トランプ関税懸念で「日本のような信頼できる貿易相手国が必要」 ランツPEI州首相インタビュー

インタビューに応じるカナダ・プリンスエドワード島州のロブ・ランツ州首相(大阪市で大塚圭一郎撮影)
インタビューに応じるカナダ・プリンスエドワード島州のロブ・ランツ州首相(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 小説「赤毛のアン」の舞台として知られるカナダ東部プリンスエドワード島(PEI)州のロブ・ランツ州首相が2025年9月20日、大阪市で日加トゥデイの英語での単独インタビューに応じた。PEI州の魚介類や農産物の多くはアメリカ(米国)に輸出されているが、輸入品への関税を引き上げているドナルド・トランプ米大統領の復帰で「貿易相手国としての信頼性が低下している」と指摘。「日本のような信頼できる貿易相手国が必要だ」強調し、日本への輸出拡大に意欲を示した。

(共同通信社経済部次長・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者・大塚 圭一郎)

▽「より多様な外国市場の開拓が必要」

 ―2025年大阪・関西万博のカナダパビリオン(カナダ館)でPEIの魚介類と農産品を知ってもらうイベントを9月20日に開催した目的を教えてください。

 「日本の食の選択肢を広げるのに役立つPEIの食品を、より効果的に発信する必要があると考えたためです。PEIは新鮮で自然、清潔で安全、持続可能な食品を提供している『食の楽園』です。これらは全て、日本の消費者が重視している品質と価値そのものです。

プリンスエドワード島の沖合で捕れた雌のロブスター。重量は844グラムあった(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島の沖合で捕れた雌のロブスター。重量は844グラムあった(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 もちろん来日の大きな目的は日本の皆様にPEIの商品を売り込みたいからですが、同時に日本からの輸入も拡大し、友好関係も深めたいとも思っています。良好な関係は双方向で成り立つものであり、おそらく日本から購入できるものもたくさんあります。貿易に不確実性がまん延している今、私たちが求めているのはまさにそれです」

 ―PEIが輸出先を広げようとしている不確実性とは、カナダにとって最大の貿易相手国である米国の大統領にドナルド・トランプ氏が復帰したことを指すという理解でいいですか。

 「はい。米国に近い私たちにとって長年重要な貿易相手国でしたが、トランプ氏が大統領に復帰して信頼性が低下し、予測不可能になっています。このことを踏まえると、より多様な外国市場を開拓することが必要だと承知しています。トランプ政権下ではルールがいつでも変わる可能性があり、より強靭な貿易基盤を構築するためには他の相手国を探す必要があります。それには日本のような信頼できるパートナーが必要なのです」

 ―類似の事例として私がPEI州関係者から聞いたのは「2010年代には輸出先および旅行者拡大で中国を重視していたものの、カナダと中国の関係悪化を受けて急速に冷え込み、中国に偏重することはリスクが大きい」という話でした。

 「そうです。かつてPEIからは年間約4千億カナダドル相当の生ロブスターを中国に輸出していましたが、中国政府がカナダ産の魚介類に100%の関税を課したために門戸が閉ざされてしまいました」

 ―カナダは米国、メキシコとの間で自由貿易協定(FTA)のアメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結んでいますが、発効6年後となる2026年7月1日までに実施する共同見直しに向けてトランプ氏は大幅な変更を辞さない姿勢を示していると報道されています。

 「USMCAは現在も有効で、PEIは実は非常に恵まれています。なぜなら、PEIから米国、メキシコへのほぼ全ての輸出品がUSMCAのおかげで現時点では関税が免除されているからです。一方でカナダには、トランプ政権が自動車や鉄鋼・アルミニウム、銅に対する輸入関税を引き上げた影響をより強く受けている州もあります。これらは他の州では非常に大きな産業になっているため、カナダ全体に大きな影響を与えています。このようにカナダ全体ではトランプ関税の影響を受けており、間接的な影響がPEIにも波及しています。ただ、PEIの現状はまずまずです」

▽PEIへの旅行促進アピールの「絶好の機会」

 ―日本には特にどのような品目の輸出を拡大したいですか。

 「あらゆる食品をもっと多く輸出したいのですが、特にブルーベリーは大きなチャンスがあると考えています。なぜならば日本向けのブルーベリーの流通ルートはまだ確立されていないものの、PEIは自然のままの素晴らしいブルーベリーを豊富に栽培しており、日本の消費者がその存在を知れば輸出を拡大できると考えているからです。一方、日本で既に多少売れているロブスターはもちろん、ムール貝やかきなどの幅広い魚介類もそろっています」

プリンスエドワード島産のブルーベリー(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島産のブルーベリー(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 ―私はPEIを2017年に訪れてロブスターと生ガキ、ムール貝の素晴らしさに感激しました。今回のイベントでは牛肉のバラ肉のステーキを試食し、PEIの牛肉の高品質ぶりにも驚かされました。

 「牧草で育てている自然飼育の素晴らしい品質のPEI産牛肉は、市場を順調に広げています。家族経営の小規模農場は牛を牧草地で放牧し、自然に生えた草を食べて育っています。このようなあらゆる品目で日本との関係を強化できると確信していますし、これこそが私たちが今回来日した使命です」

プリンスエドワード島の沖合で養殖したカキ(大阪市で大塚圭一郎撮影)
プリンスエドワード島の沖合で養殖したカキ(大阪市で大塚圭一郎撮影)

 ―PEIは2024年の旅行者数が年間過去最高となる約170万人でしたが、25年の旅行者数はどのように推移していますか。

 「ご存知の通り、PEIの主要産業の一つは観光業です。(トランプ関税への反発などで)米国への旅行を控えているカナダ人がPEIを大勢訪れたため、2025年夏は非常に好調でした。レストランとホテル、観光名所、公園のいずれにも大勢の旅行者が訪れ、PEI州の経済は非常に好調です」

 ―一方で、『赤毛のアン』が高い人気を誇る日本からの旅行者数はかつてより大きく減りました。

赤土が美しいプリンスエドワード島の海岸(大塚圭一郎撮影)
赤土が美しいプリンスエドワード島の海岸(大塚圭一郎撮影)

 「確かに私が若かった頃の1980年代後半から90年代にかけてはPEIで多くの日本人旅行者に出会い、今でも来ているものの昔ほど多くはありません。ですから、今回の訪日はPEIへの旅行を促進するためにアピールする絶好の機会でもあると思います。

 他方で日本が今、外国人旅行者数が非常に好調だと承知しています。大阪・関西万博の開催が追い風になっているだけではなく、非常に安全で美しい国、親切な国民性、おいしい料理が相まって訪日旅行の人気が急速に高まっています。今回は、ずっと日本に来たがっていた妻も帯同しました」

 ―日本からPEIへの旅行者数が減った背景には、外国為替市場での円安傾向で海外旅行費用が上がったことも一因になっています。

 「確かに過去数十年間に海外旅行の費用が高くなり、日本の訪問者数が減少したと認識しています。しかし私たちは、日本経済が繁栄し、日本の方々がよりお手頃な価格で旅行できるようになることを願っています。そしてPEIへのご来訪を促進し、歓迎するための方法を探していきます」

【ロブ・ランツ(Rob LANTZ)氏】ITやバイオサイエンス、再生可能エネルギーなどのスタートアップ企業のコンサルタント、投資家を経て、2023年4月にプリンスエドワード島(PEI)州議会議員に当選。PEI州の住宅・土地・地域相、教育・幼児教育相を経て、25年2月に第34代首相に就任した。州都シャーロットタウン出身。

色とりどりの漁師小屋が並ぶプリンスエドワード島のフレンチリバー地区(大塚圭一郎撮影)
色とりどりの漁師小屋が並ぶプリンスエドワード島のフレンチリバー地区(大塚圭一郎撮影)

合わせて読みたい関連記事