【体験談2】日本での就活に違和感、カナダで学び直し 職歴のない大学生のコープ留学

アルバイトをしていたカフェで。提供:稲垣希々穂さん
アルバイトをしていたカフェで。提供:稲垣希々穂さん

 大学3年で一度就職活動を始めたものの、「このまま社会人になってよいのか」と悩み、カナダのコープ留学を選んだ稲垣希々穂さん(当時21歳)。現地での就職には至らなかったが、帰国後は自ら納得できるキャリアを歩んでいるという。

 大学生が語るリアルなコープ留学の実態について話を聞いた。

海外での学びを目的に選んだコープ留学

コープ留学中のクラスの様子。提供:稲垣希々穂さん
コープ留学中のクラスの様子。提供:稲垣希々穂さん

 稲垣さんがコープ留学を選んだのは、もともと高校時代から憧れていた「海外での学び」を大学時代に実現したいという思いからだった。就活を経験し、自分に強みがないと感じたことも大きなきっかけだったという。「みんなが就活しているからという理由で始めたけれど、(面接で)自分は何をがんばってきたのかと問われたときに、何も出てこなかった」と当時を振り返る。

 SNSや動画で情報を集める中で、あるエージェントの発信に引かれた。語学と実務の両方を体験できるコープ留学を通じて、少しでも自分の知識を広げたいと考え、「学びたい気持ちが一番にありました。留学後に日本で就職するつもりだったので、マーケティングの基礎知識があれば役に立つと思いました」と、ワーキングホリデーではなくコープ留学を選んだ。

そもそも求人の応募資格がない大学生

 稲垣さんが選んだのは、バンクーバーの私立カレッジでデジタルマーケティングの1年間のプログラム(6カ月間座学、6カ月間コープ)。半年間の座学期間では、グループワークやウェブサイト制作の課題など、さまざまなテーマに取り組んだ。

 だが、実務的なスキルを習得するには限界があったと振り返る。「本当はプログラムの中で、カナダのクライアント企業に対して(自分たちが座学を通じて考えたデジタルマーケティング施策を)プレゼンテーションをするはずだったけれど、直前でクライアントとの関係が切れてしまって発表の機会はなかったんですよね」と実体験を話した。

 6カ月間の座学期間終了後、コープ期間にはマーケティング職への応募も試みたが、職歴がない学生にとっては就職のハードルが高かった。応募資格に「最低3年以上の実務経験」を条件に掲げる求人も多く、そもそも応募できないことが多かった。

 やがて「1年間カナダで生活すること」を優先し、マーケティング職への応募はせず、元々アルバイトをしていたカフェでの勤務を継続しながら部分的なデジタルマーケティングの仕事をサポートする形を取った。

コープ留学の経験が日本での就職活動に

コープ留学を通じてであった友人と過ごした時間はかけがえのない時間だったという。提供:稲垣希々穂さん
コープ留学を通じてであった友人と過ごした時間はかけがえのない時間だったという。提供:稲垣希々穂さん

 コープ留学を終えて、現在は日本に帰国している稲垣さん。「自分の場合、授業には真剣に取り組んだので、そこは後悔していません。でも、行く前は学んだあとに仕事に就けると思っていたからこそ、就職にはつながらなかったという結果にはギャップがありました」と振り返る。もし学びの期間すら手を抜いていたら何も残らなかったと語る。

 コープ留学の利用を考えている人に伝えたいことがあるか聞くと、「何を目的にして行くのかを明確にすることが重要」と強調した。「学びが目的なら授業に集中すべきだし、仕事探しが目的ならもっと準備が必要。知識や経験をある程度積んでおかないと厳しいと思います」と話す。

 一方で、過ごした時間や出会いには大きな意味があったとし、「後悔は全くしていないです。もしまたコープ留学をするなら社会人経験を積んだ上で挑戦し、(渡航前に)座学終了後を考える形が理想的ですね」と語った。

 また、日本帰国後の就職活動ではコープ留学での経験が強みになったという。海外で学び、カフェで働いたという経験は、企業の面接官からも関心を集めた。「英語でマーケティングを学んだことも強みになりました。内定をもらった会社では海外事業もあり、海外に興味はあるかと聞かれる場面もあってうれしかったです」と話し、コープで得た経験が次のステップに確実につながったことを実感していた。

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 経験者が口を揃えて語るのは「コープ留学は制度そのものの良し悪しではなくそれをどう活用するかが問われている」ということ。学びの期間をどう活かし、次の行動につなげるか。コープ留学が「行ってよかった」と思える経験になるかどうかは、留学中の取り組み以上にその後の選択と準備にかかっていることが浮き彫りになった。

(取材 田上麻里亜)

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