気がつかないうちに進行する歯周病:前編

歯周病の原因とほかの病気とのかかわり

皆さん、こんにちは。朝晩の気温が下がり、深まる秋を感じる季節になりましたが、おかわりないでしょうか。前回のコラムでは虫歯予防についてお話しましたが、今回は歯周病の予防についてお話していきたいと思います。

歯周病は、虫歯と並んで歯を失う二大原因の一つですが、虫歯のように痛みが出ることがなく、静かに進行していくのが大きな特徴です。最近の調査によると、アメリカの 30 歳以上の歯のある成人の約 40% が何らかの形の歯周病(軽度、中等度、または重度)を患っていて、65 歳以上の約70% が歯周病に罹患しているとされています。厚生労働省の調査でも日本人の45歳以上では半数以上が歯周病にかかっていると言われています。

また近年、歯周病を中心とした口腔疾患が心筋梗塞などの心血管系疾患、糖尿病、呼吸器系疾患、低体重児出産など、様々な病気に影響を与えることを示す報告が増加してきていて、歯周病がいろいろな生活習慣病と関連していることも明らかになっています。歯周病菌が増えると歯肉に炎症を起こすだけでなく、毛細血管を通じて細菌が産生する毒素やケミカルメディエーターが全身にはこばれ、脳梗塞などの疾患を起こすこともあり、全身の健康の面からも歯周病の予防が大切です。

歯周病は、歯垢(細菌の固まり)が歯ぐきの炎症を引き起こすことから始まります。歯の表面についた細菌が産生する毒素によって、歯肉が腫れ、歯肉炎をおこします。歯ぐきが赤くてブヨブヨとした感じになったり、歯ブラシの時などに出血しやすくなるのは、細菌による毒素によって歯茎が炎症を起こしているからです。歯と歯ぐき(歯肉)の間には歯肉溝という溝があって、健康な歯茎では、この溝の深さは1~3mmですが、ここにプラーク(歯垢)がたまると、細菌により歯肉が炎症を起こし腫れていき、溝が深くなります。

プラークを放置すると、唾液に含まれるカルシウムやリン酸と結合して、歯石になります。歯石はざらざらして内部にはすき間もあるので、細菌の住みやすい環境になり、バイオフィルム(微生物の集合体)ができやすくなります。そのため、歯周病をさらに悪化させる要因になり、歯を支えているあごの骨(歯槽骨)や歯根膜(歯の根の表面と歯槽骨の間を結び付ける組織)が破壊され、歯と歯肉の境目の溝も4ミリ以上と深くなり、歯周ポケットという病的な溝になります。細菌は歯石を足がかりにして、歯周ポケットの奥へと増殖していきます。歯周ポケットの内部は酸素の少ない状態なので、酸素の少ない場所を好む歯周病菌が繁殖しやすく、深いポケットの内部では歯周病原菌が更に増えます。深い歯周ポケットの中は歯ブラシで清掃できないので、プラークや歯石がたまっていき、最終的には歯を支える骨(歯槽骨)が減り、歯がぐらぐらになります。

歯周病は一般的には成人以降に始まり、ゆっくり進行していくことが多い疾患ですが、10代の子供や若年者でも骨吸収を起こすような侵襲性の高い歯周炎に罹患することがあり、その場合は急速に歯周ポケットが拡大し、歯槽骨吸収がおこります。

歯周病の診断は、レントゲンをとって骨の位置をみたり、プロービングという歯と歯茎の境目の溝の深さを計ったり、歯垢の付着状態を調べたり、歯の揺れを確認することなどで行います。深い溝がなくてもプロービングのときに出血があれば、炎症反応がおきているということなので、歯周病の活動性の高い状態が疑われます。逆に骨が下がっていても、出血がなく、深い溝もない場合は、過去に歯周病で骨がなくなってしまっているけれど、今は安定している、歯周病の活動性の低い状態だと判断したりします。

歯周病のリスクの判断は、その時の歯周組織の状態に加え、喫煙、糖尿病の有無と血糖値のコントロールの状態、遺伝的要因、全身疾患の有無など様々なことを加味してされます。歯科医院でのクリーニングの頻度は患者さんによって6ヶ月ごと、4ヶ月ごと、3ヶ月ごとと異なりますが、これは一人一人の患者さんの状態によって歯周病のリスクが違うためです。健康でプラークコントロールが良く、歯周病のリスクが低い患者さんでも、例えば、妊娠中やワイヤーでの歯科矯正中など歯周病のリスクが高まる時には、6ヶ月ごとではなく4ヶ月ごとのクリーニングが必要になったりします。

ここで、糖尿病と歯周病の関連、喫煙と歯周病の関係をお話します。

歯周病と糖尿病は、互いに悪影響を与え、それぞれの病気にかかりやすく、悪化しやすい状態 になるといわれています。 特にヘモグロビンA1cと呼ばれる糖尿病の検査値が7%を超えると歯周病の悪化も早まり、歯周病の治療も難しくなります。高血糖の状態が続くと、唾液の分泌量が減ることによって細菌が停滞しやすくなります。さらに唾液に含まれる糖を好む歯周病の原因となる細菌の増殖がおこり、歯肉の修復能力が下がることによって、歯周病が進行しやすくなるといわれています。一方、歯周病がインスリンの働き(血糖のコントロール)に影響していることも報告されています。進行した歯周病で増加した毒素や炎症物質は、血管を経由して体中に放出され、インスリンの働きが悪くなり、糖尿病が発症・進行しやすくなります。血糖値を改善することにより歯周病が改善し、歯周病を治療することにより血糖値が改善することを示す研究結果も示されています。このように糖尿病と歯周病は、互いに深く関係しています。

たばこも歯周病の発症と進行における最も重要な危険因子の 1 つです。喫煙者は非喫煙者に比べて歯周病にかかりやすく、悪化しやすいことがわかっています。喫煙者は、非喫煙者より歯周病が深刻で、ポケットが深く、歯の喪失が多く、歯周治療への反応が悪く、再発のリスクも高くなります。口の粘膜などから吸収されたタバコの有害物質は、血管を収縮し、歯ぐきの血流量を減少させます。血液循環が悪化して歯ぐきに十分な酸素がいきわたらなくなると、歯周ポケットの中で歯周病の原因となる細菌が繁殖しやすくなります。また、血行が悪くなると、歯ぐきが炎症を起こしても出血や腫れが現れにくく、歯周病の自覚症状が出にくくなります。歯周ポケット(歯と歯肉の溝)が深くて進行した歯周炎であっても、プロービング検査の際の歯肉出血が少なく、歯肉の炎症症状が分かりにくくなっています。更に喫煙者の歯周病の治療効果が低いことも問題です。喫煙により貧血状態の歯肉は傷が治りにくい状態で、ニコチンによって身体を守る様々な免疫機能が抑制されていて、歯周病治療の十分な治療の効果が期待できません。禁煙すると歯ぐきの状態が回復し、免疫や細胞のはたらきが高まるため、歯周病のリスクが低下し治療効果が上がることが明らかになっています。

今回は歯周病がどのようにしておきるのか、それから様々な病気とのかかわりについてお話しました。次回、歯周病の治療とメインテナンスについてお話します。

プロフィール

歯科医師 楠瀬智子
2004年北海道大学歯学部卒業
日本の歯科医師免許、ブリティッシュ・コロンビア(BC)州の歯科医師免許、BC州の歯科衛生士の免許を保有
2016年よりキツラノのDr. Wayne Okamura Inc.にて勤務(火曜、木曜、金曜と、月1回土曜日)

Dr. Wayne Okamura Inc.
TEL:604‐736‐7374
住所:2732 W Broadway #202, Vancouver, BC, V6K 2G4
診療日:火曜から隔週土曜 7:30 am – 6:00 pm(曜日により診療時間は異なります)
診療内容:定期健診、クリーニング、虫歯の治療、根管治療、抜歯、マウスピース矯正などの歯列矯正治療、インプラント手術、ホワイトニングなど