大いにブラックシープであれ『ブラックシープの羊飼い』を出版:著者サミー高橋さんに聞く

新著を持った著者。写真 吉川英治さん
新著を持った著者。写真 吉川英治さん

日頃、周りからの無言の圧力を感じて、自分らしく思いのままに発言できないことはないだろうか。

サミー高橋さんが2024年1月に出版した本は、そんな圧力を跳ね返すためのヒントを与えてくれる。タイトルは『ブラックシープの羊飼い』。著者のサミー高橋さんに話を伺った。

-『ブラックシープの羊飼い』と名付けた理由を聞かせてください。

“ブラックシープ”とは、白い羊の群れの意見に盲目的に同調せず、自分の意見を主張して「はみ出し者」扱いされた個人を指します。私は和を重んじる日本の社会ではまさにブラックシープでした。私と同じように日本で閉塞感を覚えて海外に移住した人でも、海外の日本人社会で再びブラックシープになり、ある種の肩身の狭さを感じていることに気づき、そんな人たちを鼓舞したいと、この本を出版しました。

-サミーさん自身はブラックシープであることを、どんな場面で感じてきましたか?

私は左利きですが、私の育った頃は左利きには大きなハンデがありました。例えば剣道を習うにしても、竹刀の持ち方から何から右利き用でしたし、書道も左手で書くと紙が汚れてしまい、かといって右手でもうまく書けず大変苦労しました。大人になってゴルフを始めても、左利きの私にはクラブの選択肢が限られるといった具合でした。そのため常に自分がはみ出し者のように感じていたのです。

-しかし、あるきっかけからブラックシープであることを肯定的に捉えるようになったそうですね。

それは20代でアメリカの大学に留学した時でした。アメリカには左利きの人がたくさんいて、大学の教授にも左利きの先生がいました。その教授は平気でミミズが這うような字を黒板に書いていたのです。「字が人格を反映する」と言われる日本で、人前で字を書くことを敬遠していた自分でしたから、左利きの大学教授が読めない字を堂々と書く姿は衝撃的で、私の考えが大きく変わりました。

平野香利さんとのインタビュー。写真 吉川英治さん
平野香利さんとのインタビュー。写真 吉川英治さん

-ところで昨年末には職場でブラックシープに似た意味の賞を受賞したと聞いています。

“マーヴェリック・オブ・ザ・イヤー”(2023年で一番の異端者)という賞でした。マーヴェリック(異端者)という言葉を日常で使うことは少ないかもしれませんが、一昨年公開の映画「トップガン」のタイトルが「トップガン:マーヴェリック」でした。自分が確信を持ったことであれば、周りの空気を読んで発言を控えたりせず、ズバリと言ってきたことがこうした賞の受賞につながったようです。

-サミーさんは長年英語教育の業界で仕事をされていますが、マーヴェリックとブラックシープではどういった意味の違いがありますか。

マーヴェリックは独自の考えを貫く一匹オオカミのように肯定的な意味で使われ、ブラックシープはどちらかというと否定的な使われ方をします。

-自分の意見を主張する姿勢が同じでも、属する世界によって評価が異なって、ブラックシープ(はみ出し者)と扱われることもあれば、マーヴェリック(一匹オオカミ)と見なされることもある。そうした違いを“マーヴェリック・オブ・ザ・イヤー”賞が教えてくれているようですね。

まさにそういうことです。私の勤める会社が私の異端者の部分に肯定的な評価をしてくれたことは、本書出版の後押しになりました。ちなみにこの会社のCEOは南アフリカ出身、副社長はインドとフランス出身、同僚たちはカナダ、ブラジル、フィリピン、メキシコ、韓国、トルコと多国籍です。

インタビューを受ける著者。写真 吉川英治さん
インタビューを受ける著者。写真 吉川英治さん

-そうした国際色豊かな環境の中で、ご自分の考えをしっかり主張するというのは快感でしょうね。

はい、まるで国際舞台でスポーツをするような感覚です。

-意見に対してもそうですが、近年は多様な個人の嗜好や体質、生き方などを、社会が受容するよう求められ、実際にも変化してきたことを感じます。

確かに私がかつて日本で「協調性に欠ける」「好き嫌いが多い」「わがまま」と批判されたことが、現代では「自分の好みの表明は好ましいこと」と変化してきています。しかしながら日本全国で29万人もの中学生、高校生が引きこもりの状態にあって、その大きな要因が多様な個性を受容できない学校教育の画一性にあると思えてなりません。ブラックシープと見なされる人たちが気持ちよく生きられる社会になるようにと、子どもたちが体で訴えているように思えます。

-特に読者に伝えたいメッセージを教えてください。

欧米の考え方は個人主義で、自分の考えを大切にしますが、島国に育つ日本人は自分が所属する組織の和を最重視します。ですからたとえ自分の意見があっても「長いものに巻かれろ」的な考え方をしてしまいがちです。しかし、意見が違うのは当然のことですから、自分の意見が人と違っても、自分を否定せず、違う意見を述べる際も、それによって人から嫌われることを恐れずにいてほしいと思います。また、反対意見を言われた人も、人格を否定されたように誤解せずにいてほしいのです。そうした健全に意見を言い合える成熟した社会になることを私は望んでいます。

-サミーさん、どうもありがとうございました。

著者:サミー高橋さんプロフィール

1977年カリフォルニア州立大学フレズノ校言語学部を卒業。専門は英語教授法。帰国後、大手の英会話スクールで講師トレー二ングと教材開発に従事。1991年、某英会話スクールのバンクーバー校立ち上げのためにカナダに移住。1994年、バンクーバーに新たな英語学校を設立。2012年までにカナダに3校、オーストラリアに2校の直営校を展開。現在はSELCランゲージ・カレッジの校長、日本カナダ商工会議所の会長を務める。

「人生は出会いがすべて」、「いかに自分らしく生きるか」が生涯のテーマ。

著書に『きっと君にもできる』(文芸社)、『自分を生きれば道は開ける』(明窓出版)、『イン・マイ・ライフ』(Meiso Canada Publishers )、『英語はスポーツだ』(Meiso Canada Publishers )、『人生を変える留学』(Meiso Canada Publishers )。今回の『ブラックシープの羊飼い』(Meiso Canada Publishers )も他書同様、日本、カナダはじめ世界のAmazonにて入手可能だ。

お祝いに駆けつけた由香ウッズさん(左端)を交えて。サミー高橋さん(中央)と平野香利さん。写真 吉川英治さん
お祝いに駆けつけた由香ウッズさん(左端)を交えて。サミー高橋さん(中央)と平野香利さん。写真 吉川英治さん

(インタビュアー 平野香利 / 寄稿 Meiso Canada Publishers)