終活は新しい大人のマナー
叶多範子
8月。まだまだ日差しは強いのに、朝夕に少しだけ秋の気配が混じるのが、バンクーバーらしいなと感じています。皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
「終活って、まず何から始めたらいいの?」そんな質問を受けたとき、私はよくこう答えます。
海外在住なら、ほぼ間違いなく遺言作成を検討すること。
そして、エンディングノートを書いておくこと!と。
そう言うと、よくあるリアクションは——
「遺言、、、でも作るの高そう」
「遺言だけでノートはいらないのでは?」
あるいはノーリアクション(心の声が“はい、はい、そのうちね…”)
そんな風に思っている方に向けて、今回は「お金」の視点から、サクッと違いと必要性をお伝えします。
法的な効力があるのは「遺言」
遺言(Will)は、法律にのっとって書かれた法的効力のある文書です。亡くなったあと、裁判所の手続きを経て、正式に執行されます。
一方、エンディングノートは、気持ちや希望を書き留めておく自由形式のノート。法的効力はありませんが、自分らしさや思いを伝える手段としてとても有効です。
そして何より、これからの人生をより豊かに生きるための道しるべにもなります。ノートを書くことで、自分の気持ちや考えが整理され、「これからどう生きたいか」に目を向けるきっかけにもなります。
誰かのために、ではなく、これからの「わたしのために」書くノート。
そんな風にとらえると、少しハードルが下がるかもしれません。
「ノートは必要ない」と思ったあなたへ
実は、北米で作成される遺言は、日本のように資産をひとつひとつ書き出すのではなく、「自分名義の遺産があれば、配偶者に100%。もし配偶者がいなければ、子どもに等分して渡す」といったように、配分を指定するスタイルが一般的です。
「じゃあ、日本みたいに財産の目録をつけておけばいいのでは?」そう思う方もいるかもしれません。
でも実際には、資産の内容は変わるもの。そのたびに遺言を更新するのは、費用も手間もかかるのが現実です。
その点、エンディングノートなら、自分で資産の内容を書き出すことができ、いつでも書き直せるので、家族にも渡しやすい。「今ある資産の全体像」を整理して伝える手段として、ぴったりなんです。
北米でよくある「うっかり財産」の行方
北米では、遺言に記載されていなかった口座や保険・投資などの資産が、 誰にも気づかれずに放置されると、一定期間後に州政府に没収される仕組みがあります。
これを「エスキート(escheat)」と言います。
たとえば、亡くなった方の証券口座に5,000ドル残っていたとしても、家族がその存在を知らなければ、将来的には州の財産として引き取られてしまうのです。
つまり、遺言にもノートにも書かれていない資産は、存在しないも同然になってしまう可能性があるということ。
日本でも毎年「行き場を失った財産」が国庫に
こうした現象は、実は日本でも起きています。
2022年度には約768億円だったのが、さらに32%も増え、23年度には約1015億円もの相続財産が誰にも相続されないまま、国庫に納められたと報告されています。(出典:2025/2/9 日本経済新聞)
「家族に残したつもりの財産」が、準備不足で「なかったこと」になってしまう。それって、ちょっと悔しいし、こんなことなら、ケチケチせずに使っておけばよかった〜!ってなりかねません。
今日のまとめ
・遺言は、法的な「指示書」
・エンディングノートは、気持ちと情報を伝える「連絡帳」
・どちらも揃えてこそ、あなたの大切な「お金」と「思い」がきちんと届きます。
「いつか」じゃなくて、「今」のあなたにしか書けないことがあります。未来の家族を守るノートは、実は“いまの自分”を整えるノートでもあるのです。
書いたその日から、心がふっと軽くなる。そんな感覚を、ぜひ味わってみてください。
Let’s 海外終活!!
あなたの心に、ひとつでも多くの「安心」を。
次回は「作るの高そう…でも放置のほうが高くつく!? 遺言とノートの“本当の価値”とは」をお届けします。どうぞお楽しみに!
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本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。
叶多範子(かなだ・のりこ)
グローバルライフデザイナー/海外終活アドバイザー
カナダ・バンクーバー在住。
カナダで親しい友人を突然亡くしたことをきっかけに、終活の大切さを実感。
相続専門の弁護士アシスタントとしての経験をもとに、海外を含むさまざまな場所で暮らす日本人の終活を、学びの視点から支えている。
エンディングノートの活用や家族との対話を通じて、「自分らしくこれからを生きる」ヒントを共有する活動を続けている。
「終活」を、これからの人生を見つめ直す機会ととらえる——そんな“私活(わたしかつ)”という考え方も、大切にしている。
家族は、カナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。
ホームページ:https://www.shukatsu.ca