カナダ日系文化会館JERFから東北3大学に各1000万円寄付

高円宮妃久子さま(前列中央)を囲んで記念撮影。後列はこの日の式典に参加した基金の支援を受けた元学生たち。2025年5月22日、東京。撮影 三島直美/日加トゥデイ
高円宮妃久子さま(前列中央)を囲んで記念撮影。後列はこの日の式典に参加した基金の支援を受けた元学生たち。2025年5月22日、東京。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 カナダ日系文化会館(JCCC)は2011年に起きた東日本大震災で被災した東北3県の3大学に各1000万円(約10万ドル)を寄付した。5月22日には東京の在日カナダ大使館で贈呈式が行われた。式には高円宮妃久子さまも出席され、カナダからの迅速で多大な援助に改めて感謝の言葉を述べ、奨学金を受けた学生が夫(故高円宮)がそうであったようにカナダを第2の故郷のように思ってくれることを願っていると語った。

 JCCC Foundationは2011年の震災直後、甚大な被害を受けた東北地方の被災者を支援するため、カナダ人からの寄付を募る「東日本大震災救援基金(JERF: Japan Earthquake Relief Fund)」を設立した。きっかけは被災地を支援したいという想像を超えるカナダの人々からの声だった。集まった寄付金は、高等教育を続けるために経済的支援を必要としている東北の学生を支援するために使うことに決定。募金は約160万ドルに上った。JERFは、赤十字に10万ドル、福島県、宮城県、岩手県に高校までの生徒のために各10万ドルを寄付、加えて、大学生を対象にした奨学金に充てた。合計で1,179,679ドルがこれまでに使用された。

 奨学金は、東北大学、岩手県立大学、福島県立医科大学で、医療や福祉関係を目指す大学学部生・大学院生を対象とし、2012年からこれまでに63人(162件)が支援(65,587,104円)を受けた。

JERFを代表してあいさつするクリスティン・ナカムラさん。2025年5月22日、東京。撮影 三島直美/日加トゥデイ
JERFを代表してあいさつするクリスティン・ナカムラさん。2025年5月22日、東京。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 しかし、JERF代表のクリスティン・ナカムラさんは、「震災から14年が経過し、基金はその目的を果たしたと判断したため、理事会は経済的支援を必要とし、カナダと何らかの関係がある学業のために利用してもらえればと、残りの基金を3大学に同額ずつ寄付することを決定した」と今回の寄付について説明した。

被災経験を基に地元で市民を支えられる人に

 この日は、これまでに基金の支援を受けたことがあり、現在はそれぞれの分野で活躍している元学生たちが多く出席、その中から6人が代表でスピーチした。

 震災当時、小学生から大学生だったという6人は、それぞれに震災の被害や家族を失った悲しみなどを語った。いつまでも続くのではないかと思われる地震にこの上ない恐怖を感じたこと、被災し、仮設住宅での生活を余儀なくされ、ストレスで不登校になったこと、持病を持つ家族を抱え心身ともに疲れ切っていたこと、恐怖と不安で震えていた避難所生活で看護師にかけてもらった言葉に勇気をもらったことなど、それぞれの10代の体験を話した。

 その中で、被害に遭った人たちを救いたいと医療や福祉の勉強をすることを決意したものの、さまざまな事情から大学や大学院への進学をあきらめかけた時に基金の支援はとても心強くうれしかったとそれぞれに感謝した。

 最後に語った福島県立医科大学耳鼻咽喉科学講座専攻医の斉藤杏さんは唯一英語でスピーチ。「カナダの皆さんに感謝を伝えるのに相手の言葉を使って話したかったから」と言う。「カナダに行ったことがないだけでなく飛行機にすら乗ったことがないが、英語でスピーチしようとチャレンジした」と笑顔を見せた。中学校の卒業式当日に地震に遭い、自宅は全壊。それでもこの経験があったから医療の道に進んで地元福島で医療に携わりたかったと語る。そして「いつかカナダの人々から受けた親切に恩返ししたい」と感謝した。

 式典を終え、ナカムラさんは「皆さんのスピーチを聞いて、また昔のことを思い出して涙が出ました」と話す。式典の様子はビデオ録画していて、トロントで関係者に見せるという。震災当時はJCCCに「なにか支援できることはないか」と多くの電話が掛かってきたため基金を作って支援することになったと振り返る。「支援が皆さんの役に立ったという話を聞いて感動しました。本当に支援をして良かったなって思います」と笑った。

(取材 三島直美)

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