「今は、早めに準備という時代」と語るのは、Visa JP Canada Immigration Consulting Co代表の白石有紀さん。2024年以降、カナダへの移民、就労、ビザの厳格化が進んでいる。日本人留学生や移住を目指す人にとって、従来以上に計画的な準備が求められる時代に入った。
こうしたカナダの移民、制度変更の背景や今後予測される動きについて、白石さんに話を聞いた。
移民政策の転換と背景
カナダの制度が変化した大きな要因のひとつは、新型コロナウイルスによるパンデミックだ。2020年以降、新型コロナ禍において国境が実質的に閉ざされ、カナダ国外に出られなくなった留学生が国内にとどまった。政府はそういった留学生を救済するため、在留延長や永住権取得を後押しする政策を次々と実施し、結果的に外国人の数が急増した。
しかしその後、以前から問題となっていた住宅不足や家賃高騰に追い打ちをかける形で社会資源への負担が一層深刻化したため、政府は2024年以降、移民の質を確保すること、そして住宅や医療などの社会資源への圧迫を和らげることなどを目的に、留学生の受け入れ数に上限を設ける新たな規制を導入。具体的には、これまで制限のなかった学生ビザの発給数を2024年は485,000件に、2025年は437,000件に減らすなどの対応をとった。学生ビザの発給数は2026年も25年水準を維持する方針だ。
白石さんは、今回の変化はいきなり厳しくなったわけではなく、新型コロナで膨らみすぎた分を調整し、以前の水準に戻そうとする流れだと説明する。その上で、かつてはカナダに渡航すれば何とかなると考えられていたが、現在はそうした状況ではなく、計画性を前提とする方向へ移行していると指摘する。
学生ビザとPGWPの厳格化
では、近年ビザや制度でどのような変化があったのか。
学生ビザは、従来に比べてビザの申請理由やキャリア計画を具体的に示すことが求められるようになった。「なぜカナダで学ぶのか」「卒業後どのようにキャリアを築くのか」「就学後に帰国するか」といった説明が求められ、形式的な書類提出だけでは認められにくいという。さらに、審査期間の長期化により早めの準備が欠かせなくなっている。
ポストグラデュエーション・ワーク・パーミット(PGWP)にも大きな変更が加わった。昨年秋からは英語試験スコアの提出が必須となり、今年には対象となるプログラムもカナダ国内で需要の高い職種に直結するものに見直された。白石さんは「今後も需要の高い仕事の変化に応じてPGWPの条件は更新される。学校選びの段階から(PGWPの)対象かどうかを確認することが非常に重要」と強調する。
こうした制度変更の影響は、日本人留学生だけではなくカナダの教育現場にも及んでいる。カナダ人学生よりも高い授業料を支払う留学生の減少により、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州では、バンクーバー・コミュニティ・カレッジやクワントレン・ポリテクニック大学、ランガラ・カレッジで教員削減が相次いでいる。ランガラ・カレッジは、2023年秋と比べて留学生が2,400人減少、69のポジションを削減したことを認めた。私立のカレッジでは公立以上に強い打撃を受けているという。
ワーキングホリデー制度の変化
日本人のワーキングホリデービザ(International Experience Canada: IEC)は、2025年4月から12カ月のビザを2回まで取得可能となった。日本がカナダ人の利用率が低いことから受け入れ条件を緩和したため、その結果、カナダでも相互主義の原則により日本人の滞在を2年に延長した。
ただし年間枠は変わらず6,500人のため競争率は上昇。これまでよりも早く申請枠がなくなり、翌年に持ち越される人も増えていくと予想されている。2024年枠のワーホリビザは10月21日に申請を実質的に終了したが、今年2025年枠は8月上旬の時点ですでに実質終了となった。
さらにカナダ国内の失業率上昇により、現地での仕事確保は容易ではない。白石さんは「渡航前から就職戦略を立てておくことが大切です」と指摘する。
永住権取得の厳格化と2026年への動き
永住権(PR)を目指す場合の難易度も高まっている。BC州の州ノミネーションプログラム(PNP)では、2025年の新規申請枠は前年に比べて半減したうえ、2024年分の審査が滞っていることなどを理由に、申請対象者がごく一部の医療従事者に限定された。
また、かつては申請書を提出した順番に審査が進められていたが、現在はそうではない。白石さんによると、今は政府が優先して受け入れたい人材がいれば、申請順にかかわらずその人物が先に審査される仕組みに変わっているという。
カナダ政府が優遇する人材も変化してきており、かつて有利とされたIT分野は近年リストから外れ、一方で今年新たに教育職従事者の分野が優遇対象となった。これは、AIに代替されにくい職種とも関連しているという。
白石さんは、「よくある失敗は、とりあえず学校に行けばPRにつながると思ってしまうこと」と話し、実際にはどのプログラムならPGWPが出るのか、どの職種が永住権取得につながりやすいのかを逆算することが大切だと指摘する。
その上で、「情報が多い時代だからこそ、誤情報に惑わされず信頼できる情報源を選び、早めに準備を始めることが重要です。『行けばどうにかなる』時代ではありません」と強調、制度変更や社会の動向を踏まえた準備の重要性を呼びかけた。
Visa JP Canada Immigration Consulting Inc.

人材カナダの移民コンサルティング部門として2006年に設立された後、2009年に独立部門として誕生。その後、2016年からは独立法人Yuki Shiraishi Immigration Consulting Inc.の下で現在の経営形態を取り、カナダへの移民、就労、各種ビザのコンサルティングを提供している。https://visajpcanada.com/
(取材 田上麻里亜)
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