Column お薬の時間ですよ

~お薬の時間ですよ 第104回~

 コロナウイルスの話題を立て続けに書くようになり、1年が経ちました。もう1年?と思うと、本当に長くて不思議な時間でしたね。今回はコロナの話題を離れて、ブリティッシュコロンビア州の公的保険である「BCファーマケア」の話をします。

 全てのBC州民が登録するべき「フェア・ファーマケア(Fair Pharmacare)」の基本的な仕組みについては、このコラムの中で繰り返し説明してきました。

 (過去のコラムを読み逃してしまった方は、どうかご心配なさらずに!2020年1月16日第3号掲載のコラム(第97回今年も続くお薬代のはなし)は、今もオンライン版に掲載されていますので、こちらを参考にしてください。http://www.v-shinpo.com/columns/okusurinojikandesuyo/7209-okusurinojikan-97 

 今回お話したいのは、BCフェア・ファーマケアのシステムの中で、あまり多くの人には知られていない「免責金額を分割払いする方法」で、「Monthly Deductible Payment Option」と呼ばれるものです。

 通常のBCフェア・ファーマケアプランの場合、「各世帯には収入に応じた免責金額(deductible)が設定されています。その免責金額に到達するまでは、お薬代は全額自己負担してください。免責金額到達後の自己負担は3割(1939年以前に生まれた方は2.5割)になりますよ」という仕組みになっています。

 このように薬剤師が説明するのは簡単ですが、患者さんが「免責金額に到達する」というのは実はかなり大変で、収入に対して結構な金額を薬代に費やさないと免責金額に到達しないことが多いのです。

 ですから、「私は年金(Pension)暮らしなのに、そんなに高い薬代を払うことは出来ません!なんとかしてください!」と言われる患者さんは珍しくありません。

 BC州は、収入に対する免責金額の目安を表にしていますので、一度ご覧頂きたいと思いますが、年間の収入が3万ドル以下の場合、免責金額はありません。ところが、このラインを1セントでも超えると650ドルの免責金額が発生し、その額は世帯収入に合わせて上がっていきます。

Fair PharmaCare Assistance Levels – Regular

https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/health-drug-coverage/pharmacare/income_bands_regular_2019.pdf

Fair PharmaCare Assistance Levels – Enhanced

https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/health-drug-coverage/pharmacare/income_bands_enhanced_2019.pdf

 そこで、免責金額の分割払いプランを選ぶと、年の初めであっても自己負担が軽くなるという訳です。 

 以下、BCファーマケアのウェブサイト(https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/health-drug-coverage/pharmacare/fpc04.pdf)で紹介されている例を引用して説明します。 

 ブレンダとジョンの夫婦は年間2200ドルの薬代がかかり、600ドルの免責金額が設定されていると仮定します。

 普通に免責金額を支払った場合、600ドルに達するまでは全額が自己負担になります。これに対して、あらかじめ免責金額の分割払いを選択すると、ブレンダとジョンは毎月50ドルを支払うことで、年の初めから自己負担が3割で済むようになります。分割払いの場合は、薬を購入していない月にも50ドルを支払う必要があります。

 いずれの場合も、世帯最大金額に到達した時点から12月31日までの薬代は全額公費負担となります。

 複数の慢性疾患の治療薬を服用し、年間の薬代が大体予想できている場合、免責金額分割払いは、大きな出費を減らす効果的な方法ですので、どうかご検討ください。

 Health Insurance BC へ電話で申し込みをする必要があり、また今年分に関しては9月30日までに手続きをする必要があります。

From the Lower Mainland 604 683-7151

From the rest of B.C.: 1 800 663-7100

 余談ですが、私の薬局の患者さんで、適切に免責金額分割払いの申請手続きをしたにも関わらず、ファーマケア側の人的なエラーによりプロセスが滞り、薬代が全額自己負担として計算される日が続くという事例がありました。

 薬局としては、毎日のようにコンピューター上でオンライン請求を繰り返し(これを「Rebill」といいます)、同時に患者さんが薬を切らすことのないように1週間分ずつを無償で提供するなどして、免責金額分割払いになるのを待ちました。

 カナダに長くお住まいの方はご存知かと思いますが、政府系機関とのやり取りは時として「我慢くらべ!」になることもありますので、この点を見越して、手続き等は早めに行い、その手続きが完了したかどうかも確認するようにしてください。

佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)
2008年からLondon Drugs(Gibsons)勤務
2011年からバンクーバー新報紙面にてコラム連載開始
2014年から薬局内トラベルクリニック担当
国際渡航医学会医療職認定
2019年から薬局マネージャー