第34回 遺言だけではなかった!?エンディングノートがあれば防げた、まさかの事態 〜Let’s海外終活〜

終活は新しい大人のマナー

叶多範子

春の気配が整い、桜のつぼみも膨らむ季節となりました。

私の住むBC州では、2026年3月8日をもってDaylight Saving Time(夏時間)が廃止され、時計の針を動かす必要がなくなりました。

個人的にはこの変化を歓迎していますが、一方で『変わらないこと』の安心感も実感しています。終活において、変わらずに準備しておくべきなのは、万が一の時に家族が迷わないための『情報』です。

さて前回は、遺言がなかったことで多くの人が巻き込まれてしまったAさんのケースをご紹介しました。

「やっぱり遺言は大事だな」と感じた方も多かったかもしれません。
確かに、遺言があれば相続の大きな方向は決めておくことができます。誰が遺産を受け取るのか。誰が手続きを進めるのか。そうした重要な部分は、遺言で整理できます。

ですが、Aさんのケースでは、もし遺言があったとしても、やはり周りの人たちは困ったはずだと言われています。なぜなら、Aさんがどんな生活をしていたのか、誰もよく分からなかったからです。

Aさんは長くカナダで一人暮らしをしていました。カナダに友達はいますが、日本にいる家族とは、年に一度連絡を取る程度。どこの銀行を使っているのか。どんな保険に入っているのか。家の契約はどうなっているのか。誰も知りませんでした。

亡くなったあと、部屋の中を確認してみても、古い通帳やクレジットカードの明細は見つかったものの、オンラインのアカウント情報は不明。スマートフォンやパソコンにはパスワードがかかっていて、開くこともできません。友達はAさんの資産や契約関係について、知る由もありませんでした。

葬儀の準備、部屋の片付け、相続手続き。それらと並行して、Eさんたちは「Aさんの生活の痕跡」を一つひとつ探していくことになりました。

銀行や保険会社に問い合わせ、公共料金の契約を確認する。思いつくところに連絡しては、該当する契約があるかどうかを確認する。その作業は、思っていた以上に時間も労力もかかるものだったそうです。

もしここで、Aさんがエンディングノートを残していたら。状況はかなり違っていたかもしれません。

エンディングノートには、法的な効力はありません。遺産の分け方を決めることもできません。ですが、残された人にとって本当に必要とされる情報をまとめておくことができます。

たとえば、

どんな保険に加入しているのか
使っているクレジットカード
住まいの契約や公共料金
税金を頼んでいた会計士がいるかどうか
連絡してほしい人
お葬式やお墓の希望

こうした情報が一冊にまとまっているだけで、残された人の負担は大きく変わります。

海外で一人暮らしをしている方の場合、この情報の大切さはさらに大きくなります。国が違うだけで、制度も手続きも大きく違うからです。

遺言では、財産の内容を細かくリストとして書かないこともあります。だからこそ、エンディングノートに一覧としてまとめておくことで、家族や周りの人の負担を大きく減らすことができます。

つまり、どちらか一つではなく、両方そろって初めて、周りの人への思いやりになるのです。

Aさんのケースでは、相続手続きだけでなく、生活に関する情報を探すことにも多くの時間がかかりました。もしエンディングノートがあれば、Eさんたちが全て手探りで調べる必要はなかったはずです。

遺言を書くことは、とても大切です。
でも、それだけでは足りないことがあることを知ってください。

あなたの銀行口座、保険、契約、連絡先。もし何かあったとき、誰かがそれをすぐに見つけられる状態になっているでしょうか?

エンディングノートは、特別なものではありません。

未来の誰か、それは自分かもしれないし、愛する家族かもしれない。大切な友達かもしれません。その人たちが困らないために残す、もう一つの思いやりの形です。

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本コラムは終活に関する一般的な情報提供を目的としています。内容には十分配慮しておりますが、必要に応じてご自身での確認や、専門家へのご相談をおすすめします。なお、本コラムをもとに行動されたことによる不利益については、免責とさせていただきます。

「Let’s海外終活~終活は新しい大人のマナー」の第1回からのコラムはこちらから。

叶多範子(かなだ・のりこ)

海外終活アドバイザー

親しい友人の急逝をきっかけに、事前の準備が周囲の負担を減らし、安心をもたらすことを実感。現在は相続専門の弁護士アシスタントとして実務に携わりながら、50代からの海外在住日本人に向けて終活の重要性を伝えています。

終活を「死の準備」ではなく、人生を整える「私活(わたしかつ)」と考え、エンディングノートを活用してその考え方を広げています。

カナダ・バンクーバー在住。家族はカナダ人の夫と2人の息子、愛猫1匹。

ホームページ:https://www.shukatsu.ca

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