北海道で食品スーパーを営む、ワクワク系マーケティング実践会(このコラムでお伝えしている商売の理論と実践手法を実践する企業とビジネスパーソンの会)会員から、興味深い報告が届いた。それは、誤発注で10倍入荷してしまったカステラを3時間で完売したというものだ。彼はいったいどんな手を使ったのだろうか?

 事の発端はこうだ。1ケース12個入りのカステラを3ケース発注したところ、発注時に「30ケース」と入力してしまったのだろう、入荷したのは30ケース、バックヤードには山積みのケースが。返品もできず、ワクワク系を学ぶ以前なら「どうしよう、どうやって処分しよう」と考えていただろうが、今の自分は違うと店主。「さて、どうやってお客さんに『買う』と動いてもらうか」を考えた。

 そこで使ったのはLINE。そして、フェイスブックにツイッターだ。それらを通じて普段からつながっている顧客にメッセージを発信した。その文章は、「お助けください」のタイトルから始まる、次のようなものだ。「【お助けください】こんにちは、またやってしまいました…。『誤発注』…3ボールとしなければならなかったのに、30ボールと…。朝、来た荷物見て『え???こんなにたくさんどこに使うの???』って妻に聞くと、妻『………(汗)』」そこでお願いです。お助けください。商品は皆さんも知っている〇〇〇(商品名)です。1つでも助けてくれたら嬉しいです」。

 ちなみに、このメッセージには価格も書かれているが、若干お得な価格にはしたものの、激安価格ではなく、しっかり利益も乗っている価格である。叩き売ったわけではない。しかしこれに顧客は反応した。配信直後から購入客が続々来店、結果、30ケース、360個もの商品が、3時間での完売となったのである。

 この結果を生んだ要因は幾つかあるが、まず第1はダイレクトなアプローチだ。大量の商品をただ店頭に並べただけではこの結果はない。POP(店頭販促物)に「助けてください」と書けば、通常よりはよく売れるだろうが、3時間で完売は無理だったろう。LINEなどを通じて顧客に直接アプローチできたこと。これがポイントだ。

 次にメッセージだ。単に商品名と価格に「入荷しました」と書いて送っても、お客さんの心は動かない。「心が動くメッセージは何か」を考えることが重要だ。ちなみにここで、こういう場合「お助けください」と書けば売れるとマニュアル的に覚えてしまうのは、間違いのもとだ。

 そして第3は、あなたにも考えてみてほしい。実は今回、買ってくれたお客さんは、口々にこう言っていた。「助けに来てあげたよ~」。この言動の中に、第3の、そして最も重要な目に見えない要因があるのだが、何だと思うだろうか?

 
小阪裕司(こさか・ゆうじ)
プロフィール 

 山口大学人文学部卒業。1992年「オラクルひと・しくみ研究所」を設立。
 
 人の「感性」と「行動」を軸としたビジネス理論と実践手法を研究・開発し、2000年からその実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在全都道府県(一部海外)から約1500社が参加。

 2011年工学院大学大学院博士後期課程修了、博士(情報学)取得。学術研究と現場実践を合わせ持った独⾃の活動は、多⽅⾯から⾼い評価を得ている。

  「⽇経MJ」(Nikkei Marketing Journal /⽇本経済新聞社発⾏)での540回を超える⼈気コラム『招客招福の法則』をはじめ、連載、執筆多数。著書は、新書・⽂庫化・海外出版含め39冊。

 九州⼤学客員教授、⽇本感性⼯学会理事。