物語の主人公、長田栄造は日本に残してきた家族にカナダから送金を続けてきたが、第二次世界大戦中に強制収容所へ送られ、自ら下した決断に苛まれながら余生を過ごすことになる。
本書『影の帰還』は日本とカナダをまたぐ主人公の感情の揺れを辿り、カナダの強制収容所の現実から、日本に残した家族の沈黙までの苦難な旅を飽くことなく描写してゆく。43年間会わなかったために栄造は家族にとって影であるが、妻の断片化した記憶と離反した子供たちの顔に向き合いながら、彼は義務感と家族への帰属への渇望との折り合いを探し求める長い旅路につく。
原典の英語版の著者は流れるような文体と深い歴史的共感をもって、アイデンティティ、離別、犠牲の代償というテーマを追求してゆく。これは二つの世界に挟まれ、最も偉大な旅とは自分自身への帰還であることを学ぶ男の優しくも胸が締めつけられる物語である。
英語版の原典は2018年に英国の出版社から刊行され、翌2019年に同国の国際文学賞、 Rubery International Book Award、の最終選考に残った作品。また同書は、トロント大学 、ブリティッシュ・コロンビア大学、 ヴィクトリア大学、および サイモン・フレイザー大学の各図書館が「貴重文献及び特別蒐集品」部門(大学により若干呼称が異なる)における永久所蔵版でもある。
『影の帰還』(山岸邦夫著)と題するこの訳本は、日本における北米文学の権威である上岡伸雄学習院大学教授による翻訳で、彩流社(東京)が今年刊行した。
カナダからはamazon.co.jp を通して購入可。

(寄稿 山岸邦夫さん)
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