絆”を広げる活動を続けている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee

(取材 田上麻里亜)

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「朝日軍」初代団長の孫・松宮哲さん、BCスポーツ殿堂博物館を訪問

BCスポーツ殿堂博物館で、殿堂担当者のベックさん(左)と記念メダルを持つ松宮さん(右)。長年の交流を経て、歴史的な節目の日に訪問が実現した。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
BCスポーツ殿堂博物館で、殿堂担当者のベックさん(左)と記念メダルを持つ松宮さん(右)。長年の交流を経て、歴史的な節目の日に訪問が実現した。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 戦前の日系人野球チーム「朝日軍」の初代団長、松宮外次郎(1873〜1957)の孫、松宮哲(さとし)さんが、9月18日にブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバー市のBCスポーツ殿堂博物館を訪れた。この日は偶然にも、朝日軍が最後の試合を行った1941年9月18日の記念日と重なった。

 哲さんは、映画「バンクーバーの朝日」を見たことをきっかけに松宮商店と朝日の研究を開始。長年の調査活動が実を結び、祖父の記念メダルが今年7月にカナダから届いた。喜びを胸に、現地のカナダで初代団長の足跡をたどった。

滋賀県から祖父の足跡たどり、バンクーバーへ

 松宮外次郎さんは1896年にバンクーバーへ渡り、日本町「パウエル街」で食料雑貨店「松宮商店」を開業した。野球用品も扱ったことから、店員らが中心となり1914年に朝日軍が結成され、初代団長を務めた。

 哲さんが祖父の足跡を調べ始めたのは、2014年公開の映画「バンクーバーの朝日」を見たのがきっかけだった。父、増男さんの著書「開出今物語-梅の花と楓」に朝日軍の記述がわずかにあったことから、「これはひょっとしたら祖父とつながりがあるのでは」と感じたという。

 哲さんは、10歳のときに祖父を亡くし、直接祖父からカナダでの話を聞く機会はなかった。それでも父から聞いた話を手掛かりに、約2年間にわたりバンクーバーの新聞記事を調べ続けた。その結果、松宮商店が朝日軍の拠点となり、外次郎さんが創設と運営を支える重要な役割を果たしていた事実にたどり着いた。2017年には著書「松宮商店とバンクーバー朝日軍」を出版。「調べれば調べるほど分かっていく。もっと知りたいという気持ちが研究を続ける原動力になった」と語る。

 研究を進める中で、朝日の選手に贈られたメダルの多くが遺族に渡っていないことも分かった。哲さんは、同じく朝日軍の選手を祖父に持つ嶋洋文さんと協力し、約10年かけて遺族探しとBCスポーツ殿堂博物館への情報提供に取り組んだ。これまでに30人の遺族へメダルを届けることに貢献。今年7月には、外次郎さんの記念メダルが哲さん自身の手にも届いた。

現地で祖父の足跡を実感、涙が出た

祖父が開業したジャパンタウンの「松宮商店」跡地を訪れた松宮哲さん。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
祖父が開業したジャパンタウンの「松宮商店」跡地を訪れた松宮哲さん。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 松宮さんにとって今回が初めての海外訪問。カナダに到着後も「ずっと興奮しっぱなしでなかなか寝られない」と胸を弾ませている様子だった。当初は1年前に訪問を計画していたが、新型コロナウイルスに感染し延期を余儀なくされたため、念願の訪問だったという。

 ジャパンタウン跡地、かつて松宮商店があった場所にも足を運び、「感動した。涙が出てきた。父も祖父もここにいたから、どうしてもここで(父と祖父を)感じたかった」と思いもひとしお。

 現地を訪れたことで新たな発見もあった。地図や映像だけでは分からなかった街の広さや道の感覚、当時の商店の規模などを実際に体感し、「こんなに(松宮商店は)狭かったのかと驚いた。日本人は起伏のある土地に住んでいたが、ここは平坦で、その違いも印象的だった」という。気候についても「湿気がなく住みやすいと感じた。来てみないと分からないことばかりで、体験できてよかった」とうれしそうに話した。

今も語り継がれる頭脳野球 今でも人気の朝日

ベックさんが朝日軍の活躍について説明。訪問に同行した滋賀大学の学生たちも熱心に聞き入った。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
ベックさんが朝日軍の活躍について説明。訪問に同行した滋賀大学の学生たちも熱心に聞き入った。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 BCスポーツ殿堂博物館のジェイソン・ベックさんは、朝日軍が今でも人気の殿堂入りチームだと説明。朝日のプレースタイルについて「バントなどの頭脳的な野球で、非常に速く、カナダのスタイルとは大きく異なっていた」と話す。さらに、「一度もヒットを打たずに勝った試合があった」という逸話を紹介。四球で出塁し、盗塁を重ねて得点につなげるなど、独自の戦術が広く尊敬を集めた理由の一つだとした。

BCスポーツ殿堂博物館内のバンクーバー朝日の展示パネル。「Vancouver Asahi Pioneer, Baseball」としてチームが紹介されている。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
BCスポーツ殿堂博物館内のバンクーバー朝日の展示パネル。「Vancouver Asahi Pioneer, Baseball」としてチームが紹介されている。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 厳しい差別の中で「フェアプレー」を貫いた朝日の展示を前に、訪問に同行した滋賀大学の学生、岩崎里音さんは「移民はただ普通にそこに住んで、商売をして暮らしてるだけなのかなって思ったら、野球でこんなに活躍したことにびっくりしました」と、朝日の功績に驚いていた。

若い世代へ歴史のバトンを 滋賀県で研究会設立へ

 松宮さんは、今後の活動として、若い世代へ朝日の歴史をバトンタッチしたいという。学生には「いろんなことを知ってほしいし、自分で感じたことを次の世代に伝えていってほしい」と期待した。

 こうした活動の一環として、松宮さんは今年、滋賀県で「滋賀・カナダ移民研究会」を立ち上げた。この研究会は、明治・大正期に琵琶湖の湖東や湖北地域からカナダへ渡った人々の生活や足跡を掘り起こし、後世へ残すことを目的としている。

 松宮さんによると、カナダに渡った日本人のうち、1910年ごろは滋賀県出身者が最も多かったという。今後もこの地方出身者をはじめ、日本からの移民の歴史をより詳しく研究していきたいと語った。

松宮さんと同行した滋賀大学の学生たち。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
松宮さんと同行した滋賀大学の学生たち。2025年9月18日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

(取材 田上麻里亜)

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Sake Fest ’25、150種超の酒と食文化をバンクーバーで発信

純米酒をはじめ、にごり酒なども紹介したKIZUNA SAKE。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
純米酒をはじめ、にごり酒なども紹介したKIZUNA SAKE。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
日本酒をはじめ、果実酒、ビールが並び、賑わう会場。ブースでは好みの味を伝えると、米の産地や精米歩合からぴったりの銘柄を勧めてくれる。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau
日本酒をはじめ、果実酒、ビールが並び、賑わう会場。ブースでは好みの味を伝えると、米の産地や精米歩合からぴったりの銘柄を勧めてくれる。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau

 「Vancouver Sake Fest’25」が10月9日、バンクーバー市で開催された。日本とカナダの酒蔵や輸入業者21社以上が集まった会場には、日本酒や焼酎、ビール、フルーツ酒など150種類を超える酒が並び、さらに日本酒に合うフードも提供された。昼の部は業界関係者向けトレードショー、夜の部は一般向け試飲会が行われ、招待客などを含め約300人が日本の酒と食を楽しんだ。

業界連携で築く、新たな日本酒市場

 日本では10月1日は「日本酒の日」。BC州日本酒協会(The Sake Association of British Columbia:SABC)が主催する同イベントは今回が5回目で、これまでも毎回10月に行われ、日本酒を通じてカナダと日本の文化交流を深めることを目的としている。

日本文化の発信を通じて、日本酒だけではなく飲食業界全体を盛り上げたいと意気込む、SABC代表の小西隆之さん。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
日本文化の発信を通じて、日本酒だけではなく飲食業界全体を盛り上げたいと意気込む、SABC代表の小西隆之さん。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 BC州では約1,000銘柄の日本酒が流通しているが、アルコール税率が高く、州政府が流通を管理するなど厳しい市場環境にある。SABC代表の小西隆之さんは「税金が高くて、最終的に一般の消費者のところに渡らない」と語り、販売構造に課題があると指摘する。

 それ以外にもカナダ全体の好みとして、「アルコールを飲む方が少なくなってる気がします。飲んでも低アルコールのものを選ぶ傾向があります」と、若年層を中心にビールやチューハイなど軽めの飲料が好まれる中で、日本酒のように度数の高い酒が選ばれにくいと感じている。

 それでも「BC州はアジアからの移民が多く、文化的にお酒を知っている人が一定数います。だからこそ、この地域は日本酒を広める上で重要な市場」と話す。

純米酒をはじめ、にごり酒なども紹介したKIZUNA SAKE。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
純米酒をはじめ、にごり酒なども紹介したKIZUNA SAKE。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 また今回からは食品スポンサーの協力よる、和牛や日本米を使った料理、加工食品などが並んだ。来場者は酒を片手に食も一緒に楽しめて、会場は1日中賑わっていた。

 小西さんは、「飲食業、輸入商社、アルコール業界が一緒にビジネスを考えていかないとマーケットが大きくならない」と述べ、同イベントを「業界が協力しながら新たな市場を育てるための場」と位置づけていると期待した。

 来場者からは「お酒だけでなく、食事も楽しめた」「ビールや焼酎、フルーツ酒もあり幅広く味わえた」などの声が多く聞かれた。

しつこくない油が日本酒にもぴったりだという、A5のBMS12サーロインステーキ。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau
しつこくない油が日本酒にもぴったりだという、A5のBMS12サーロインステーキ。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau

 茨城県産の「常陸牛」を提供したFrobisher International Enterprisesの担当者、廣見麻里亜さんは、カナダのレストランなどで見かける和牛の多くは日本産ではなかったり、グレードの低いものだったりする現状の中、「本物のジャパニーズ和牛は高価でなかなか手が出しづらい」と話す。だからこそ、「お客さんがたくさん集まるこういう機会に、せっかくなので日本の良い和牛を試してもらって、どういうものかを楽しんでいただきたい」と語った。

 また、Azuma Foods (Canada) Co., Ltd.の土橋祐斗さんは、現地生産を行う食品メーカーとして、食を通じた文化理解を促進したいという。「まずは日本のカルチャーというものを知って欲しい」と語り、JETROと連携したジャパンモール事業を紹介していた。

金芽米を使った料理に興味を示す来場者。他にも日本酒に合わせた料理が並んだ。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
金芽米を使った料理に興味を示す来場者。他にも日本酒に合わせた料理が並んだ。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 そのほかにも食を軸にした取り組みとしてToyo Rice Corporationが日本米を提供。担当者の石塚貴史さんは、「去年はお米を展示するだけでしたが、今年は実際にホテルのフィンガーフードに使ってもらいました。食べてもらって興味を持ってもらいたい」と語り、体験を通じて日本米の魅力を伝えた。 LA International Tradingはオレンジマダイを提供した。

 昼の部では日本酒の味わいや香りを学ぶセミナーも行われた。講師を務めたのは、日本酒のWSET認定講師でCru Classe Hospitality Corp.の代表ララ・ビクトリアさん。参加者に向けて「umami(うま味)の理解」をテーマに、日本酒のテイスティング方法や風味を構成する要素について解説した。

参加者たちは、日本酒一つひとつの香りや味の違いを確かめながらテイスティングを行なっていた。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
参加者たちは、日本酒一つひとつの香りや味の違いを確かめながらテイスティングを行なっていた。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
乾杯のあいさつするバンクーバー総領事館・岡垣首席領事。会場にはBC州政府ポール・チョイ貿易担当政務次官なども出席した。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau
乾杯のあいさつするバンクーバー総領事館・岡垣首席領事。会場にはBC州政府ポール・チョイ貿易担当政務次官なども出席した。2025年10月9日、バンクーバー市。提供 SABC/Photographer: John Lau
出羽桜のブース。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
出羽桜のブース。2025年10月9日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

(取材 田上麻里亜)

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BC州でサッカイサーモン927万匹回帰 予想の3倍、4年に一度の大量年

フレーザー川水系のアダムス川に遡上するサッカイサーモン。写真提供: Fisheries and Oceans Canada
フレーザー川水系のアダムス川に遡上するサッカイサーモン。写真提供: Fisheries and Oceans Canada

 ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の川に、赤く色づいたサッカイサーモンの群れが次々と姿を現している。今年は4年に一度の大量回帰の年にあたり、各地でピークを迎えつつある。フレーザー川水系を中心に観測された回帰数は、事前予測の約3倍にあたる927万匹にのぼり、近年ではまれな規模として注目されている。

 一方で、サーモン回帰を取り巻く環境は年々変化しており、保護や漁業規制、気候変動への対応も課題となっている。その現状について、カナダ漁業・海洋省(DFO)に話を聞いた。

927万匹と過去平均を上回る回帰数

サレー市のサーペンタイン川を遡上するサーモン。 The Serpentine Enhancement Societyのブライアン・イングランドさんによると、大雨の翌日は多くのサーモンが上ってくることが予想されるという。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜
サレー市のサーペンタイン川を遡上するサーモン。 The Serpentine Enhancement Societyのブライアン・イングランドさんによると、大雨の翌日は多くのサーモンが上ってくることが予想されるという。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 太平洋サーモンはカナダ西海岸の象徴的な魚種で、先住民コミュニティにとっては食料としてだけでなく、社会的、儀式的にも欠かせない存在である。また、レクリエーション漁業や商業漁業を通じて地域経済にも貢献している。海洋および淡水の生態系でも重要な役割を果たしており、その保全は自然環境と文化の両面において大きな意味を持つ。

 太平洋サーモンには、チヌークサーモン(キングサーモン)、コーホーサーモン(銀サーモン)、サッカイサーモン(紅サーモン)、ピンクサーモン(カラフトサーモン)、チャムサーモン(白ザケ)の5種が存在し、それぞれ異なる生態的特徴を持つ。

 中でも、サッカイサーモンに見られる「周期的優占(cyclic dominance)」と呼ばれる現象は特異であり、BC州のフレーザー川には4年に一度、おびただしい数のサッカイサーモンが回帰する。

 2025年のサッカイサーモン回帰数は、フレーザー川水系で約927万匹と予測されている。事前の予測中央値290万匹を大きく上回る数で、過去の平均も上回る水準となった。今年は4年に一度の大量周期にあたり、前回の周期だった2021年の回帰数(約630万匹)を大きく超えている。

保全を目的とした漁獲制限と管理

The Serpentine Enhancement Societyでは、Tynehead Hatcheryでサーモンを養殖し、地元で絶滅の危機にある魚種の補充と再放流に力を注いでいる。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜
The Serpentine Enhancement Societyでは、Tynehead Hatcheryでサーモンを養殖し、地元で絶滅の危機にある魚種の補充と再放流に力を注いでいる。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 一方で、近年BC州の一部地域ではサーモン資源を守るため、漁獲制限や規制を強化している。これは、産卵前に高い死亡率が見られていることが背景にある。特に近年では、水量の減少や高水温、干ばつ、地すべりといった要因により、産卵前の死亡率が90%に達するケースもあるという。

 また、夏に回帰するサッカイサーモンとともに遡上する系統の中には、個体数が少なく保護が必要とされる在来種が含まれている。特に「レイトラン(late-run)」と呼ばれるフレーザー川のサッカイサーモンは、全体の回帰群の中でも規模が小さく、複数の脆弱な系統を含んでいる。このため、DFOはこれらの保全を目的に漁獲上限を設けている。

 加えて、気候変動と生息地の変化も大きな影響を与えている。具体的には、水温の上昇、食物連鎖の変化、河川流量ピークの時期のずれ、干ばつや豪雨の増加、浸食の進行、氷河の縮小、川や湖の氷結期間の短縮などが報告されており、これらがサーモンの生存率や遡上範囲に影響を及ぼしている。

 こうした状況に対応するため、カナダ政府はPacific Salmon Strategy Initiative(PSSI)を推進。BC州やユーコン準州を中心に、生息地の回復や気候変動対策を目的としたプロジェクトが展開されている。

サーモン回帰の観察スポット

オスのコーホーサーモンを紹介するブライアンさん。鼻の先の突起は「キープ(Kype)」と呼ばれ、オス同士がメスと交尾する権利をめぐって争う際に使われる。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜
オスのコーホーサーモンを紹介するブライアンさん。鼻の先の突起は「キープ(Kype)」と呼ばれ、オス同士がメスと交尾する権利をめぐって争う際に使われる。2025年10月29日、サレー市。撮影:田上麻里亜

 サーモンの回帰を目にすることができるスポットがBC州各地にある。一度見たら人生観が変わるとまで言われるサーモンの遡上風景。例年秋には、アダムス川や、ゴールドストリーム州立公園などに多くの人がサーモンの回帰を見るために訪れている。

 観察に適した時期や場所は、以下のウェブサイトから。

「Where and when to see salmon」Fisheries and Oceans Canada (DFO)
https://www.pac.dfo-mpo.gc.ca/sep-pmvs/see-observer-smon-eng.html

The Serpentine Enhancement Society: https://tyneheadhatchery.ca/

(取材 田上麻里亜)

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キャップス、プレーオフ第1戦で快勝 高丘はクリーンシート守る

試合後にファンと一緒に喜ぶ選手たち、高丘も笑顔を見せる。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
試合後にファンと一緒に喜ぶ選手たち、高丘も笑顔を見せる。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
超満員のファンが詰めかけたMLSカップ・プレーオフ1回戦。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
超満員のファンが詰めかけたMLSカップ・プレーオフ1回戦。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

 ファンが3階席まで埋め尽くし、 BCプレースが熱気と水色に染まった。10月26日、MLSカップ・プレーオフの1回戦が行われ、バンクーバー・ホワイトキャップスFCがFCダラスを3対0で完封した。

 観客動員数は32,066人と、ホワイトキャップスのMLSカップ・プレーオフでのホーム記録を更新。悲願のMLSカップ制覇へ向けて、力強い一歩を踏み出した。

10月26日(BCプレース:32,066)
バンクーバー・ホワイトキャップス 3 – 0 FCダラス

前半から主導権を握り、試合をコントロール

 試合序盤からホワイトキャップスが主導権を握った。左サイドのアリ・アーメドが積極的に仕掛け、攻撃のリズムをつくった。

 43分、セバスチャン・ベルハルターが右サイドへ展開。アーメドが素早くクロスを送り、リオスが力強く頭で合わせて先制した。リオスは今季全大会を通じて4得点目を記録。

PKが決まった後、ミュラーの周りに集まり感情を爆発させるホワイトキャップス選手たち。 FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
PKが決まった後、ミュラーの周りに集まり感情を爆発させるホワイトキャップス選手たち。 FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

 後半に入っても流れは変わらず、エマニュエル・サビが前線で躍動。ドリブルで相手DFセバスティアン・イベアガと競り合いペナルティエリア内でPKを獲得。サビがPKを誘うのは2試合連続で、試合後にソレンセン監督が「相手の背後を常に脅かしていた」と称賛するほど、終始攻撃の軸として存在感を見せた。

 PKはトーマス・ミュラーが右上に決め、リードを2点に広げた。ミュラーは加入後9試合で9得点。ホワイトキャップスでの公式戦PKは6本全て成功している。

 そして83分、途中出場の18歳ライアン・エルーミが果敢なドリブルでゴールライン際を突破。倒されながらも低いクロスを送り、これを同じく途中出場で日本生まれの日系ペルー人選手ケンジ・カブレラが滑り込みながら押し込み、3対0。若手の活躍で試合を締めくくった。

今年7月に加入したケンジ・カブレラ、今回の試合で公式戦通算2点目を挙げた。ホームでは初ゴール。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
今年7月に加入したケンジ・カブレラ、今回の試合で公式戦通算2点目を挙げた。ホームでは初ゴール。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

 ミュラーは試合後、「最初から試合をコントロールできた」と振り返った。攻守のバランスや相手のカウンターへの備えなど、試合の戦い方に手応えを感じたという。そして、「まだ1勝を手にしただけで、2勝目が必要」と次戦への意気込みを語った。

安定感ある守備でチームを完封勝利に

 守備ではチーム全体が冷静に最終ラインを支え、相手に決定機を与えなかった。FCダラスのシュート数は0本と、完璧に封じ込めた。GK高丘は大きなセーブを要する場面は少なかったものの、安定感ある守備でチームの完封勝利に貢献。

 試合後には、「前半からボールをちゃんと握ってコントロールできましたし、チャンスも作っていた。3点取って勝てたのは大きいと思いますし、無失点で抑えられたのは良かったかなと思います」と手応えを話した。

背後のスペース管理を意識したというGK高丘。 FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
背後のスペース管理を意識したというGK高丘。 FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

 また、「相手の狙いは僕らの背後のスペースだったので、そこの管理を意識していました。ボールを足で扱う場面も多かったけれど、プレッシャーをうまく受けながら対応できたと思います」と自身のプレーを振り返った。

次戦アウェーは「0対0からのスタート」と高丘

 ソレンセン監督にとって、北米でのプレーオフは今回が初めて。「旗や歓声、チームへの愛情があふれていて、本当に特別な夜になった」と語り、「観客に最高の試合を見せることができてうれしい」と感謝した。

 今月18日に行われたレギュラーシーズン最終戦では、やはりBCプレースで同じくダラスと対戦し敗れている。ソレンセン監督は、「1週間前の試合で得た情報をもとに修正できた。集中して、狙ったテンポで試合を進められた」と振り返った。

 高丘はプレーオフへの意気込みについて、「2年連続でこのラウンド1で負けていたので、悔しさは持っています。今年はチームの状態もいいですし、MLSカップを取れるように1試合ずつ勝っていきたい」と力を込めた。そして第2戦に向けては、「アウェーでも0対0からのスタートになる。1週間良い準備をして、また集中して臨みたいと思います」と気を引き締めた。

 この日の観客動員数は32,066人、ホワイトキャップスのMLSカップ・プレーオフでのホーム記録を更新した。高丘も、「観客の後押しをすごく感じました。今季は満員の試合も多く、年々熱が上がってきていると思います」と話す。

 ホワイトキャップスはこれでシリーズ1勝。次戦は11月1日午後6時30分(太平洋標準時)、アメリカ・テキサス州のトヨタ・スタジアムで行われる第2戦に臨む。勝てば準々決勝進出が決まり、シリーズが第3戦にもつれた場合は11月7日に再びBCプレースで行われる。

試合後にファンと一緒に喜ぶ選手たち、高丘も笑顔を見せる。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today
試合後にファンと一緒に喜ぶ選手たち、高丘も笑顔を見せる。FCダラス戦。2025年10月26日、BCプレース。Photo by Saito Koichi/Japan Canada Today

(取材 田上麻里亜/写真 斉藤光一)

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変わるカナダの移民政策とビザ厳格化、今求められる準備

Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.の白石有紀さん。2025年9月、バンクーバー市内の事務所で。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.の白石有紀さん。2025年9月、バンクーバー市内の事務所で。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 「今は、早めに準備という時代」と語るのは、Visa JP Canada Immigration Consulting Co代表の白石有紀さん。2024年以降、カナダへの移民、就労、ビザの厳格化が進んでいる。日本人留学生や移住を目指す人にとって、従来以上に計画的な準備が求められる時代に入った。

 こうしたカナダの移民、制度変更の背景や今後予測される動きについて、白石さんに話を聞いた。

移民政策の転換と背景

 カナダの制度が変化した大きな要因のひとつは、新型コロナウイルスによるパンデミックだ。2020年以降、新型コロナ禍において国境が実質的に閉ざされ、カナダ国外に出られなくなった留学生が国内にとどまった。政府はそういった留学生を救済するため、在留延長や永住権取得を後押しする政策を次々と実施し、結果的に外国人の数が急増した。

 しかしその後、以前から問題となっていた住宅不足や家賃高騰に追い打ちをかける形で社会資源への負担が一層深刻化したため、政府は2024年以降、移民の質を確保すること、そして住宅や医療などの社会資源への圧迫を和らげることなどを目的に、留学生の受け入れ数に上限を設ける新たな規制を導入。具体的には、これまで制限のなかった学生ビザの発給数を2024年は485,000件に、2025年は437,000件に減らすなどの対応をとった。学生ビザの発給数は2026年も25年水準を維持する方針だ。

 白石さんは、今回の変化はいきなり厳しくなったわけではなく、新型コロナで膨らみすぎた分を調整し、以前の水準に戻そうとする流れだと説明する。その上で、かつてはカナダに渡航すれば何とかなると考えられていたが、現在はそうした状況ではなく、計画性を前提とする方向へ移行していると指摘する。

学生ビザとPGWPの厳格化

 では、近年ビザや制度でどのような変化があったのか。

 学生ビザは、従来に比べてビザの申請理由やキャリア計画を具体的に示すことが求められるようになった。「なぜカナダで学ぶのか」「卒業後どのようにキャリアを築くのか」「就学後に帰国するか」といった説明が求められ、形式的な書類提出だけでは認められにくいという。さらに、審査期間の長期化により早めの準備が欠かせなくなっている。

 ポストグラデュエーション・ワーク・パーミット(PGWP)にも大きな変更が加わった。昨年秋からは英語試験スコアの提出が必須となり、今年には対象となるプログラムもカナダ国内で需要の高い職種に直結するものに見直された。白石さんは「今後も需要の高い仕事の変化に応じてPGWPの条件は更新される。学校選びの段階から(PGWPの)対象かどうかを確認することが非常に重要」と強調する。

 こうした制度変更の影響は、日本人留学生だけではなくカナダの教育現場にも及んでいる。カナダ人学生よりも高い授業料を支払う留学生の減少により、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州では、バンクーバー・コミュニティ・カレッジやクワントレン・ポリテクニック大学、ランガラ・カレッジで教員削減が相次いでいる。ランガラ・カレッジは、2023年秋と比べて留学生が2,400人減少、69のポジションを削減したことを認めた。私立のカレッジでは公立以上に強い打撃を受けているという。

ワーキングホリデー制度の変化

 日本人のワーキングホリデービザ(International Experience Canada: IEC)は、2025年4月から12カ月のビザを2回まで取得可能となった。日本がカナダ人の利用率が低いことから受け入れ条件を緩和したため、その結果、カナダでも相互主義の原則により日本人の滞在を2年に延長した。

 ただし年間枠は変わらず6,500人のため競争率は上昇。これまでよりも早く申請枠がなくなり、翌年に持ち越される人も増えていくと予想されている。2024年枠のワーホリビザは10月21日に申請を実質的に終了したが、今年2025年枠は8月上旬の時点ですでに実質終了となった。

 さらにカナダ国内の失業率上昇により、現地での仕事確保は容易ではない。白石さんは「渡航前から就職戦略を立てておくことが大切です」と指摘する。

永住権取得の厳格化と2026年への動き

 永住権(PR)を目指す場合の難易度も高まっている。BC州の州ノミネーションプログラム(PNP)では、2025年の新規申請枠は前年に比べて半減したうえ、2024年分の審査が滞っていることなどを理由に、申請対象者がごく一部の医療従事者に限定された。

 また、かつては申請書を提出した順番に審査が進められていたが、現在はそうではない。白石さんによると、今は政府が優先して受け入れたい人材がいれば、申請順にかかわらずその人物が先に審査される仕組みに変わっているという。

 カナダ政府が優遇する人材も変化してきており、かつて有利とされたIT分野は近年リストから外れ、一方で今年新たに教育職従事者の分野が優遇対象となった。これは、AIに代替されにくい職種とも関連しているという。

 白石さんは、「よくある失敗は、とりあえず学校に行けばPRにつながると思ってしまうこと」と話し、実際にはどのプログラムならPGWPが出るのか、どの職種が永住権取得につながりやすいのかを逆算することが大切だと指摘する。

 その上で、「情報が多い時代だからこそ、誤情報に惑わされず信頼できる情報源を選び、早めに準備を始めることが重要です。『行けばどうにかなる』時代ではありません」と強調、制度変更や社会の動向を踏まえた準備の重要性を呼びかけた。

Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.

Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.の白石有紀さん。2025年9月、バンクーバー市内の事務所で。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.の白石有紀さん。2025年9月、バンクーバー市内の事務所で。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

人材カナダの移民コンサルティング部門として2006年に設立された後、2009年に独立部門として誕生。その後、2016年からは独立法人Yuki Shiraishi Immigration Consulting Inc.の下で現在の経営形態を取り、カナダへの移民、就労、各種ビザのコンサルティングを提供している。https://visajpcanada.com/

(取材 田上麻里亜)

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26歳でカンヌを経てVIFFへ 「見はらし世代(Brand New Landscape)」団塚唯我監督インタビュー

「見はらし世代 "Brand New Landscape"」より。Photo provided by VIFF
「見はらし世代 "Brand New Landscape"」より。Photo provided by VIFF
団塚唯我監督。Photo Provided by VIFF
団塚唯我監督。Photo Provided by VIFF

 初めての長編映画が、海外の舞台で静かに歩き出した。東京・渋谷の再開発を背景に、家族の関係と都市の変化を重ねた映画「見はらし世代(Brand New Landscape)」を手がけたのは、27歳の団塚唯我(だんづか・ゆいが)監督。23歳で脚本を書き始めたというこの作品は、「第78回カンヌ国際映画祭」監督週間に選出され、日本人として史上最年少、26歳での参加となった。

 ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市で開催された「バンクーバー国際映画祭(VIFF)」(2025年10月2日~12日)では北米プレミア作品(日加トゥデイ・メディアパートナー)として上映された。

 日本での公開(10月10日)で多忙な中、オンラインで団塚監督に話を聞いた。

変わりゆく東京と、家族のかたち

 再開発が進む渋谷を舞台に、離れて暮らす父と子どもたちの変化を描いた映画「見はらし世代」。ランドスケープデザイナーの父は仕事に没頭し、家族との関係は長く途絶えていた。ある日、父と再会した姉弟は、変わりゆく街の風景の中でそれぞれの記憶や思いと向き合う。

 この作品は監督自身の体験に根ざしている。「もともと家族に対する違和感みたいなものがあって。僕は東京出身なんですが、東京の変わっていく街並みに対しても同じように違和感があったんです」と話す。

 「家族という小さいコミュニティと、都市っていうすごい大きな枠組みって、真逆にあるようで、でも自分の中ではどこかで重なった瞬間がありました」。変わりゆく街と家族を対比させる発想は、都市に生まれ育った監督ならではの視点だ。

「見はらし世代(Brand New Landscape)」より。Photo provided by VIFF
「見はらし世代(Brand New Landscape)」より。Photo provided by VIFF

 息子の蓮が渋谷で胡蝶蘭(コチョウラン)の配送運転手として働く設定については、「胡蝶蘭の配達ドライバーは低所得の仕事だけれど、高級品を扱うことで富裕層の空間に一瞬アクセスできる。都市の中で階層がすれ違う、その違和感を描きたかった」と語る。

映画との出会いは大学生の春休み

 団塚監督が映画に出会ったのは大学時代。春休みに借りたDVDをきっかけに、「自分ならこう撮りたい」という発想が自然と芽生えた。当時通っていたのは、映像とは関係のない慶應義塾大学環境情報学部。YouTubeなどで独学を始めたあとに大学を退学し、映画美学校へ。短編作品を通じて現場での手法を学んだ。

 「(映画を作り始めた当時は)18歳、19歳ぐらいのときで、何でもできると思っていた。今の自分だったら踏み出せなかったと思う」と振り返る。両親がデザイン関係の仕事をしていたことも創作の原動力となった。「何か作ることに対しての心理的ハードルが少なかった」と団塚監督。

 その後、短編「遠くへいきたいわ」で注目され、出会ったスタッフや関係者との縁が今回の長編制作の道を開いた。

俳優の感覚を生かす現場作り

 撮影では、脚本よりも現場で生まれる俳優の感覚や空気を大切にした。「間を詰めてほしいとか、リズム良くしてほしいとか、そういうことは言わなかったですね。むしろ言わないというか、(間は)取れたら取っていいし、取らなくてもいい。そういう言い方をしていました」と語る。

「見はらし世代 "Brand New Landscape"」より。Photo provided by VIFF
「見はらし世代 “Brand New Landscape”」より。Photo provided by VIFF

 「役者さんがトライできる環境をどう作るか。僕が『何秒空けてください』と言うより、その人が『これ以上しゃべりたくない』と思った間をそのまま受け止める方が自然だと思った」。

 映画作りの過程については「スタッフがそれぞれの持ち味を生かしながら、かけ算のように作品ができあがっていく。その過程がおもしろい」と話す。幼少期から野球部に所属していた団塚監督は、チームで目標を共有しながら進める感覚が映画制作にも通じていると感じている。

 終盤に描かれる父と弟の場面では、言葉を排し、表情や空気の揺らぎで関係の変化を描いた。「どうやったら関係が変わっていくか。そのきっかけを説明ではなく映像の中で見せたかった」。印象的な空気感に、家族の距離が静かに変わっていく瞬間がにじんでいた。

東京から海外へ、映画が旅をする

 海外での活躍については、「映画だけが旅をしているようで光栄です」と語り、自らはバンクーバーを訪れることができなかったが、遠い地で自作が見られていることを喜んだ。

 映画の舞台となった東京は、監督にとって特別な街。「東京に生まれ育った自分が撮った東京の話を、海外の人がどう感じるのかが楽しみです。今の日本の都市を見られる映画にもなっていると思うので、見終わったあとに自分の住む町を少し違う目で見てもらえたら」と語る。

 家族という小さな共同体を通して、都市の変化や人の時間を描いた「見はらし世代」。日本では10月10日から全国で順次公開している。

見はらし世代(Brand New Landscape)https://miharashisedai.com/

「見はらし世代 "Brand New Landscape"」より。Photo provided by VIFF
「見はらし世代 “Brand New Landscape”」より。Photo provided by VIFF

(取材 田上麻里亜)

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今年行きたい、カナダ紅葉スポット ケベックの秋に出会う旅

ラ・モーリシー国立公園の紅葉(モーリシー地方)。写真提供:ケベック州政府観光局© GouvQc / Laurene Bath
ラ・モーリシー国立公園の紅葉(モーリシー地方)。写真提供:ケベック州政府観光局© GouvQc / Laurene Bath

 あっという間に夏も終わりに近づき、強い日差しの合間に吹き抜ける風が少しずつ涼しさを帯びてきた。街の緑をよく見てみると葉がわずかに色づきはじめ秋の気配が漂い始めている。

 9月中旬から10月下旬にかけてケベック州では、山や森は赤や黄色のグラデーションに染まり、短い秋が一気に深まっていく。

 今回はケベック州政府公式観光サイト「Bonjour Québec」が勧める、ケベックシティやモントリオールから日帰りで行ける4つの紅葉スポットを紹介する。

氷河谷に広がる紅葉と幻想的な霧「ジャック・カルティエ国立公園」

エポール川沿いの紅葉風景(ジャック・カルティエ国立公園、ケベック州・ストーンハム=エ=テウクスベリー)写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin
エポール川沿いの紅葉風景(ジャック・カルティエ国立公園、ケベック州・ストーンハム=エ=テウクスベリー)写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin

 今年の秋、特に「お勧め」と教えてくれたのが、ケベックシティから北へ車で約30分のジャック・カルティエ国立公園。数千年前に氷河によって形成されたU字型の渓谷とジャック・カルティエ川が交差する国立公園だ。

 9月下旬から10月中旬にかけて、谷を囲む木々が一斉に色づき、赤、だいだい、黄金のグラデーションが水面に映り込む。園内には初心者向けの散策路から中・上級者向けの登山道まで整備され、各地点から谷を見下ろすことができる。

 ここはもともと数世紀にわたり、モンタニエ族とヒューロン族が漁業や罠猟のための移動・交易路として利用していた歴史を持つ。

  Bonjour Québecが勧めるのは、何と言ってもジャック・カルティエ国立公園での早朝散歩。川の上に立ち込める霧が幻想的で、まるで絵画のような光景が広がるという。そして、地元のシードルや手作りチーズも忘れてはいけない。秋はシードルや手作りチーズの収穫の季節だそう。旬の味覚も秋の楽しみのひとつだ。

珍しい隕石地形と亜寒帯植生「グラン・ジャルダン国立公園」

秋の森の空撮風景(ガブリエル=ロワ・ウエスト・トレイル、ケベック州・プティト=リヴィエール=サン=フランソワ)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin
秋の森の空撮風景(ガブリエル=ロワ・ウエスト・トレイル、ケベック州・プティト=リヴィエール=サン=フランソワ)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin

 ケベックシティから車で約90分。シャルルボワ地域に位置し、ユネスコ生物圏保護区にも登録されているグラン・ジャルダン国立公園。約3億年前の隕石衝突により形成されたクレーター地形が特徴だ。

 南ケベックでは珍しいタイガとよばれる広大な針葉樹の原生林や、凍結した荒原ツンドラ、高山植物、山岳植生などが混在し、北方系と南方系の植物が共存する生態系を持つ。そこからフランス語で「大きな庭園」を意味する「グラン・ジャルダン(Grands-Jardins)」と名付けられたそうだ。

 特に、モン・デュ・ラック・デ・シーニュへの登山道が人気で、山頂からはクレーター全体と広大な紅葉を一望できる。 Bonjour Québecも紅葉シーズンの色彩は格別だと教えてくれた。園内には全長30キロ以上のトレイルが整備され、体力や目的に応じたコースを楽しむことができる。

ヨーロッパ風の町並みと秋景色「モン・トランブラン」

モンタン・ヴェルト山頂からのパノラマ(ケベック州・ラベル)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin
モンタン・ヴェルト山頂からのパノラマ(ケベック州・ラベル)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin

 ローレンシャン地域にある山岳リゾート、モン・トランブランは、モントリオールから北へ車で約90分。1930年代から観光地として発展し、紅葉の名所としても知られる。

 モン・トランブランでは、サトウカエデを中心とした山肌が9月下旬から10月上旬にかけて赤や黄色に染まり、ゴンドラからは360度のパノラマが広がる。トレイルは家族向けから中級者向けまで多様に整備され、展望ポイントも複数存在しているという。

 モン・トランブランの街は、季節ごとに表情を変える5つのエリアから成っている。世界的に有名なトランブラン・リゾート、山麓のビレッジ、ダウンタウン、モン・トランブラン国立公園、そしてドメーヌ・サン=ベルナールだ。

 その中でも、1895年に「モンターニュ・トランブラント公園」として設立された国立公園はケベック州最古の公園で、400の湖、6本の川、サトウカエデ林を有する豊かな自然が広がっている。

 カヌー、ハイキング、サイクリング、ビア・フェラータ、スカンジナビア式スパ、ゴンドラでの絶景散策など、四季を通じて多彩なアクティビティを楽しめるのも魅力。特に9月下旬から10月上旬はローレンシャンの紅葉が最盛期を迎え、訪れるのにベストなシーズンだ。

 年間を通じて多彩なアクティビティが揃うリゾートだが、ゴンドラから楽しめる360度の紅葉パノラマは秋にしか見られない特別な景色。山肌を覆う赤や黄のグラデーション、一度は眺めてみたい。

湖と山が描く紅葉のグラデーションが美しい「モン・オーフォード国立公園」

森の中に佇むモダンキャビン(ケベック州・ラシーン)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin
森の中に佇むモダンキャビン(ケベック州・ラシーン)。写真提供:ケベック州政府観光局 © GouvQc / Olivier Langevin

 モン・オーフォード国立公園は、イースタン・タウンシップス地域に位置し、モントリオールから車で約90分。スキーリゾートとしても知られる山岳エリアだが、秋には紅葉の名所としても高い人気を誇る。

 標高差のある山肌に沿って広がる針葉樹と落葉樹が複雑な色彩を描き、湖や森林と交じり合う風景が特徴。元々は狩猟の地だったが、現在では62のスキーコースと18の林間ルート、ゴンドラも完備され、四季を楽しめるリゾート地として世界的に人気だという。山頂には5つの展望台に加えてハイキングコースもあり、頂上から紅葉の絶景を楽しめる。

 公園から車で約30分南下するとメンフレマゴグ湖の西岸に建つ「サン=ベノワ=デュ=ラック修道院」がある。1912年に創設されたベネディクト会の修道院で、グレゴリオ聖歌や個性的な建築で知られる。

 さらに、秋の一大イベント「ラ・フランベ・デ・クルール」は、モン・オーフォード国立公園とモン・オーフォードのスキーリゾート一帯を舞台に開催される。期間中の週末にはさまざまなイベントが行われ、モン・オーフォードの麓にあるテラスでは、シードルやチーズといった地元の味を楽しめるフードトラックが並び、音楽パフォーマンスも披露される。開催期間は9月12日から10月13日まで。

 Bonjour Québecでは、紅葉の進み具合を確認できるインタラクティブマップも提供している。https://www.bonjourquebec.com/en/explore/seasons/fall

(取材 田上麻里亜)

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カナダで変わる「働く」のかたち パソナが見た10年の雇用変化

左から、パソナ・カナダの和田文枝さん、水野あおいさん、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ
左から、パソナ・カナダの和田文枝さん、水野あおいさん、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ

 カナダに進出する日系企業の雇用環境はこの10年で大きな変化を遂げたという。現地採用の増加、多様化する人材ニーズなど、企業の採用活動はより複雑化している。

 1992年、オンタリオ州トロント市のダウンタウンに設立されたPasona Canada, Inc.(パソナ・カナダ)は、同州を中心に日系企業と現地人材の橋渡しを担いながら、こうした変化を最前線で見てきた。

 今回は、オンタリオ州での日系企業の雇用の現状と背景を聞いた。

現地人材を活用する企業が多数派に

「パソナグループの価値観を大切に(求職者を)支援しています」と語る、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ
「パソナグループの価値観を大切に(求職者を)支援しています」と語る、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ

 「現在では現地で人材を確保しようとする動きが主流になっています」と話すのはパソナ・カナダ社長ジョイ・ヘイウッドさん。 実際にパソナ・カナダが支援する求職者のうち約半数は日本人だが、残りの半数はカナダ人や他国出身の移民が占めており、「この10年で登録者の層は非常に多様化しました」と語る。

 ヘイウッドさんは、このような人材の広がりについて、多文化社会のカナダならではの特徴ではないかとも説明する。また「世界中から来る求職者のスキルや価値観に触れることで、私たち自身も常に学びがあります」と話し、人材の多様性がカナダ社会全体の活力にもつながっているという。

求職者側にも求められる、変化への対応

 こうした企業の採用戦略の見直しや北米経済の動向に伴い、求職者自身もキャリアの築き方を再考する動きが広がっている。

 和田文枝さんは、就職戦略を考える上では「どの業界に注目するか、どこに就職の軸を置くかによって求められるスキルが異なる」と語る。全体的な傾向として、カナダではITや医療、サイエンス分野の人材ニーズが依然として高いというが、カナダの日系企業からは、会計、技術営業、通訳、翻訳など、日本語を武器にした職種の需要が高い。

 さらに、近年の移民政策の変更が求職環境に与える影響も無視できない。昨年10月、カナダ政府は2025~2027年の移民レベル計画で、2026年末までに一時滞在者数をカナダの人口の5%まで削減することを発表。その後、留学生と外国人労働者の家族に対するオープンワークパーミット(OWP)の資格変更や、カレッジや大学を卒業した留学生が一定期間カナダで働ける制度「ポストグラデュエーションワークパーミット(PGWP)」の対象プログラムの変更などが進められ、一部の留学生は将来設計の見直しを迫られている可能性もある。

 また和田さんは、約30年前に自身がカナダへ移住した経験と現在を比較しながら、「以前は『海外で働いてみたい』『経験を積みたい』という希望が多かったのですが、最近では『子どもをカナダで育てたい』『ワークライフバランスを求めて移住したい』といった目的が増えているように感じます」と話す。制度面のハードルは以前より高くなっているものの、キャリア志向にとどまらず、家族や暮らしを重視した移住目的が目立ってきたという。

求職者を支える日系コミュニティのつながり

ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)へ参加した時の様子。提供:パソナ・カナダ
ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)へ参加した時の様子。提供:パソナ・カナダ

 こうした状況のなかで、地域のつながりが果たす役割に期待している。ヘイウッドさんは、「バンクーバーに比べれば規模は小さいですが、トロントにも日系コミュニティのつながりがあります」と語る。ゴルフ大会や年末年始の交流会などを通じて、企業や個人が自然に関係を築く機会があるという。

 またパソナの取り組みとしては、ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)など地域団体と連携し、イベント協力や寄付を行っている。「困っている方の相談が、結果的に就労やキャリアの話につながることもあります。そうした部分でもお手伝いができればと思っています」と和田さん。

 2028年には日加修好100周年を迎える。ヘイウッドさんは、「アメリカ依存からの脱却と市場の多角化が進む中で、カナダと日本の関係はさらに深まっていくでしょう」と期待した。

 カナダにおける日系企業の雇用環境は、政策や経済情勢に応じて変化を続けている。パソナ・カナダは、こうした動きに対応しながら、地域団体との連携や生活面の支援にも取り組み、企業と人材の橋渡しを続けている。雇用形態の多様化や移住目的の変化に対応しながら、日系企業の採用活動は今後も変化していくとパソナ・カナダは見ている。

(取材 田上麻里亜)

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岡本フル出場、ライズFCはカルガリーに圧勝 

前にパスを繋ぐ岡本。後ろで立ち上がって見守るのはアンニャ・ハイナー=モラー監督。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today
前にパスを繋ぐ岡本。後ろで立ち上がって見守るのはアンニャ・ハイナー=モラー監督。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today

 NSL(ノーザンスーパーリーグ)のバンクーバー・ライズFCは9月6日、バーナビー市のスワンガード・スタジアムでカルガリー・ワイルドFCと対戦、6-0で圧勝した。

9月6日(スワンガード・スタジアム:3,897人)
バンクーバー・ライズ 6-0 カルガリー・ワイルド

今季2度目の大量6得点、攻撃陣が躍動

 立ち上がりからバンクーバーの攻勢が続いた。14分、デ・フィリッポが左サイドから相手GKにプレッシャーをかけてボールを奪い、そのこぼれ球をラティファ・アブドゥが押し込んでデビュー戦で先制点を挙げた。前半終了間際の49分には、デ・フィリッポがハーフライン付近でパスをカットし、弧を描くロングシュートを見事に決めて追加点。2点リードで折り返し、会場を沸かせた。

後半から冷たい雨に見舞われるも、バンクーバーの猛攻は続いた。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today
後半から冷たい雨に見舞われるも、バンクーバーの猛攻は続いた。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today

 ハーフタイム中に降り始めた雨により後半の開始が遅れたが、バンクーバーの勢いは止まらなかった。52分にはアブドゥがこの日2点目。64分にクイン、71分にマライア・リー、77分にリサ・ペチェルスキーと立て続けに得点し、6点差の大勝となった。

 この日のボール支配率は62%、シュート数でも24対11と上回り、バンクーバーが完勝。岡本祐花は「前半で2点取って折り返せたところが大きかった。後半に4点取れたことはチームとしても勢いがつくいい試合になった」と振り返った。

岡本、右サイドでスペースを作る

 先発メンバーとして右サイドバックでフル出場した岡本は、守備で相手の突破を抑えつつ、攻撃では高い位置を取ってスペースを生かした。今回の試合でチーム2番目となる63本のパスを記録し、ビルドアップの起点として存在感を発揮。監督から「もっとポジショニングをしてボールをつなごう」と指示を受けて臨み、「焦って前に行きすぎず、後ろからビルドアップを意識した」と語った。「少し消極的になってしまったかも」と振り返りながらも、自らシュートを放つ場面もあり、リズムを作った。

 カルガリーとの対戦は初めて。「様子を見ながらだったけど、自分たちがボールを持つ時間も多かったので、楽しみながら落ち着いてできた」と振り返った。

加入2カ月、サッカーもカナダ生活も充実

試合後、笑顔で手を振りファンに応える岡本。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today
試合後、笑顔で手を振りファンに応える岡本。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today

 岡本はチームの雰囲気について、「ミスしてもみんなでカバーし合って声をかけ合える。すごくいい雰囲気の中でできている」と語った。7月に加入してから2カ月余り。生活面については「みんなすごく優しくしてくれて、生活にもサッカーにも慣れてきたかなってところです。今はすごく楽しくやってます」と充実感をのぞかせた。

 ファンの存在については「ファンも増えてすごくうれしい。もう通訳をつけずにやっているので(英語がまだ)全然分からないけど、とりあえず笑顔でやっています」と笑い、試合後も最後までファンの声援に応えていた。

「勝つことが大前提」首位トロントとの直接対決へ

 バンクーバーは、NSL首位のAFCトロントに勝ち点で6点差をつけられているものの、勝ち点32で2位を維持。AFCトロント(38点)との直接対決は9月13日、トロント市ヨーク・ライオンズ・スタジアムで行われる。AFCトロントには木﨑あおいが所属している。

試合後のインタビューで今後の意気込みについて語る岡本。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today
試合後のインタビューで今後の意気込みについて語る岡本。2025年9月6日、バーナビー市スワンガード・スタジアム。Photo by Koichi Saito/japan Canada Today

 岡本は「首位のトロントとやるので勝つことが大前提。ここまで負けなしできているので、しっかり勝って次のホームゲームにつなげたい」と意気込みを語った。

 続く9月20日はホーム最終戦となるオタワ・ラピッドFC戦。その後アウェー戦が続き、プレーオフに臨む。

バンクーバー・ライズの今季ホームゲームhttps://www.vanrisefc.com/

9月20日(土)1pm オタワ・ラピッドFC戦

(取材 田上麻里亜/写真 斉藤光一)

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