ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の川に、赤く色づいたサッカイサーモンの群れが次々と姿を現している。今年は4年に一度の大量回帰の年にあたり、各地でピークを迎えつつある。フレーザー川水系を中心に観測された回帰数は、事前予測の約3倍にあたる927万匹にのぼり、近年ではまれな規模として注目されている。
一方で、サーモン回帰を取り巻く環境は年々変化しており、保護や漁業規制、気候変動への対応も課題となっている。その現状について、カナダ漁業・海洋省(DFO)に話を聞いた。
927万匹と過去平均を上回る回帰数

太平洋サーモンはカナダ西海岸の象徴的な魚種で、先住民コミュニティにとっては食料としてだけでなく、社会的、儀式的にも欠かせない存在である。また、レクリエーション漁業や商業漁業を通じて地域経済にも貢献している。海洋および淡水の生態系でも重要な役割を果たしており、その保全は自然環境と文化の両面において大きな意味を持つ。
太平洋サーモンには、チヌークサーモン(キングサーモン)、コーホーサーモン(銀サーモン)、サッカイサーモン(紅サーモン)、ピンクサーモン(カラフトサーモン)、チャムサーモン(白ザケ)の5種が存在し、それぞれ異なる生態的特徴を持つ。
中でも、サッカイサーモンに見られる「周期的優占(cyclic dominance)」と呼ばれる現象は特異であり、BC州のフレーザー川には4年に一度、おびただしい数のサッカイサーモンが回帰する。
2025年のサッカイサーモン回帰数は、フレーザー川水系で約927万匹と予測されている。事前の予測中央値290万匹を大きく上回る数で、過去の平均も上回る水準となった。今年は4年に一度の大量周期にあたり、前回の周期だった2021年の回帰数(約630万匹)を大きく超えている。
保全を目的とした漁獲制限と管理

一方で、近年BC州の一部地域ではサーモン資源を守るため、漁獲制限や規制を強化している。これは、産卵前に高い死亡率が見られていることが背景にある。特に近年では、水量の減少や高水温、干ばつ、地すべりといった要因により、産卵前の死亡率が90%に達するケースもあるという。
また、夏に回帰するサッカイサーモンとともに遡上する系統の中には、個体数が少なく保護が必要とされる在来種が含まれている。特に「レイトラン(late-run)」と呼ばれるフレーザー川のサッカイサーモンは、全体の回帰群の中でも規模が小さく、複数の脆弱な系統を含んでいる。このため、DFOはこれらの保全を目的に漁獲上限を設けている。
加えて、気候変動と生息地の変化も大きな影響を与えている。具体的には、水温の上昇、食物連鎖の変化、河川流量ピークの時期のずれ、干ばつや豪雨の増加、浸食の進行、氷河の縮小、川や湖の氷結期間の短縮などが報告されており、これらがサーモンの生存率や遡上範囲に影響を及ぼしている。
こうした状況に対応するため、カナダ政府はPacific Salmon Strategy Initiative(PSSI)を推進。BC州やユーコン準州を中心に、生息地の回復や気候変動対策を目的としたプロジェクトが展開されている。
サーモン回帰の観察スポット

サーモンの回帰を目にすることができるスポットがBC州各地にある。一度見たら人生観が変わるとまで言われるサーモンの遡上風景。例年秋には、アダムス川や、ゴールドストリーム州立公園などに多くの人がサーモンの回帰を見るために訪れている。
観察に適した時期や場所は、以下のウェブサイトから。
「Where and when to see salmon」Fisheries and Oceans Canada (DFO)
https://www.pac.dfo-mpo.gc.ca/sep-pmvs/see-observer-smon-eng.html
The Serpentine Enhancement Society: https://tyneheadhatchery.ca/
(取材 田上麻里亜)
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