「カナダと日本は力強いパートナー」 在広島カナダ名誉領事 石田優子氏インタビュー(後編)

在広島カナダ名誉領事に就任した広島経済大学・石田優子学長。広島経済大学内にある在広島名誉領事館で。写真提供:広島経済大学
在広島カナダ名誉領事に就任した広島経済大学・石田優子学長。広島経済大学内にある在広島名誉領事館で。写真提供:広島経済大学

 在広島カナダ名誉領事に広島経済大学・石田優子学長が就任した。

 広島出身として、大学学長として、そして、名誉領事として、G7は石田氏にどのように映ったのか?5月31日、広島市内で話を聞いた。

 前編では、広島で開催された先進7カ国首脳会議(G7サミット)について、カナダ名誉領事としての役割が加わった立場での思いを紹介した。後編は、大学学長として、そして、カナダとの関係についての率直な気持ちを打ち明けた。

広島G7で思う「心が動いてくれればいいと思います」在広島カナダ名誉領事 石田優子氏インタビュー(前編)

若者たちには広島から「復興する力」を伝えてほしい

 広島経済大学は市街地の平和公園から車で北に約30分、武田山のふもとにある。大学からは市街地とその向こうに広がる瀬戸内海が見渡せる。石田氏が学長に就任したのは2021年4月1日。それまで10年以上副学長を務め、学生の成長を見守り続けている。また今でも教壇にも立つ。

 そんな石田氏に今回の地元で開催されたG7を見て若者たちに何を感じてもらいたかったと聞くと「対話の重要性」と返ってきた。今回はG7以外にも、韓国、インド、ベトナムなどの首脳が広島に来た。特に注目を集めたのはウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領の電撃訪問。広島で、日本やカナダ、G7の首脳とだけでなくインドの首相とも会談した。広島で多くの首脳が対話を持ったことの意味を感じ取ってもらいたいという。対話をするにはまず知ることから始まるとも。

 各国リーダーに被ばく体験を証言した小倉桂子さんがNHKのインタビュー(5月25日NHKウェブサイト掲載)の中で「知るということが一番最初の平和運動、戦争を止めさせるための。それが今回だと思うんですよね」と語っていることに共感するという。

 「広島では日常的に地元メディアなどを通して平和が語られます。被爆者の声を聞く機会も多いし、広島出身者であれば身内に被爆者がいる場合も少なくありません。そんな広島だからこそ、まっすぐに発信できることがあると思うんです」。抑止力はもちろん理解できるが「(核兵器の)ない世界がいい、と主張できるのは広島、長崎だけだと思うんです」。若者たちには相手の主張にも耳を傾けながら、そうした自分たちの主張も発信してもらいたいと言う。

 そしてもう一つは「復興する力」を伝えてほしいと語る。「ゼレンスキー大統領もその点に強い関心を持ったと報道で聞きました。本学も原爆で多くの関係者の命、校舎や備品を失いましたが、(1945年)9月15日には再開しました。焦土からの復興は、広島が伝えられる、人間の強さ、希望のメッセージだと思います」と語る。

 広島経済大学を運営する学校法人石田学園は創立116年。広島での原爆被害を経験している。だからこそ「復興する力」の大切さがわかるという。

 「学生自身にも、人間力を備えた、たくましい人になってほしいと思っています。本学の人材育成目標は “『ゼロから立ち上げる』興動人”です」

 若者の発信力に期待する。「知識や共感は、人々の行動をシフトさせると考えています。多様な時代を生きる若者にとって、他の人を理解すること、そして、自分自身を理解することはとても重要です。それぞれの国、それぞれの人たちの立場も考えも多様で、そうした中、自分たちの主張をしながら、相手の主張も受け入れる。難しいですけど、多様性に関心を持ち、世界に目を向けて、対話をしながらお互いの理解に努め、夢とポジティブさを持って未来を作ってほしいと思っています」

カナダと日本は力強いパートナー

 今回のG7は石田氏にとって地元広島で開催されたというだけでなく、カナダ名誉領事というこれまでとは違う角度から国際関係を見る機会となった。

 「ゼレンスキー大統領の訪日には驚きましたが、改めて、法による世界秩序という足元が揺れていることを考えさせられました」。若者を社会に送り出す大学の学長という立場からも、世界情勢の動きには敏感になる。

 今、世界はインド太平洋地域を巡って大きなうねりが起きている。カナダと日本は政治的にこれまで以上に強力な関係を築き、今回のG7でもトルドー首相と岸田首相が会談を行い、改めて協力を確認した。

 「カナダと日本は太平洋地域の安全に協力できると同時に、価値観を共有できる力強いパートナーだと感じています」と石田氏。

 一方で、政治、経済、軍事だけではなく、カナダと日本は以前から留学やJETプログラムなどの若者の交流や姉妹都市提携など文化的な交流も深い。石田氏も大学としても「カナダとの交流を深めたい」と模索中だ。

 「トルドー首相が広島滞在中に『日本や広島の食材を使ったホテルの食事がおいしかったのでシェフと話をしたい』と言って料理人らと写真撮影をしたほど喜んだと聞きました。多忙なスケジュールの中、広島滞在を楽しい思い出としても記憶していただけたらうれしいですね」と、さまざまな場面で日加の交流があればうれしいと笑顔を見せた。

石田優子(いしだ・ゆうこ)
学校法人石田学園副理事長・広島経済大学学長
2022年11月2日より在広島カナダ名誉領事

石田学園は1907年創立、1945年8月6日の原爆投下により学園の全校舎、付属建物、備品の全てを焼失、9月15日には仮校舎で授業再開(広島経済大学沿革より)
1967年広島市安佐南区祇園に広島経済大学創設。卒業生には福岡ソフトバンクホークス柳田悠岐選手がいる
在広島カナダ名誉領事館は2022年12月1日に広島経済大学内図書館にオープンした

(取材 三島直美)

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