ホーム 著者 からの投稿 Naomi Mishima

Naomi Mishima

Naomi Mishima
1751 投稿 0 コメント

福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授大平哲也先生オンライン講演会(全2回)

日本語認知症サポート協会では、下記日程でオンライン講演会 (Zoom)を開催いたします。

最近、生活習慣病をお持ちの方は認知症を発症しやすいという研究成果が報告されています。また「笑い」や「体操」が生活習慣病や認知症の予防・改善に役立つことも、少しずつ知られるようになってきました。

大平先生はこの分野で日本有数の研究実績を持ち、エビデンスに基づく最新知見をわかりやすく解説してくださいます。健康で長く豊かな人生を送るために、無理なく取り入れられる日々の工夫を学んでみませんか。

皆さまのご参加を心よりお待ちしています。

日本語認知症サポート協会

各講演会の開催概要

  • 形式:Zoomオンライン
  • 参加費:各回 $25

💙 第1回 💙

  • 日時:10月8日(水)午後7時~9時(バンクーバー時間)
  • テーマ:生活習慣病と「笑い」の関係
  • お支払い:Eventbrite (クレジット):https://LY-Health.eventbrite.ca
  • 内容:
    不健全な生活習慣は糖尿病・高血圧・がん・脳卒中・心臓病などを招き、脳血管を傷つけて認知症リスクを高める要因とも言われます。今回は、笑いによるストレス軽減・免疫力向上・血行促進など、生活習慣病予防における科学的効果について、大平先生の研究成果をもとにご紹介します。

💙 第2回 💙

  • 日時:10月22日(水)午後7時~9時(バンクーバー時間)
  • テーマ:認知症の代替療法としての笑い
  • お支払い:Eventbrite (クレジットカード):https://LY-Dementia.eventbrite.ca
  • 内容:
    近年注目されている「笑い」を活用した認知症ケアについて、笑いの体操とヨガの呼吸法を組み合わせた「笑いヨガ」の実演を交えながら解説いただきます。
  • 講師プロフィール:下記添付ポスターのプロフィールをご覧ください。

* e-Transferや小切手でのお支払いをご希望の方は、下記の申込みリンクよりお申込みください。追って詳細をご連絡いたします。

申込みリンク:https://forms.gle/LLd8bBq64XTSCRR66

お問い合わせ:orangecafevancouver@gmail.com

主催:日本語認知症サポート協会

メディアスポンサー:月刊ふれいざー、日加トゥデイ、Life Vancouver

秋の夜長にHPVワクチンを考える

 コロナウイルスのパンデミック前は、いわゆるアンチワクチン派において、いかなる予防接種をためらう声も少なくありませんでした。しかしコロナを経験した今、社会全体で疾患の発症と重症化を防ぐ予防接種の価値が再認識されています。

 薬局でも、最近はインフルエンザやコロナウイルスワクチンはもとより、肺炎球菌、RSV(RSウイルス感染症)、帯状疱疹、破傷風といった様々なワクチンについての相談が目に見えて増えています。そして、予防接種への前向きな流れは若年層でも加速しており、その代表格がヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンです。

 HPVとは、200種類以上の型があるウイルスで、主に性的接触(性器同士・口と性器・性器周囲の肌と肌の密接な接触を含む)で感染します。特に高リスク型(例:16型・18型)は子宮頸がん、肛門がん、陰茎がん、陰唇・膣がん、そして男女共通の咽頭がんの原因となります。一方で低リスク型(例:6型・11型)は命に関わることは少ないものの、性器いぼ(尖圭コンジローマ)の主な原因です。多くの感染例は数か月〜1年ほどで免疫の働きにより自然に排除されますが、一部は粘膜に潜んで持続感染し、時間をかけて細胞に変化を起こすことがあります。

 厚生労働省の資料によると、日本では子宮頸がんが年間約1万人発症し約2,900人が亡くなっており、若い女性の患者さんが増えているのも心配な点です。G7の中で日本の罹患率は最も高く、カナダのおよそ3倍と言われます。背景には、思春期から若年期のうちに、ウイルスに暴露される前にワクチンで体を守る仕組みや、早期発見の仕組みが十分に行き届いていないことが挙げられます。

 ブリティッシュコロンビア(BC)州では、学校での定期接種(原則グレード6)を中心に、薬局やパブリックヘルスユニットなどでの接種機会と多言語の情報を提供、そして子宮頸がん検診(PAPテスト)が一貫して進められてきました。BC州では2008年にグレード6の女子から公費接種が開始され、2017年には男子にも適応を拡大することで思春期に入る前の年齢での幅広い予防を継続的に行ってきました。

 そして、2025年7月からはHPVワクチン公費プログラムは大きく拡充されました。従来は9〜14歳が2回、15歳以上は3回(免疫不全は年齢に関係なく3回)、公費負担は19歳未満で開始し26歳未満で完了という公費負担条件がありましたが、新制度では9〜20歳が1回、21〜45歳が2回(免疫不全やHIV陽性は3回)へと簡略化。公費負担は19〜26歳の全員に広がり、さらに27〜45歳でもHIV陽性や、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、ノンバイナリー、クエスチョニング、Two-Spiritを自認する方は公費接種の対象となりました。これに加えて、コルポスコピー(拡大鏡で膣や子宮頸部を詳しく観察する検査)後の治療を受けた方は年齢に関係なく3回の公費接種対象に加わりました。このように接種対象が拡大されたことは、単なる条件の緩和ではなく、性別や年齢、背景の違いにかかわらず公平にワクチンを届けようとする社会的な取り組みであり、多様性と包括性を尊重する医療政策の象徴的な一歩と言えるでしょう。

 日本では、2013年に定期接種が始まった直後、接種後の痛みや運動障害といった有害作用に関する報道で社会不安が拡大し、厚生労働省が異例の積極的勧奨の差し控えを決定したことで、接種率は急落しました。その結果、思春期に接種機会を逃した1990年代後半から2000年代生まれの世代が、HPVの大きな影響を受けています。HPVワクチンは感染前の接種が最も有効なため、この空白世代では将来の子宮頸がんリスク増加が懸念されています。2022年には積極的勧奨が再開されましたが、9年に渡り根付いた不信を払拭するには、正確な情報提供と、安心して接種を選べる環境づくりが不可欠と言えます。

 HPVワクチンは、この18年間で大きく進化してきました。初期のワクチンは、子宮頸がんの主要な原因である16型・18型に加え、尖圭コンジローマの原因となる6型・11型を予防し、発がんリスクの約70%をカバーしていました。その後、ワクチンの改良により、現在主流の9価ワクチンでは、追加のハイリスク型(31・33・45・52・58型)を含む計9種類を対象にできるようになり、子宮頸がん原因の約90%を防げるまでに進化しています。加えて、接種世代を長期的に追跡した研究では、前がん病変や子宮頸がんの発症が実際に減少していることも証明されており、HPVワクチンは理論的な予防から、実際に効果が確認された予防へと新たな地位を築いています。

 最近の薬局では、これまでよりも幅広い年齢の方にHPVワクチン接種を行なっています。公費接種の対象となる方に限らず、子宮頸がんのリスクがある方は、医師と相談しながら接種を検討することが望ましいでしょう。自己負担の場合は1本あたり約200ドル(薬局によって異なる)と安価ではありませんが、正確な情報に基づき、信頼できる医療者と相談することで、皆さんのライフステージに応じた適切な判断をしていただければ幸いです。

参考リンク:

Government of British Columbia
https://news.gov.bc.ca/releases/2025HLTH0076-000739

HealthLinkBC
https://www.healthlinkbc.ca/healthlinkbc-files/human-papillomavirus-hpv-vaccine

国立がん研究センター がん情報サービス
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/cancer/17_cervix_uteri.html

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

お薬についての質問や相談はこちらからお願い致します。https://forms.gle/Y4GtmkXQJ8vKB4MHA

全ての「また お薬の時間ですよ」はこちらからご覧いただけます。前身の「お薬の時間ですよ」はこちらから。

「菊日和*おじぎも揃い 子ども茶会」

カナダde着物

第75話
*白ひとえ秋風もまとう*

 夏休みが終わり、新学期が始まりました。自宅の近所の小学校へ通う子どもたちを、孫を見るような気持ちで見守りながら、自分の三人の娘の送り迎えをしていた頃をふと思い出しました。

 あの慌ただしくも愛おしい日々が、今では心の宝物です。

「Mallard duck Family with Water Fountain」 Manto Artworks
「Mallard duck Family with Water Fountain」 Manto Artworks

 私が住むカナダのブリティッシュコロンビア州は、森と山々、そして海に囲まれた、自然豊かな土地です。初秋の風が吹きはじめ、木々の葉もほんのり色づき始めました。朝晩の空気には少し冷たさがまじり、季節の移ろいを肌で感じます。

 庭先ではリスが忙しそうに木の実を集め、空にはカナダ雁が列をなして飛びはじめる頃です。

「初秋ブリティッシュコロンビア州ビクトリア ビーコンヒルから太平洋を眺める」コナともこ
「初秋ブリティッシュコロンビア州ビクトリア ビーコンヒルから太平洋を眺める」コナともこ

*今日の着物*Today’s Kimono

「白ひとえ秋風もまとう」

 陰陽五行では、秋は「白」を司るとされ、「白秋」とも呼ばれます。また、季語には「素秋」という言葉もあり、この「素」もまた、白を意味しています。

 母から譲り受けた、白い単(ひとえ)の着物があります。これまでは、夏が終わってから白を着るという発想がありませんでしたが、手元の着物を見ると「柿渋で染められている」と記されていました。
 秋といえば柿の季節-その一言に、ふと納得がゆき、白が秋に寄り添う色として心にすとんと落ちました。

 その着物を身にまとい、次女との小旅行に出かけることにしました。大学と専門学校をこの夏に卒業した彼女へのお祝いとして、ビクトリアでアフタヌーンティーを楽しもうと、ふたりで計画を立てました。

 今回は時間の都合もあり、ダウンタウンにある「Pendray Tea House」にて、午後5時から始まるスコットランド式のハイティーを予約しました。
 100年ほど前に建てられた瀟洒なお屋敷は、外観が真っ白で可憐な印象。中に入ると、重厚な木製のインテリアと、美しいステンドグラス、そして白いレースのカーテンが海風にさらさらと揺れ、まるで昔の貴族の邸宅に迷い込んだような気分に包まれました。

 私の装いはもちろん、あの白い単衣の着物。かつての英領カナダのクラシカルな空間に、日本の和が静かに溶け合い、不思議としっくり馴染んでいたように思います。

「しぼ織柿渋染め小紋着物 / 塩瀬モダン柄袋帯: Pendray Tea Houseにて」コナともこ
「しぼ織柿渋染め小紋着物 / 塩瀬モダン柄袋帯: Pendray Tea Houseにて」コナともこ
「ビクトリアPendray Tea Houseにて」コナともこ
「ビクトリアPendray Tea Houseにて」コナともこ

*今日の和の学校*Today’s gathering*

「菊日和*おじぎも揃い 子ども茶会」

 今年の五節句の締めくくりとして、お寺で「重陽の節句」のお祝いをいたしました。「菊の節句」とも呼ばれるこの日は、9月9日にあたり、奇数の中でも最も大きな陽数「九」が重なることから、古くから特別な節目として尊ばれてきました。長寿や無病息災を願う節句として、平安時代より人々に親しまれてきた行事です。

 当日は東漸寺の本堂にて、10人の親子が集い、静かで温かな時間をともに過ごしました。
 呈茶(ていちゃ)のかたちでふるまわれたのは、「着せ綿(きせわた)」を模した練り切りの上生菓子と、日本から取り寄せたお抹茶です。

 「着せ綿」とは、平安の昔、重陽の節句に菊の花に真綿をのせて香りをうつし、その綿で身をぬぐうことで邪気を払う-そんな雅な風習に由来しています。
 今回のお菓子の中央に添えられたふわふわとした意匠は、その綿を表しており、子どもたちにも「これは何だろうね?」と問いかけながら、日本の季節の文化に触れてもらうきっかけとなりました。日本の伝統が、遠く離れたカナダの地にも静かに根づいていることを、あらためて実感するひとときとなりました。

「重陽の節句 子ども茶会:和の学校@東漸寺」コナともこ
「重陽の節句 子ども茶会:和の学校@東漸寺」コナともこ

*参照*

暦生活
https://www.543life.com

Wikipediaから五行思想(ごぎょうしそう)または五行説(ごぎょうせつ)

家庭画報<単の着物>
https://www.kateigaho.com/article/detail/165406

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

コナともこ
アラ還の自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
14年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

和の学校ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/
インスタグラム https://www.instagram.com/wa_no_gakkou_tozenji/
フェイスブック https://www.facebook.com/profile.php?id=100069272582016

東漸寺Tozenji Temple https://tozenjibc.ca/

コナともこ
Facebook https://www.facebook.com/tomoko.kona.98
Instagram https://www.instagram.com/konatomoko/?hl

「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks

32 ☆「堪える」は「堪えられない」?

日本語教師  矢野修三

 日本企業バンクーバー支店の駐在員、K氏が任期終了し、日本に戻ることになった。大学の後輩でもあり、かつてよくゴルフを一緒にした仲なので、軽くお別れ会を行なった。

 先ずはビールで乾杯。そこで、ゴルフ好きの彼から、「19番ホールのビールはこたえられません。でも最近の若者はこの言葉、ほとんど使いませんね。なぜですか?」。さらに、「今まで書いたことはなく、どんな漢字か知りませんでしたが、日本の友人に、バンクーバーの夏のゴルフはこたえられないと、メールしようとして、調べてびっくりしました」である。なるほど。

 そこで早速、この「こたえられない(堪えられない)」の勉強会を始めた。彼は中学のころから、国語が好きだったようで、言葉にとても関心あり。でも以前、「他人事」の読み方を間違えており、「ひとごと」と言わなければ、名だたる商社マンとしては恥ずかしいよ、と注意した。すると、えー、ずっと「たにんごと」だと思い込んでいました。忸怩たる思いですと、大いに恐縮させてしまった思い出がある。

 この漢字「堪」は常用漢字で、音読みは「カン」、訓読みは「たえる」だが、それ以外に、常用漢字外の読み方があり、それが「こらえる」と「こたえる」である。でも、漢字表記はすべて、「堪える」なので、ものすごくややこしい。

 意味はいずれも我慢する、辛抱するという雰囲気は共通しているがニュアンスは少しずつ異なる。例えば、①暑さに堪える(たえる)、②暑さを堪える(こらえる)、③暑さが堪える(こたえる)となり、確かに戸惑ってしまう。でも日本人であれば、使い方は助詞なども、さりげなく異なるので、なんとなく区別できる。

 でも可能形、特に可能否定形になると複雑さが倍増する。すなわち、「堪えられない」で「たえられない」、「こらえられない」そして、「こたえられない」と読み分けなければならず、「ら抜き」も絡んで、母語として、堪えれない。

 さらに、「こたえられない」は我慢できない、の意味が広がって、圧倒されるほどすごい、素晴らしいという意味も加わり、「風呂上りのビールは堪えられない」や、「ここからの景色は堪えられない」などなど。話し言葉として、こんな使い方もするようになった。

 しかし、メールなどで、これを「たえられない」と読まれてしまったら、まったく逆の意味になってしまう。めっちゃやばい。そこで漢字など使わず、ひらがな書きが分かりやすく簡単。それゆえ、漢字など知らないほうが逆に正解かも。

 まして、ネット世代にとって、こんな長くて面倒な「こたえられない」を使う必要性など、マジでなくなり、言葉は時代とともに、を強く感じるねと、彼と談笑した。

 確かに、日本語は奥の深い言語なので複雑だが、面白さもある。表題の「堪える」は「堪えられない」だが、「こたえる」は「こたえられない」と読んでもらい、「こたえる」は、極めて興味深い言葉だから、こたえられない、ということを書きたかった次第でござる。

「ことばの交差点」
日本語を楽しく深掘りする矢野修三さんのコラム。日常の何気ない言葉遣いをカナダから考察。日本語を学ぶ外国人の視点に日本語教師として感心しながら日本語を共に学びます。第1回からのコラムはこちら

矢野修三(やの・しゅうぞう)
1994年 バンクーバーに家族で移住(50歳)
YANO Academy(日本語学校)開校
2020年 教室を閉じる(26年間)
現在はオンライン講座を開講中(日本からも可)
・日本語教師養成講座(卒業生2900名)
・外から見る日本語講座(目からうろこの日本語)    
メール:yano94canada@gmail.com
ホームページ:https://yanoacademy.ca

カナダ観光局、「自然体」な魅力発信の新ブランドをアジアでも ロリーCMOが大阪市で講演、脳科学者の茂木健一郎も

2025年大阪・関西万博のカナダ館前に立つアジア地域セールスミッションの代表団ら(カナダ観光局提供)
2025年大阪・関西万博のカナダ館前に立つアジア地域セールスミッションの代表団ら(カナダ観光局提供)

 カナダ観光局のグロリア・ロリー最高マーケティング責任者(CMO)は9月10日に2025年大阪・関西万博のカナダパビリオン(カナダ館)で講演し、共生の精神が息づいたカナダの「自然体」の魅力を発信する新ブランド「カナダ、ナチュラリー(Canada,naturally)」を、日本を含めたアジア地域でも展開していくことを明らかにした。ブランドに沿った内容の動画をインターネットで配信するなどして、豊かな自然に心温かい人々が暮らしているカナダへの旅行を呼びかける。

▽トランプ関税で打撃の中、外貨獲得の手段に

2025年大阪・関西万博のカナダ館で講演するカナダ観光局のグロリア・ロリーCMO(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館で講演するカナダ観光局のグロリア・ロリーCMO(大塚圭一郎撮影)

 ロリー氏は西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州、バンクーバー市、オンタリオ州の各観光局、パークスカナダ(カナダ公園局)などとともに「アジア地域セールスミッション」として来日し、今回の代表団は新型コロナウイルス禍後にアジア地域を訪問した中で最大規模。日本の旅行会社や報道関係者らが出席した。

 観光業はカナダの主要産業の一つとなっており、2024年の観光収入は1300億カナダドル(約13兆8500億円)を超え、雇用のうち約1割が観光業と結びついている。最大の貿易相手国となっているアメリカのトランプ政権による輸入関税引き上げがカナダの製造業に打撃を与えている中で、外貨獲得の手段として観光業を一段と強化し、30年に観光収入を1600億カナダドルへ引き上げることを目指す。

 「カナダ、ナチュラリー」はカナダが持つ3つの開放性を表現しており、カナダで日常的に出会うことができる心温かい人々、新鮮な視点を受け入れる開かれた精神、ロシアに次いで世界2番目の国土を抱える広大な空間が含まれる。文化や自然を尊重して高い関心を抱き、新たな体験や学習、交流を求めている旅行者を受け入れていきたい考えだ。

 ブランドを表現した動画の一つは、カナダ東部ケベック州ケベック市で自動車が雪のために発進できなくなっていると、通行人が車を押すことを申し出る。しかし、車がなかなか出発できずに苦戦していると、次々と手伝う人が現れる場面が描かれ、カナダ人の自然に沸いて出る親切心を浮き彫りにした。

 ロリー氏は自身と子息がカナダ・ノースウエスト準州の川でカヌーを漕ぎ、雄大な自然を満喫したことなどを紹介。「カナダ、ナチュラリー」の精神を実感した例として「寒い日には地元の人に自宅へ招かれ、温かい飲み物を振る舞ってくれた」とし、聴衆に対して「もしもカナダを旅行中にパイと紅茶を振る舞うと言われたら、必ず『はい』と答えて受け入れてください」と呼びかけた。

▽茂木氏の「生きがい」の原点は…

2025年大阪・関西万博のカナダ館で講演する茂木健一郎さん(大塚圭一郎撮影)
2025年大阪・関西万博のカナダ館で講演する茂木健一郎さん(大塚圭一郎撮影)

 9月10日には脳科学者の茂木健一郎氏も講演し、ドイツでベストセラーになった著書『IKIGAI』(日本語タイトル『IKIGAI(生きがい):日本人だけの長く幸せな人生を送る秘訣』)を執筆する原点となったのが初めての海外旅行で訪れたバンクーバーだと説明。柔道のカナダ代表選手のコーチを務める日系カナダ人や、1年をかけて新婚旅行中だと話す夫婦といった日本の伝統的な価値観とは異なる多様な生き方をする人々に出会い、感化されたとして「カナダというのは素晴らしい生きがいを得られる国だ」と強調した。

 同月9日には大阪市のホテルでBC州とバンクーバー、リッチモンド両市、ビクトリア都市圏、アルバータ州、中部マニトバ州、カルガリー市、オンタリオ州、ナイアガラの滝地区、北部オンタリオ地区、ケベック市、プリンスエドワード島、ノースウエスト準州の各観光局、パークスカナダ、カナダ先住民観光協会(ITAC)、観光鉄道ロッキーマウンテニア、リゾート企業パーシュート・コレクションがそれぞれのセールスポイントや人気スポットなどを披露した。

大阪市のホテルでエア・カナダについて説明する阪井裕司・関西地区旅客営業担当部長(大塚圭一郎撮影)
大阪市のホテルでエア・カナダについて説明する阪井裕司・関西地区旅客営業担当部長(大塚圭一郎撮影)

 一方、カナダ航空最大手、エア・カナダの阪井裕司・関西地区旅客営業担当部長は同社が2025年夏ダイヤに羽田・成田―トロント線、成田―バンクーバー線、成田―モントリオール線、関西―トロント線、関西―バンクーバー線を運航しており、「スカイトラックスの2025年のワールド・エアライン・アワードで北米部門ベストエアラインに選ばれた」とサービス面でも高い評価を受けていると紹介。25年3月からは日本発着便のビジネスクラス「シグネチャークラス」でトロントのミシュラン1つ星を受けた懐石料理店「懐石遊膳橋本」のオーナーシェフ、橋本昌樹氏が監修する日本食を提供していると売り込んだ。

 阪井氏は「日本でタイムパフォーマンスとコストパフォーマンスが最大の都市は大阪や、知らんけど」とか、「略語のタイパとコスパという言葉を覚えて帰って」とかいった冗談を交えて出席者を笑わせ、最後には出席者に「アイ・ラブ・エア・カナダ!」と唱和させて満足げな様子で締めくくった。

大阪市のホテルでのアジア地域セールスミッションの代表団ら(カナダ観光局提供)
大阪市のホテルでのアジア地域セールスミッションの代表団ら(カナダ観光局提供)

(共同通信社経済部次長・日加トゥデイ連載コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」執筆者・大塚 圭一郎)

合わせて読みたい関連記事

建友会2025年9月講演会

建友会松原会長のあいさつ。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会
建友会松原会長のあいさつ。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会

建友会は、9月2日(火)にUBC Robson Squareにて、建友会役員の伊藤公久氏による 「Canada Greener Homes(既存住宅省エネ改修プログラム)」、京都の㈱丸嘉代表取締役・小畑隆正氏による「店舗、商業施設などの空間プロデュース&伝統的内装仕上げ材の提案」 をテーマに講演会を開催しました。

建友会役員の伊藤公久氏による 講演「Canada Greener Homes(既存住宅省エネ改修プログラム)」。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会
建友会役員の伊藤公久氏による 講演「Canada Greener Homes(既存住宅省エネ改修プログラム)」。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会

伊藤さんの講演は、気候変動がもたらすグローバルな課題が日々深刻さを増している中、我々に何ができるのか、又既存住宅省エネ改修工事にカナダ政府はからどのような支援が受けれるのか等、とてもタイムリーで興味深い内容でした。

小畑さんの講演には、創業安政6年、京都の老舗木想商家ならではの、発想、伝統的内装仕上げ材を再利用してのビジネス、また、インバウンドが増加する日本(特に京都)での店舗・商業施設の空間プロデュースを実際の事例をもとにお話しいただきました。

京都の㈱丸嘉代表取締役・小畑隆正氏による講演「店舗、商業施設などの空間プロデュース&伝統的内装仕上げ材の提案」。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会
京都の㈱丸嘉代表取締役・小畑隆正氏による講演「店舗、商業施設などの空間プロデュース&伝統的内装仕上げ材の提案」。2025年9月2日、バンクーバー市。写真 建友会

カナダに住む我々にとってはとても貴重な情報です。今後の日々の業務等の参考にさせていただきます。

建友会の会員はもとより、他団体の会員の方々も含め、約30名が参加、講演前後で、講演者と又参加者同士の交流・意見交換の場もあり、大盛況でした。

お忙しい中、伊藤さん、小畑さん、貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。心より感謝申し上げます。

建友会講演会概要

日 時:9月2日(火)、午後6時15分受付、6時45分講演開始 質疑応答を含め午後9時30分までに終了予定

会 場:800 Robson St, Vancouver, BC V6E 1A7 Room: C400

講演者:建友会 伊藤公久 (K.Ito & Associates LTD)
講演テーマ Canada Greener Homes(既存住宅省エネ改修プログラム)
このプログラムは気候変動抑止策にも大きく関係するプログラムでNRCANから補助金支援があります。   

講演者:㈱丸嘉 代表取締役 小畑  隆正
講演テーマ 「店舗、商業施設などの空間プロデュース&伝統的内装仕上げ材の提案」
ウェブサイト:https://www.muku-flooring.co.jp/about/company/
参考ウェブサイト:https://amp-kyoto.co.jp/

参加費:建友会会員 無料、非会員 $5

講演プログラム
18:15 受付開始
18:40 建友会 松原会長挨拶
18:45 建友会 伊藤公久氏 講演
19:45 休憩
20:00 (株)丸嘉 代表取締役 小畑隆正氏 講演
21:00 質疑応答
21:30 建友会 トム副会長挨拶
21:35 閉会

(寄稿 建友会)

合わせて読みたい関連記事

Vancouver Sake Fest ’25 開催のお知らせ

日本酒ファン必見のイベント Vancouver Sake Fest ’25 を以下の通り開催します。

日本酒好きの方も、これから楽しんでみたい方も大歓迎!皆さまお誘いあわせの上ぜひお越しください!

日時・場所

日時:2025年10月9日(木)18:00〜21:00(PDT)
会場:Coast Coal Harbour Vancouver Hotel by APA
住所:1180 West Hastings Street, Vancouver, BC V6E 4R5

イベント内容

100種類以上の日本酒、焼酎、梅酒、ビールなどを一堂に楽しめます。
酒蔵の伝統と革新に触れながら、テイスティングを通して奥深い味わいと多様性を体験してください。
いろんな酒蔵の日本酒を飲み比べながら、それぞれの味わいや特徴を気軽に体験できます。
会場では日本酒に詳しい人たちから、ちょっとした豆知識やおすすめの飲み方も聞けます。

スポンサー様からのご厚意で、和牛やお刺身も一緒にお楽しみいただけます!
日本酒に合うシェフ特製のおつまみもご用意。

チケット
売り切れ前にぜひ!
19歳以上のみ入場可能(ID必須)

チケットはこちらから

https://www.eventbrite.ca/e/vancouver-sake-fest-25-tickets-1553364227219?aff=oddtdtcreator

スペシャルオファー

1. Instagramのフォロー&いいね
2.「SakeFest25」とDMを送信
3. 割引チケット用のプロモコードをゲット!
[@sake_association_bc]

https://www.instagram.com/sake_association_bc

日本語認知症サポート協会「オンライン de Cafe・笑いヨガ」

「笑顔の力」を引き出そう〜「笑いヨガ」で、元気な心と体づくり〜

毎月、「笑いヨガ」を行っています。自宅にいながら参加できる、オンラインでのセッションです。 初めての方も大歓迎。楽しく一緒に笑いましょう!

日時:2025年10月16日(木)午後8時〜午後9時

会場:Zoom

参加費:初回無料、2回目からドネーション(e-Transfer、PayPalまたは小切手にて)

申し込み締め切り:2025年10月14日(火)

申し込みリンク:https://forms.gle/VTJ5WqoXVWnGfGqT7

*お申し込みいただいた方には、追って参加方法をご案内いたします。

お問い合わせ先:orangecafevancouver@gmail.com

主催:日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association)

「バーバラ・ペントランド」音楽の楽園〜もう一つのカナダ 第39回

はじめに

 日加関係を応援頂いている皆さま、音楽ファンの皆さま、こんにちは。

 9月の声を聞くと、オタワでは秋の気配が日に日に濃くなっていきます。温暖化の時代故に正午前後には30℃に迫る日もありますが、朝は深呼吸すると冷んやりとした空気が肺を満たし、身が引き締まります。そして、秋と言えば、“芸術の秋”であり“スポーツの秋”です。

 さて、スポーツと芸術は一見全く別のものと思われがちですが、歴史を紐解くと非常に興味深いものがあります。古代ギリシャの誉れオリンピアの祭典では、スポーツの躍動美が彫刻や音楽で表現され、スポーツと芸術が一体となって発展していました。近代オリンピックを提唱したクーベルタン男爵は、古代オリンピアの祭典に習い、スポーツと音楽は一体として考えるべきと確信。その理念に従って、1912年のストックホルム大会からは、文学・絵画・建築・彫刻・音楽の5部門で“芸術競技”が行われ、金銀銅のメダルも授与されるようになりました。しかし、作品の輸送や客観的審査の難しさから、1948年のロンドン大会が最後の“芸術競技”となったのです。

 そして、このロンドン五輪の音楽部門には、カナダの音楽家等も参加しました。その中心メンバーの1人が女流作曲家の嚆矢にして、現代音楽の巨匠バーバラ・ペントランドで、声楽曲「Cities」を出品しました。

University of British Columbia Archives, [UBC 5.1/2414]
University of British Columbia Archives, [UBC 5.1/2414]

 そこで今回の「音楽の楽園」は、バーバラ・ペントランドです。但し、率直に言えば、日常生活の中、彼女の名前や彼女の音楽を聞くことは殆どありません。カナダ人が誰でも知っているヒット曲とかがある訳ではありません。それでも、音楽の楽園たるカナダにおける音楽の発展に注目し、その来し方を振り返れば、バーバラ・ペントランドの音楽的冒険の軌跡は鮮やかです。

ウィニペグ〜旅路の始まり

 バーバラは、1912年1月にマニトバ州ウィニペグの英国系実業家の裕福な家庭に生まれます。父親はスコットランドにルーツを持つペントランド家の出身。母親は、イングランド系のスミス家の出です。両親ともに19世紀に平原州に移民して来たアングロサクソン系で、カナダ社会のエリートです。当時のカナダはと言えば、1867年に大英帝国の植民地から自治領へと昇格しドミニオン・オブ・カナダとなり、近代国家建設が進んでいました。20世紀になると、ウィニペグは、北米全体に拡がる鉄道網の要衝にして穀物取引の中心地として発展していきます。

 バーバラが生まれた頃のウィニペグは「カナダのシカゴ」と称される程に繁栄していました。恵まれた家庭環境でしたが、バーバラは心臓疾患を抱えていて外出のままならぬ状況で幼少期を過ごします。両親とも教育熱心で、家庭内では教養が尊ばれ、クラシック音楽とシェークスピア等の英文学に溢れていました。

 静養生活が続き、運動は出来ず、基本的に室内で過ごす中、3歳にして読み書きが出来るほど才能に恵まれていました。特に、音楽への関心は強かったといいます。家庭教師から教養科目に加えピアノも習うと瞬く間に上達します。運動が出来ない分、才能が音楽に集中したのかもしれません。しかも、誰に教わる訳でもなく作曲を始めます。バーバラの創造中枢は幼くして活性化し音楽は生きる喜びの源泉となるのでした。

禁じられた遊び

 9歳になる頃には、心臓疾患の症状は徐々に軽減していき、バーバラは地元ウィニペグのルパートランド女学院に通い始めます。成績優秀にして、ピアノも作曲も面白くて仕方なかったのです。しかし、実は、ここから彼女の自由への闘争は始まったのです。

 バーバラが自作曲を音楽教師に聴かせると、音楽教師は作曲は男性のする事で女子はしてはいけないと指導するのです。教育を重んじピアノも積極的に勧めた母も、こと作曲となると厳しく禁止したといいます。母が信奉していた当時の上流階級の価値観では作曲は奇人変人の悪趣味と捉えられていたと云います。母にしてみれば、上流階級の良き妻となるためにはピアノが弾けることは良き事だが、作曲はその妨げとなると固く信じていたのです。1920年のカナダ社会の一つの断面だったのでしょう。

 作曲は、バーバラにとっては「禁じられた遊び」でした。12歳の頃、ベートーヴェンのピアノ・ソナタに出会い圧倒され、自分で曲を作る行為に没頭します。ピアノを弾けば、自然に自分の曲が湧いて来るのです。どんなに厳しく禁じられても、頭に浮かぶ自分の音楽を留めることなど出来ません。普通にみられる10代の反抗期とは全く別次元の抵抗だったに違いありません。好きな音楽を極めるためには、母の呪縛と徹底的に対峙しなければならなかったのですから。そんなウィニペグ時代は、15歳の時に終止符が打たれます。

自由への助走〜モントリオール・パリ・ウィニペグ

 学業優秀でもあったバーバラは、1927年から2年間、モントリオールの寄宿舎付女学校(Miss Edgar’s and Miss Cramp’s School)に進学します。母に内緒で作曲は続けつつ、ピアニスト・オルガニスト・指揮者・作曲家のフレデリック・ブレアに師事し、ピアノと楽理を本格的に学びます。師ブレアは、バーバラの潜在的な才能を高く評価します。

 そして、1929年、バーバラは17歳にしてフランス留学の機会を掴みます。その頃には、頑迷に反対していた母もバーバラの作曲への情熱が本物だと認めざるを得なくなったようです。或いは、反対するよりも応援して最先端のパリで思う存分勉強させれば、自分の才能の限界に気付いて諦め、良家に嫁に行くだろうという深謀遠慮だったかもしれません。

 いずれにしても、バーバラはパリのスコラ・カントルム音楽院で1年間、音楽を本格的に学びます。ここはパリ音楽院と並ぶ高等音楽教育機関です。パリ音楽院がオペラとヴィルトゥオーゾ養成を重視したのに対し、スコラ・カントルムでは古楽・宗教音楽・対位法を重視し、エリック・サティやダリウス・ミヨー等の20世紀の作曲家を排出しています。

 そんなスコラ・カントルムでバーバラの指導に当たったのは、長く教鞭を取っていたセシル・ゴーティエ教授です。ゴーティエ教授自身が当時のパリでも珍しかった女性作曲家でした。バーバラは大いに刺激を得たに違いありません。後年のインタビューでは、ゴーティエ教授こそ「最初に本格的に作曲を指導してくれた師」として深い敬意を表しています。パリ留学を終えて故郷ウィニペグに戻ってからも、通信教育という形で師弟関係は続き、作曲の奥義を授かっていきます。古楽・宗教音楽の根本にある基本的骨格を徹底的に極めたのです。これこそ、その上で自由に和声・ハーモニーを展開する未来の可能性の土台です。正に温故知新です。

 1930年、バーバラは故郷ウィニペグに戻ります。が、母の目論見は見事に外れます。19歳のバーバラは、いよいよピアニスト・作曲家として本格的な活動を始めます。自身のピアノ三重奏団も結成します。とは言え、音楽で食っていける訳ではなく、生活は親の世話になるのです。そんな生活が6年続きます。

現代音楽への覚醒

 1936年、バーバラは24歳にしての奨学金を得て、ジュリアード音楽院の大学院コースに進みます。1936年当時のニューヨークは、大恐慌から7年を経て、不況の余韻はあるものの文化が爛熟しエネルギーに溢れていました。ジャズとブロードウェイ・ミュージカルが黄金時代を迎えていました。同時に、欧州ではナチが権勢を振るい、その迫害から逃れるべく、シェーンベルクやバルトークがニューヨークに移住して来ました。ウィニペグから来た無名の作曲家バーバラ・ペントランドの感性は全開で、新しい音楽を吸収するのです。

 ジュリアードの最初の2年間は、パリ時代の延長で古典派の音楽を学びます。しかし、バーバラ・ペントランドの創造中枢は、既に在る音楽の再現では全く満足出来ません。3年目に入ると、既存の音楽の重力圏の外を模索するのです。ストラヴィンスキーの音楽の更に先に目を向けます。これまで学んで来た古楽・宗教音楽・古典派の骨格を吸収した上で、リズムとハーモニーの新しい構造を目指すのです。

 3年間のニューヨーク留学の後、再びウィニペグに戻ります。地元で音楽活動を続けつつも勉強も怠りません。1941年と42年の夏には、マサチューセッツ州西部のバークシャー地方のタングルウッド音楽センターの講習会に参加。そこで、巨匠アーロン・コープランドに師事。古典音楽がヨーロッパで発展して来たからといって、アメリカ的な真に斬新な音楽を創ることを恐れてはいけないとの教えを胸に更に前進します。バーバラは30歳になりました。

音楽家として立つ〜トロント・バンクーバー

 バーバラは、1942年から49年までは、トロント音楽院で教鞭を取ります。第2次世界大戦の勃発で、多くの成人男性が前線に送られ、或いは後方支援に回されたことで、それまで男性に独占されていた仕事に女性が就ける機会が生まれたという面は否定できないでしょう。とは言え、ペントランドの音楽が評価され始めた証左と言えます。音楽教育者としても実績を積んだ訳です。一方、後年のインタビューで、「トロントこそカナダにおける音楽産業・エンタテインメント産業の拠点であったので移住した。当時の社会には厳然として女性差別があったので、作曲家として活動を始めた当初は、バーバラ・ペントランドではなく、女性であることが分からないように、ビオ・ペントランドという名前を利用していた」と述べています。冒頭に記した、ロンドン五輪への参加もトロント時代の業績の一つですが、世界的に見ても、女性作曲家は極僅かでした。

 そして、1949年からは、拠点をバンクーバーに移し、ブリティッシュ・コロンビア大学音楽学部の教授に就任。この時代に代表曲「10声部のための交響曲〜交響曲第3番」を発表します。表題のとおり、10人編成の室内楽オーケストラのための管弦楽曲。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴット、ホルン、トランペット、打楽器、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロによって奏でられます。3楽章10分41秒は、カナダの現代音楽の到達点と言われています。音列とリズムを革新する「セリエル技法」を駆使しつつ、各楽器の最も美しい音色を提示。懐かしさすら感じさせます。

現代音楽の洗礼

 ここで、現代音楽について一言。バーバラ・ペントランドは、師アーロン・コープランドの「恐れることなかれ」という教えを胸に未知の領域へと足を踏み出し、カナダの現代音楽を切り拓きました。ルネッサンス期以降、ヴィヴァルディやバッハやヘンデルの天才等が発展させて来た音楽が20世紀に到達した究極の姿とも言えます。その核心には、音楽を自由に解き放ちたいという衝動があります。とは言え、初めて耳にすると、分かり難いというのが率直な感想でしょう。

 その関連で全く個人的な体験を共有したいと思います。中学生の頃の愛聴盤であったサイモン&ガーファンクルを親友の家に持って行き、彼の父親の書斎の高級ステレオで聴いた時の感動を今でも覚えています。私が持っていた小さなレコード・プレイヤーで聴くのと全く違う豊かな音でした。もっと違う音楽も聴いてみたいと思い、音楽好きだった彼の父親のレコード・コレクションから勝手に何枚か引っ張り出したのです。既にジャズと呼ばれる音楽がある事は知っていましたから、興味があったのです。ジョン・コルトレーンだったと思うのですが、その高級ステレオにレコードを置き針が落ちて音楽が始まるのを親友と2人で待った時のワクワク感は忘れ難いです。しかし、初めて聴くジャズは正直言うと苦行でした。雑音にしか感じず、5分も我慢出来なったのです。何処が良くて世の大人達はこんなモノを聴くのかと思いました。しかし、高校生になる頃には、背伸びして聴く苦行だったジャズの虜になりました。

 ロックとジャズの話で長くなりましたが、現代音楽にも似た面があると感じます。予備知識無しに初めてペントランドの「トッカータ」を聴いた時には、正直に言うと何も感じませんでした。2度目に聴いた時には、無機質な音だと思いました。3度目に聴いた時、何か胸に引っ掛かる感じはありました。但し、感動した訳というでもありませんでした。それでも、引っ掛かる感じの正体を知りたいと思ってもう一度聴きました。その時初めて、自由を希求する精神と真新しい響きを探し出した愉悦があるのだと感じました。ポップ・ミュージックのような綺麗なメロディーはここには有りません。しかし、「トッカータ」には音楽の美しき瞬間があります。

 簡単には気が付かないかもしれませんが、耳を澄まして心を無にすると聞こえて来ます。一度耳が慣れると、ペントランドの音楽には、それぞれの楽器が乱反射を繰り返しながらキラキラと煌めく音の断片が連なって行き、抒情と哀愁が現れて来るのがわかります。無機質と感じた響きは透明感の裏返しなのです。音楽を聴く醍醐味がここにあります。

結語

University of British Columbia Archives, [UBC 5.1/2415]
University of British Columbia Archives, [UBC 5.1/2415]

 バーバラ・ペントランドは、女性作曲家の道を開拓し、難解な音楽として敬遠されるアバンギャルドな現代音楽の地平を拡げました。女性作曲家と現代音楽という2つのマイノリティを主流に押し上げるための人生でした。1949年から教鞭を取り、彼女の音楽活動の拠点としていたブリティッシュ・コロンビア大学でも、音楽学部改革の最中に教育方針等で折り合いが付かず、1963年には辞職に追い込まれました。が、彼女は己の道を歩み続けます。1930年にパリから戻ってからの50年間で100曲を超える作品を世に問うています。

 時代がようやく追いつくのは1970年代になってからです。1976年には、故郷のマニトバ大学から名誉博士号を授与され、1987年には拠点であるバンクーバー市が彼女の誕生日である1月2日を「バーバラ・ペントランドの日」に指定しました。1989年にはカナダ人にとって最高の栄誉であるカナダ勲章を授与されました。

 バーバラ・ペントランドは、極短い結婚生活を除き、生涯独身を通しています。「私の作品は私の子供」と語っています。2000年2月に88歳で逝った彼女の作品群は20世紀のカナダ社会を映す鏡でもあります。

(了)

山野内勘二・在カナダ日本国大使館特命全権大使が届ける、カナダ音楽の連載コラム「音楽の楽園~もう一つのカナダ」は、第1回から以下よりご覧いただけます。

音楽の楽園~もう一つのカナダ

山野内勘二(やまのうち・かんじ)
2022年5月より第31代在カナダ日本国大使館特命全権大使
1984年外務省入省、総理大臣秘書官、在アメリカ合衆国日本国大使館公使、外務省経済局長、在ニューヨーク日本国総領事館総領事・大使などを歴任。1958年4月8日生まれ、長崎県出身

自力整体カナダ2025年10月から2026年3月までのお知らせ

自然治癒力・自己免疫力がつき、身体が整う教室を開催しています

身体の痛みや各種の不快症状も自分で完治できるどこにもない教室です

★日系センター教室   初心者、単発参加も大いに歓迎 !

⑩金曜日クラス 10月3日(金)・31日(金) AM10:30~11:30
10月の日曜日クラスは休講

⑪金曜日クラス 11月7日(金)・21日(金) AM10:30~11:30
日曜日クラス 11月30日(日) 正午~13:00

⑫金曜日クラス 12月5日・12日・19日(金)AM10:30~11:30
12月の日曜日クラスは休講

①金曜日クラス 1月9日(金)・23日(金)AM10:30~11:30
日曜日クラス 1月18日(日) 正午~13:00

②金曜日クラス 2月6日・13日・2月20日(金)AM10:30~11:30                                
2月の日曜日クラスは休講

③金曜日クラス3 月13日(金)・20日(金)AM10:30~11:30
日曜日クラス  3月29日(日) 正午~13:00

★Web教室も好評配信中❢サンプル動画もお気軽に❢
(月)・(木)の夕方クラス(週1回、1回90分)
(木)・(土)の朝のクラス(休憩時間5分込です)
★ Zoom配信ではなくWebが苦手な方も簡単と好評 ★

★Webサイトも「自力整体法カナダ」で配信中❢]
(Jirikiseitai.Canada@)

詳細・お問い合わせはお気軽に、、、
☎ 604-448-8854
eメール jirikiseitai.canada@gmail.com

★メールで教室開催案内を希望の方はお知らせください。

第28回 放置の方が高くつく!? 遺言とノート、作らなかった“代償”とは ~Let’s 海外終活~

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

「遺言を作るのに高いお金は払いたくない」
「ノートなんて作らなくても、誰も困らないでしょ?」

そんな声を、今でも耳にします。しかし実際にそのまま人生を終えたとき、“放置の代償”は想像以上に大きくなるのです。

今回は、私がこれまでに見てきた現実の例をもとに、 遺言やノートを作らなかったことで起きる困難や負担についてお話しします。

遺言がないと、裁判所の手続きが複雑に

ある日、カナダ国内で日本人の男性が急逝。配偶者や子供はおらず、血縁者は全員日本に住んでおり、現地では友人が手続きを手伝うことになりました。

彼には遺言がなかったため、まずは裁判所で 「誰が遺産管理人になるか」を決める手続きから始まります。申請に必要な情報を調べ上げ、各金融機関へ連絡し、裁判所に書類を提出する——。そのプロセスと最終的な遺産分与までには数十ヶ月〜数年に及び、弁護士費用だけで100万円超えになることもあります。

遺言は「本人のため」というよりも、「残される人のため」のもの。だからこそ、亡くなる直前に家族が弁護士を病院やホスピスへ呼び、急いで遺言を作成するケースも少なくありません。

しかし急な依頼では、書類の準備や時間外対応などで通常の3〜5倍の費用がかかることもあります。「もっと早く準備してくれていたら」そうした後悔が残る場面を、私は何度も見てきました。

友人に頼ったとしても、限界がある

現地に家族がいない場合、頼れるのは友人です。最初は「世話になったから」「生前に頼まれていたから」と、善意で奔走してくれる人もいます。

しかし、何ヶ月にも及ぶ複雑な手続きや日本の親族とのやりとりに疲れ果て、 途中で「もうやめたい」と思ってしまう人も少なくありません。

しかも、その友人は遺言で相続人に指名されていない限り、どれだけ尽くしても遺産を受け取ることはできません。裁判所や金融機関から見れば「ただの第三者」であり、報酬も基本的にはなく(場合によってはあり)、苦労だけを背負うのです。

迷惑をこうむるのは、遺産を受け取る血縁者よりも、むしろ身近な友人であることも少なくありません。これも「準備をしないこと」の現実です。

ノートがないと、探し物から大混乱

遺言があっても、エンディングノートがないと別の問題が起きます。

・いくつ口座があり、どの銀行にあるのか?
・スマホのロック解除方法は?
・オンラインの明細やサブスクの「ログイン情報をどこに保管しているか?」
・加入している保険や会員サービスは?

まさに「知らないこと」だらけで、残された人は困り果ててしまいます。さらに、本人の希望がわからないことは、大きな負担となります。大切にしていたコレクションをどう扱うか。お墓やお葬式の希望はどうだったのか。判断に迷い続けることで、家族や友人は精神的に疲弊し、「これで良かったのだろうか」というモヤモヤを抱え続けることも少なくありません

一方で、ノートに思いや感謝の言葉が残されていれば、それだけで救われるご家族も少なくありません。「大切な人が最期に何を望んでいたのか」それを知ることができるのは、大きな支えになります。

“準備しないリスク”は、お金だけではない

遺言やノートを残さなかった場合、負担になるのは手続きや費用だけではありません。

大切な人の心に、迷いや争い、そして後悔を残してしまう。これこそ、最も見過ごせないリスクです。もちろん、準備には時間やエネルギーが必要です。しかし「何も残さないこと」の方が、まわりの人にとっては、より大きな負担になるのです。

今日のまとめ

遺言がなければ裁判所の手続きに時間と費用がかかり、ノートがなければ探し物や希望の不明確さで家族や友人が疲弊してしまいます。残さなかったこと、準備しなかったことが、結果的に大切な人を苦しめることもあるのです。

あなたの代わりに、誰かが泣きながら走り回る前に。小さな一歩から準備を始めてみませんか。

Let’s 海外終活!
「やっておけばよかった」と思わない未来へ。

終活とは誰かのためだけではなく、自分自身がこれからを楽しく悔いなく生きるために取り組むもの——。私はそれを「私活」と呼んでいます。

*ご感想・ご質問は、メールにてお気軽にどうぞ。voice@shukatsu.ca

本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

グローバルライフデザイナー/海外終活アドバイザー
カナダ・バンクーバー在住。

カナダで親しい友人を突然亡くしたことをきっかけに、終活の大切さを実感。
相続専門の弁護士アシスタントとしての経験をもとに、海外を含むさまざまな場所で暮らす日本人の終活を、学びの視点から支えている。

エンディングノートの活用や家族との対話を通じて、「自分らしくこれからを生きる」ヒントを共有する活動を続けている。

「終活」を、これからの人生を見つめ直す機会ととらえる——そんな“私活(わたしかつ)”という考え方も、大切にしている。

家族は、カナダ人の夫、2人の息子、愛猫1匹。
ホームページ:https://www.shukatsu.ca

和の学校@東漸寺9月のお知らせ

こんにちは。
夏休みが終わり、秋の風を感じる季節となりました。
9月9日は重陽の節句です。
陽が重なり、邪気を払うと言われています。

コキットラム市にあります東漸寺では、親子さん向けの五節句のお祝いとキッズ茶会を開いております。

今年最後のお節句のイベントとなります。
どうぞ、皆様お揃いでお寺へお越しください。

以下、ご案内となります。
どうぞよろしくお願い致します。

コナともこ
和の学校@東漸寺

重陽の節句

子ども演劇、茶道体験

914日(日)
午前1015分〜子ども演劇体験
午前11時〜子ども茶道体験

重陽の節句*キッズ茶会

子どもたちと楽しむ、お茶の時間♪呈茶スタイルでカジュアルに茶道経験してみましょう。
お茶代:$3(お子様〜12歳)$5(13歳〜大人)同時開催「子ども演劇体験」参加費:無料

演劇というコミュニケーションの表現を通じて、親子で昔話などの朗読や体を使った遊びをしてみませんか。
毎週日曜日、各種稽古を行っております。
最初は見学や体験から、お気軽にご参加くださいませ。

「フィルム向/殺陣教室」

9月7日、14日、28日(日曜日)*21日はお休みとなります。
午前10時~午後11時半 「殺陣*レギュラークラス」午後12時~午後1時半 「殺陣*基礎クラス」

<参加費>
レギュラークラス、基礎クラス
$23/回

「着付教室、着物ワークショップ/着物クラブ」

ご自分で着物を着て、お出かけしてみませんか。初心者向けの着付け教室です。
着物及び帯や小物のレンタルもしております。(有料)

*日時について変更もございますので、その都度ご連絡をいただけましたら幸いです。

<参加費>
通常教室$25/回(グループクラス;最少人数3名)

*セミプライベートやプライベートクラスもございます。

レンタル着物&名古屋帯$30/回 レンタル浴衣&半幅帯$20/回

「茶話タイム」
午後12時~1時
(茶話タイム内では、各種お教室に参加された方同士の社交の場として、お愉しみください。着物クラブを同時開催することもございます。)
茶話タイム $5~ドネーション/教室への参加者は無料です。

<和の学校@東漸寺イベント及び各種教室のお申し込み*お問い合わせ>
和の学校@東漸寺TOZENJI コナともこ tands410@gmail.com

住所 209 Jackson street Coquitlam, B.C.
和の学校@東漸寺ホームページ https://wanogakkou.jimdofree.com/

Today’s セレクト

桜の模様が鮮やかな青い衣装をまとい、和傘を手に舞う「桜舞トロント(Sakuramai Toronto)」の踊り子たち。トロントを拠点に、カナダ各地でよさこいの魅力を伝えている。2025年9月27日、アルバータ州レスブリッジ市。提供: KOKUYOSA Project Committee

「よさこい、海を越えて」北米初の国際祭りがカナダで実現

「北米国際よさこい祭り」がアルバータ州レスブリッジで開催された。イベントを主催した3人に話を聞いた。

最新ニュース