「菊日和*おじぎも揃い 子ども茶会」

カナダde着物

第75話
*白ひとえ秋風もまとう*

 夏休みが終わり、新学期が始まりました。自宅の近所の小学校へ通う子どもたちを、孫を見るような気持ちで見守りながら、自分の三人の娘の送り迎えをしていた頃をふと思い出しました。

 あの慌ただしくも愛おしい日々が、今では心の宝物です。

「Mallard duck Family with Water Fountain」 Manto Artworks
「Mallard duck Family with Water Fountain」 Manto Artworks

 私が住むカナダのブリティッシュコロンビア州は、森と山々、そして海に囲まれた、自然豊かな土地です。初秋の風が吹きはじめ、木々の葉もほんのり色づき始めました。朝晩の空気には少し冷たさがまじり、季節の移ろいを肌で感じます。

 庭先ではリスが忙しそうに木の実を集め、空にはカナダ雁が列をなして飛びはじめる頃です。

「初秋ブリティッシュコロンビア州ビクトリア ビーコンヒルから太平洋を眺める」コナともこ
「初秋ブリティッシュコロンビア州ビクトリア ビーコンヒルから太平洋を眺める」コナともこ

*今日の着物*Today’s Kimono

「白ひとえ秋風もまとう」

 陰陽五行では、秋は「白」を司るとされ、「白秋」とも呼ばれます。また、季語には「素秋」という言葉もあり、この「素」もまた、白を意味しています。

 母から譲り受けた、白い単(ひとえ)の着物があります。これまでは、夏が終わってから白を着るという発想がありませんでしたが、手元の着物を見ると「柿渋で染められている」と記されていました。
 秋といえば柿の季節-その一言に、ふと納得がゆき、白が秋に寄り添う色として心にすとんと落ちました。

 その着物を身にまとい、次女との小旅行に出かけることにしました。大学と専門学校をこの夏に卒業した彼女へのお祝いとして、ビクトリアでアフタヌーンティーを楽しもうと、ふたりで計画を立てました。

 今回は時間の都合もあり、ダウンタウンにある「Pendray Tea House」にて、午後5時から始まるスコットランド式のハイティーを予約しました。
 100年ほど前に建てられた瀟洒なお屋敷は、外観が真っ白で可憐な印象。中に入ると、重厚な木製のインテリアと、美しいステンドグラス、そして白いレースのカーテンが海風にさらさらと揺れ、まるで昔の貴族の邸宅に迷い込んだような気分に包まれました。

 私の装いはもちろん、あの白い単衣の着物。かつての英領カナダのクラシカルな空間に、日本の和が静かに溶け合い、不思議としっくり馴染んでいたように思います。

「しぼ織柿渋染め小紋着物 / 塩瀬モダン柄袋帯: Pendray Tea Houseにて」コナともこ
「しぼ織柿渋染め小紋着物 / 塩瀬モダン柄袋帯: Pendray Tea Houseにて」コナともこ
「ビクトリアPendray Tea Houseにて」コナともこ
「ビクトリアPendray Tea Houseにて」コナともこ

*今日の和の学校*Today’s gathering*

「菊日和*おじぎも揃い 子ども茶会」

 今年の五節句の締めくくりとして、お寺で「重陽の節句」のお祝いをいたしました。「菊の節句」とも呼ばれるこの日は、9月9日にあたり、奇数の中でも最も大きな陽数「九」が重なることから、古くから特別な節目として尊ばれてきました。長寿や無病息災を願う節句として、平安時代より人々に親しまれてきた行事です。

 当日は東漸寺の本堂にて、10人の親子が集い、静かで温かな時間をともに過ごしました。
 呈茶(ていちゃ)のかたちでふるまわれたのは、「着せ綿(きせわた)」を模した練り切りの上生菓子と、日本から取り寄せたお抹茶です。

 「着せ綿」とは、平安の昔、重陽の節句に菊の花に真綿をのせて香りをうつし、その綿で身をぬぐうことで邪気を払う-そんな雅な風習に由来しています。
 今回のお菓子の中央に添えられたふわふわとした意匠は、その綿を表しており、子どもたちにも「これは何だろうね?」と問いかけながら、日本の季節の文化に触れてもらうきっかけとなりました。日本の伝統が、遠く離れたカナダの地にも静かに根づいていることを、あらためて実感するひとときとなりました。

「重陽の節句 子ども茶会:和の学校@東漸寺」コナともこ
「重陽の節句 子ども茶会:和の学校@東漸寺」コナともこ

*参照*

暦生活
https://www.543life.com

Wikipediaから五行思想(ごぎょうしそう)または五行説(ごぎょうせつ)

家庭画報<単の着物>
https://www.kateigaho.com/article/detail/165406

「着物語り」
コナともこさんが着物の魅力をバンクーバーから発信する連載コラム。毎月四季折々の着物やカナダで楽しむ着こなしなどを紹介します。
2020年8月から連載開始。第1回からのコラムはこちらから

コナともこ
アラ還の自称着物愛好家。日本文化の伝道師に憧れ日々お稽古に励んでおります。
14年前からコキットラム市の東漸寺で「和の学校」を主宰。日本文化を親子で学び継承する活動をしております。

年間を通じて季節の行事に加え、お寺での初参り、七五三祝い、十歳祝い、元服祝い、二十歳祝い、結婚式、生前葬、お葬式などの設えと装いのお手伝いもさせていただいております。

*詳しくはコナともこ までお問い合わせ下さい。tands410@gmail.com
東漸寺は非営利団体で、和の学校の収益は東漸寺の活動やお寺の維持の為に使われています。

カナダ人の夫+社会人と大学生の3人娘がおり、バンクーバー近郊在住。

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「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks
「東漸寺🌸春🌸2024」Manto Artworks