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152認知症と感染症対策

ガーリック康子

 新型コロナウイルス感染症は、最初の症例が確認されてから、既に1年以上が経ちました。しかし、その流行は衰えを知らず、最近では、世界各地で、より感染力が強いとされる「変異株」による症例も確認されています。このような状況下で、認知症の方を介護している家族は、新型コロナウイルス感染症対策でどのようなことに気をつければいいのでしょう。

 認知症の方は、高齢である傾向が高いことから、基礎疾患があることが多く、特に認知症の症状が進んでいると、日常生活での自己管理が難しいため、感染すると重症化しやすいと言われています。周りの人が、石鹸を使った手洗いやアルコールによる手指消毒、マスクの着用などをサポートする必要があります。また、感染の症状でもある発熱、呼吸困難、強いだるさ、味覚や嗅覚の変化などを自覚しにくい上、その症状を訴えることができないことも多く、周りの人が気付かないうちに、重症化する可能性があります。 いつもと比べて、食欲がない、元気がない、ぼーっとしている、イライラしている、落ち着きがないなどの変化を見逃さないように、周りの人が注意する必要があります。

 新型コロナウイルスへの感染を心配するあまり、全く外出しなくなった方もいるようです。一日中ぼーっとテレビを見て過ごすような生活を送っていると、認知症の進行を早めてしまう可能性があります。認知症の進行を遅らせる方法は様々ですが、家族以外の人と関われる社会活動を継続することは、その重要な方法のひとつです。また、家にこもりすぎないようにするためだけでなく、認知症でも体が元気な方が体力を維持するためにも、適度な運動をすることも、進行を遅らせるには大切なことです。密集、密閉、密接の「三密」を避け、転倒することのないように、近所を散歩するなど、継続して行うことが大切です。

 外出の機会が減ると、日常生活のリズムが崩れ、認知症の周辺症状である意欲の低下、妄想、暴言などが出てくることがあります。できるだけいつも通りの生活を継続し、症状を抑えることが重要ですが、感染症の流行で、通っていたデイサービスが利用できなくなったり、介護施設のプログラムが中止になったりと、以前と同じ生活のリズムを維持することが難しい場合もあります。それでも、十分な感染予防対策を取った上で、状況が許す限り、 デイサービスやデイケアの通所を続けることが望ましいとされています。ただし、現在、カナダでは、ビデオ通信プラットフォームを利用して、オンラインで継続しているサービスもありますが、通所で行うサービスの多くは行われていません。

 認知症の症状ではありませんが、感染予防のために奨励されているマスクを長時間着用していると、マスクの中の湿度が上がり、喉の渇きを感じ辛くなります。また、マスクを着用することで、体内に熱がこもりやすくなることから、特に気温が高くなる季節には、熱中症に注意が必要です。認知症のある方は、体調の悪さだけでなく、自分の欲求を上手く表現できないことも多く、喉の渇きを訴えることができません。脱水症状にならないようにするためにも、周囲の人がこまめに水分補給を手伝うことも大切です。

 新型コロナウイルス感染症が流行している状況下で、色々な制限事項があり、特に持病もなく、体が元気な人でも、肉体的にも精神的にも何かしらの負担を感じているはずです。特に、認知症の方を介護している家族には、なおさら大きな負担がかかっているでしょう。介護について困った時には、ひとりで、または家族だけで抱え込まず、医療機関や地域の相談機関などの専門家に相談し、支援を得ることで、認知症の方の介護が滞らずにすみます。くれぐれも、介護する側が体調を崩さないように、心がけてください。

 感染症の流行が終息するまで、まだしばらくかかりそうです。 私たちにできることは、「ウイルスを渡さない、ウイルスを受け取らない」こと。つまり、身体的距離の確保、マスク着用、手洗い。これが、新型コロナウイルス感染予防の「基本の基」です。医療機関を訪れると必ず尋ねられる感染症の症状も、随時チェックしましょう。

 長い長いコロナのトンネル。 とにかく今は、歩き続けるしかありません。

151 番外編その2

「もし、母が生きていたら」

ガーリック康子

 ただいま〜、と実家の玄関を開けると、何かおかしいのです。三和土(たたき)を上がり、仏壇にお参りするために母の部屋に入り、呆然としました。敷かれている布団はどう見ても万年床。読みかけの新聞や雑誌、縫いかけの洋服や、ゴミ箱から溢れるゴミ。 廊下のスペースには、いろいろな物が雑然と積み上げられています。用を足しにお手洗いに入ると、明らかにしばらく掃除をしていない様子です。

 母はいつも通り、夕飯の支度をしてくれていましたが、やはり何かがしっくりきません。料理の内容もさるとことながら、台所が、今まで見たことのないような状態なのです。流しには、どこから手をつけていいかわからないほど洗い物がたまり、ゴミ出しもしていないようです。やかんや鍋には焦がした跡があります。翌日から家中の掃除や片付けを始めると、さらにたくさんの変化に驚かされることになります。そして、私が違和感を感じた大小のいろいろな変化は、後に認知症の診断に繋がるきっかけになるのです。

 遡れば、もう10年前。東北地方太平洋沖地震の影響で、関東地方でも公共交通手段が全面ストップ。立ち往生した帰宅難民が溢れたため、公共施設や大学などが、一時避難所としその門戸を開放しました。都内のJR駅構内で足止めを食った母は、たまたま、通っていた習い事から帰る途中でした。タクシーがなかなか拾えず、かと言って、杖を必要とする母が東京近郊の自宅まで歩いて帰るわけにもいかず、都内の大学の講堂で一夜を明かしました。その間、日本の家族は、母と全く連絡が取れませんでした。同じように大学に避難していた方の携帯電話から自宅に連絡が入った後、母がようやくタクシーで帰宅したのは、翌日の夕方近くでした。

 私は、その年の暮れにかけて、震災後の母の様子を見に行くために、日本への一時帰国を予定していました。ところが、カナダの身内に不幸が続き、やむなく延期することになります。そして、翌年の春に、大きく変わってしまった母の生活の様子と母自身の姿を目の当たりにするのです。

 母は、身の安全を心配したのか、何十年も続けていたその習い事をやめていました。いつも楽しみにしていた展覧会や、少し足を伸ばしてショッピングに行くこともなくなり、外出する機会がめっきり減っていました。生活全般にやる気がなくなったように見受けられました。この後、しばらくして、母は、アルツハイマー型認知症と診断されます。その当時は、前年に予定通り一時帰国ができていれば、何かが変わっていたのかと自問自答することもありました。しかし、時間をかけて進行し、前兆が見られてから本格的な症状が出るまで20年ほどかかると言われているアルツハイマー型認知症の特徴を考えると、もし一年早くても、予後は変わらなかったでしょう。本人にしかわからない症状は、きっとそのずっと前から出ていたはずです。ただ、地震の直後に経験した一連の出来事が、認知症の症状が急に進行する引き金になったのではないかと今でも思っています。

 その後、母が亡くなるまで、年に2回の私の日本への一時帰国は続き、帰る度に母の症状は進んでいきました。ほとんど毎年、何かしらの理由で入院し、一時帰国する度に病院に面会に行っていたような気がします。結局、最後は、内臓の病気があることがわかってから転院した病院の療養病棟で亡くなりました。死亡の知らせを受け、一番早く発てる飛行機で実家に戻ると、見る影もなく痩せ衰え、元気な頃のひと回りもふた回りも小さくなった母が待っていました。

 今、新型コロナウイルス感染症が大流行する中、介護施設や医療施設でのクラスター感染の末、亡くなる高齢者のニュースを耳にする度、もし、母がまだ生きていたらと考えます。母は、認知症と診断されてから、週6日、朝夕の送り迎えのマイクロバスに乗り、デイサービスに通っていました。シルバーカーを使いながらまだひとりで歩けた頃は、散歩がてら、一緒に買い物にも行っていました。入院していた時は、家族と時間を調整し、毎日、面会に行き、面会時間ギリギリまで母と過ごしました。しかし、すべて、病院や介護施設での面会制限がなく、自由に飛行機に乗り、公共交通機関を使い、一時帰国ができてのことです。もちろん、現在のように、到着後14日間の待機宿泊や自己隔離の必要もありません。

 家族が面会することができないまま、入院中の身内が亡くなるかもしれない。想像するだけで不安になります。新型コロナウイルス感染症で亡くなった場合、通常通りの葬儀は行えないでしょう。故人を自宅に連れて帰ることはおそらく無理でしょう。死因が感染症でなくとも、大人数が集まって行う葬儀は、感染リスクを考えると、行わない選択肢を選ぶしかないかもしれません。状況を受け入れるしかないことは頭ではわかりますが、気持ちは複雑です。

 あの頃は、もっと会いに行ければと思っていました。でも今は、その頻度は少なくても、母に会いに行けてよかったと心から思います。そして、予防接種が安全に行き渡り、感染しても軽症ですむ日が来ることを望んで止みません。

150 番外編その1

ガーリック康子

 遅ればせながら、明けましておめでとうございます。あっという間に年が明け、去年の今頃とは180度変わってしまった新しい年が始まりました。しばらくご無沙汰してしまいましたが、お元気でしたか。

 2020年の年明けと前後して、世界的に「新型コロナウイルス(国際正式名称:COVID-19)」による感染症の蔓延が始まり、1月末には、世界保健機構(WHO)が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。その後、世界各地で流行は加速し、3月11 日には、同機構からメディアに向けて、「新型コロナウイルスの世界流行(パンデミック)」の宣言が発表されました。1918年から1919年にかけて世界的に大流行し、通称「スペイン風邪」と呼ばれた「H1NI亜型インフルエンザ」以来の、ウイルス性感染症の大流行と言われています。

 その後、各国で渡航制限や入国制限の措置が取られ、国外在住の永住者や国民の帰国ラッシュで、国境周辺や空港は俄かに慌ただしくなりました。国際規模の催しに始まり、各国であらゆるイベントや集会が延期および中止になりました。7月に開催が予定されていた東京オリンピックも、1年後に延期となりました。カナダでは、新型コロナウイルス感染症の蔓延を防ぐため、不要不急の海外渡航の自粛が呼びかけられ、必要に迫られて海外に渡航する場合は、戻ってから、14日間の自己隔離期間を外出せずに過ごさなくてはなりません。一部の州では州間の移動も制限されるようになりました。

 海外、国内の旅行が制限されることにより、ホスピタリティー産業の中でも、旅行業、宿泊業、運輸業などが大きな影響を受けています。また、外出自粛の影響により、外食産業でも、収入が激減し、倒産を免れない店舗が増えています。エンターテイメント業界では、三密(密集・密閉・密接)を避ける必要から、映画館やコンサート会場、スポーツ施設などでの集客が望めず、関連する様々な業種の人たちの一時解雇や失業に繋がっています。

 このように日常生活が大きく変化する中、マスク着用が生活の一部となり、どこへ行っても人との距離を保つことが求められ、手洗いやアルコール消毒が欠かせなくなりました。特に、認知症を含め、基礎疾患や特別な病気のある人は、感染予防のための注意が必要となりました。

 通常、認知症の症状は、薬による治療やある程度の活動的な生活を維持することで、改善したり進行を抑えたりすることができます。ところが、新型コロナウイルス感染症の流行による外出自粛で、身体的活動、知的活動、社会的活動の機会が大幅に減ったため、認知機能や生活機能が低下するとともに、ストレスや不安感が増し、認知機能を低下させるだけでなく、もともと出ていた意欲の低下、妄想、暴言・暴力などの認知症の行動・心理症状を悪化させ、家族やその他の介護者への大きな負担に繋がります。

 一般的に、認知症の方は、感染予防の自己管理が困難なうえ、新型コロナウイルスに感染した場合、発熱、呼吸困難、嗅覚や味覚の低下などの症状を自覚しにくいことがわかっています。周囲の人たちが、食欲が落ちた、ぼーっとしている、元気がないなど、いつもと違う症状に早めに気付くことが大切です。認知症の方は、糖尿病、腎臓病、心臓病などの基礎疾患を持っていることも多く、ウイルスに感染すると重症化しやすい傾向があるため、周囲の人の協力による感染予防の徹底が求められます。他にも、感染予防のため、デイサービス、訪問介護、訪問リハビリなどの介護サービスの変更や中断、入所していた介護施設のサービスが大きく変わることで、生活のリズムが崩れてしまい、それがストレスの原因となる場合もあります。

 また、現状では難しくもありますが、認知症の方にとって、感染予防に注意を払いながらサービスを継続し、できるだけ今まで通りの生活を続けることも重要とされています。三密(密集・密閉・密接)を避けながら、散歩に出かけるなど、適度な運動することも大切です。ただし、運動の機会が減り、転びやすくなっている恐れがあるため、杖やウォーカーなどの歩行補助器具を使い、転倒予防に注意を払いながら行う必要があります。

 誰もがストレスを感じる状況下で、認知症の方本人や、認知症の方の生活を支える家族には、これまでにない苦労や心労があることでしょう。新型コロナウイルス感染症の蔓延を一日も早く終息させるためにも、認知症の方やその家族、サービスを提供する介護者だけでなく、生活に関わるすべての人の協力が必要です。

 当たり前と考えていた生活が一変した2020年。2021年を迎えても、我慢の日々はまだまだ続きそうです。今はとにかく耐え凌ぐのみ。明けない夜はないことを信じて、乗り越えていきましょう。

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