木々の緑が眩しく、バンクーバーはいよいよ美しさが増してきました。今回ご紹介するのは、これからの季節にぴったりな『Mile End Kicks』(チャンドラー・レバック監督)。おしゃれで音楽シーンも活発なモントリオールに移住した夏を舞台に描く、20代女性の成長物語です。今大注目のカナダ人女性監督が、前作『I Like Movies』に続き、若い世代の揺れ動く自己形成とカルチャーとの距離感を優しく描きます。2025年のトロント国際映画祭(TIFF)で注目を集めた作品が、やっと劇場公開を迎えました。
あらすじ

主人公は24歳の音楽ライター、グレース・パイン。彼女はトロントで音楽批評の仕事をしながらも、「もっと刺激的な場所に行けば人生は変わる」という若者特有の幻想に突き動かされ、モントリオールへの移住を決めます。アラニス・モリセットの名盤『Jagged Little Pill』についての本を書くという、構想だけは立派な計画を掲げながら、実際にはインディーロックバンドの面々と出会い、曖昧な人間関係と不安定な生活に巻き込まれ自分を見失っていきます。
レバック監督の前作『I like movies』が大好きで、楽しみだったこの作品。今回も「若いオタク気質の主人公が、カルチャーの世界で自分の居場所を探す」という構造や、「未熟な主人公が小さな失敗を繰り返す痛々しさ」を、かなり正面から描いている点が前作と共通しています。
前作と大きく異なるのは、今回は主人公が、男性中心の音楽批評業界で成功しようともがく若い女性である点です。レバック監督はトロント国際映画祭で上演された際に「自分の若い頃の体験を元に作った」と話しており、「実は『I like movies』よりも前から構想があり、ずっと作りたかった作品」とその思い入れも語っていました。なので男性中心のカルチャー空間にいる若い女性への、見えない圧力や無意識の偏見などはレヴァック自身の経験も反映されているのでは、と思われます。

この作品の魅力は、何よりも主人公グレースの危うさにあります。彼女は才能も観察力もあるのに、目の前の承認欲求や一時的な恋愛感情に振り回され、しばしば自分を傷つける選択をしてしまう。その姿は観客にとって時に苛立たしくもあるけれど、同時に驚くほどリアルです。若さとは、必ずしも正しい判断ができることではなく、間違いながらも進むしかない時間なのだなと、思わずにはいられません。若い人ならきっと共感できるでしょうし、そうでない人にとっては失敗ばかりした若い頃を振り返る、ほろ苦くも大切な思い出を見つめ直すような感覚になるのでは。
一方で、彼女を取り巻く男性キャラクターたちは皆、やや単純化されて描かれているような気がして少し残念でした。意図的に(?)グレースの見る眼のなさを際立たせる役回りなんでしょうか、男性陣とのやり取りが若干退屈になっていた感も。その対比なのかルームメイトのマデレーンは、とても魅力的な人物なんですけどね。
新しい街で、キャリアも恋愛も失敗を繰り返しながら成長してゆく女性の物語。(同じ国ですが)カルチャーショック的な面も描かれているので、留学生の方には自分の経験と重なるところが見つかるかも知れません。そして・・・『I like movies』を観た方は、アイゼア君もあのローレンスが大人になったような役で出ているのでお楽しみに!
この映画の公開と同時に、Netflixではレバック監督作の「Roommates」の配信も始まりました。こちらも、イケてない女の子の成長を描いた作品で、北米の大学生活が垣間見れる楽しい一本です。カナダ出身のレバック監督。これからも、どんな作品を作ってくれるのか楽しみです。


Lalaのシネマワールド
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バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライターLalaさんによる映画に関するコラム。
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Lala(らら)
バンクーバー在住の映画・ドラマ好きライター
大好きな映画を観るためには広いカナダの西から東まで出かけます
良いストーリーには世界を豊にるす力があると信じてます
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