第68回 カナダの国技、ホッケー業界の醜聞

 世界人口の性比を調べてみると、不思議と言うか、当たり前と言うか、その比率はおおよそ1対1である。であるならば、単純に考えると世の中は男女平等なはず・・・。と思いたいのだが、社会的地位、職業選択の自由、支払われる賃金等など多くの点が、どうも男に有利なことの方が多い。

 よく言われる「ガラスの天井」(本人の資質や成果に関係なく推進を妨げる見えない障壁)を実感するのは、やはり女性やマイノリティが多数を占めているのが現実である。

スポーツの世界

 昔のスポーツ界では「女性ご法度」と言われていた競技が多かった。その最たるものがホッケー、ボクシング、ラグビー、サッカーなどであったが、最近はそうしたスポーツに挑む女性選手が続々と登場している。もちろん体力からみて、彼らがミングルして競うことは無理なため男女は別々のチームを組むものの、スポーツウーマンたちへの壁が低くなり、まことは歓迎すべき傾向である。

 ところが今カナダでは、そうした屈強で猛々しい男のスポーツ選手たちが、あちらこちらで性的暴行事件を起こしている事が社会的に大きな問題になっている。中でも4年ほど前にオンタリオ州ロンドン市で開かれたホッケー選手たちが集まってのチャリティー・ゴルフ大会後に、8人もの選手がお酒で酩酊した某女性を襲った事件は大変な醜聞として語られている。女性は損害賠償されたものの、選手たちは何の罪状も咎めもなく幹部たちは見て見ぬ振りを通して来た。 

 だがこれはほんの氷山の一角で、ホッケー業界ばかりではないと聞く。男性のスポーツ界では以前から問題視されている恥ずべき不祥事なのだが、ここに来てやっと社会問題として大きく採り上げられてきたのである。

 先日はトルドー首相が「こうした悪しき傾向を根底から変え、関係者やプレーする子供たちを守らなければならない。それには想像を絶する程の改革が必要だ」との記者会見を行った。“プレーする子供たち”と加えたのは、運動能力に優れ将来性のある子供のプレーヤーにも、性的被害が及んでいることを示唆しているのである。

 今後は自由党内で組織された“スポーツ界における虐待調査委員会”が先頭に立ち、調査を進めていくと言うが、厳しく推進して行くことを望みたい。

映画/政治の世界

 約10年前になるだろうか。ハリウッド映画界の大御所ハーヴェイ・ワインスタインが数十年に渡って女優たちに行っていたセクハラを、NYタイムズ紙が告発記事として書いたことで明るみに出た事件。これが先駆けになり“#Me Too”運動が大きなうねりへと発展した。

 こうした事件は犠牲者が女性ばかりとは限らない。「立場の強い側が当然の権利のごとく、あるいは無自覚にハラスメントを行う。一方、弱い側は、仕事を降ろされることや、無視されたり、悪評をたてられたりすることなどへの恐怖心から、拒否も抵抗もできず泣き寝入りを強いられる」とある評論家は言う。

 まさにその通りであるが、日本では政治の世界でこうした事件が多発していると言われる。つまり男が大多数を占める政治家たちのインナーサークルの中に、女性がアクセスするのは容易ではないのだ。また票獲得と引き換えに、セクハラをする地方の議員や有力者たちがいることも問題視されている。

 今は広く知られるようになった世界経済フォーラムが発表する「ジェンダーギャップ」での日本の地位は、156カ国中120位(21年3月)で、当然ながらG7の中では最下位である。少しでも女性の数を増やし「ガラスの天井」を失くすことが、男性優位の偏った判断を減少させる道に繋がるのではなかろうか。

サンダース宮松敬子 
カナダに移住してもう何年になるだろう。指一本を10年と数えると、かろうじてまだ片手で済むが、その年月は我が人生の半分以上になる。世間に発表する物書き業を始めて30数年。世の流れに目を凝らすと「That’s not fair!」と義憤を感じる事が多く私を奮い立たせる。そんな自分の感性を頼りに原稿を書き続けている。
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