絵本作家の田中光さんが今年6月にバンクーバーを訪問。子どもたちを対象としたワークショップを開催した。
2019年に出版した初めての絵本「ぱんつさん」(ポプラ社)が第25回日本絵本賞(全国学校図書館協議会主催)を受賞。その後も数冊を出版している。
絵本作家以外にも、お笑い芸人、ギャク漫画家の顔も持つ田中さんに、バンクーバーで話を聞いた。
バンクーバーでのワークショップ開催
今年6月29日にバンクーバー市で子どもを対象としたワークショップを開催した。田中さんによる絵本の読み聞かせや、テーマを選んで自由に絵を描いて発表してもらうなど、アクティブなイベントとなった。
ワークショップには光浦靖子さんも参加。子どもたちの積極的で自由過ぎる発想に田中さんも感心しきりだった。
ワークショップについて
「カナダに住んでいる子どもたちのテンションだったり、『私もやりたい、私もやりたい』という感じが強かったのにびっくりしました。すごく楽しく良いイベントになったと思います。子どもたちが『なんか作りたい』って言ってくれたので、すごくやって良かったなと思います」
造語をテーマに絵を描く
ワークショップでは、田中さんがあらかじめ用意しておいた「単語」が書かれた紙を2枚選び、紙に書かれた単語を組み合わせて、これまでに聞いたことがない「造語」について子どもたちに絵を描いてもらうという企画があった。「シャイなすいか」「耳があるチョコレート」「すごく長いいちご」などの造語が出来上がり、子どもたち独特の感性でそれを絵で表現する。
造語からインスピレーションを受けて描いた自身の絵を子どもたちに見せる田中光さん(左)、一緒にイベントを盛り上げた光浦靖子さん(中央)、カメラを操作するウィトレッド太朗さん(右)。2025年6月29日、バンクーバー市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
この企画には田中さんなりの理由があった。
「改めてものを見るってことが結構ないと思うんです。例えば「泳ぐリンゴ」という言葉ができたとする。ここで改めてリンゴのことを考える。その時にリンゴの特徴を多分みんな一回頭の中でぐるぐるっと回して、いろんな角度からリンゴを見るんです。赤い、酸っぱい、甘い。過去にリンゴを食べてお腹を壊した子がいたら『お腹を壊した』とか。連想されるものがたくさんあると思うんです。切ってしばらく置いとくとちょっと黒くなっていっちゃうとか。この、リンゴの特徴をいろんな角度から見るっていうことが結構大事だと思っていて。
これって多分将来的に子どもたちが大人になった時も、大人もそうですけど、一つ問題が起こった時に『もうダメや』ってなるんじゃなくて、ちょっと目線をずらして、こう見たら『意外とこうやったらいけるやん』とか、多角的に物を見れるような能力ができたらいいなと思って。一回考えてみようっていう感じにしてるんです。
見たこともない、初めて今日出来上がった言葉『泳ぐリンゴ』を考えてみる。いろんな角度から『泳ぐ』ってことは沈むんかな?リンゴは浮くんかな?塩水やったらちょっと黒くなりにくいんかな?とか。頭の中でそれをいろんな角度から見る。
これは大人も結構いろんなことに応用できることだと思うので、そういう部分ができたらいいなと思ってます」
子どもたちの発想ははるかに自分の想像を超えていたという田中さん。「自由ですよね。カナダの子どもたちはパワフルでしたね。『こんなものの見方してるんや?』とか発見がありました。結構何人かぶっ飛んだ子もいましたよね。おもしろいなと思って。絶対にポテトしか描かない子どもとか(笑)。カナダの子どもたちは『ペンがない』『もっと紙ほしい』みたいな。すっごい前のめりで。『描きたい』『なんか作りたい』っていう気持ちがいっぱいあって、うぁってなってたんで、これはすごく良かったなと思って。そういう衝動が生まれただけでよかった。光浦さん、ありがとうございます!っていう感じでした」
子どもたちに絵を描いてもらう提案は光浦さんからだったという。当初はそれほど積極的に子どもたちに絵を描いてもらう予定ではなかったと話す。最初は田中さんや光浦さんが子どもたちからもらった言葉をヒントに絵を描いて、その子に描いた絵を渡していた。しかし光浦さんから「子どもたちにも描いてもらおう」と会場で提案された。
子どもたちは田中さんや光浦さんがいる場所に近い所で床に座って二人を見ていた。「僕が絵を描いてるところをのぞきに来たり、ちょっかいかけに来てもいいしと思って前に座ってもらいました。多分、いすに1時間もじっと子どもたちは座っていられないと思いましたし」。結果的にそれが子どもたちに絵を描いてもらう提案で生きた。「良いイベントになりました。最初思い描いてた状態とは違いましたけど、それが良かった。色々とこんなやり方もあるんだと思って、めちゃくちゃ勉強になりました」
絵本について
自身の絵本を使って読み聞かせをする田中さん。2025年6月29日、バンクーバー市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
ワークショップの前半では読み聞かせもあった。自身の絵本を画面で見せながら読んでいく。文字が少なく、絵が主体の絵本には想像力がかき立てられるようだ。田中さんは子どもたちに話しかけながら、双方向の読み聞かせとなった。
「僕の絵本は文字が少ないんです。だから『これこうなってて』みたいなコミュニケーションを取りながら、家で読んでいただく場合も一緒に読めるんです。その言葉、そのストーリーに余白があると言いますか、こうなってこうなるっていうのを決めてないので。お父さん、お母さんたちが、好き勝手に物語を足してもいいですし、セリフを勝手に足してもいいですし、そういう余白をちょっと残してるというような感じです。
色々コミュニケーションツールになると思ったんですよ、絵本自体が。親子で『これどうなってんやろ?』みたいな。そうなるといいなと思いながら、なるべく意味を減らそうとは思ってます。
内容はあまりストーリーもつけずに、僕は、変な世界の現象だけを描きたいなっていう感じなんです。意味を説明もしたくないし、無意味なものを作りたいっていうところでやってます。絵本でちょっとパンクをしたかったという感じでしょうかね。
基本絵本の作りが『いないいないばあ』なんです。一番シンプルな、子どもが最初に触れるお笑いってこれじゃないですか、『いないいないばあ』。だから『猫いる?いる!』だけの繰り返しにして、そこの段積みというか、どんどんエスカレートさせていって、それで、今はなかなか紙で本を買うことも少ないというのが世界的になってると思うんすけど、子どもたちが紙の本をめくる楽しさみたいなものがここに生まれるとは思ってるので。隠しておいて『いないいないばあ』って、紙だからできる動きだし、これを好きだなと思ってくれたらいいなとは思ってます」
バンクーバーでワークショップを開くきっかけ
「そもそもがちょっとカナダに遊びに来たかっただけなんです。で、1回来てみたかったので、せっかく来るならっていうことで知り合いからこういうワークショップできるんじゃないかと提案してもらったのがきっかけです」
今回は、バンクーバー市ガスタウンにあるギフトショップ「Gifts and Things」オーナー佐藤さんと日本カナダ商工会議所副会長のウィトレッド太朗さんがサポートした。田中さんが佐藤さんたちと出会うきっかけは、ひょうたんアーティストのあらぽんさんだったと話す。
「あらぽんっていうひょうたんアートをしている人がいるんですけど、事務所は違うけど芸人の後輩にあたるんです。あらぽんと僕はCM出演がきっかけで仲良くなって。それで佐藤さんを紹介していただいて。カナダでこういうお仕事されてる方ですって。会わせてもらってお話してるうちに『カナダ行きます、僕!』ってなって」
佐藤さんによると、出会って半年くらいでバンクーバー訪問が実現したという。「佐藤さん、太朗さんはじめ、色々な方に本当に助けていただいて。1人で来てたら絶対できないイベントなので、言葉も話せないし、すごく助かって。ありがたいです」
お笑い芸人、ギャグ漫画家、絵本作家
「(京都の)美術の大学で、版画学科に行ってて、1年で中退して吉本興業に入って、それからずっと10年ぐらい漫才とかやってて、絵を描き始めたって感じです。
どっちで食べていくかは悩みながらだったんです。絵で食べていこうか、芸人で食べていこうか。出身が関西なんでお笑いもすごいしたいなと。漫才とかすごいおもしろいの作れるけどな俺とか、変な勘違いをしながらやってて。絵は意外と年を取ってからでも描けそうやなと思ったけど、お笑いは年取ったらなかなかスタートするのが難しいと思うので、先にお笑いやっとこうと思って、大学辞めて、吉本興業入って、みたいな感じです」
絵本作家になるきっかけ
「きっかけというほどのきっかけはなくて」という田中さん。ギャグ漫画を描いていた時に、仕事関係で仲の良い人と一緒に親戚のおじさんも誘ってコンサートに行ったという。コンサートの後、「居酒屋で飲んでて、『今何やってるんですか?』って親戚の人に聞かれて、ギャグマンガとか書いてるんですよって見せたら『絵本とか書いてみます?』って。その人がポプラ社の方だったんです。『え、いいんすか?』『いいですよ』ぐらいで始まったんです」
記念すべき1冊目「ぱんつさん」が日本絵本賞を受賞。「それで『じゃ次も出してください』となって。その後もたくさん出させていただけるようになって、あれよあれよと気がつけば絵本作家になってたんです」
今は芸人活動はやっていないという。「あんまり人前が得意じゃないなっていうのに気づいたので(笑)。家で絵を描いてる方が性に合ってるなぁって、感じですね」
それでも絵本の発想はお笑いからだと言う。
「大喜利ってあるじゃないですか?その場の瞬発力でお題に対して何かを言う。1個に対していっぱい答え考えて書くっていうのを、本当にもう多分20何年やっているので、そこはやっぱ強くなりましたね。すぐ作れます。ただ、描くのが面倒くさいなってなっちゃうことはありますけど。
思いつくのは早いんですよ、『こんなんやりたいな』って。寿司だったら寿司にタイヤがついてたらどういう状況が生まれるかな、みたいなのを、とりあえずバーッと思いつく限りiPhoneのメモ帳に書いちゃって。『これつまらんから取ろう』『これとこれ繋げたらおもしろいよな』『これとこれ意味が似てるから1個取ろう』とかを、バーッと頭の中で組み立てて。それで、ページ数決まってるんで32ページに収まるようにして。それから大体さっくり絵を描いてっていう感じですね。
お笑いでネタを作っていたので、ネタを作る時の経験が生かされてると思います」
今後の絵本作家としての目標
「自分の絵本を日本から脱したいなという気持ちはあります。ギャグマンガとか、お笑いは海外に出にくいと思うんです。文化が違うし、お笑いも違うし、笑うポイントも違うし。アメリカだったらスタンダップコメディが基本だったりしますし。ボケ・ツッコミみたいな文化もないですし。なかなかお笑いが海外に出せなかったんですよね。
これを絵本で、お笑いじゃない状態にして。発想はお笑いから作っているんですけど、お笑いじゃないような顔をして出していけば、うっすら芸術と勘違いしてくれる人がいるんじゃないかと思って。
日本以外でも受け入れられるようなものができるとすごく楽しいだろうなと。僕の世界もきっと広がると思います」
バンクーバーの印象について
イベント終了後に参加者の求めに応じて記念撮影や絵本に自筆の絵とサインをする田中さん。2025年6月29日、バンクーバー市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
「僕が来たこのタイミングが、夜が長い時期だったので、これは日本にいたら体感できない部分で『おもしろいな』って。夜9時ぐらいでも明るいから、すごい昼間からお酒飲んでるような気持ちでふらふらしていられるのは贅沢ですよね。
あと自然と人工物、文化のバランスっていうのが、どっちもいいです。町として元気もあるし、バンクーバーはいいなと思いました。自然も多いし、きれいですもんね。とても景色もいいですし」という話す。合法化されている大麻のにおいも少し気になったと本音も語った。
バンクーバーで絵本にできるようなインスピレーションがあったか聞くと気になったのはトーテムポール。「あの形って色使いも含めておもしろいから、トーテムポールとは言わずとも、何かを積むっていうのは、積んでるわけじゃないけど、動物がこう積み上がってるいるように見える形は、おもしろいかもしれないです。本だったらだるま落としみたいなことがあると思いますね」と語った。
読者プレゼント
田中光さんが絵とサインを入れた絵本を2名様(各1冊)にプレゼントします。ご希望の方は件名に「田中光さん絵本希望」と明記して、田中さんへのメッセージや記事への感想を寄せてご応募ください。応募先はpromo@japancanadatoday.ca、締め切りは2026年1月31日 。 たくさんのご応募お待ちしております。
当選者の方には2月初旬に連絡いたします。郵送となりますので、当選者はカナダ国内に限らせていただきます。当選者には、氏名・住所・電話番号をお聞きます。あらかじめご了承ください。
訂正:読者プレゼント締め切りは2026年12月31日ではなく、2026年1月31日 です。ご希望の方は早めにご応募ください。
(取材 三島直美)
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