「こころの健康を保つために―自分でできることと相談機関」~S.U.C.C.E.S.S.

 「こころの健康」は、人がいきいきと自分らしく生きるために重要で、生活の質にも大きく影響する。

 S.U.C.C.E.S.S.リッチモンド移民定住支援プログラムでは、「こころの健康」を理解して、自分でできることと助けが必要なときを見極めることが大切と、1月24日、午前10時から11時半まで、日本語による無料ZOOMワークショップを開催。精神科医の杉浦留奈さんと、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州認定クリニカル・ソーシャル・ワーカーのアンダーソン佐久間雅子さんを講師に、21人が参加した。その概要を紹介する。

脳のしくみ

 杉浦留奈さんは、かつて精神医療は観念的な視点から、つまり「こころ」を扱うものと捉えられていたが、近年は脳科学の発達で、「脳」の話として捉えることに変わってきたと説明を始めた。

 脳神経細胞は約千億個あり、それらが脳内のすみずみまで走り、さまざまな情報を伝達している。

 「扁桃体」は感情や情緒をつかさどる器官、「海馬」は記憶をつかさどる器官だ。この隣接する2つの器官は相互影響し、扁桃体の感情は海馬に作用して記憶の形成に影響し、逆に過去の記憶が現在の体験の情緒に影響する。

不安障害の症状と原因

 不安障害の一つに「高所恐怖症」がある。高い場所で、そのときの体調によりめまいやふらつきが起こった過去の経験と記憶から、その後も体調が悪くないのに高い場所に不安や恐怖を感じ、身体症状が出る。これは、恐怖の記憶が扁桃体に異常な興奮を起こし、生体防御反応として交感神経が過活性するためである。

 不安障害の身体症状には、胃腸の不調、睡眠リズムの乱れ、手足の冷感、過呼吸、ふらつき、動悸、のどのつまり感などがある。

うつの症状と原因

 不安を放置しておくと、うつへと発展する可能性がある。症状が2週間以上続くと、うつ病と診断される。

 精神症状としては、元気が出ない、イライラする、痴呆のように見えるなどがある。

 身体症状としては、体重増加・減少、身体痛の悪化、めまい、吐き気、便秘・下痢などがある。

 うつ病へ進むまでに起こる心身の不調を黄信号とみて、その点滅に早目に気付くことが大切である。この黄信号には、ちょっとした食行動異常をはじめ、メールの返信がおっくうになったり、突然不機嫌になったりと、人それぞれ特有のパターンがあり、また自分の苦手な季節や時期もあるので知っておくとよい。

 うつ病の原因として次の2つが挙げられる。

 ①ストレスホルモン増加により前頭葉の血流が減少し、扁桃体が過剰に活動する一方、海馬が委縮。

 ②脳内神経伝達物質セロトニンの減少。

セロトニンの活性化と、自分でできること

曇りの日でも、外でのウォーキングはセロトニン活性化に役立つ 。©The Vancouver Shinpo
曇りの日でも、外でのウォーキングはセロトニン活性化に役立つ 。©The Vancouver Shinpo

 セロトニンで神経が活性化すると、最適な覚醒レベル、精神安定、自律神経の安定、よい姿勢や顔つきの保持、痛みの調整、睡眠向上、食欲コントロール、記憶力改善につながる。

 セロトニンの活性化には、ウォーキング、咀嚼(そしゃく)、呼吸法などのリズム運動、日光浴、トリプトファンやビタミンB6を含む食事が大事である。

 また、セロトニンは夕方以降は眠りのホルモンのメラトニンになるため、良眠にはセロトニン活性は欠かせない。バンクーバー周辺では、秋、冬には雨や曇りの日が多いが、それでも外に出ることはセロトニン活性化に役立つと杉浦さんは勧める。 

こころの病相談機関

 うつを含めたこころの病に関し、BC州にはどういう相談機関があるのだろうか。講師のアンダーソン佐久間雅子さんは次の5つを解説した。

1.ファミリードクター(Family Doctor):適切な治療や専門家を紹介。適切な治療方針の勧め。治療費はMSPでカバー。

2.精神科医(Psychiatrist):ファミリードクターからの紹介が必要。病気の診断と治療。薬物治療中心。MSPでカバー。

3.心理カウンセラー(Counsellor/Psychologist/Clinical Social Workersなど):心理学、カウンセリング、ソーシャルワークなどの学位を持ち、BC州のライセンスを取得している。適切なカウンセリング技法を使い治療。MSPではカバーされない。

4.メンタルヘルスセンター(Mental Health Centre):Health Authorityにより各地域に設置されている。誰でも相談できる。MSPでカバー。Japanese pleaseと言えば日本語での対応が可能。

5.病院(Acute Care Hospital) :重篤な精神病により日常生活に支障があったり、本人あるいは他人の安全性が危ぶまれた場合にERに行き相談する。ERドクターの診断に基づき、精神科医の診察の必要性や入院の必要性が決定される。

 この他にも、心の健康を保つために役立つ3つの項目が紹介された。

1.心地よい程度の社会とのつながり。

2.楽しめる趣味や、日常生活に織り込める運動など。

3.セルフ・マネージメント・プログラム:

Self-Management BC  https://selfmanagementbc.ca/

・Bounce Back BC  https://bouncebackbc.ca/

Anxiety Canada  https://www.anxietycanada.com/

 最後に質問コーナーが設けられ、夫がうつ病になったのではないかと心配する家族の対応について説明があり、講師の二人が「周囲とのコミュニケーションや見守り、医療機関に相談することが大切」と呼びかけた。

(取材 高橋 文)

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