日系ホームと新さくら荘の現状とSend Letters to Seniors~

 カナダで新型コロナウイルスへの感染者、さらには亡くなる人を多数出した高齢者向け施設。高齢者は感染すると重症化のリスクが高いことから、BC州の各保険局ではこれらの施設に対して厳しい規制を行ってきた。

 お年寄りを守るためとはいえ、外出できない、さらに家族にもなかなか会えない、会えてもアクリル板を通してといった状況で、入居者はストレスを抱えていたり、さびしい思いをしているという。

 日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会では、そんな入居者を支えようとウェブサイトを通して「Send Letters to Seniors(シニアに手紙を送ろう)」活動を行っている。日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会の渡瀬容子さんに、Send Letters to Seniorsについて、そして日系ホームと新さくら荘の現状について聞いた。

カードを読む入居者  Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society
カードを読む入居者  Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society

日系ホームと新さくら荘の現状

 「まず最初にコミュニティの皆さんにこの場をお借りしてお手紙のお礼を申し上げます」。渡瀬さんは開口一番にこう言った。

 「1998年にシニアの集合住宅『新さくら荘』、02年にケア付き住宅、日系ホームがオープンしました。オープン以来、長きに渡り活動を支援してくれるボランティアの皆様、報道で一般的な高齢者施設でお年寄りが外出できなくなったりする様子をニュースで見て、入居者のことを心配して連絡をしてきてくださった方、Send Letters to Seniorsのことを知って、問い合わせてくださった方など、多くの皆様に私たちからお返事やお礼をしたかったのですが、新型コロナウィルス予防策に追われ十分に感謝の意をお伝えする余裕がありませんでした。この場をお借りして、皆様に改めましてお礼を申し上げます」

 聞けば、これまでは例えば、30人が一緒にエクササイズしていたのが、感染防止、そしてフィジカルディスタンス確保のため1対1になったりしたという。「一人につき10分間のエクササイズとします。30人なので300分です。これまで30人で30分だったとすると10倍の時間を要することになりました。現在ではもう少し対策が緩和されて3人までのグループ活動を再開しています」

 新型コロナウィルス感染予防対策として個室への食事の配膳、共用部分の頻回消毒と業務量は激増。とにかく日々、懸命に努力を続けてきた。幸いにも現在のところ(9月2日現在)日系ホーム、新さくら荘では新型コロナウイルス感染者は出ていない。

 ようやく7月中旬から8月にかけて、規則緩和により日系ホームの入居者は外出可能となっている。

 この規制が厳しい状況下でも日系コミュニティからの支援があった。一例はちび太鼓だ。

 5月の母の日、6月の父の日に日系ホームで太鼓の演奏をしたときには、施設の中に入ってもらえないので、外でのパフォーマンス。入居者は部屋の中から楽しんだ。

父の日にちび太鼓がパフォーマンスしてくれた。Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society
父の日にちび太鼓がパフォーマンスしてくれた。Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society

 「部屋も廊下をはさんで建物の北側、南側、東側があるので、北向きの部屋の人向きに1回、続いて南向きの部屋の人向きに1回と、合わせて2回のパフォーマンスとなりました。東向きの部屋の方にはアクティビティルームや中庭からの鑑賞を楽しんでもらいました」(渡瀬さん)

 「初夏には男性と女性の二人組がジャズコンサートをしてくれました。これらのミニパフォーマンスは外で行うので、近所の人が見に来たりと、地域の活性化にもなったと思います」

Send Letters to Seniors(シニアに手紙を送ろう)

 新型コロナウィルス対策として、行政からの指針で食事はダイニングルームを閉鎖して、入居者はそれぞれ自室で食事をしていた。面会も制限され、入居者同士の交流も制限された状況で、友人、家族に自由に会えないシニアもいた。そこで入居者を力づけたいと、Send Letters to Seniors(シニアに手紙を送ろう)を始めた。

「これまで約50の手紙やカード、はがきが届きました。送ってくれた皆さんに感謝しています」という渡瀬さんだが、Letters to Seniorsを始めると問題が浮上した。入居者の中には知らない人から手紙が届くと、応援してくれていると説明しても『この人のことは知らない』と読んでくれなかったこともあった。

 そこで今、手紙を書く人には、宛名を「おじいちゃんへ」、「おばあちゃんへ」にしてもらって、自分のこと、自分がどうしているのか、一般的なことを書いてもらうようお願いしているそうだ。また、入居者が散歩する通路にカードを飾ることで、目に入る機会を増やしている。

入居者が散歩する通路にカードを飾る Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society
入居者が散歩する通路にカードを飾る Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society

「英語が苦手であったり、第一言語が英語以外の方は文字を読むのが難しい場合もあります。手紙ではなく、絵画や、ポエム、この夏に体験した写真などもシニアは楽しめると思います」

英語、日本語、絵手紙など、バラエティ豊か。Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society
英語、日本語、カード、絵手紙など、バラエティ豊か。Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society

Send Letters to Seniors(シニアに手紙を送ろう)
送付先 
OFFICE
6680 Southoaks Crescent
Burnaby, BC, V5E 4N3
Canada

注意事項
1.読みやすさ
読むのは高齢者なので、読みやすいよう大きな字ではっきりと書く。
2.宗教の話題は避ける
3.返事は来ないことを了承
一方通行で入居者からの返事は来ないことを了承の上、手紙を送って欲しい。
4.活動を周りに広めるために、 FacebookTwitterInstagram といったSNSで#SendLettersToSeniors と #SendJoyのタグを利用して発信。

読むのは高齢者なので、読みやすいよう大きな字ではっきりと書く Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society
読むのは高齢者なので、読みやすいよう大きな字ではっきりと書く Photo © Nikkei Seniors Health Care and Housing Society

Send Letters to Seniors ウェブサイト http://seniors.nikkeiplace.org/send-letters-to-seniors/

(取材 西川桂子)