終活は新しい大人のマナー
叶多範子
夏の陽ざしが少しずつ力を増し、バンクーバーにも季節の移ろいが感じられるようになってきました。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。わが家ではこの夏も、野球一色の日々が続いています。
私には高校生の息子が2人います。長男はこの6月に卒業したばかりですが、どちらも小さい頃から野球を続けていて、春から夏にかけては家族総出で練習や試合に帯同するのが毎年恒例です。
先日は、長男の高校最後のトーナメントが、バンクーバーから約350キロ離れた町・カムループスで開催されました。
準決勝までギリギリ勝ち上がったチームが、なんと、まさかの優勝!
最終回、1点ビハインドのまま迎えた攻撃で同点に追いつき、2アウトからのサヨナラ勝ち。スタンドの歓声がグラウンドに響き渡る、劇的な幕切れとなりました。
……が、実は私、その感動の瞬間、タイミング悪く外野席の奥のトイレに向かって歩いておりまして(笑)かろうじて遠目でホームへの滑り込みだけは撮影できたものの、歓喜に沸く選手たちの姿は見逃してしまいました。
そんな3泊4日の滞在中、ある方から一通のメッセージが届きました。「今、日本で“終活”をテーマにしたドラマが放送されているんですよ」と、関連ニュースや写真とともに教えてくださったのです。
そのドラマの原作は漫画なのですが、実は私、その作品を数年前に、友人のご主人からプレゼントしていただいたことがありました。「終活の話だから、のりこさんの役に立つと思って」と、友人を通じて贈ってくださったものです。
その時のやさしさや、背中をぽんと押してくれるような思いが、メッセージを読んだ瞬間によみがえってきました。
何年も経ってからでも思い出してもらえること、そして「きっと喜ぶだろうな」と誰かが自分のことを思ってくれること。それだけで、胸がじんわりとあたたかくなります。
私は今も、弁護士アシスタントとして、遺言や委任状などに関する仕事に携わっています。そして、終活アドバイザーとして開催するセミナーでは、「貴重な情報が得られた」「気づきをありがとう」といった感謝の言葉をいただくこともあります。
でも、そこからすぐに“行動”へと移す方は、実はそれほど多くありません。
どれだけ言葉を尽くしても、どんなに丁寧に伝えても――
動かない人は、やっぱり動かない。
そしてそのまま、家族やまわりの人を、争いや混乱の渦に巻き込んでしまうのです。
何度も、もどかしさに押しつぶされそうになりました。
「私のやっていることは無意味なのでは?」「もう、やめてしまおうか」――
そう思ったことも、一度や二度ではありません。
それでも、こうしてさりげなく応援してくださる方がいて、「ちゃんと届いているよ」と知らせてくれる人がいる。その存在があるからこそ、私は今日も、こうして続けていられるのだと思います。
日々、家族を応援する立場にいる私自身が、実は見えないところでそっと応援されていた―― そのことに、ふと気づかされた出来事でした。
派手な言葉や大きな拍手でなくても、小さなエールは、確かに人の心をあたためてくれるもの。それもまた、人生を大切に生きていく上での、大切な力のひとつなのかもしれません。
……そんなことを、トイレへ急ぎ足で向かう途中に、ふと感じた夏の一日でした。
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本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。
叶多範子(かなだ・のりこ)
グローバルライフデザイナー/海外終活アドバイザー
カナダ・バンクーバー在住。
カナダで親しい友人を突然亡くしたことをきっかけに、終活の大切さを実感。
相続専門の弁護士アシスタントとしての経験をもとに、海外を含むさまざまな場所で暮らす日本人の終活を、学びの視点から支えている。
エンディングノートの活用や家族との対話を通じて、「自分らしくこれからを生きる」ヒントを共有する活動を続けている。
「終活」を、これからの人生を見つめ直す機会ととらえる——そんな“私活(わたしかつ)”という考え方も、大切にしている。
家族は、カナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。
ホームページ:https://www.shukatsu.ca