カナダ観光局のグロリア・ロリー最高マーケティング責任者(CMO)は9月10日に2025年大阪・関西万博のカナダパビリオン(カナダ館)で講演し、共生の精神が息づいたカナダの「自然体」の魅力を発信する新ブランド「カナダ、ナチュラリー(Canada,naturally)」を、日本を含めたアジア地域でも展開していくことを明らかにした。ブランドに沿った内容の動画をインターネットで配信するなどして、豊かな自然に心温かい人々が暮らしているカナダへの旅行を呼びかける。
▽トランプ関税で打撃の中、外貨獲得の手段に

ロリー氏は西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州、バンクーバー市、オンタリオ州の各観光局、パークスカナダ(カナダ公園局)などとともに「アジア地域セールスミッション」として来日し、今回の代表団は新型コロナウイルス禍後にアジア地域を訪問した中で最大規模。日本の旅行会社や報道関係者らが出席した。
観光業はカナダの主要産業の一つとなっており、2024年の観光収入は1300億カナダドル(約13兆8500億円)を超え、雇用のうち約1割が観光業と結びついている。最大の貿易相手国となっているアメリカのトランプ政権による輸入関税引き上げがカナダの製造業に打撃を与えている中で、外貨獲得の手段として観光業を一段と強化し、30年に観光収入を1600億カナダドルへ引き上げることを目指す。
「カナダ、ナチュラリー」はカナダが持つ3つの開放性を表現しており、カナダで日常的に出会うことができる心温かい人々、新鮮な視点を受け入れる開かれた精神、ロシアに次いで世界2番目の国土を抱える広大な空間が含まれる。文化や自然を尊重して高い関心を抱き、新たな体験や学習、交流を求めている旅行者を受け入れていきたい考えだ。
ブランドを表現した動画の一つは、カナダ東部ケベック州ケベック市で自動車が雪のために発進できなくなっていると、通行人が車を押すことを申し出る。しかし、車がなかなか出発できずに苦戦していると、次々と手伝う人が現れる場面が描かれ、カナダ人の自然に沸いて出る親切心を浮き彫りにした。
ロリー氏は自身と子息がカナダ・ノースウエスト準州の川でカヌーを漕ぎ、雄大な自然を満喫したことなどを紹介。「カナダ、ナチュラリー」の精神を実感した例として「寒い日には地元の人に自宅へ招かれ、温かい飲み物を振る舞ってくれた」とし、聴衆に対して「もしもカナダを旅行中にパイと紅茶を振る舞うと言われたら、必ず『はい』と答えて受け入れてください」と呼びかけた。
▽茂木氏の「生きがい」の原点は…

9月10日には脳科学者の茂木健一郎氏も講演し、ドイツでベストセラーになった著書『IKIGAI』(日本語タイトル『IKIGAI(生きがい):日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣』)を執筆する原点となったのが初めての海外旅行で訪れたバンクーバーだと説明。柔道のカナダ代表選手のコーチを務める日系カナダ人や、1年をかけて新婚旅行中だと話す夫婦といった日本の伝統的な価値観とは異なる多様な生き方をする人々に出会い、感化されたとして「カナダというのは素晴らしい生きがいを得られる国だ」と強調した。
同月9日には大阪市のホテルでBC州とバンクーバー、リッチモンド両市、ビクトリア都市圏、アルバータ州、中部マニトバ州、カルガリー市、オンタリオ州、ナイアガラの滝地区、北部オンタリオ地区、ケベック市、プリンスエドワード島、ノースウエスト準州の各観光局、パークスカナダ、カナダ先住民観光協会(ITAC)、観光鉄道ロッキーマウンテニア、リゾート企業パーシュート・コレクションがそれぞれのセールスポイントや人気スポットなどを披露した。

一方、カナダ航空最大手、エア・カナダの阪井裕司・関西地区旅客営業担当部長は同社が2025年夏ダイヤに羽田・成田―トロント線、成田―バンクーバー線、成田―モントリオール線、関西―トロント線、関西―バンクーバー線を運航しており、「スカイトラックスの2025年のワールド・エアライン・アワードで北米部門ベストエアラインに選ばれた」とサービス面でも高い評価を受けていると紹介。25年3月からは日本発着便のビジネスクラス「シグネチャークラス」でトロントのミシュラン1つ星を受けた懐石料理店「懐石遊膳橋本」のオーナーシェフ、橋本昌樹氏が監修する日本食を提供していると売り込んだ。
阪井氏は「日本でタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスが最大の都市は大阪や、知らんけど」とか、「略語のタイパとコスパという言葉を覚えて帰って」とかいった冗談を交えて出席者を笑わせ、最後には出席者に「アイ・ラブ・エア・カナダ!」と唱和させて満足げな様子で締めくくった。

(共同通信社経済部次長・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者・大塚 圭一郎)
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