広島・長崎から80年、ハミルトンでサーロー節子さんと平和について考える

ドキュメンタリー映画上映前にあいさつするサーロー節子さん。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
ドキュメンタリー映画上映前にあいさつするサーロー節子さん。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 広島・長崎の被爆の歴史を通して戦争や平和について考えるイベント「終戦80年-広島長崎を通して戦争を考える-(80 Years On: Learning from Hiroshima and Nagasaki, Together with the Next Generation)」が7月5日に開催された。

 イベントはオンタリオ州ハミルトン市とブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバー市での同時開催。さらにオンラインでも参加可能で、オタワ市(オンタリオ州)、ウィニペグ市(マニトバ州)、ビクトリア市(BC州)、ユーコン準州、ケベック州から、そして日本からも含め約600人が参加した。

 全カナダ日系人協会(NAJC)傘下の新移住者委員会(JNIC)とトロント都道府県人会・連合会が共催、人権委員会(HRC)、NAJCハミルトンチャプター、Greater Vancouver Japanese Canadian Citizens’ Association、バンクーバー広島県人会、バンクーバー日本語学校が後援した。

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定員350人を超える参加者がハミルトンに集う

 ハミルトン市ではウエストデール劇場で開催された。車で約1時間のトロント市などからも参加し、会場は定員350人を超える人が集まった。なかには、ハミルトン市の姉妹都市、広島県福山市に住んでいたことがあるというカナダ人女性もいた。

定員350人が満席となり立ち見まで出た会場で。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
定員350人が満席となり立ち見まで出た会場で。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 映画の前には、Inner Truth Taiko Dojoの和太鼓演奏や高知県よさこいアンバサダー「絆国際チームカナダ」によるダンスが披露された。

 会場内にはトロント都道府県人会・連合会から、新潟県人会、広島県人会、宮崎県人会、沖縄県人会などがブースを設置して、各県の特徴や関係の深い人物を紹介。オンタリオ広島県人会のブースでは、「平和の祈りと願い」を書くコーナーが設けられ、それぞれに思いを込めた。

サーロー節子さんをゲストスピーカーに迎えて

 ハミルトン会場ではサーロー節子さんをゲストスピーカーに迎えた。広島女学院高等女学校在学中に学徒動員先で13歳の時に被爆、アメリカ留学中の経験を機に体験談を通した平和活動を続けている。2017年にはICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)と共にノーベル平和賞を受賞した。

 上映前にあいさつした節子さんは、この映画は自分の個人的な人生と、経験と考えを映し出しているが、加えて、核兵器廃絶活動や自分が出席したさまざまな会議の模様など背景情報も多く、とても教育的な内容となっていると紹介。映画の完成が新型コロナウイルス禍となったためすぐに映画館での上映がかなわなかったが草の根運動的に上映が実現し、「アメリカや日本で非常に良い反応を受けました」と説明した。「私が楽しんだように、皆さんも映画を楽しんでくれるとうれしい」と語った。

「民主主義に責任のある市民になってほしい」

 ドキュメンタリー映画「The Vow from Hiroshima(広島への誓い)」は、サーロー節子さんの平和活動と、プロデューサーを務めたニューヨーク在住の被爆2世・竹内道さんの思いを交錯させながら、節子さんの被爆体験者として「核兵器は二度と使ってはならない」という強い思いを訴える。

サーロー節子さんとの質疑応答の様子。左はNAJC副会長ハミルトンチャプターの浜出正さん、右はNAJCビクトリア理事ピアレスゆかりさん。2人はこの日司会を務めた。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
サーロー節子さんとの質疑応答の様子。左はNAJC副会長ハミルトンチャプターの浜出正さん、右はNAJCビクトリア理事ピアレスゆかりさん。2人はこの日司会を務めた。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 上映会の後には質疑応答の時間が設けられた。350人を超える参加者が節子さんの一言一言に耳を傾けた。

 なかには、日系カナダ人が戦中に差別により強制収容されたことと重ね合わせ、原爆投下に差別意識が働いていたと思うかとの質問があった。節子さんは当時のマッケンジー・キング首相がヨーロッパではなく日本の町に爆弾が落とされてよかったという趣旨の日記の内容を紹介した。実際のキング元首相の日記に記載された言葉は、“We now see what might have come to the British race had German scientists won the race. It is fortunate that the use of the bomb should have been upon the Japanese rather than upon the white races of Europe.” From Library and Archives Canada “Diaries of William Lyon Mackenzie King on Page 3 of August 6, 1945.”(今ならもしドイツの科学者たちが(原子爆弾の開発競争に)勝っていたらイギリス民族に何が起こっていたか分かるだろう。爆弾の使用がヨーロッパの白人種ではなく、日本人に対して行われたことは幸運だった。訳:日加トゥデイ)

 若者へは「民主主義に責任のある市民となってほしい」とメッセージを送った。この日上映された映画などを見て、当時何が起きたのか、政治的にどういう決断が下されたのか、その結果人間の生活と状況がどう変わったのかを知ってほしいと語った。「情報は知識となり、その蓄積はこうした問題への感情的な思い入れに変わると思う。今日の映画があなたたちの心に何かをかき回すような感情を起こしたのなら、それを追いかけ、よく考えてほしい。そして、家族や友達に伝えてほしい。行動を起こしてほしい。地元メディアや政治家に思いを送ってほしい」と訴えた。

 核兵器廃絶は常に政治的に決断される。市民の声を集め、政治家を動かし、核のない世界を実現するために行動してほしいと若者に語り掛けた。政治を動かすには時にかなりの時間がかかる。しかし、「122カ国が全ての核兵器を廃絶することに同意したのです」と、2017年7月7日に国連で採択された核兵器禁止条約の実現を例に挙げ、あきらめずに一歩ずつ前進することの大切さを語った。

講演の時にはいつも持っているという被爆時に広島女学院に通っていた学生や教職員の名前が書かれた黄色い布を広げて説明するサーロー節子さん。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
講演の時にはいつも持っているという被爆時に広島女学院に通っていた学生や教職員の名前が書かれた黄色い布を広げて説明するサーロー節子さん。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

 その後、山吹色の布を取り出した。そこにはびっしりと名前が記されている。節子さんが通っていた広島女学院時代の仲間で、原爆で亡くなった教職員や学生たちだ。「一人ひとりに人生があった。私は彼女たちの声なき声を代弁している」と涙をこらえた。

 質疑応答の後には会場にいた参加者が壇上で節子さんと直接対話する時間も設けられた。長蛇の列となったが、一人ひとりと言葉を交わしていた。

NAJC事務局長・石井キャロラインさんがあいさつ。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
NAJC事務局長・石井キャロラインさんがあいさつ。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
あいさつで「サーローさんの言葉に直接耳の傾けられる貴重な機会と思っております」と語る在トロント日本国総領事時間・太田友啓領事。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
あいさつで「サーローさんの言葉に直接耳の傾けられる貴重な機会と思っております」と語る在トロント日本国総領事時間・太田友啓領事。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
オンタリオ広島県人会のブースに設置された「平和の祈りと願い」を書くコーナー。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
オンタリオ広島県人会のブースに設置された「平和の祈りと願い」を書くコーナー。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
会場となったウエストデール劇場前で和太鼓を演奏するInner Truth Taiko Dojo。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
会場となったウエストデール劇場前で和太鼓を演奏するInner Truth Taiko Dojo。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
和太鼓に続いて、高知県よさこいアンバサダー「絆国際チームカナダ」がダンスを披露した。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
和太鼓に続いて、高知県よさこいアンバサダー「絆国際チームカナダ」がダンスを披露した。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
ウエストデール劇場の入り口付近で原爆に関する資料を読む参加者。手前の資料は佐々木禎子さんについて説明している。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ
ウエストデール劇場の入り口付近で原爆に関する資料を読む参加者。手前の資料は佐々木禎子さんについて説明している。2025年7月5日、ハミルトン市。撮影 三島直美/日加トゥデイ

(取材 三島直美)

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