池田学 北米初大規模個展 “Flowers from the Wreckage” 後編「バンクーバーの出会いから続く挑戦」

Manabu Ikeda, 誕生 Rebirth, 2013–2016 pen, acrylic ink, and transparent watercolour on paper, mounted on board 300 × 400 cm Collection of Saga Prefectural Art Museum, Saga, Japan Digital Archive by Toppan Printing Co., Ltd
Manabu Ikeda, 誕生 Rebirth, 2013–2016 pen, acrylic ink, and transparent watercolour on paper, mounted on board 300 × 400 cm Collection of Saga Prefectural Art Museum, Saga, Japan Digital Archive by Toppan Printing Co., Ltd

バンクーバーでの出会い

 池田さんとカナダ、バンクーバーの繋がりは2011年に遡る。当時の出会いが、新型コロナウイルス禍での度重なる延期や困難を乗り越えた今回の大規模個展につながっている。

 池田さんは佐賀県多久市出身。東京藝術大学美術学部デザイン科の卒業制作の「巌ノ王 King of Rocks」(1998)で、その緻密なペン画の高い技術と独創性が評価された。

 2011年1月から文化庁芸術家在外研修員としてカナダ・バンクーバーに滞在。滞在を始めて間もない3月11日東日本大震災が起こる。当時出会ったのが、オデイン美術館の創立者である唐沢良子さんとウエストバンクーバー・アートミュージアムの渡邉きりこさんだ。

 1年間の研修を終えた池田さんは、「震災からの復興がテーマになる次回作を日本と距離がある場所からの視点で描きたい」とバンクーバーでの滞在を延長する。その後、カナダ・バンフで見た氷河が溶けて湖に流れ込む光景が原発のメルトダウンに重なって着想を得た作品が「Meltdown」だ。

Manabu Ikeda, Meltdown, 2013 pen and acrylic ink on paper, mounted on board 122 × 122 cm Chazen Museum of Art, University of Wisconsin–Madison Colonel Rex W. and Maxine Schuster Radsch Endowment Fund purchase, 2013.24
Manabu Ikeda, Meltdown, 2013 pen and acrylic ink on paper, mounted on board 122 × 122 cm Chazen Museum of Art, University of Wisconsin–Madison Colonel Rex W. and Maxine Schuster Radsch Endowment Fund purchase, 2013.24

 2013年、ウエストバンクーバー・アートミュージアムで「Meltdown」と版画数点を特別展示した。同年アメリカ・ウィスコンシン州マディソンのチェゼン美術館から3年間のアーティストインレジデンスとして招聘された池田さんは、すでに構想を練っていた「誕生 Rebirth」の制作を始めた。当時「東日本大震災のニュースを2011年研修先のバンクーバーで見て、この衝撃と自分の中での描かなきゃいけないという使命感みたいなものをどこで描くかと探していた。大きいものに挑戦してみたいと思っていた」と語っている。

 構想から2年、制作3年半をかけて、チェゼン美術館で制作された3mx4mの大作「Rebirth  誕生」は、2017年日本初の大展覧会「The Pen -凝縮の宇宙-」で展示されて話題を集めた。日本国内で30万人の集客を記録した。

 チェゼン美術館での3年間のレジデンスを終え、池田さんはマディソンに家族と居を構えた。2018年にオープンして数年のオデイン美術館を訪れた池田さんは、森と共生するような美術館に「ここで創作できたらどんなにすばらしいか」と話した。その後、渡邉さんがキュレーターとしてオデイン美術館に新たに加わり、唐沢さんや関係者と共にコロナ禍を乗り越えて、今回オデイン美術館で初めての国際的な大規模個展が実現した。

激賞される代表作の数々 

Manabu Ikeda, 予兆 Foretoken, 2008 pen and acrylic ink on paper, mounted on board 190 × 340 cm Collection of Sustainable Investor Co., Ltd. (Kagura Salon) Photo: Yasuhide Kuge
Manabu Ikeda, 予兆 Foretoken, 2008 pen and acrylic ink on paper, mounted on board 190 × 340 cm Collection of Sustainable Investor Co., Ltd. (Kagura Salon) Photo: Yasuhide Kuge

 世界各国から集められた国際的に評価の高い池田さんの代表作60数点は圧巻だ。

 「Everything Everywhere All at Once」で今年のオスカーを席巻した映画監督ダニエル・クワン氏が、自身のツイッターで、「脚本を書き始めて2年が経ち、私が脚本に圧倒され、これほど大きなことに取り組もうとするのは無価値で愚かだと感じていたときに、この絵は道しるべとなる光となった」と激賞したのが、池田さんの代表作の一つで今回展示されている「予兆 Foretoken」(2008)。

 全体の下絵を描かず、パーツを積み上げていく手法で描かれた「予兆 Foretoken」。池田さんはまず雪を描き始めたが、1年描き続けて、雪や氷、建物や車などが大きなうねりの中で塊となって押し寄せてくる「津波」のイメージに変化した。奇しくも、数年後の東日本大震災の津波を「予兆」する作品として、震災直後は日本での展示が控えられることもあったそうだ。

 今回個展のポスターにも使われている「誕生 Rebirth」には、桜の大木が描かれていたり、「予兆 Foretoken」の大波に見られる浮世絵「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」など日本を象徴するイメージも印象的だ。

稀有な体験〜観る、知る、体験する

Manabu Ikeda, くさかまきり Grass Mantis, 2004 pen and acrylic ink on paper 23 × 29 cm Chazen Museum of Art, University of Wisconsin–Madison John H. Van Vleck Endowment Fund purchase, 2013.25 Photo: Kei Miyajima
Manabu Ikeda, くさかまきり Grass Mantis, 2004 pen and acrylic ink on paper 23 × 29 cm Chazen Museum of Art, University of Wisconsin–Madison John H. Van Vleck Endowment Fund purchase, 2013.25 Photo: Kei Miyajima

 展示には佐賀県で育った幼少期に描いたカブトムシなどのスケッチや漫画、オウム真理教地下鉄サリン事件で裁判が多く行われた1998年ごろ法廷画家として裁判の様子を描いた作品もあり、池田さんの観察眼とデッサン力、想像力を培った時代を垣間見ることができる。

 スタジオでは、特定の時間に池田さんの創作を見学できる。会場を訪れる人は、アーティストの創造の場に立ち会う稀有な体験もできる。

 さらには、池田さんのワークショップ、日本食とのコラボレーションイベントも企画されている。

 池田さんの作品は災害など重い内容を含んでいても、全体的には明るくポジティブな印象が強い。

 「子どもたちや見る人に災害のメッセージを届けつつ、発見してもらったり、楽しんでもらいたくて描いている。その気持ちを忘れないよう、楽しく描くようにしている」 自らの技法でこの世界でどこまで行けるか挑戦したい、と池田さんはまっすぐな目で語った。

池田学 北米初大規模個展 “Flowers from the Wreckage” 前編「ウィスラーマウンテンから新たな海へ」

池田学「Flowers from the Wreckage」

開催期間:2023年10月9日まで 
場所:Audain Art Museum(4350 Blackcomb Way, Whistler, British Columbia)
ウェブサイト: https://audainartmuseum.com/

(取材 大倉野昌子)

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