「土を喰らう十二ヵ月(The Zen Diary)」中江裕司監督インタビュー

料理を教えるツトム(沢田研二)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
料理を教えるツトム(沢田研二)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

 映画「ナビィの恋」「ホテル・ハイビスカス」で日本国内はもちろん、ベルリン国際映画祭をはじめとする海外でも活躍している中江裕司監督。今年9月に監督の最新作「土を喰らう十二ヵ月」(英題「The Zen Diary」)が、バンクーバーで上映されることになった。今回沖縄から中江監督が日加トゥディのインタビューに応じてくれた。

土を喰らった長い撮影

中江裕司監督。2023年7月、オンラインでインタビューに応じてくれた。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
中江裕司監督。2023年7月、オンラインでインタビューに応じてくれた。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

 軽快なジャズの音色をバックに、ロードトリップのような東京の風景から始まる映画。どこへ行くのか何が見られるのか、カメラがたどり着くのは信州白馬の山。映画の原作は水上勉によるエッセイ「土を喰う日々―わが精進十二ヵ月―」(新潮文庫)。原作にストーリーがないため、中江監督は自分でドラマを構成して脚本を書き、映画をスタートさせた。

 「映画はうその世界だけど、お客さんに信じてもらえるように小さなうそはつかない」と話す監督は、映画撮影にかなりの時間を注いだ。まずロケ地を自足で歩いて民家を見つけ、犬も現地でスカウト。主人公の住む場所と働く場所は一緒と決めて、土地を切り開いて畑まで設計・作製。本物の四季を確実に撮るために、およそ1年半、大自然の中に身を置いた。監督にとって沖縄の気温25度から急にマイナス10度になる長野への移動は大変で、自宅と撮影場所の間を何度も行ったり来たりしたそうだ。

シンプルで美味しそうな料理が並ぶ。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
シンプルで美味しそうな料理が並ぶ。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

 主人公の作家ツトムは、人里離れた山荘で自分の育てた野菜で精進料理を作るのだが、映画に登場する旬な料理は全て料理研究家の土井善晴さんの献立。梅、しそ、たけのこ、わらび、なす、きゅうり、生姜、大根など日本でお馴染みの野菜を使ったシンプルな一品が勢揃い。一見素朴に見えても、材料の一つ一つに目を通した厳しいプロの目が存在していると感じさせる。さらに土の香りが漂うようなカメラ映像、趣のあるカメラアングルもこの映画を盛り立てている。

往年のファンが喜ぶ俳優陣と製作スタッフ

最後まで素敵な女優だったチエ役の奈良岡朋子(右)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
最後まで素敵な女優だったチエ役の奈良岡朋子(右)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

 そして監督が選んだ豪華な俳優陣。主人公は元タイガースのジュリーこと沢田研二、友人役にプレイボーイ俳優として知られた火野正平、また清純派女優の檀ふみなど、どこか懐かしい名俳優が揃う。ジュリーのファンだったというベテラン女優の奈良岡朋子は、変わり者だが優しいところもある、どこかで見たことのあるようなおばあさんそのもの。準主役の松たか子も明るくて上品な恋人役を演じている。

 またカメラワークをポエム的にスパイスするのが時折流れるジャズ音楽。「音楽は普通映画を編集している時にイメージが浮かんでくるのに、今回は浮かんでこなかった」と言う監督は、ジャズのオーネット・コールマンを聞いて、音楽担当の大友良英さんに相談。自身のライブでコールマンを演奏する大友さんの「少し過激だけど、本当にいいんですか」という言葉に、「違和感があっても、画面にぶつけに行ってください」と監督が即答したそうだ。

食べること、生きること

料理をいただくツトム(沢田研二)と真知子(松たか子)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
料理をいただくツトム(沢田研二)と真知子(松たか子)。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

 植物と動物、土と自然、そしてその果てにあるのが健康と命の大切さ。一日の感謝の気持ちを忘れずに、毎日悔いのないように生きる、何事にもこだわらないという原作にある仏教禅宗の教えについても映画は触れる。生きることは体を動かすこと、体を動かすとお腹が空くのでご飯がおいしい、昔の人はおいしいものを食べていたのだろう、というさりげない言葉にうなずける。

 最後のシーンについて聞くと、「彼の人生はまだ続いている。一つで終わりではなく、まだこれからも生きていかなくてはならない」という哲学的な答えが返ってきた。そして監督は「日本人が根底に持っている美意識と生き方をこの映画で感じていただければすごくうれしい」と続けた。

 映画監督をしながら、地元沖縄の那覇市で桜坂劇場を経営している中江監督。「みなさん、沖縄にもぜひ遊びに来てください」とさわやかに締めくくった。皮肉とユーモアがあって、少し出遅れた主人公「ジュリー」を最後まで見届けたくなるような映画。9月のバンクーバー上映が待ち遠しい。

「土を喰らう十二ヵ月(The Zen Diary)」上映

バンクーバー
期間:9月1日~7日・10日
会場:VIFF Centre-Vancity Theatre(1181 Seymour Street, Vancouver)
チケット情報&ウェブサイト: https://viff.org/whats-on/the-zen-diary/

上映時間
会場は全てVIFF Centre – Vancity Theatre(ただし、9月10日のみVIFF Centre – Studio Theatreで上映)

9月1日(金)2:30pm、7:00pm
2日(土)4:55pm
3日(日)4:00pm、8:15pm
4日(月)8:10pm
5日(火)5:35pm
6日(水)7:55pm
7日(木)1:30pm
10日(日)7:20pm(Studio Theatre)

サスカトゥーン(サスカチュワン州)
期間:9月8日~14日
会場:The Broadway Theatre(715 Broadway Avenue, Saskatoon)
ウェブサイト: https://broadwaytheatre.ca/

モントリオール(ケベック州)
期間:9月22日~28日
会場:Cinémathèque québécoise(335 De Maisonneuve Blvd. East Montreal)
ウェブサイト: https://www.cinematheque.qc.ca/en/

信州の風景をバックに感動のシーン。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners
信州の風景をバックに感動のシーン。©2022「土を喰らう十二ヵ月」製作委員会/©“The Zen Diary” Film Partners

(取材 ジェナ・パーク)

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