第133回 隣組と「プリズマテック」コーラス

~グランマのひとりごと~

 許 澄子

 誰一人知る人の居ない「隣組」へ、今日は一人で行った。理由は11時半に行けば美味しいランチが安く食べられる。
 そして、コーラスグループ「プリズマテック」の日本の歌、コーラスが聞けるという嬉しい話だったからだ。

 最近「セレンディピティ」と言う言葉を知った。つまりセレンディピティ(英語: serendipity)とは、素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること。また、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものを偶然見つけること。平たく言うと、「ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取ることである」。そして、気が付くとグランマは今日、また自分の生活に「セレンディピティ」を実感することになったのだ。

 隣組に到着すると入り口にデスクがあり、係員から机上の紙に名前を書くように言われ「許澄子」と書いた。そしたら、私の名前を知っている人が、背後から親切に声をかけてくれた。その人の優しさで「ああ、来てよかった」という気持ちと知らない場所へ来た不安感は無くなった。
 彼女に教えられ目前のオフィスで食券を買う。7ドル50セントだ。小さな食券をもらい、それを持って廊下へ行った。するとすぐ右側に広い部屋があり、その室内に幾つかテーブルを囲んで、数人が談笑していた。どこにどう座ったら良いかわからず、部屋の入り口にぼけーッと立つ私の所へ、背の高いマスクをつけた若者が来て、目前のテーブルを動かし、次に2つ椅子を並べ、私を座らせてくれた。そして、マスクで顔は半分見えないが目がニコニコ、その青年が自分はボランティア、名前はカワイ ツヨシさんと言った。なんと食事の時間まで、何もわからずボケーッとしているこの老婆の話し相手になってくれたのだった。後で、気が付いた時、彼はキッチンで仕事をしていた。

 私は彼に自己紹介で新報に「グランマのひとりごと」を書いている許澄子です。というとiPhoneでパッと調べて、アレー、「チェコとソロバキア」と言った。私が書いて掲載された、先回の原稿の事だった。そして、彼が近く仕事で「ソロバキア」に3週間ほど行くのだと言った。そして、話題は約30年前、このグランマが行った「ソロバキア」の話をし、また、彼が近年行ったソロバキアの見事な教会の写真なども見せてくれた。私が行ったソロバキアは1994年チェコと別れて独立したばかりの共産主義政治の生活様式が残っている貧しい国だったが、今日、見た彼の写真ではあのコンクリートでべったり塗りつぶされていた教会が、すっかり見違えるように美しい姿で生き生きと映っていた。

 やがて食事が始まった。知らない人ばかり、でも皆、笑顔の人ばかりだ。バンクーバーに住んで44年、一体このグランマ何をやっていたのだろうか?こんな素敵な場所を知らずに生きていたのだよねぇ。

 食事は御汁に白飯、ゴボウ、ニンジン、卵焼き、白たき等色々な煮物が出た。
 目の前にキッチンで働いていた若者達が並んで食事が始まった。話はしなかったが笑顔がたまらなく優しい人達だった。
 私は隣席の私より幾らかお若い女性と夢中でお喋りし、楽しかったぁ。そして、又約40年ほど前に日本航空で働いた時、一緒だった女性ハイジさんと再会したのだ。よく覚えていて下さったと先ず感謝した。彼女が再来週の金曜日に又隣組へ来るかもしれないという。それでは私も行ってみようと心に決めた。「プリズマテック」のコーラスも日本の懐かしい曲が一杯で、嬉しかった。彼らは私の80歳のゴルフ場でやった誕生会にもいらして、歌って下さったことがある。なんて美しい声なのだろう。ピアノ伴奏も又素晴らしい。
 受付の方、事務局の方、帰る時「さよなら」を言いに来てくださったカワイさん、一緒に話をして下さった「スキ ワダ」さん、キッチンで皿洗いして下さる方、皆さん本当に有難う。

 何時か私も「皿洗いくらいお手伝いできるようになりたい」としみじみ思いながら帰宅した。

 隣組の事は色々聞いたり読んだりしているが、日常の諸事に追われ、積極的に訪ねることはなかった。初回でこんなに素晴らしい体験ができた。私のような他人と話す機会が少ない人に、ぜひお勧めしたい「憩いの場所」が此処バンクーバーにあった。
 それが、隣組なのだよねぇ。

 「セレンディピティ」かぁ、ふとした偶然をきっかけに、幸運をつかみ取るのだよね。
 過去は活かす 未来は創る 今は楽しむだよね。

 「人とのつながりが人の心を支える」