カナダで初めて2022年に、そして当時唯一のミシュラン2つ星を獲得したトロント市のすし店「Sushi Masaki Saito」。そのオーナーシェフ、齋藤正樹さんを追ったドキュメンタリーが9月14日に閉幕したトロント国際映画祭で上映された。上映会場には齋藤正樹さん、ジャマル・バーガー監督、立石従寛監督らも駆けつけあいさつ。上映後には会場外に寿司カウンターを設置し、観客に無料の寿司を振る舞うなどで大きな注目を集めた。
映画は、寿司職人の齋藤正樹さんがビーチで寿司を握るシーンから始まり、北海道出身の彼がどのようにして寿司職人の道を選びトロントの店で握るようになったかを追う。「100%の顧客満足」が目標だと語る齋藤さんが、日々の営業、食材の準備、魚の扱い方や温度管理など細部へのこだわりを話し、時にスタッフを厳しく指導する姿なども映しだされる。
この作品のタイトル「I’m Still Single」は、2022年にトロントで初めて開催されたミシュランスター授賞式の際、齋藤さんが受賞スピーチの一部として「I’m still single. I don’t know why.」と述べたことから。作品では、日々食を追及する齋藤さんが仕事の合間に派手に遊ぶ姿と、それとは対照的に孤独と寂しさを抱える一面も映し出している。

映画で自分を観る感想を「すごく恥ずかしいですね。1回目に見た時ははあまりストーリーが入る余裕がなかったくらい」と笑顔で話す齋藤さん。「タイトルの『シングル』という意味は、パートナーと別れたとか友だちが去ったとかいろいろ取れると思うのですが、見る方にも自分にとっての『シングル』に重ねて見てもらうとおもしろく見られるのでは」と話す。
アメリカ・ニューヨークでミシュラン2つ星を獲得した後、トロントで共同創業者のウィリアム・チェンさんと「Sushi Masaki Saito」を開店し、2022年にはカナダ初の2つ星を獲得した齋藤さん。多忙な中、2024年にはフランス料理のシェフたちと新たなレストラン「LSL」を立ち上げた。新しい挑戦を続ける理由を「トロントのレストランシーンをもっと盛り上げたいんです。トロントはまだまだだけど、もっと伸びると思うので」と話す。
海外での成功を「一度決めたことをやり続けたからかな、と思います」と振り返り、「失敗は全然いいと思う。決めた道をぶれずに進むことが大切だと思う。でも一番大切なのは楽しむことかな」と締めくくった。
バーガー監督と立石監督は上映を、「トロントでカリスマ的な存在の齋藤さんを追った作品を映画祭で多くの人に見てもらえるのは本当に光栄」と喜ぶ。

「齋藤さんが提供する『おまかせ』というのは料理だけではなく、ストーリーのようなもの。順番、味、タイミング、プレゼンテーション全てを含めてがシェフとしての技術はもちろんクリエイターとしての資質も必要とされるもの。その料理を作り出している齋藤さんの人となり、考え方などを皆さんに見てもらいたい」とバーガー監督。
立石監督は「まずは齋藤さんの愛にあふれるユニークな人柄を見ていただきたい。また、それを追いかけて見つけた普段は人に見せない一面も見てもらえれば」と語った。
(取材 Miyai Michiru)
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