DV被害を受けている女性を住宅面で自立支援~YWCAモンローハウス

YWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さんに聞く1

 在バンクーバー日本国総領事館が2017年に開設した「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」を担当しているYWCAの日本語アウトリーチワーカーの加瀬広海さん。

 ホットライン対応に加えて、家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス、以下「DV」)を受けている女性とその家族が、DVから逃れて新たな生活を始めるためのYWCAの住宅モンローハウスで入居者の支援も行っている。

 加瀬さんに、モンローハウスをはじめYWCAが提供するサービス、カナダと日本の離婚に関する法律上の違い、さらにメトロバンクーバーに住む日本人女性を取り巻くDVの状況、ハーグ条約批准後の日本人の母親をめぐる状況などについて聞いた。

 シリーズでその内容を紹介していく。

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 YWCAが運営するモンローハウスは、DVの被害を受けている女性に、DVから逃れて新生活を始めるための生活の場を提供している。不動産価格が高騰し、家賃も高いバンクーバーでは、DVの被害を受けていても家を出て行き場がないことで我慢している女性も多いという。

 モンローハウスは、そのような女性が手頃な家賃で暮らすことができる住居で、YWCAではモンローハウスやそのほかの活動を通してDVの被害を受けている女性が自立するための支援を行っている。

– 今、何人ぐらいの人がモンローハウスで生活しているのでしょう?

 こちらは10室あって、いつも満室状態です。部屋は1ベッドルーム7室、2ベッドルーム2室、3ベッドルームが1室となっています。

– モンローハウスでの入居可能期間について教えてください。どれぐらいの期間、暮らすことができるのでしょうか?

 入居は基本的には1年間までで、状況によっては1年以降3カ月ごとに更新して滞在できます。ただし、最長2年です。2年以上は絶対にいられません。

 家賃はいただきますが生活保護でまかなえる金額なので、手頃な料金設定となっています。または収入の1/3をいただいています。

– DV被害者の中には生活保護の受け方が分からない方もいらっしゃるのでは?

 生活保護の申請もこちらでお手伝いします。

 私の仕事は本当に「何でも屋」で、生活保護の申請からBCハウジングの補助住宅の申請、児童手当の申請、税務署関係…。さすがに所得税については専門家を紹介していますが、リーガルエイドの申請、移民関連の書類準備のお手伝いもします。

 その合間にお部屋の掃除、ベッドを作って次の入居者の受け入れ準備、また食料品などのドネーションを取りに行って、入居者と分けたりもします。

 今はコロナでランチパーティなどできないのですが、以前は住んでいる人たちとランチパーティをして、その際には料理もしました。

– 永住権がない、いわばカナダに不法滞在しているためにDVにあっても通報できない人もいると聞きます。そういう人はどのようなサポートを受けられるのでしょうか?

 カナダに住むステータスのない人、永住権のない人にも部屋を提供しています

 YWCAの住宅部門が決めた規則で、そういう方は入居して9カ月は家賃を払わなくてもよいことになっています。加えて、その9カ月間は毎月200ドルのギフト券をもらうことができます。その間に移民の手続きを済ませていただきます。

 永住権申請のカテゴリーにヒューマニタリアン&コンパッショネート、H&C(Humanitarian and Compassionate Considerations)というものがあります。

 どのカテゴリーにも入らないような人が利用するのですが、通常はH&Cというカテゴリーで移民が出ることは難しいのが現状です。承認される確率はこのカテゴリーでの申請全体の1桁台程度、10%以下です。

 でも、H&Cでの永住権の申請でも、カナダで生まれた子どもがいて、お父さんがカナダ人とか永住権所持者で、子どもに会いたい、子どもと別れるのが嫌だって言ってる、日本に連れて行くなと言ってる、そういう状況にあるというと、承認されて移民になれる可能性が高いです。

 その際には、DVの被害を受けていることもカナダ移民・難民・市民権省における検討条件の一つとなっています。

– モンローハウスは「first come first serve」、先着順で利用できるのでしょうか?

 先着順ではなく、どんなサポートを必要としているかにより入居いただけるかが決まります。サポートの対象となっている人は移民中心…圧倒的に移民が多いです。

 移民はここに家族がいない人も多く、頼る人がいません。さらに永住権やビザの問題がある方もいます。

 法律など、カナダのさまざまなシステムをよく分かっていない人、英語力が十分でない人も多いです。こういう人たちはカナダで生まれて育った人よりもサポートを必要としています。

 ただ、ここはシェルターではないので24時間、週7日スタッフはいません。ですからメンタルヘルスや薬物問題などを抱えている人には対応できません。

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 DVの被害に遭っているからといって、すぐにモンローハウスに入居できるわけではないが、日本語による電話相談サービス「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」で、モンローハウスでDVの被害を受けている女性を支援している加瀬さんに相談することができる。

 「DV日本語ホットライン / YWCA 日本語アウトリーチプログラム」は、在バンクーバー日本国総領事館がYWCAに業務委嘱していて、BC州とユーコン準州に住む日本国籍を有する女性を対象に、無料での相談、関係機関(裁判所、警察、弁護士事務所、法的支援機関、病院、生活保護など)への同行、諸手続きの支援、通訳を受けることができる。

ホットライン:604-209-1808(月~金 午前9時~午後5時、祝祭日を除く)

YWCAの住宅支援(短期)
 DV被害を受けている女性が短期的に暮らすことができるYWCAの住宅。モンローハウスもその一つ。
https://ywcavan.org/programs/short-term-transitional-housing

 申し込みを希望する人は「DV日本語ホットライン/日本語アウトリーチプログラム」に連絡。また、YWCAのシングルマザー用長期補助住宅の申請はオンラインでも可能。
https://ywcavan.org/programs/housing

(取材 西川桂子)