166 世界アルツハイマー月間 

~認知症と二人三脚 ~

ガーリック康子

 毎年9月は、「世界アルツハイマー月間」です。1994年に、イギリスに本拠を置く「国際アルツハイマー病協会(ADI/Alzheimer‘s Disease International))が、9月21日を「世界アルツハイマー・デー」に制定したことに合わせ、9月が認知症の啓発月間となりました。認知症への理解を促し、認知症と診断された人やその家族への支援策の充実を目的として、世界各国で様々な活動が行われます。

 例えば、カナダでは、各州にあるアルツハイマー協会が中心となり、州ごとにイベントが行われます。「BC州アルツハイマー協会(Alzheimer‘s Society of British Columbia)」では、「Climb for Alzheimer‘s」という、チームを作って、あのグラウス・グラインドを登るファンドレイズが行われます。グラウス・グラインドは無理という場合でも、「Summit Stroll」という選択肢もあり、グラウス・マウンテンの頂上にある展示場巡りをしたり、ゆっくりと散策したり、体力に自信がなくても、同じイベントに参加できます。

 日本でも、「認知症の人と家族の会」が中心となり、その本部および全国各地の支部が啓発活動に取り組みます。例えば、ポスターやリーフレットのイベントや街頭での配布、各地のお城やタワー、目印になる建物の「オレンジ色」のライトアップの他に、記念講演会やメモリーウォークも行われます。

 しかし、今年の啓発活動のイベントも、新型コロナウィルス感染症の流行拡大の影響により、規模縮小、中止や延期となりました。このような状況の中、集会形式で開催する代わりに、ビデオ通信プラットフォームを利用したオンラインでの講演会やイベント、動画配信により開催するなど、感染症の流行以前には、それほど一般に浸透していなかった形式で行うものが増えています。

 さて、「世界アルツハイマー・デー」の他に、もうひとつ、認知症を語る時、忘れてはならない日があります。それが6月14日の「認知症予防の日」です。この日は、様々な種類の認知症がある中で、認知症の大きな原因とされるアルツハイマー病を発見した、ドイツの医学者で精神科医のアロイス・アルツハイマー博士(1864年〜1915年)の誕生日にあたります。このことから、2017年に「日本認知症予防学会」により、「認知症予防の日」と制定されました。

 アルツハイマー博士は、自分が診察した女性患者の症例を学会で発表し、この症例が、後に、「アルツハイマー病」を原因とする認知症の多くを占めるものとして広く知られるようになりました。博士が克明に記録したアルツハイマー病の疾患概念は、現代の『精神病の診断と統計マニュアル』まで続く影響を与えたクレペリン博士が著した、精神障害を分類した精神医学の教科書にも大きく取り上げられ、現在も「アルツハイマー病」、「アルツハイマー型認知症」などの疾患名として確立されています。

 博士が疾患としての確立のきっかけを作った「アルツハイマー病」を原因とする認知症が、「アルツハイマー型認知症」です。「アルツハイマー型認知症」とは、脳の中にアミロイドβという蛋白質が蓄積し、正常な脳の神経細胞を壊し、脳を萎縮させる認知症です。脳の萎縮は少しずつ進行し、短期記憶を司る「海馬」にも萎縮が広がると、新しく体験したことから、体験そのものを忘れてしまう記憶障害が起こり、新しいことが覚えられなくなります。また、「見当識障害」が起き、月日や時間、季節などの感覚が徐々に薄れていきます。さらに症状が進むと、自分がどこにいるのか、家族を含む周りの人が誰なのかがわからなくなり、理解力や判断力も衰えていきます。「アルツハイマー型認知症」は、たくさんの種類の認知症の6割から7割を占めるとされ、女性に多く、年齢とともに発症が増えていきます。

 今年の6月に、米食品医薬品局(Food and Drug Administration【FDA】)が「アデュカヌマブ」の製造販売を承認するまで、「アルツハイマー病」には根本的な治療薬がありませんでした。米国の製薬会社バイオジェンと日本の製薬会社エーザイの2社が共同開発したこの薬は、「アルツハイマー病」の新薬としては20年ぶりの承認でした。日本やカナダではまだ承認されておらず、米国でのその承認に、世界の関係各界で賛否両論があるようです。しかし、「アルツハイマー月間」やア「アルツハイマー・デー」だけでなく、毎日、認知症と生活をともにする認知症と診断された人や介護する家族にとっては、 大きな可能性を秘めた希望の星と言えるでしょう。

参考:

アロイス・アルツハイマー
エミール・クレベリン
フリー百科事典『ウィキペディア』

FDA Grants Accelerated Approval for Alzheimer’s Drug
Food and Drug Administration (FDA)
https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-grants-accelerated-approval-alzheimers-drug

What is aducanumab?
Alzheimer Society of Canada
https://alzheimer.ca/en/about-dementia/how-can-i-treat-dementia/what-aducanumab

アデュカヌマブ
フリー百科事典『ウィキペディア』https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%AB%E3%83%8C%E3%83%9E%E3%83%96

*当コラムの内容は、筆者の体験および調査に基づくものです。専門的なアドバイス、診断、治療に代わるもの、または、そのように扱われるべきものではないことをご了承ください。

ガーリック康子 プロフィール

 本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定。