リンダ・オオハマ監督制作ドキュメンタリー映画「東北の新月(A New Moon Over Tohoku)」チャリティ上映会

上映会スタッフとキルトの前で記念撮影を行うリンダ監督(右から3番目)。2022年6月24日、バンクーバー市バンクーバーユニタリアン教会。(提供:上映会スタッフ)
上映会スタッフとキルトの前で記念撮影を行うリンダ監督(右から3番目)。2022年6月24日、バンクーバー市バンクーバーユニタリアン教会。(提供:上映会スタッフ)

ウクライナ人支援のためのチャリティ上映会

 日系カナダ人リンダ・オオハマ監督制作ドキュメンタリー映画「東北の新月(A New Moon Over Tohoku)」(2015年)のチャリティ上映会が6月24日、バンクーバーユニタリアン教会で開催された。上映会は監督自らの発案で、ロシアによるウクライナ侵攻で被害を受けたウクライナ人の支援を目的とする。

 上映開始の午後7時には、カナダ人や日本人らが訪れ、用意された座席がほぼ埋まった。主催者によると、この日は61人が参加した。

東北エリアを取材したドキュメンタリー映画「東北の新月」

 上映前に監督による取材時の様子などを、スライドを使って紹介。リンダ監督が個人的に支援の輪を広げている「キルト」についても紹介した。上映会受付窓口には実際にキルトを展示してPR、東北への引き続きの支援も募った。リンダ監督は、長年の東北への支援を通じて得た知見をもとに「忘れないこと」「心を寄せ続けること」について話した。

 「東北の新月」の本編は、監督が2013年から2年半をかけ、東日本大震災から復興過程の東北エリアの被災者81人への取材をもとに制作された。そのうち39人のインタビュー動画が作品内に登場する。映像編集に加え、東北弁を英語字幕へ翻訳する作業を翻訳者やボランティアが6カ月かけて行い、取材と編集で合わせ5年をかけ完成させた。

 今回のチャリティ上映会は、映像内に登場する被災者グループ「TOHOKU」の賛同を得た上で実現した。監督による意欲作であり、2015年にバンクーバー国際映画祭の上映作品として評価を得た作品でもある。岩手県沿岸部の津波による被災地や、福島県相馬市や宮城県丸森町で原発事故による放射能汚染を理由に住居を離れた人の当時の状況や葛藤が描かれている。

碇川豊元大槌町長、桜井勝延元南相馬市長への取材

 東北の首長らにも取材を行っている。動画内には、2011年8月から2015年8月までの4年間、岩手県大槌町元町長の碇川豊氏と、震災前年の2010年1月から2018年1月まで相馬市の市長を2期にわたり務めた桜井勝延氏が登場する。

 碇川氏が震災後町長を務めた大槌町では、町役場が津波で全壊。加藤宏暉(こうき)町長が職務中に被災し命を落とした。役場の職員32人が死亡・行方不明となり、被災直後の町政は麻痺状態が続いていた。碇川氏は、被災前の大槌町を取り戻すため町政に尽力しながら、町民にはどうにか前を向いてもらいたいと願った。震災後に指揮をとった元町長からしぼりだされる言葉、表情のひとつ一つに会場は刮目した。

 福島県南相馬市は、震災直後に事故の起きた東北電力第一、第二原子力発電所から半径20キロ圏内にあり、政府による帰宅困難区域、住居制限区域に指定された。事故当時の風向きの影響も加わり、市内の大部分が立ち入りを規制され、多くの人々の生活は激変した。市を代表する農業、畜産業は事故から10年以上が経過した今も、風評被害に悩まされている。櫻井氏は、津波と地震被害の市の復旧活動に加え、東京電力との情報のやりとりなど、当時の行政として混乱を極めた状況が続いた。目に見えない放射線から市民を守るため、正確な情報を求めて尽力した日々を振り返った。

神事、祭りに思いを馳せ前を向く人々

 東北の神事や祭り、自然の映像などを絡め、困難な状況下で人々が未来へ向け、前をむく様子を1時間40分に収めている。

 上映会では被災体験を話す中で、ときに冗談を交えながら朗らかに語る男性の様子に会場から笑いも起こり、国を越えて、東北人の前向きさや人情が伝わったようだった。

ウクライナと東北の人々を応援する上映会

ボランティアとして訪れた際の東北のようすを語るオオハマ監督。2022年6月24日、バンクーバー市バンクーバーユニタリアン教会。Photo by The Vancouver Shinpo
ボランティアとして訪れた際の東北のようすを語るオオハマ監督。2022年6月24日、バンクーバー市バンクーバーユニタリアン教会。Photo by The Vancouver Shinpo

 会場を訪れた生まれも育ちもバンクーバーという女性からは「ウクライナへのチャリティ支援を目的で来たが、監督の視点がとても興味深かった」と次回作への関心も寄せられた。

 上映後には「日本は遠い国だが、作品を通して地震の後の東北の状況を知ることができた」など、今もなお風評被害に苦しむ人や復興に向けて故郷のために何らかの活動をする姿をみて、東北の人々を思いやる言葉が飛び交った。

 日本出身でバンクーバー在住の女性からは「監督の『おばあちゃんのガーデン』も良かったです。『東北の新月』を見たことがなかったので、今回見られてよかった。東北の復興も引き続き応援したいが、ウクライナで傷つく人々の癒しになればとチャリティに賛同するために来ました」と笑顔で語った。

 この日の上映会は、監督のファンをはじめ、ウクライナ、東北の人々の日常が1日も早く戻ることを祈る人々が集う会だった。リンダ監督の次回作は未定だ。

リンダ・オオハマ(Linda Ohama)
バンクーバーを拠点に主に映像制作活動をしている。映画監督。日系3世。映画祭出品作には今作とレオ賞を受賞した『おばあちゃんのガーデン』がある。
「がんばれ東北!カナダと日本 キッズメッセージキルト」HP: http://clothletter.com/home.html

(取材 生沼未樹)

*主催者によると、この日の寄付金総額は1,003ドル。ユニタリアン教会のシーラ・トンプソン難民支援基金に一時的に入金し、適切な時期に全額を来加したウクライナ避難民の支援にあてることにしている。

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