月に行く ~投稿千景~

エドサトウ

 歴史が紀元前から紀元に代わる2000年以上前に釈迦の仏法とかキリスト教が誕生している。エジプトのアレキサンドリアの港町には、宗教や哲学の本があったというから、かなり色んな本が集めれた図書館に似た本屋さんがあったかもしれない。この頃イエスキリストはこの街で仏教に出会ったのではないかと言う話もあるから、仏教やギリシャ哲学の本もあったのかもしれない。

 この頃にアジアに東征したアレキサンダー大王もこのエジプトの街に来ているから、インドや中国や、イスラム圏の優れた医学書や建築の本もあったかもしれない。そういう文化のにおいを乗せてラクダの隊商は、夏の満月夜に多くの荷物を載せて、東方のアジアの国を目指して、月の砂漠をゆるゆると横切っていく。

 以前にイランから移民してきたイラン人と親しくなり、「エジプトでは多くの金が古代遺跡の装飾に使われているけれど、どうやって金塊を見つけたのだろうか?」と聞いてみると、彼が冗談のように「簡単なことだよ、砂漠に金の石が転がっているのだよ」と言う。僕は、「ああそうか、比重の重たい金塊は、風の吹いた後に、砂漠の砂の上で、月の光でキラキラと光っていたのかもしれない」と思えた。

 ラクダの隊商は、月が明るい夜に静かに移動して行く時に、光る石を見つけたのかもしれない。あの黄金のツタンカーメンのマスクも、こうして見つけられた金をとかして出来ているのかもしれない。中には鉄の塊のような隕石もあったかもしれない。

 記憶は定かではないが、昔、隕石の金属で短剣を作ったという話がある。鉄の発見もこんなところから始まったのかもしれない。中近東の鉄の文化もこうして、シルクロードを経て中国に伝わり、中国からは火薬や羅針盤、絹が中近東やギリシャ、ローマに運ばれたと想像できる。

 奈良時代に、この中近東の人たちが日本に来ているけれど、彼らの目的の一つは、紫式部などが着ていたようなきれいな絹織物の買い付けであったかもしれない。正倉院にある宝物ローマンガラス製品は、そういう時代に日本にもたらされたものであろう。

 古代から、月は日本の文化と深い関わり合いを持っていた。その月へ日本の月探査機スリムがとうとう着陸に成功したのである。

 しかも、ピンポイント着陸で目標地点から50メートルほどのずれでの着陸である。着陸寸前までほぼ正確な軌道であったが、着陸地点をホバリング(空中でとどまり)しながら、着陸地点を自律AIで確認している時に一つのエンジンが故障をしたのか、パイプらしきものが突然に落下したにも関わらず、他のエンジンをコントロールして、目標地点から、50メートルほどのずれで、着陸をしている。すごいことである。

 さらに、着陸前に二つの小さなロボットを月面へ放出している。その一つ日本のおもちゃメーカーが開発したソフトボールくらいの丸いロボットリブ2が月面に着陸した探査機スリムの写真を送信しているから、これもすごい。この金色のスリムの着陸写真を見ると、太陽電池パネルが逆方向に向いているのもすごい。これが、月面に太陽電池パネルを伏せるような下向きであれば、発電は不可能かもしれないが、反対向きであれば、月が移動して太陽の角度が変化すれば発電が可能である。実際に数日後に発電を開始している。

 JAXAのチームはこのパネル状態が心配であったらしいが、リブ2の送信された写真を見て安心をしたらしい。特にチームの責任者の方はこれを見て、腰を抜かすほど驚いたとコメントしておられた。

 数日後に太陽発電も始まり、観測が始まるのである。これまで他国ができなかったことを、日本の月面探査機スリムは実現させて、新しい宇宙時代を開こうとしているのである。ただ、月のマイナス150度以上の寒さに電子機器がどこまで耐えられるかも、もう一つの課題であるが、とにかくおめでとうございます!

 「めぐり逢いて見しや、 それとも わかぬ間に 雲隠れにし 夜半の月かな」紫式部

投稿千景
視点を変えると見え方が変わる。エドサトウさん独特の視点で世界を切り取る連載コラム「投稿千景」。
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