日本人向けにオンラインと電話での診察開始

Bethelmed クリニックの杉本主愛先生

 新型コロナウイルス感染拡大でクリニックに行くのが怖いという人もいるのではないだろうか。あるいは、英語が苦手で、日本人医師、もしくは日本語を解するファミリードクターを探しているという人も多そうだ。

 そのような人たちに朗報がある。日本とBC州で免許を持つ杉本主愛医師が新たに日本語でオンラインと電話での診察を開始した。

日本とBC州で免許を持つ

日本とBC州で免許を持つ杉本主愛医師 Photo @Bethelmed Clinic
日本とBC州で免許を持つ杉本主愛医師 Photo by Mina Photo、©Bethelmed Clinic

 杉本主愛医師は横浜市立大学医学部を卒業。日本で内科研修後、ブリティッシュ・コロンビア大学大学院で臨床疫学を学んだ。当初は大学院を修了後、日本に帰国する予定だったが、留学中に知り合った、カナダの日本人から日本語が通じる医師が少なく困っている話を聞く。

 折しもカナダの大学院の学位で永住権を取得できるパイロットプロジェクトが始まり、永住権を取得。杉本医師もカナダで医師免許をとるため、レジデンシー応募の手続きを始めた。途中、応募にリファレンスレターが必要であったため日本に帰国して、横須賀米海軍病院で勤務。その後、セントポール病院で家庭医学のレジデンシーを修了した。

 杉本医師が取得したのは、年間に1200~300人申請した中で50人程度しか取ることができない狭き門だ。「ポジションを得たからにはカナダで頑張ろうと決意しました」と語った。

 BC州では外国人医師に最低2年間、へき地医療に携わる義務があることから、去る7月にバーノンへ。現在、月曜から木曜はバーノンから車で約20分のランビーにて勤務、金曜はバーノンのBethelmed クリニックにてオンラインおよび電話診療を行う。ランビーは人口約2000人の小さなコミュニティだ。

「新型コロナウイルス感染拡大で、診療がオンラインや電話に変わっているクリニックも多いようです。私はバーノンに引っ越すことになりましたが、オンラインや電話だったら、バンクーバー周辺にいらっしゃる日本人の方にもご利用いただけるのではないだろうか。それがBethelmed クリニックを始めようと思ったきっかけです」(杉本医師)

薬の処方、専門医への紹介、検査の手配などに対応

 さて、Bethelmed クリニックのサービスだが、ブリティッシュ・コロンビア州在住であり、Medical Service Plan加入していると、自己負担なしで利用できる。「ウォークインクリニックと同じように、必要に応じて薬の処方、専門医への紹介、検査の手配などを致します」とウェブサイトにある。

 記者はオンライン診察を受けたことがなかった。また、定期健診の時期を過ぎているがコロナで受けそびれている。取材を兼ねて実際に受診してみた。

予約

 まずはウェブサイトから、または電話やemailで予約。Facebookページも利用できる。

 ウェブサイトを利用する場合、サイトのリンクからmyhealthaccess.caにアクセスして、氏名、生年月日、MSP番号を入力してサインアップする。その後、Bethelmed クリニック側から受け入れ完了の連絡が来たら、予約準備完了だ。

 アポイントメントの予約に進むと、医師の確認画面に移動する。“Who would you like to book an appointment?”と表示があり、“Dr. Moa Sugimoto”とあるのでクリックすると、利用できる日時が表示されるので予約する。

アポイントメントの予約画面 Photo @Bethelmed Clinic
アポイントメントの予約画面 Photo @Bethelmed Clinic

  予約をしたら、診療を受ける理由を入力する。日時を決めて予約するのは英語だったが、その後のクリニックとのやり取りは日本語だった。後で聞くと杉本医師の夫のシゲノリさんが予約その他事務関係を担当しているとのことだった。

主愛医師のアポイントメントを取ると日本語でメッセージが届いた Photo @Bethelmed Clinic
予約すると日本語でメッセージが届いた Photo @Bethelmed Clinic


 emailアドレスを入力しておくと、前日および当日、予約確認メールがアプリを通して届いた。アポイントの時間の少し前から待機しておく。しばらくすると杉本医師が登場。記者はビデオ通話を利用したので、ビデオで顔を見ながら診察を受けた。

予約のリマインダーは英語。Photo @Bethelmed Clinic
予約のリマインダーは英語。Photo @Bethelmed Clinic



 今回は年一回のチェックアップのためのアポイントメントで、血液検査などいくつかの検査をオーダーしてもらった。検査票については、記者の場合、プリンタを持っているのでアプリを通じて受け取った。プリンタがない場合は検査機関にファクスしてもらえるそうだ。

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 初めてのオンラインでの受診だったが、極めてスムーズに診察を受けることができた。しかし、たとえば湿疹がでて困っているというように、医師に患部を見てもらうようなケースはどうするのだろう。

「湿疹が出ている場合、アポイントメントの際にご説明していただければ、患部をクロースアップした写真と引いた写真の2種類を送ってもらうことで、ご自宅にいながらウォークインに近い診断、そして皮膚科の専門医に紹介することもできます」

 できる限り、画像で対応しているそうだ。ただし、「実際の対面ではないので、ワクチン接種はできないですし、女性の子宮頸がん(パップ)テスト、血圧を測ることもできず、ファミリードクターになることはできません」と制限もある。

 一方、処方箋作成、検査のオーダーや専門医の紹介、フィジオセラピスト紹介などは可能だ。「ほかにも例えば、ファミリードクターが日本語を話さないため、患者の方が相談できないという場合なども、日本語で説明してもらえると、その方のファミリードクターに私から連絡して説明することもできます」(杉本医師)

「主訴不安の方も日本人医師だと安心して話ができるかもしれません。そのような方もご利用いただければと思います」と続けた。特に今は新型コロナによりメンタル面で影響を受けている人も多いそうだ。

予約その他事務関係を担当する杉本医師の夫のシゲノリさん。実は医者が苦手だとか。Photo @ Bethelmed Clinic
予約その他事務関係を担当する杉本医師の夫のシゲノリさん。実は医者が苦手だとか。Photo by Shelly Lifeng Xiang、©Bethelmed Clinic

日本とカナダの医療

 杉本先生は日本とBC州で免許を持つ。日本とBC州の医療制度について、どのように感じているか聞いてみた。

「カナダの良いところは家庭医療、ゼネラリストの考え方を取り入れていることですね。特に高齢の方で多方面にわたり健康不安がある人などは、総合的に全体をみる必要があります」と語った。

杉本先生が総合内科の勉強したのは、「これは自分の専門でない」と断るのではなく、できるだけ診たいと思ったからだという。

「日本は医療費の一部を患者が負担するのに対し、カナダはすべて公費で賄っています。医療資源に限りがあるため、会いたい専門家にすぐ会えません。検査などもすぐには受けることができません。

 たとえば胃がんのスクリーニングなども日本では標準となっていて、用意に受けることができますが、カナダでは家庭医に相談しなければなりません。そういったことで、患者さんたちは不便だと感じているようですね」

カナダの医療はエビデンスベースで医師の裁量が強いのに対して、日本では患者がやってもらいたい検査を受けることができる。カナダでもバンクーバーのような大都市圏だと、民間の機関にいけば希望する検査を受けることができる。しかし、バーノンのように少し離れた場所だとそのような民間機関もない。

「カナダは一度、門をくぐって専門医までたどりついてしまうと速いのですが、それまでは日本と比べて時間がかかります」

 杉本医師のオンラインでのアポイントメントだが、10月は30日のみ。11月からは週一回のペースで金曜日の診療を再開するそうだ。

ウェブサイト: www.bethelmed.ca
Email: info@bethelmed.ca
Tel: 778-807-3224
Fax: 604-398-8391

杉本 主愛医師(すぎもと もあ)

横浜市立大学医学部卒業
日本内科学会内科認定医
ブリティッシュコロンビア大学健康科学修士課程修了(臨床疫学)
U.S. Yokosuka Naval Hospital National Physician Graduate Medical Education Program修了
ブリティッシュコロンビア大学セントポール病院 家庭医学レジデンシー修了
Family Doctor, Provisional License, College of Physicians and Surgeons of BC

(取材 西川桂子)