前回のコラムでも書いたように、町で唯一のインフルエンザ接種機関として、マネージャーの私が自ら最前線に立って、多くの患者さんにワクチン接種を行ってきました。久しぶりに顔を見る患者さんとは話が盛り上がり、また最近の患者さんが注射について気になっていることなどが分かって、大変参考になりました。
一方で、たまった通常業務を片づけるために、夜遅くまで仕事をしている日も少なくありません。日本がバブル絶頂期だった昭和から平成にかけて育った世代なので、毎日の残業もあまり苦になりません。今どき「馬車馬のように働いていただく」なんて言ってしまう高市早苗首相とは、気が合うかもしれません(笑)。
沢山働くのは良いと思いますが、誰もが年を取ると免疫力は下がりますよ、年齢に応じてワクチン接種を受けましょう!というのが今回のお話です。
免疫老化とは
人間は歳を重ねるにつれ、免疫機能は自然と低下し、これを免疫老化と呼びます。免疫老化は、免疫応答に関わる細胞の機能が低下し、加齢に伴い感染症に対する抵抗力が弱くなります。このため、高齢の方はインフルエンザや肺炎球菌のような感染症、また帯状疱疹にかかりやすく、重症化のリスクも高まります。だからこそ、ワクチンで予防できる病気については、その力をうまく利用して、健康を守る手段として役立てて頂ければと思うわけです。以下、秋から冬にかけて検討したい、大人のためのワクチンリストです。
RSVワクチン
呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory syncytial virus: RSV)は乳幼児から高齢者まで幅広い年齢層で呼吸器感染症を引き起こすウイルスです。冬に流行し、乳幼児だけでなく高齢者にも重篤な肺炎や呼吸不全を引き起こします。75歳以上や心肺疾患のある方、COPDや喘息の方は特にリスクが高いです。80歳以上や基礎疾患のある高齢者では、RSVによる入院や死亡のリスクはインフルエンザと同程度まで高まることが報告されています。
2023年に承認された2つのRSVワクチン(Arexvy®とAbrysvo®)は、いずれも重症化を約80%防ぐとされ、安全性も良好です。Arexvyは高齢者向けワクチンで主に65歳以上を対象としているのに対し、Abrysvoは高齢者向けに加え、妊婦さんに接種することで、生まれてくる赤ちゃんをRSVから守る目的でも使用されます。
薬局によって多少の差はありますが、1回あたりおよそ270〜300ドル前後です。民間保険で一部または全額がカバーされる場合もあります。
臨床試験では、Arexvyで3シーズン目、Abrysvoで2シーズン目まで一定の有効性が示されていますが、実際にどのくらい長く効果が続くかはまだ評価途上です。現時点でカナダのガイドラインでは追加接種(ブースター)は推奨されておらず、今後のエビデンスを踏まえて接種間隔が検討される見込みです。
肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌は細菌性肺炎の代表的な原因菌で、高齢者の肺炎による死亡に大きく関わっています。特に65歳以上で発症率が高く、肺炎だけでなく敗血症や髄膜炎の原因にもなります。
これまで成人の肺炎球菌予防には、20種類の血清型をカバーする20価ワクチン Prevnar 20®と、23種類をカバーする23価ワクチン Pneumovax 23®が使われてきました。以前は、公費で接種できる Pneumovax 23®が主流でしたが、Prevnar 20®は糖鎖をタンパク質と結びつけた「結合型ワクチン」と呼ばれ、より質の高い免疫応答が期待できることから、自費接種ながらもこちらを選ぶケースが徐々に増えていました。そして2025年7月からは、65歳以上の方には Prevnar 20®が公費負担へ切り替わりました。副反応は腕の痛みなど一時的で軽いものが多く、一度だけの接種になります。ぜひ65歳以上の皆さんには受けて頂きたいワクチンです。
インフルエンザワクチン
インフルエンザウイルスは毎年変異し、ワクチンも流行株に合わせて更新されます。ただ、今年11月に入って、今年はワクチンの型と流行型のミスマッチであるという報道(https://www.cbc.ca/news/health/cbc-explains-flu-shots-influenza-vaccine-2025-9.6976530)が出てからというもの、予防接種の意義についての質問が相次ぎました。煽り気味の記事でなんと厄介な報道が出たなと思いましたが、最後の方にはちゃんと効果はゼロではありませんから、接種を受けるようにしてくださいと書いてありました。
BC州では6か月以上の住民に無料で提供されており、注射型のワクチンが中心ですが、子供向けに鼻にスプレーするタイプのワクチンも使用されています。高齢者用には抗原量が通常の4倍の高用量ワクチン(Fluzone HD®)もありますが、こちらは自己負担が発生します。在庫のない薬局も多いので、今から希望される方は予め薬局に連絡を取ることをお勧めします。
COVID-19ワクチン
パンデミックの危機は過ぎても、COVID-19は無くなったわけではありません。そのため最新のワクチン接種が重症化を防ぐ鍵と言えます。アルバータ州ではCOVID-19ワクチンは約130ドルの自己負担となったのに対し、BC州では無料で提供されています。副反応で具合が悪くなるようなことがない限り、ぜひCOVID-19の予防接種を受け続けて頂くのが賢明かと思います。
帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は、水痘ウイルス(chickenpox)が体内に潜伏したまま、加齢などで免疫力が低下した際に再活性化して起こる病気で、50歳頃から発症率が急増します。帯状疱疹そのものの痛みに加え、30%以上の高齢者でみられる帯状疱疹後神経痛は、日常生活に大きな支障を来すことがあります。季節性はなく、免疫力が落ちたタイミングで、年間を通じて誰にでも起こり得ます。
現在使用されている帯状疱疹ワクチンShingrix®は、2〜6か月の間隔で2回接種されます。2回接種を完了することで、帯状疱疹の発症をおよそ80〜90%抑えることができます。一方で、副反応として接種部位の痛みや腫れ、発赤のほか、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、筋肉痛などの全身症状が比較的よくみられます。これらの症状は通常1〜3日程度で自然におさまりますが、2回目の接種後の方が、これらの症状がやや強く出る人が多いです。
BC州では現在Shingrix®は自己負担(1回につき190ドル前後)のワクチンですが、民間保険が一部または全額を補助することがあります。2回接種で約400ドルと決して安いワクチンではありませんが、「帯状疱疹後神経痛だけは経験したくない」と接種を希望される方は後を絶ちません。
最後になりますが、予防接種は保険のようなもので、万が一のときに備える手段のひとつです。年齢や持病の有無、生活スタイル、そしてお財布事情も含めて、ご自分にとってどのワクチンを受けるのが適当かをファミリードクターや薬剤師と相談しながら考えて頂ければ幸いです。
*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca
佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)
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