165 「笑い」の効果 その2 

~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 -小学生で300回、20歳の人で20回、70歳になると2回 。男性より女性のほうが、また、若ければ若いほど多い。-

 これは、前回のコラムでも記述した、私たちが一日に平均して笑う回数です。これらの回数を調べ出した「笑い」の研究者で、「日本笑い学会」理事でもある大平先生(福島県立医科大学教授)によると、誰と一緒にいる時によく笑うかを調べると、日本人女性は1位が友達、男性では1位が妻、2位が友達です。さらに、日本人男性の場合、配偶者がいる人といない人では、笑う頻度が倍ほど違うそうです。特に男性は退職後、職場以外の交友関係が少ないせいで孤立しやすいことが、笑わなくなる原因と考えられています。また、加齢とともに笑う機会が減るだけでなく、笑わない人ほど、認知機能が低下してくるということもわかっています。

 「笑い」を増やすには、まず、人付き合いの機会を増やすことです。人と話すことで、笑う機会が増えます。近くに住む気心の知れた友達に会うことや、友達が近くにいなくても、地域のコミュニティーセンターや趣味のサークルに参加して、人と接する機会を増やすことで、話しをし、笑う機会が増やせます。長引くコロナ禍で、実際に会う機会が激減していますが、電話だけでなく、SNSやオンラインでも、楽しく話すことはできます。とは言え、可笑しくもないのにそう簡単には笑えない、と思うのが普通でしょう。

 そこで、もっと手っ取り早く笑う機会を増やし、「笑い」の効果を得る方法があります。それが、「笑いヨガ(ラフター・ヨガ)」です。「笑いヨガ」は、笑いの体操とヨガの呼吸法を合わせた、誰にでもできる健康体操です。考案者は、インド人医師、マダン・カタリア先生。ユーモア、冗談、コメディーを使わずに笑う運動で、世界110ヵ国以上で実践されています。

 この「笑いヨガ」。実は、私も行なっています。「笑いヨガ」との「出会い」は、本当に偶然でした。それはもう10年以上前。子どもたちが通っていた学校のPAC(Parent Advisory Council)の役員をしていた経緯で参加したコンファレンスのワークショップで、アイスブレイカーとして「笑いヨガリーダー」が登場し、笑い始めたのです。はじめは少し戸惑いましたが、30分ほどリーダーの指示通りに笑った後、頬や顎に筋肉の疲れを感じ、普段いかに笑っていないかを痛感しました。同時に、すっきり、晴れ晴れとした気分になったのを覚えています。そして私は、その感覚の虜になり、「笑いヨガ」にはまってしまったのです。(その後間もなく、リーダー養成講座に参加し、公認の「笑いヨガリーダー」となりました。)

 では、なぜ「笑いヨガ」で笑うことに効果があるのでしょうか?

 実は、人間の脳は、可笑しさを感じた時の「笑い」と「作り笑い」との区別がつきません。最初は「作り笑い」でも、笑っているうちに「笑い」がこみ上げてきます。また、周りの人が笑っていると、自分もつられて笑えてきます。笑う動作を繰り返すと、脳が錯覚を起こし、実際に笑った時と同じ作用が体に起きるため、健康上の効果は同じ。「感情」で笑うというより、「行動」として笑う。つまり、可笑しくなくても、「運動」と割り切って笑えば良いのです。

 前述の大平先生は、「笑い」と「認知症」の関係性の研究もされています。その研究によると、「認知症」を発症した後に、脳の細胞が死ぬ、または脳の働きが低下することによって直接的に起こる記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、失語、失行、失認といった認知機能障害などの「中核症状」を「笑い」で改善することは難しいものの、「笑い」によって、不安や不眠、うつ、興奮行動などの「認知症」の「周辺症状」が改善される傾向にあることがわかっています。

 「認知症」はその種類により、ゆっくりと進行し、症状がはっきり現れるまで20年以上かかる場合もあります。周りの人が何かおかしいと気づく頃には、症状はだいぶ進んでおり、薬により進行を遅らせることはできても、脳を「認知症」を発症する前の状態に戻すことはできません。年齢が上がるほど 「認知症」を発症する確率が高まり、笑う機会も減ってきます。その上、笑わない人ほど認知機能は低下していきます。若いうちから予防を初めても、早すぎることはありません。

 最近、お腹の底から笑っていますか?

参考
100年人生レシピ
若い時から笑うことが、認知症予防につながる⁉︎
「笑う」行動と健康の関係性【後編】
https://special.nissay-mirai.jp/jinsei100y/mukiau/ZyrzT

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。