日本語教師 矢野修三
早や、師走も終盤を迎え、またまた「今年も残り少なく・・・」、こんな挨拶をする時期になってしまった。まさに「光陰矢のごとし」。歳を重ねるにつれ、一年の歩みが駆け足のごとく通り過ぎていく思いを強めている。
そして、忘年会のシーズンだが、かなり物忘れも進んでおり、あえて忘年会などする必要ない思いも強めているが、年末の風物詩であり、やらないと何となく落ち着かない。
そこで、先ずは日本語大好きな上級者たちと年忘れ会を行なった。年の瀬の話題として「師走」や「忙しい」の語源や漢字の由来など説明しながら、とりあえず、乾杯。
すると、T君から「忙しい」に関して厄介な質問を受けてしまった。「いそがしい」はよく使うので、分かりますが、この漢字、「せわしい」とも読むんですね。今まで聞いたことないですが、どんな違いがありますか。うーん。これは日本語教師泣かせの質問で、以前にも質問されて困った記憶がある。
この「忙しい」だが、日本人でも、「せわしい」とはなかなか読めない。それは、「いそがしい」は常用漢字としての読み方だが、「せわしい」は常用外の読み方なので、公的な新聞などには使えず、ひらがな書きなので、あまり馴染みがないからであろう。
もちろん、私的なメールやエッセイなどでの使用は問題ないが、送り仮名が同じであり、読み手とすれば、どっちで読むか、ややこしい。もし、「忙しい」と書いて「せわしい」と読んでもらいたい場合はルビを振るか、やはり、ひらがな書きが無難である。
ところで、この「いそがしい」と「せわしい」の違いだが、日本人は、個人差もあろうが、何となく使い分けている。でも学校で習った記憶などなく、説明しようとすればなかなか難しく、日本語教師としてはとても厄介な言葉である。
生徒には、なるべく簡単に、分かりやすく教えたいのだが、当方もはっきり理解しておらず、「いそがしい」は「やることが多くて時間がない」状態で、英語では「busy」であり、「せわしい」は「そわそわして落ち着きがない」状態、心で感じる忙しさなので、「restless」ぐらいかも。こんな説明が関の山である。
でも、「心忙しい」は確かに、「心いそがしい」とは読まず、「心せわしい」であり、そのほうがぴったりする。やはり、「せわしい」は心で感じる慌ただしさを表しているのは間違いなし。
さらに、「せわしない」が加わると、ますます厄介に。これは「せわしい」の否定形ではなく、逆に強めた感じで、話し言葉などに使われているようである。一度も使ったことないが・・・。
このように、使い分けを説明するのは難しく、上級者には、先生もよく分からず、ごめんなさい。でも、こんなこと気にせず、日本語の奥深さを感じてくれればそれで十分ですよと、やや焦りながら、せわしなく、こんな情けない説明になってしまった。
ここで一句 「年の瀬や せわしないから 世話しない」。 一応生徒には受けました。
せわしくない、のんびりしたお正月をお迎えください。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら。
矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)
メール:yano94canada@gmail.com
ホームページ:https://yanoacademy.ca
日本語教師として37年、81歳になって
初めて、平仮名「あいうえお」の
素晴らしさ、奥深さを悟りましたよ。
愛情、いっぱいで、生まれ
あ い う
笑顔で、終える。
え お
素晴らしきかな「あいうえお」




















