Column お薬の時間ですよ

~お薬の時間ですよ 第102回~

 10月31日のハロウィンの夜に、バンクーバーダウンタウンのグランビルストリートに大勢の若者が押し寄せたあたりから、新型コロナウイルス感染者数が再度著しく増加し、オンタリオ州のトロントとピールはロックダウンという事態にまでなってしまいました。

 今年初めにコロナ騒動が始まって間もない頃、沖縄県立中部病院感染症内科医の高山義浩先生が、「新興感染症を完全に制圧するには2、3年間を要するもの」とソーシャルメディアで説明されていたのを記憶しています。メディア等では大きく報道されることはありませんでしたが、これは人類の感染症との闘いの歴史が教えてくれる時間の目安です。

 日本では、11月21日からの3連休の前にして、日本医師会が「我慢の3連休」というキャッチフレーズを謳って外出自粛を求め、新型コロナウイルス感染者数の増加に歯止めをかけようとしました。でも、もうこれ以上我慢しきれない人が多いのか、観光地では多くの人出がみられたとか。

 私の妻(非医療従事者)に言わせれば「もう色々と我慢するよりは、コロナにかかってでも楽しい時間を過ごしたい人が多いんじゃないの? 私も旅行がしたい!」とのことですが、医療従事者の私は「今まで我慢してきたんだから、もうちょっとだけ我慢しようよ」と思わずにはいられません。

 ところで、この冬は新型コロナウイルスとインフルエンザが同時流行が懸念され、早い時期からインフエンザ予防接種(Flu shot, 以下「フルショット」)について多くの問い合わせがありました。

 私の薬局でもサンクスギビングデイの直後からフルショットを開始し、通常であれば、この場を借りて「まだフルショットを受けてない方は、1日でも早く受けてください!」と呼びかける私ですが、今年は少し事情が異なります。ワクチンが足りないのです。

 ブリティッシュ・コロンビア州では、65歳以上の方であれば誰でも公費負担でフルショットを受けることができるため、毎年この年代の予防接種希望者が一番多くなります。

 この需要を満たすため、薬局では地域を統括する保健所から公費負担のワクチンを仕入れますが、今年は10月の4週目の時点で供給状態の雲行きは怪しくなり、11月の1週目には私の薬局への供給が停止しました。同様の状況は州内だけでなく、州外からも報告されました。

 このように書くと、今年に限って一大事が起こったように聞こえますが、実は、そうでもありません。私は昨年の11月のコラムでも、同じ話題を取り上げています。ただ、今年に限っては、「ツインデミック」(Twindemic:新型コロナウイルスとインフルエンザ の同時流行)を懸念して、フルショットの希望者が増えることで、ワクチンの需要が著しく増加することは予想されていましたので、カナダの各州政府には何とかして供給不足を防いで欲しかったというのが現場の薬剤師の意見です。

 一方で、CBCニュースのオンライン版に掲載された「Doug Ford is ‘gaslighting’ by blaming pharmacies for flu shot shortage: doctor」(2020年11月3日付)の記事の中では、オンタリオ州知事のダグ・フォード氏がワクチンの供給量以上の予約をとった薬局を非難しました。

https://www.cbc.ca/radio/asithappens/as-it-happens-tuesday-edition-1.5788138/doug-ford-is-gaslighting-by-blaming-pharmacies-for-flu-shot-shortage-doctor-1.5788161

 薬局側の言い分を加えるとすれば、需要を満たすような大量のワクチンが一度に納入される訳ではありません。薬局とパブリックヘルスユニットは持ちつ持たれつの関係で、薬局では予想される数を報告しながら注文量を決め、パブリックヘルスユニットは薬局での予防接種の様子を伺いながらワクチンの割り当てを決めます。しかもその納入の頻度は1週間に1回から2回で、パブリックヘルスユニット小出しにしながらバランスをとる訳です。

 また、今年は多くの薬局がオンラインのフルショット予約システムを導入したように、私の薬局でもこれをやってみましたが、予約開始日には電話が殺到しました。継続的に納入されるであろうワクチンの数を見積もって予約枠を設定しましたが、多くの人が一気にアクセスして、どんどんと予約が埋まったために、予約の取れない人たちからは電話で苦情が寄せられたのです。そんな鳴り止まない電話に薬局のスタッフが困り果てる様子をビデオにとって、フォード知事に送りたかったと思う薬剤師は私だけではないと思います。

 ワクチン不足のため、薬局でのフルショットは当面の間は中止することになった訳ですが、「ではどうしたら良いか?」というのが一番の疑問点だと思います。そこで私からのアドバイスです。

1、外出自粛各方面から叫ばれていることですが、外出を自粛しましょう。周りの人との接触が少なければ、新型コロナウイルスにもインフルエンザ にもかかりません。ダブルの予防効果が期待できます。

2、手洗いとうがい

これはインフルエンザ予防の基本です。ただ、季節的に空気がドライなだけでなく、今年はアルコール消毒剤を手指に頻繁に使用することによる手荒れが増えています。手を洗ったあとに、保湿剤を使用すると乾燥肌を防ぐことが出来ます。

3、肺炎球菌の予防接種免疫力の低い方がインフルエンザ にかかると、合併症として肺炎が起こることがあります。しかし、この原因となる肺炎球菌に対して有効なワクチンがあります。

 「Pneumovax 23」(65歳以上の場合、全額公費負担)と「Prevnar 13」(約120ドル。公費負担ではない)の2種類のワクチンあり、いずれのワクチンも、65歳以降に1回きりの接種を受けたあとの追加接種は不要です。両方のワクチンの接種を受けるのが最も効果的ですが、一定の間隔が必要で、Prevnar 13の8週間後にPneumovax 23を受ける方法と、Pneumovax 23接種の1年後にPrevnar 13を受ける方法があります。この間隔は、充分な免疫反応を誘導するために非常に重要な要素となります。

 折しも、この1、2週間の間に、新型コロナウイルスのワクチンの開発について、希望の持てるニュースが多く発表されてきました。ですから、もう少しの我慢です! 寒い日が続きますが、皆様どうかご自愛ください。

佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)
2008年からLondon Drugs(Gibsons)勤務
2011年からバンクーバー新報紙面にてコラム連載開始
2014年から薬局内トラベルクリニック担当
国際渡航医学会医療職認定
2019年から薬局マネージャー