エドサトウ

映画『スマッシュマシン』が公開となり、それを見た友から「エドさん、主人公と一緒に出ていますよ」と連絡があった。この映画に出演したのは、もう一年も前のことで、この映画はどうなっているのか気になっていた時なので、息子と一緒にダウンタウンの映画館にでかけた。街路樹の並木道もすっかり色づき、朝から冷たい小雨が降る中、車で映画館に出かける。映画は12時半からだけれど、駐車場の心配もあり、早めに出かければ、まだ映画館は開いておらず、近くのコーヒーショップに寄り、コーヒーと昼食を兼ねた食事を食べていたら、瞬く間に時間は過ぎてしまい、慌てて映画館に戻ると、もう映画が始まるという時間であった。最初はスポンサーの広告の映像が流れていたが、まだ時間が早いのか席はガラガラであった。
ここ最近は、映画館で映画を楽しむことは無いので、きわめてエキサイティングな楽しい映画鑑賞の日であった。
映画はアメリカで有名なプロレスラーの物語で、彼が東京ドームでの格闘技の大会に出るために飛行機に乗ると、たまたま日本へ行く飛行機の中で席が隣同士で少しばかり会話をするという場面に僕が出てくるだけのことであるが、たまたま、運よく出演させてもらったということである。

この映画のオーディションを受けた時、多くのバンクーバーの日本人の方が来ていて、皆台本をもらい、熱心にセリフを覚えている様子であった。しかし、ぼくの貰った用紙にはセリフはなく、どうなっているのかと思い、係の人に聞けば、オーディションの時は、自己紹介などをしてくださいとのことであり、何も特別にすることもなく、順番を待っていた。たまたま、昔の友がいたので、「プロレスの映画だと、レスリング、特に女子の部はオリンピックで人気があるから、うまくゆけばヒットするかもしれないね!」などと話をしていた。
時間が来てオーディションの部屋に入ると大勢の人が仮のセットの回りにいた。僕は自己紹介のつもりで中に入ると、いきなり英語の台本を渡されて「これを覚えて、やってください」といきなりに言われて、様子が違うので、少々焦りだした。後で分かったことであるが、この映画の30代前と思われる若い監督が自ら相手役となり、オーディションの撮影をしたが、どうも英語の場面で、「R」の発音がうまくゆかないけれど、日本語の部分は、それなりうまくできて、自分なりに「まあまあかな?」と思っていたが、半年が過ぎても連絡もないので、少々あきらめてきたころに撮影の案内が来た。
当日は、夕方からの撮影予定なので、道が混む前の早めに郊外の現場に行くと、係の人が「今日はスケジュールが遅れているので、もう一度、後から来てほしい」と言う。そして、「この時間帯は撮影クルーの集合時間で、君はもっと後でいいよ」と言われて、少々不安となるが、一旦、自宅に戻り一休みをして、また撮影現場に行くと、車の駐車場所が無いので係の人に言うと、別の場所を用意してくれて、一安心をして近くのトレイラーハウスの役者の個室に落ち着き、用意してきた本などを読み始める。しばらくして用意されてあるスーツに着替えて待機していると係のADさんが来て、「撮影は予定より遅くなるので、先に食事(映画の世界ではランチというらしい)にしてください」と言う。となりの個室に、以前一緒に映画に出たKさんがいるので一緒にキッチンカーに行き食事をもらい、部屋で美味しくいただき、その料理の出来栄えに感心もしたりした。
となりの知人のKさんは、僕の後の撮影なので、彼と遅くまで世間話をしていたら、9時過ぎに声がかかり、撮影現場の控室に移動する。長い北国の夏の陽も暮れてすっかり真っ暗になった部屋の太い配線ケーブルが何本もころがる床をそろりと待合室に移動して、出番を待つ。やがて、ADさんに呼ばれて撮影現場のセットに行くと、監督が「エド、僕のことを覚えているか?」と声をかけてくれた。オーディションの時、僕の相手役をやった人なので良く覚えていたが、英語のセリフの「R」の発音に苦労したから、少しばかり快く思っていなかったが、オーディションの時、彼は役者かと思っていたが、ここに来たら、彼が映画監督で指示を出しているのは、意外であったが、彼のお陰で、また撮影にこれたと思えば、嬉しくもあった。
この日の撮影場面が映画に出てくるのであるが、人間のつながりは妙なものである。
撮影が終わり自宅に帰りついたのは、深夜の1時ごろであった。

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
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