朝日レガシーゲーム2025 歴史を継ぎ、未来へつなぐ

試合開始前に集合写真。今年も青空に恵まれた。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
試合開始前に集合写真。今年も青空に恵まれた。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

 秋の始まりを感させるさわやかな青空の下、ナナイモパークにはミットの音と選手たちの声が響き渡り、試合前から活気にあふれた。

 9月1日、レイバーデーに今年も朝日レガシーゲームが行われた。11回目となる今回は、朝日軍メンバーだった上西ケイさんがいない少し寂しい開催となったが、戦前に活躍した朝日軍の歴史と精神は白球を追いかける選手たちに受け継がれているようだった。

世代を超えて交わるフィールド

 今年の試合には、3月のジャパンツアーに参加した17人全員が青のユニフォームを着て数カ月ぶりに再集結。今年は黒のユニフォームを着たジャパンツアーOBや卒業生を交えた混合チームを編成し、世代が入り交じった試合となった。ジャパンツアーの監督を務めた小川学さんは「普通は忙しいので卒業した選手が顔を出すのは珍しいんです。でも今回は17人全員来てくれたのでうれしい」と晴れやかな表情を見せた。

試合序盤にホームランを放ち、チームメートに迎えられる藤岡さん。2025年9月1日、バンクーバー市。Photo courtesy of Noriko Tsuchiya
試合序盤にホームランを放ち、チームメートに迎えられる藤岡さん。2025年9月1日、バンクーバー市。Photo courtesy of Noriko Tsuchiya

 試合は開始直後にホームランが飛び出し、序盤から大盛り上がり。打ったのはチームを支えてきたボランティアの一人、藤岡創一郎さん。ワーキングホリデーでカナダに来て、シーズン中には週に4日も練習に通っていたという。自分にとって朝日は「居場所みたいなもの」だと語る。

 試合前のセレモニーでは、ボランティア一人ひとりの活動を讃える拍手が送られ、若い世代とOB、サポーターが同じフィールドで交わることで、朝日の精神が世代を超えていく光景が広がった。

仲間と築いた2年間の絆

 今年のジャパンツアーでキャプテンを務めたヒライ・コウタ選手は仲間と過ごした2年間を、「本当に楽しかった。日本語も少し使って、完璧じゃなくても(日本の)仲間が理解してくれて、コミュニケーションに困ることはなかった」と笑顔で振り返った。カナダと日本の野球の違いについては、「日本は静かだけど、ベンチに座っている選手も含めて全員で試合を見ていて、一体感があった」と話し、両国の文化の違いを実感したという。

ジャパンツアー2025でキャプテンを務めたヒライ・コウタ選手。この日は投手として登板の場面も。2025年9月1日、バンクーバー市。Photo courtesy of Noriko Tsuchiya
ジャパンツアー2025でキャプテンを務めたヒライ・コウタ選手。この日は投手として登板の場面も。2025年9月1日、バンクーバー市。Photo courtesy of Noriko Tsuchiya

 この日集まったのはジャパンツアーを共にした仲間たち。チームの解散を前にした心境については、「2年間一緒に戦った仲間と別れるのは正直悲しい。でもリーグでまた会えるし、これからもつながっていけると思う」と、仲間との強い絆は続くようだった。

 小川監督は、今後はジャパンツアーの経験で終わりにせず、卒業後も再び集まれる仕組みを作りたいと語る。「子どもたちのことをこれからも見守り続けたい」と、次のステップにつながる場を用意していきたいと話す小川監督の言葉には、朝日の歴史やつながりを未来へとつなげたいという思いがにじむ。その思いを映すように、世代を超えて選手たちが交わる姿がグラウンドに広がっていた。

バンクーバー朝日の精神を継ぐ

 朝日軍は1914年にバンクーバーで誕生した日系カナダ人の野球チーム。頭脳的なプレースタイル「ブレインボール」で勝利を重ね、戦前の差別が厳しい時代にあって日系コミュニティに誇りと希望をもたらした存在だった。1941年12月の日本軍真珠湾攻撃を機にカナダ政府が実施した日系人強制収容政策により解散を余儀なくされたが、2003年には戦前の活躍が認められてカナダ野球の殿堂入り、2005年にはBCスポーツ殿堂入りを果たし、その歴史的意義が広く認められた。

 時は流れ、2015年日本遠征チーム「新朝日」が結成され、2016年にはAsahi Baseball Associationが設立された。目的は、現代版バンクーバー朝日として、戦前の朝日の野球精神を受け継ぐこと。そして年に一度、毎年9月第1月曜日にレガシーゲームを開催し、敬意を表している。

 試合前のセレモニーでジョン・ウォン会長は、朝日の歴史を振り返り「チームは人種の壁を越える橋を築き、地域社会に誇りと希望の源を与えた」と語り、朝日の存在がコミュニティにもたらした意味を強調。今年は最後の存命メンバーだった上西ケイさんがいない開催となり、ウォン会長は「私たちが彼に代わってその火を受け継ぎます。彼もきっとそれを望んでいたでしょう」と、朝日の意志を胸に活動を続けていく決意を示した。

 セレモニー後には、「ケイさんがいない今、選手たちには戦争中に何が起きたのかを伝えたい。野球は大事だが、それ以上に歴史の意味を理解してほしい。困難な時代に日本人コミュニティが少しでも明るい時間を作ろうとしたことを知ってもらいたい」と歴史を伝える重要性を語った。

初の投球が始球式だったというバンクーバー領事館・岡垣首席領事と、隣で見守るウォン会長。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
初の投球が始球式だったというバンクーバー領事館・岡垣首席領事と、隣で見守るウォン会長。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 始球式は、在バンクーバー日本国総領事館・岡垣さとみ首席領事が務めた。これが人生初の投球だったという。「野球は観戦したことはありますが、自分でボールを投げるのは初めてで、正直とても緊張しました」。本番前には動画を見てイメージトレーニングをしてきたと笑顔で明かした。投球はしっかりキャッチャーミットに届き、会場から大きな拍手が送られた。

 「彼らがプレーしているところを今日初めて見ました。朝日のレガシーが受け継がれていると改めて実感しました」と、穏やかな表情で試合を観戦。今年3月に実施されたジャパンツアーについて「日本とカナダをつなぐ架け橋のような役割を子どもたちが担い、自信を持って帰ってきたの分かります」と笑顔で語った。

朝日ベースボールアソシエーション

 2016年に発足。当時の名称はカナディアン日系ユースベースボールクラブ。2015年に最初のジャパンツアーを実施し、これを機に2016年に創設した。

朝日チーム・ジャパンツアー

 2015年を第1回として、2年に一度、同アソシエーションでプレーする選手から選抜チームを結成し日本に野球遠征している。2021年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止に。2017、2019年には、横浜、静岡、滋賀、奈良などで、2023年は神戸を中心に関西地区で親善試合や野球交流、2025年は千葉、東京、栃木を訪問した。

朝日ベースボールアソシエーションウェブサイト: https://www.asahibaseball.com/

朝日レガシーゲーム2025の様子。さわやかな秋晴れに恵まれた。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ
朝日レガシーゲーム2025の様子。さわやかな秋晴れに恵まれた。2025年9月1日、バンクーバー市。撮影 田上麻里亜/日加トゥデイ

(取材 田上麻里亜)

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