173 「フレイル」の負のサイクル

~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 2022年1月。新型コロナウイルス感染症の流行が終息しないまま、3回目の新年を迎えました。年末にかけて、新しい変異株、「オミクロン株」の感染が拡大し、しばらく緩和されていた自粛規制が再び強化されました。家族や友人が集う機会の多い年末年始のことで、予定していたクリスマス・パーティを急遽、取り止めたり、同じ場所で集まる代わりに、オンラインで行う選択もあったようです。

 2020年3月の世界保健機構(WHO)による「パンデミック宣言」以降、自粛生活が長期化し、外出の機会はめっきり減りました。家族や友人に会うことも少なくなると同時に、人との会話も少なくなりました。メディアでは、家にいる時間が長くなったために、感染症流行前より食事や間食の量が増え、「コロナ太り」をする人が増えたというニュースも取り上げられています。しかし、反対に、食事の回数が減ったり、粗食ですませてしまうため、「コロナ痩せ」をしたという人もいるようです。特に高齢者の場合、この「コロナ痩せ」が、「フレイル」の状態に繋がります。

 厚生労働省の特別研究班によるフレイルに関する報告書では、「フレイル」とは、「加齢とともに、心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障害され、心身の脆弱化が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態」としています。加齢により心身が衰えた状態のことで、健康な状態と要介護状態の間に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態をさします。ただし、この状態になっても、適当な予防や治療を行えば、要介護状態に進まずにすむ可能性があります。

 ジョンズ・ホプキンス大学の定義によると、「フレイル」の要件のうちの3つ以上に当てはまると、「フレイル」とみなされます。その要件とは、
1)過去1年間に、意図していないのに10ポンド(約4.5キロ)以上、 体重が減った
2)何かの支えなしで立っていられない、または握力が弱くなるなど、体力が落ちた
3)倦怠感があり、何をするにも大変で、週に3日以上はいつも疲れを感じている
4)運動だけではなく、家事や趣味の活動を含む活動量が減った
5)歩く速度が遅くなり、15フィート(約4.6メートル)を歩くのに、6秒から7秒以上かかる
の5項目です。

 「フレイル」の状態になると、「サルコペニア」の発症に繋がる可能性も増します。人間の筋肉量増加のピークは20歳前後で、40歳を過ぎると、筋肉量が徐々に減少し、加齢とともにその速度が早まります。このような、加齢による筋肉量の減少や、それが原因で筋力や身体機能が低下することを「サルコペニア(sarcopenia、加齢性筋肉減少症)」と呼びます。「握力」、「筋肉量」、「歩行速度」を基準に、これらすべてにおいて基準を下回ると、「サルコペニア」と診断されます。

 「フレイル」の状態で運動量が減ると、あまりお腹が空かず、食事も簡単にすませてしまい、「低栄養」になりがちです。「低栄養」になると、筋肉量が減ってきます。筋肉量が減ると筋肉の衰えが進み、バランス能力も低下し、転倒、転落しやすくなります。転倒、転落しやすくなると、骨折や頭部外傷などの頻度が増えます。特に高齢者の骨折は、大腿部が多く、長く安静にしている必要があります。その結果、歩けなくなり、寝たきりになるリスクが高まります。寝たきりになることで、「認知症」が進行するだけでなく、「MCI(軽度認知障害)」から「認知症」に移行したり、 それをきっかけに「認知症」を発症することもあります。また、人間の体の中で最も熱量を生み出す筋肉が減ると、体温が低下します。体温が下がると免疫細胞の働きが鈍くなり、免疫力が低下します。免疫力が下がると、合併症を引き起こしやすくなります。こうして、「フレイル」が健康の負のサイクルを招き、「生活の質」はどんどん落ちていきます。

 加齢よる体の変化を避けて通ることはできません。しかし、「フレイル」は予防できます。適度な運動で全身の筋力を維持し、筋肉のもとになるタンパク質を積極的に摂り、バランスのとれた食事に気を配り、人と話すことを楽しみ、新しいことに挑戦する。これらを意識した生活習慣が、予防の要となります。筋肉や脳は、使わないことには、衰えるいっぽうです。

 感染症を恐れるあまり、必要以上に活動を制限していませんか?

後期高齢者の保険事業の在り方に関する研究(ポイント)
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000125471.pdf

Stay Strong: Four Ways t Beat the Frailty Risks
Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/wellness-and-prevention/stay-strong-four-ways-to-beat-the-frailty-risk

フレイルとは
健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/about.html

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。