沖縄の文化を紹介し、平和を祈る「Ichari-Van Night 2025」が6月22日、バーナビー市の日系文化センター・博物館で開催された。
主催はバンクーバー沖縄太鼓、後援バンクーバー沖縄県友愛会。昨年に第1回を開催、第2回となる今年は沖縄戦終結から80年という特別な意味を持つ。
今年も日本時間の6月23日、沖縄戦終結を悼む「慰霊の日」に合わせて開催された。この日は、沖縄だけでなく、バンクーバーを含め沖縄に関係ある多くの場所で、人々が集い、踊りや演奏を通して平和を思い、沖縄の歴史を胸に刻む日となっている。
会場には沖縄文化や歴史ブースも

沖縄戦は1945年、太平洋戦争末期に行われた地上戦で、約20万人が犠牲となった。そのうち約12万2千人が民間人を含む沖縄県民だったとされている。日本軍とアメリカ軍の激しい地上戦に巻き込まれ、犠牲者の数は一般住民が軍人・軍属を上回った。焦土と化した沖縄は多くの物を失ったが、人々は戦後復興に向けて動き出す。その中で復興した一つがエイサー。会場での資料によると、沖縄戦で多くの踊り手を亡くし危機に陥るも、各地の収容所で踊られるなどして継承され、沖縄の人々に勇気を与え、やがて慰霊と希望の象徴となったという。
Ichari-Van Nightは、そうした沖縄戦の歴史を見つめ直し、文化の継承と平和をつなぐ場として昨年からバンクーバーで開催されている。沖縄のことわざ「いちゃりばちょーでー(一度会えば、皆兄弟)」の精神を基に、まるで家族のように国や文化の垣根を越えて「共に世界の恒久平和について考え、希望を持ち実践していく一歩を歩み出す」のがこのイベントの大きな目的。

会場では、沖縄そばやサーターアンダギーなどの沖縄料理が販売され、開始直後から長蛇の列ができた。また、沖縄戦の歴史や、琉球舞踊、三線、沖縄エイサーの起源と伝承について紹介する展示ブースも設けられ、戦前と戦後の文化の歩みや沖縄戦の背景を伝える写真や資料が並んだ。訪れた人たちは、フードや演舞を楽しむだけでなく、文化の背景とともに沖縄の歴史にも理解を深めていた。
伝統文化と平和への思い込めて

ステージは、優雅な琉球舞踊「かぎやで風」で演舞の幕を開けた。続いて、色鮮やかな衣装をまとったパフォーマーたちが、全身を使った力強いエイサー・ミルクムナリを披露。太鼓の音が「ドン」と響くたびに観客の体にまで振動が伝わり、迫力ある演奏で視線を引きつけた。
このほか、戦前から受け継がれてきたカンカラ三線や三線の演奏も披露され、平和のメッセージをより多くの人に届けようと手話を取り入れた演出もあった。合唱に参加する人や、手作りの太鼓を持った子どもが音楽に合わせて太鼓を鳴らす姿も見られ、世代を超えて会場が一体となった。
そして午後8時、日本時間6月23日正午、黙とう。エイサー演舞で幕を閉じた。

Ichari-Van Night実行委員長の兼次飛翔(つばさ)さんは、祖父が沖縄戦を経験していたことを話した。その祖父は生前、戦争については深く語らなかったと言い、「もっと話を聞いておけばよかった」との後悔が今も心に残っているという。
その経験から来場者に「今、身近な人たちの声に耳を傾けてほしい」と呼びかけ、語られる内容は、温かいことだけではなく、悲しいことや聞くのが難しいことがあるかもしれないが、「それを聞くことで、なぜ自分たちが平和に暮らせているのかが分かる」と語った。「今も世界の多くの場所で紛争や暴力が続いている。今夜が平和について考えるきっかけになれば」と思いを込めた。
「受け継ぐことの重要さ、これが私たちの使命」
沖縄戦では家族を守りながら必死に逃げた人たちがいた。バンクーバー沖縄太鼓代表の花城正美さんは、その姿や親子の絆、命の尊さの思いを「歌詞や振り付けを通して表現している創作家の意向を理解しながら演舞したいと思った」と語る。

バンクーバー沖縄太鼓は昨年20周年を迎えた。花城さんは「小さい頃から一緒にエイサーをしてきた子たちが、今は舞台や演出を自分たちで試みている」と話し、今回のイベントを通して世代を超えて沖縄文化が受け継がれていることを実感したという。今日のイベントについては「大成功です」と笑顔を見せた。
戦後80年という節目を迎えたことについては「語り継ぐ人が減っている今、若い世代に分かりやすい形で伝えるには、エイサーや歌が一番」とし、今年は平和への願いを込めて作られた島唄を歌い、戦中・戦後の曲で「私たちの恒久平和への思いを表現した」と話す。

戦後の月日が流れ、これまで戦時中の体験を語らずにきた人たちが、沖縄戦の歴史を語り始めている姿を目にするようになったことにも触れ、「受け継ぐことの重要さは今後ますます大きくなる。それが私たちの使命」と感じたという。
そして、「バンクーバーは平和を経験できるところ。だからこそ、ただの居心地のいい場所で終わっておきたくない」と述べ、この地から沖縄の思いを発信し続け、世界で起きている出来事にも目を向けていきたいと平和への願いを語った。


(取材 田上麻里亜/写真 斉藤光一)
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