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映画「西海楽園」の鶴岡慧子監督、出演者にインタビュー「故郷で感じる人の温もりを描いた癒しの物語」バンクーバー国際映画祭で上映

右から鶴岡慧子監督、出演俳優の柳谷一成さん、上原大生さん。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today
右から鶴岡慧子監督、出演俳優の柳谷一成さん、上原大生さん。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today

 カナダ・バンクーバーで10月12日に閉幕した第43回バンクーバー国際映画祭(VIFF)で、鶴岡慧子監督の最新作「西海楽園(英語タイトル:Saikai Paradise)」が上映され、主演の柳谷一成さん、共演の上原大生さんと共に現地で取材に応じた。

 映画「西海楽園」は、長崎県西海市を舞台に、東京で俳優をする主人公・カズが故郷に帰省する数日間を描く。柳谷さんが実名の役名で出演し、実際の家族や友人も登場する。主人公の周囲の人々と街並みが、古い写真を見返すような懐かしさと共に優しく映し出される作品。

「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo provided by VIFF
「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo provided by VIFF

 鶴岡監督は「作品を客観的に見て、“癒し”がテーマだったと気づいたんです」と作品について語る。「主人公は、東京に出て人生なかなか思うようにいかない状況で故郷に帰り、どこか気まずさを感じます。自分も経験があるのですが、たまに地元に帰った時に、最初は自分の普段の生活と地元とのギャップがあって、何か気まずさを感じるんです。それが人だとか景色だとか、懐かしい地元と触れ合っていく中で徐々に癒されていく。その故郷で感じる“癒し”が今回の作品の一番のテーマです」とも。

 この作品は「故郷の西海で撮りたい」という柳谷さんの思いから生まれた。柳谷さんは「以前は田舎が嫌で出た部分がありました。時間がたち地元への思いが変わり、いずれは地元で映画を撮りたいという思いがふつふつと沸いてきたんです」と語る。2013年に初めて主演を務めた「はつ恋」の経験から、再び鶴岡監督と組むことを希望したという。「『はつ恋』がバンクーバー国際映画祭で上映された時には自分は来られなかったので、こうして今回やっと来られたのはうれしいですね」と笑顔を見せる。

フィクションとドキュメンタリーの融合

 柳谷さんと木下美咲さん以外の出演者は、これまで演技の経験がない柳谷さんの家族、友人など。柳谷さんの祖父を訪れるシーンや友人らとのバーベキューのシーンなどは全体の流れをある程度決めるだけで台本なしで撮影、自然な会話や表現を大切にした。鶴岡監督は「フィクションであることを前提にしつつ、地元の人々とのリアルな関わりをそのまま映したかったので、自然とこのような形になりました」と語る。「ちゃんと地元で生きてきている皆さんの顔が圧倒的に良くて、プロの俳優さんとは違ったひとりひとりの存在感があったので、素直にカメラを回すだけでよかった」と振り返る。

 「『バカ塗りの娘』を撮って、ドキュメンタリー的な表現により興味が傾いたというのもあり、ドキュメンタリー的な形になっているシーンもあります」と話す。「長く物を作っていらっしゃる人の動きには、経験が動作に凝縮されていてそのままで美しいので」と、柳谷さんの母親による豆腐作りのシーンは何の指示も出さずにそのまま撮影した。

地元の力で実現した映画制作

 制作は助成金のみで、スポンサーはなし。スケジュール管理から撮影許可の取得まで、ほぼ自力で行ったが、地元住民の協力が大きな支えになったという。鶴岡監督は「皆さんがチームのように楽しんでくれて本当にありがたかった」と感謝の気持ちを述べた。

 作品のタイトルにもなった「西海楽園」は、現在は閉園している仏教テーマパーク。柳谷さんは「昔はウォーターパークもあり花火や夏祭りが行われた、みんなが行った思い出のある場所なんです」と明かす。鶴岡監督も「以前の繁栄が去った場所がそのまま残っていて撮影場所としてもおもしろいと感じたのでロケ地に選びました。地方の寂しさを感じさせる名前も映画の雰囲気に合っていたので」とタイトルにも使用した思いを語った。

海と町、そこに流れる時間。西海市がもうひとつの主人公

 作中には西海の自然や文化が豊かに描かれている。柳谷さんが子どもの頃に“プライベートビーチ”と呼んで泳いでいた海岸などがロケ地として使用された。

「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo proided by VIFF
「西海楽園(Saikai Paradise)」より。Photo proided by VIFF

 完成した作品を見て、柳谷さんは「地元の風景、家族や友だちとの姿が宝物のように感じられる作品になった」と語りつつ、「日本の端の西海という町に暮らしている人の話を、見る人がどう感じるのかとても楽しみ」と笑顔を見せた。

 映画初出演となった上原さんは「自分が出ている映画を見るのは恥ずかしさもあった」と笑顔を見せ「自分は東京の人間なので田舎に帰るという感覚が新鮮だったし、初めて行く西海の町と撮影をとても楽しんだ。見る人にも同じように楽しんでもらえれば」と期待する。

 鶴岡監督は「今回は、人と同じくらい“西海”が主役。強いドラマがあるわけではなく、そこで時間が流れていく様子や、西海の町そのものを楽しんでほしい」と述べ、静かに人と土地の関係性を見つめる作品の魅力を伝えた。「これからも日本の地方を題材とした作品を撮り続けたいと思っています」と今後の作品作りに対する豊富も語った。

***

 日本では10月27日に開幕する東京国際映画祭でアジアンプレミアとして先行上映される。上映日は10月29日と11月1日。https://2025.tiff-jp.net/ja/lineup/film/38006NCN01

話している時も3人の仲の良さが分かる楽しいインタビューとなった。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today
話している時も3人の仲の良さが分かる楽しいインタビューとなった。2025年10月11日、バンクーバー市。Photo by Michiru Miyai/Japan Canada Today

(取材 Michiru Miyai)

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トロント国際映画祭でドキュメンタリー映画「I’m Still Single」上映「カナダで初のミシュラン2つ星を獲得した寿司職人、齋藤正樹さんを追う」

上映会場外に設置されたすしカウンターでは無料のすしが配られた。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
上映会場外に設置されたすしカウンターでは無料のすしが配られた。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 カナダで初めて2022年に、そして当時唯一のミシュラン2つ星を獲得したトロント市のすし店「Sushi Masaki Saito」。そのオーナーシェフ、齋藤正樹さんを追ったドキュメンタリーが9月14日に閉幕したトロント国際映画祭で上映された。上映会場には齋藤正樹さん、ジャマル・バーガー監督、立石従寛監督らも駆けつけあいさつ。上映後には会場外に寿司カウンターを設置し、観客に無料の寿司を振る舞うなどで大きな注目を集めた。

 映画は、寿司職人の齋藤正樹さんがビーチで寿司を握るシーンから始まり、北海道出身の彼がどのようにして寿司職人の道を選びトロントの店で握るようになったかを追う。「100%の顧客満足」が目標だと語る齋藤さんが、日々の営業、食材の準備、魚の扱い方や温度管理など細部へのこだわりを話し、時にスタッフを厳しく指導する姿なども映しだされる。

 この作品のタイトル「I’m Still Single」は、2022年にトロントで初めて開催されたミシュランスター授賞式の際、齋藤さんが受賞スピーチの一部として「I’m still single. I don’t know why.」と述べたことから。作品では、日々食を追及する齋藤さんが仕事の合間に派手に遊ぶ姿と、それとは対照的に孤独と寂しさを抱える一面も映し出している。

すし職人の齋藤正樹さん。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
すし職人の齋藤正樹さん。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 映画で自分を観る感想を「すごく恥ずかしいですね。1回目に見た時ははあまりストーリーが入る余裕がなかったくらい」と笑顔で話す齋藤さん。「タイトルの『シングル』という意味は、パートナーと別れたとか友だちが去ったとかいろいろ取れると思うのですが、見る方にも自分にとっての『シングル』に重ねて見てもらうとおもしろく見られるのでは」と話す。

 アメリカ・ニューヨークでミシュラン2つ星を獲得した後、トロントで共同創業者のウィリアム・チェンさんと「Sushi Masaki Saito」を開店し、2022年にはカナダ初の2つ星を獲得した齋藤さん。多忙な中、2024年にはフランス料理のシェフたちと新たなレストラン「LSL」を立ち上げた。新しい挑戦を続ける理由を「トロントのレストランシーンをもっと盛り上げたいんです。トロントはまだまだだけど、もっと伸びると思うので」と話す。

 海外での成功を「一度決めたことをやり続けたからかな、と思います」と振り返り、「失敗は全然いいと思う。決めた道をぶれずに進むことが大切だと思う。でも一番大切なのは楽しむことかな」と締めくくった。

 バーガー監督と立石監督は上映を、「トロントでカリスマ的な存在の齋藤さんを追った作品を映画祭で多くの人に見てもらえるのは本当に光栄」と喜ぶ。

ジャマル・バーガー監督(左)と立石従寛監督(右)。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
ジャマル・バーガー監督(左)と立石従寛監督(右)。2025年9月5日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 「齋藤さんが提供する『おまかせ』というのは料理だけではなく、ストーリーのようなもの。順番、味、タイミング、プレゼンテーション全てを含めてがシェフとしての技術はもちろんクリエイターとしての資質も必要とされるもの。その料理を作り出している齋藤さんの人となり、考え方などを皆さんに見てもらいたい」とバーガー監督。

 立石監督は「まずは齋藤さんの愛にあふれるユニークな人柄を見ていただきたい。また、それを追いかけて見つけた普段は人に見せない一面も見てもらえれば」と語った。

(取材 Miyai Michiru)

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トロント国際映画祭で「レンタルファミリー」上映 HIKARI監督とブレンダン・フレイザーさんが登壇

トロント国際映画祭(TIFF)上映後、舞台あいさつに登場し大きな喝采を受けたHIKARI監督(左)とフレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)上映後、舞台あいさつに登場し大きな喝采を受けたHIKARI監督(左)とフレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 トロント市で9月14日まで開催されたトロント国際映画祭(TIFF)でHIKARI監督の最新作「レンタルファミリー」を上映、6日にはHIKARI監督、主演のブレンダン・フレイザーさんが登壇した。

 同作品は、ブレンダン・フレイザーさん演じる東京に住む落ちぶれた俳優、フィリップ・ヴァンダープルーグが主人公。オーディションに落ち続け異国で孤独な日々を過ごしていた彼がある日、多田(平岳大)という男が経営するレンタルファミリー会社の仕事を受けたことで周囲の人と心がつながってゆくというストーリー。最初は家族を演じ偽ることにとまどっていたフィリップが、他人とでも心を通わせ家族のような絆を築く様子を描く。

トロント国際映画祭(TIFF)レッドカーペットで日加トゥデイのインタビューに答えるHikari監督。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)レッドカーペットで日加トゥデイのインタビューに答えるHikari監督。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

 上映前のレッドカーペットでインタビューに応じたHIKARI監督は、「レンタルファミリーはビジネスですが、他人でも心が繫がると家族のように心を埋めることもできると伝えたくて、この映画を作りました」と制作への思いを話した。

 「日本が舞台の作品だけど、寂しさというのは世界共通の感情です。私もアメリカに初めて来た時、家族がそばにいなくて友達もいなくて寂しかった。その時にホストファミリーが本当の家族のようになってくれ、だんだん友達ができてきて、寂しさが埋まっていったわけです」と自身の過去を振り返った。

 映画を観る人には、「家族がいない、問題があるなどの理由で寂しさを感じている人がいれば、家族でなくてもいい場合もあるよ、友達や周りの人が家族のようになってくれるということもあるよ、と伝えられたら。明日はきっと良いことがあるよ、という気持ちになってもらえればうれしい」とメッセージを送る。

 主演にブレンダンさんを選んだ理由については、「ブレンダンが『The Whale』の上映会場でQ&Aを行った時に、彼はオンラインでの参加だったため会場のスクリーンで大きなブレンダンを見たんです。その時、『これが私のフィリップだ!』と思いました。日本にいる寂しい大きなアメリカ人、彼しかいない、と思いました」と大きな笑顔を見せた。

 フレイザーさんは報道陣から作品への思いを聞かれ、「HIKARI監督はこの作品を心温まるすばらしいものに仕上げている。今こそ皆さんに見てもらいたい作品だと思う」と答えた。

 上映後、舞台あいさつに登壇し大きな喝采を受けたHIKARI監督とフレイザーさん。映画の大部分で日本語のセリフをこなしたフレイザーさんに、日本語についての質問が寄せられると、「日本語は勉強したのだが優秀な学生ではなかったようで」と笑いながら、「ただ自分は真似をするのが上手いので、セリフを聞き真似をしながら自分の言葉として話すという方法を取っていた」と明かした。

 映像には東京だけでなく地方の街、日本の自然も多く映しだされている。HIKARI監督は「10代の頃に日本を出たのだが、帰る度に毎回なんて美しい国だろうと思います。なので世界の人にもっと美しい日本を見てもらいたくて映像に含めました」と映像に込めた思いも話した。

  「レンタルファミリー」はバンクーバー国際映画祭でも上映される。

トロント国際映画祭(TIFF)で舞台に現れ、質問に答えるHIKARI監督(左)と主演のブレンダン・フレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ
トロント国際映画祭(TIFF)で舞台に現れ、質問に答えるHIKARI監督(左)と主演のブレンダン・フレイザーさん。2025年9月6日、オンタリオ州トロント市。撮影 Miyai Michiru/日加トゥデイ

(記事/写真 Miyai Michiru)

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