「カナダ“乗り鉄”の旅」第33回 「安いものには訳がある」、夜行列車の座席車両のリスクとは シリーズ「カナディアン」【7】

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス(大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 「そんなに高額なのか!」。カナダの東西約4466キロを4泊5日で結ぶVIA鉄道カナダの看板列車「カナディアン」の繁忙期料金を伝えると、そんな反応が待ち受けている。

 確かに寝台車の最高級クラス「プレスティージ寝台車クラス」の東部オンタリオ州トロントと西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーの全区間乗った場合の1人当たり料金は6965カナダドル(1カナダドル=113円で約78万7000円)からと、航空機のエコノミークラスの割安な料金の40倍という大枚をはたかなければならない。

 一方、座席が並んでいるエコノミークラスならば年間を通じて514カナダドル(同約5万8100円)からにとどまる。だが、「安いものには訳がある」という逸話を客室乗務員が明らかにした。

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」(大塚圭一郎撮影)

 【カナディアンの標準料金】VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の寝台車の標準料金は、利用者が多い春から秋にかけての繁忙期と、冬の閑散期では大きく異なる。繁忙期の2025年5月1日~11月15日に全区間のトロント―バンクーバーを乗り通した場合、展望車「パークカー」と、後ろから2両目の客車に計8室ある最高級クラス「プレスティージ寝台車クラス」は1人当たり6965カナダドル(1カナダドル=113円で約78万7000円)から、「寝台車プラスクラス」の2人用個室は1人当たり3029カナダドル(同約34万2300円)から、開放型寝台の上段は1人当たり1667カナダドル(約18万8400円)からに設定された。

 閑散期の2025年11月16日~26年4月14日は「プレスティージ寝台車クラス」が5541カナダドル(同約62万6100円)から、「寝台車プラスクラス」の2人用個室は1832カナダドル(同約20万7000円)から、開放型寝台の上段は1032カナダドル(約11万6600円)からとなっている。

 これに対してエコノミークラスは年間を通してほぼ同じ料金に設定しており、トロント―バンクーバーの利用は1人当たり514カナダドル(同約5万8100円)から。VIA鉄道カナダは毎週火曜日や、アメリカの感謝祭(11月の第4木曜日)の翌日となる金曜日に実施する「ブラックフライデー」のセールでは一部の乗車券を割引販売している。

▽エネルギーの“マルチプレーヤー”都市に

 バンクーバーのパシフィック・セントラル駅を2024年8月12日午後3時に出発したトロント行き夜行列車「カナディアン」の「VIA2」は、2日目の13日にアルバータ州をひたすら東進した。

エドモントン駅に停車中のVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」。手前は展望車「パークカー」(大塚圭一郎撮影)
エドモントン駅に停車中のVIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」。手前は展望車「パークカー」(大塚圭一郎撮影)

 列車が13日夜に滑り込んだエドモントンはアルバータ州の州都で、2025年のカナダの都市別人口ランキングで4位という大都市だ。同州によると、エドモントン市の2025年の人口は123万8295人(同州ウェブサイト)と、日本の広島市(25年12月1日時点で117万3892人)をやや上回る規模だ。エドモントン市の人口は5年間で18・3%増と急速に伸びており、5年前の120万374人から2・2%減って120万人を割り込んだ広島市の人口減少とは対照的だ。

 エドモントン市の人口が急増したのは、エネルギー産業が活況を呈している中で、移民の流入が進んだことが要因だ。しかも伝統的なエネルギーにとどまらず、脱炭素化に役立つクリーンエネルギーにも強みを持つ“マルチプレーヤー”なのだ。

 エドモントンの南西約100キロにカナダ最大級の油田「ペンビナ油田」があるなど、周辺では石油・ガスを産出している。私がエドモントンからトロントへ向かった旅客機で隣席になった男性は「私は元消防士で、退職後はエドモントン近郊の油田で働いている。グループで採掘に当たっており、宿舎に泊まり込んで働くんだ。しばらくすると別のグループと交代になり、こうして自宅に帰るんだ」と教えてくれた。

 また、エドモントン地域では、脱炭素化で注目が高まる水素の産出量がカナダ全体の約6割を占める拠点にもなっている。天然ガスを中心とする化石燃料から造り出し、製造過程で発生する二酸化炭素(CO2)を大気中に放出せずに回収・貯留(CCS)する水素「ブルー水素」をとりわけ得意としている。

 エドモントン国際空港は水素を積極的に活用したショールームのような役割を果たしており、トヨタ自動車の水素を燃料として走る燃料電池車(FCV)「MIRAI(ミライ)」も用いられている。

 エドモントン地域は、製造時に発生する二酸化炭素(CO2)を大気中に放出しないクリーン燃料「ブルーアンモニア」の製造も活発だ。このため日本の大手商社や電力会社などは、エドモントン地域からのブルー水素や、ブルーアンモニアの調達に向けた検討を進めている。

 エドモントンは脱炭素化の潮流を捉え、世界から熱視線を浴びている“時代の寵児”と呼んでも過言ではなかろう。

▽これが沿線2番目の都市!?

 都市単独の人口として比較した場合、首位のトロント、2位の東部ケベック州モントリオール、3位のアルバータ州カルガリーに次ぐエドモントンは、カナディアンが立ち寄る中でトロントに次ぐナンバーツーの都市となる。

 さぞかしにぎわっているだろうと思いきや、対照的に平屋の駅舎に沿った1本だけしかないプラットホームがあるだけの殺風景が列車を迎え入れた。駅は雑草が生い茂る閑散とした場所にあり、夜に到着した列車を降りても中心街がどこにあるのかも見当がつかないほどだ。

 すると、煌々と窓明かりを放った超高層ビルが遠くにそびえているのが視界に入り、南東に約6キロ離れた中心街の位置を教えてくれるランドマークの役割を果たしていた。

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」から眺めたエドモントン地域の景色(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」から眺めたエドモントン地域の景色(大塚圭一郎撮影)

 エドモントンの運輸当局エドモントン交通サービス(ETS)が運行する次世代型路面電車(LRT)は、最初の区間が1978年に開業した北米のLRTの草分けだ。中心部を通る3本の路線を構えるが、VIA鉄道のエドモントン駅と最も近いNAIT―ブラッチフォードマーケット停留場でも徒歩で約40分かかる。

 「カナディアン」は週に2~3往復しか運行していないとあってエドモントン駅にはETSの路線バスも乗り入れておらず、最寄りの停留所まで歩くと15分を要する。

▽列車がそのまま入線しないワケ

VIA鉄道カナダのエドモントン駅舎(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダのエドモントン駅舎(大塚圭一郎撮影)

 大都市の「陸の孤島」の様相を呈するエドモントン駅は、南北に結ぶ支線沿いにあるホームに入線する方法も独特だ。カナダを東西につなぐ貨物鉄道大手カナディアン・ナショナル鉄道(CN)の本線を主に走る「カナディアン」は、エドモントン駅の近くにあるポイントレール(分岐器)を通り、南下する支線に入ってホームに滑り込む。

 東西に結ぶ本線と、南下する路線が三角形に配置された「デルタ線」(三角線)になっているため、東西どちらからもそのまま駅に入ることが可能だ。

 ただし、「カナディアン」は先頭のディーゼル機関車2両が客車を引いている。よって、東へ向かうトロント行きの列車が西側の分岐器から入線すると、駅を出発する際に機関車の位置が列車の最後尾になってしまう。

 そこでトロント行きの列車の場合、西側と東側の両方の分岐器を通り過ぎてから停車し、最後尾の機関車が客車を押す推進運転で東側の分岐器からエドモントン駅に滑り込む。これならば出発時に機関車が先頭になり、東側の分岐器から本線に入ってトロント方面へ向かうことができる。

▽エコノミークラスを利用したカナダ人の感想は

 エドモントン駅に到着した列車を途中下車し、駅舎の方へ歩いて行くとエコノミークラスが止まる位置で大勢の予約客が到着を待っていた。学生らしき若者や、家族連れらが多い。

 機関車を含めて22両編成で運転されていた列車に、エコノミークラスは4両目の「8108」と、5両目の「8132」の2両が連結されていた。

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス「8108」(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス「8108」(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス「8132」(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラス「8132」(大塚圭一郎撮影)

 軽食や飲み物などを販売するスナックバーを備えた客車はクロスシート座席を60席、スナックバーのない客車は62席を備えている。全座席は背もたれを倒すことができ、下脚部を置くことができるレッグレストも備えている。区間に乗車した場合は車内で4泊することになるため、就寝時に一定の配慮をした設計だ。

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラスで販売する軽食や飲み物のメニュー(大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」のエコノミークラスで販売する軽食や飲み物のメニュー(大塚圭一郎撮影)

 もっとも、「カナディアン」のエコノミークラスで夜を明かした知人のカナダ人は「若いときだったので平気だったが、よく眠れるわけでもないので今はごめんだね」と打ち明けた。

 また、寝台車と違って食堂車は利用できず、ありつける食事もチーズバーガーやピザ、サンドイッチといった軽食に限られる。私はこれらのメニューを中部マニトバ州のウィニペグとチャーチルを南北に結ぶVIA鉄道の夜行列車で味わったが、コンビニエンスストアで売っているのと同じような味にとどまっていた。

▽列車で移動する「驚きの理由」

 若者らが出費を抑え、カナダの景色を楽しむためにエコノミークラスに乗り込むのはよく分かる。「カナディアン」の車内で話した女性は「旅客機が結んでいない小さな町に息子が住んでいるので、この列車を利用した」と話しており、このような利用法もあるだろう。

 しかしながら、旅客機ならばはるかに短時間で、運賃もほとんど変わらない大都市間をエコノミークラスで移動する利用者も多いという。しかも多くは車窓目当てでも、鉄道愛好家でもないという。

 ある客室乗務員が、理由の一つを打ち明けてくれた。この乗務員は「エコノミークラスの利用者も、大部分はマナーの良い人たちです」と前置きしつつ、こう声を潜めた。「エコノミークラスを長距離利用している利用者の中には、航空会社とトラブルを起こしてブラックリストに載ってしまったため、鉄道で移動する人もいるのです」

 そのような素行に難のある利用者の場合、鉄道でもトラブルを起こすリスクがありそうだ。ところがVIA鉄道の場合は「税金で支えられている国営企業のため、原則としてあらゆる利用者も受け入れるのが使命になっているのです」と解説した。

▽移動中に起きやすいトラブルとは

 この客室乗務員は「残念ながら、エコノミークラスでは寝台車と比べてトラブルが起こる確率が高い」とし、中でも目立つのが「車内が禁煙のため、喫煙者がたばこなどを長時間吸えないことにいら立って問題を起こすケースです」と語った。

 ニコチン切れになって乗客が怒り出す事態になりやすいのが、エドモントンとカナダ中部サスカチワン州サスカチューンの区間だという。この区間は定刻で走った場合でも約9時間にわたって長時間停車がないため、喫煙者にとってはこれほどの長時間にわたって車内で“監禁”されることが極めて苦痛なのだそう。自身の経験でも「貨物列車との待ち合わせのために列車が遅れ、抗議を受けたことがありました」と振り返った。

 VIA鉄道は貨物列車との行き違いや、後続の貨物列車が来る場合には、線路を保有するCNの列車が優先されている。「乗務員はそのような事情をお客様に説明し、理解を求めている」としながらも、看過できないトラブルが起きることもあるという。

 乗客が暴れるような事態になれば「詳しくは言えないものの、他の乗客と乗務員を守るための護身用の器具は車内に用意してある」そうで、途中駅で警察に引き渡すなどの断固たる対応を取っているという。

 大勢の利用者が乗り込む列車は、それぞれが規則とマナーを守ることで快適に移動できる。「カナディアン」で一緒に乗り合わせた人たちの大陸横断体験の貴重な思い出をぶちこわしたり、乗務員に負荷を掛けたりしないために、そして問題を起こした人が後悔する結末を迎えないためにも、品行方正な振る舞いを強く求めたい。

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。