カナダで変わる「働く」のかたち パソナが見た10年の雇用変化

左から、パソナ・カナダの水野あおいさん、和田文枝さん、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ
左から、パソナ・カナダの水野あおいさん、和田文枝さん、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ

 カナダに進出する日系企業の雇用環境はこの10年で大きな変化を遂げたという。現地採用の増加、多様化する人材ニーズなど、企業の採用活動はより複雑化している。

 1992年、オンタリオ州トロント市のダウンタウンに設立されたPasona Canada, Inc.(パソナ・カナダ)は、同州を中心に日系企業と現地人材の橋渡しを担いながら、こうした変化を最前線で見てきた。

 今回は、オンタリオ州での日系企業の雇用の現状と背景を聞いた。

現地人材を活用する企業が多数派に

「パソナグループの価値観を大切に(求職者を)支援しています」と語る、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ
「パソナグループの価値観を大切に(求職者を)支援しています」と語る、ジョイ・ヘイウッドさん。提供:パソナ・カナダ

 「現在では現地で人材を確保しようとする動きが主流になっています」と話すのはパソナ・カナダ社長ジョイ・ヘイウッドさん。 実際にパソナ・カナダが支援する求職者のうち約半数は日本人だが、残りの半数はカナダ人や他国出身の移民が占めており、「この10年で登録者の層は非常に多様化しました」と語る。

 ヘイウッドさんは、このような人材の広がりについて、多文化社会のカナダならではの特徴ではないかとも説明する。また「世界中から来る求職者のスキルや価値観に触れることで、私たち自身も常に学びがあります」と話し、人材の多様性がカナダ社会全体の活力にもつながっているという。

求職者側にも求められる、変化への対応

 こうした企業の採用戦略の見直しや北米経済の動向に伴い、求職者自身もキャリアの築き方を再考する動きが広がっている。

 和田文枝さんは、就職戦略を考える上では「どの業界に注目するか、どこに就職の軸を置くかによって求められるスキルが異なる」と語る。全体的な傾向として、カナダではITや医療、サイエンス分野の人材ニーズが依然として高いというが、カナダの日系企業からは、会計、技術営業、通訳、翻訳など、日本語を武器にした職種の需要が高い。

 さらに、近年の移民政策の変更が求職環境に与える影響も無視できない。昨年10月、カナダ政府は2025~2027年の移民レベル計画で、2026年末までに一時滞在者数をカナダの人口の5%まで削減することを発表。その後、留学生と外国人労働者の家族に対するオープンワークパーミット(OWP)の資格変更や、カレッジや大学を卒業した留学生が一定期間カナダで働ける制度「ポストグラデュエーションワークパーミット(PGWP)」の対象プログラムの変更などが進められ、一部の留学生は将来設計の見直しを迫られている可能性もある。

 また和田さんは、約30年前に自身がカナダへ移住した経験と現在を比較しながら、「以前は『海外で働いてみたい』『経験を積みたい』という希望が多かったのですが、最近では『子どもをカナダで育てたい』『ワークライフバランスを求めて移住したい』といった目的が増えているように感じます」と話す。制度面のハードルは以前より高くなっているものの、キャリア志向にとどまらず、家族や暮らしを重視した移住目的が目立ってきたという。

求職者を支える日系コミュニティのつながり

ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)へ参加した時の様子。提供:パソナ・カナダ
ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)へ参加した時の様子。提供:パソナ・カナダ

 こうした状況のなかで、地域のつながりが果たす役割に期待している。ヘイウッドさんは、「バンクーバーに比べれば規模は小さいですが、トロントにも日系コミュニティのつながりがあります」と語る。ゴルフ大会や年末年始の交流会などを通じて、企業や個人が自然に関係を築く機会があるという。

 またパソナの取り組みとしては、ジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)など地域団体と連携し、イベント協力や寄付を行っている。「困っている方の相談が、結果的に就労やキャリアの話につながることもあります。そうした部分でもお手伝いができればと思っています」と和田さん。

 2028年には日加修好100周年を迎える。ヘイウッドさんは、「アメリカ依存からの脱却と市場の多角化が進む中で、カナダと日本の関係はさらに深まっていくでしょう」と期待した。

 カナダにおける日系企業の雇用環境は、政策や経済情勢に応じて変化を続けている。パソナ・カナダは、こうした動きに対応しながら、地域団体との連携や生活面の支援にも取り組み、企業と人材の橋渡しを続けている。雇用形態の多様化や移住目的の変化に対応しながら、日系企業の採用活動は今後も変化していくとパソナ・カナダは見ている。

(取材 田上麻里亜)

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