「カナダ“乗り鉄”の旅」第32回 目玉の“走るレストラン”、高級ホテルとは正反対の流儀とは シリーズ「カナディアン」【6】

VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の食堂車内(2024年8月12日、大塚圭一郎撮影)
VIA鉄道カナダの夜行列車「カナディアン」の食堂車内(2024年8月12日、大塚圭一郎撮影)

大塚圭一郎

 カナダの西部ブリティッシュ・コロンビア(BC)州バンクーバーと、国内最大都市の東部オンタリオ州トロントの約4466キロを4泊5日で結ぶVIA鉄道カナダの看板列車「カナディアン」の目玉となっているのが“走るレストラン”こと食堂車だ。高級ホテルのレストランの「常識」とは180度異なる運営をしており、意外にもそれが隠れた魅力となっている。

「カナディアン」の食堂車の予約票(2024年8月14日、大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」の食堂車の予約票(2024年8月14日、大塚圭一郎撮影)

 【食堂車】主に長距離列車に連結しており、乗客に食事を提供する車両。乗客の食事用のテーブルと座席、調理用の台所と配ぜん設備を備えていることが多い。アメリカの鉄道車両メーカーだった旧プルマンが1968年に製造した「デルモニコ」が、全室を食堂車にした客車の先駆けとされる。アメリカの全米鉄道旅客公社(アムトラック)の夜行列車には食堂車をつないでいる。VIA鉄道カナダでも「カナディアン」のほかに、東部のケベック州モントリオールとノバスコシア州ハリファックスをつなぐ夜行列車「オーシャン」にも連結している。

 日本ではJR東日本の豪華寝台列車「トランスイート四季島」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」、JR九州の「ななつ星in九州」などに連結している。かつては東海道・山陽新幹線の一部列車や、長距離を走る特急列車などにも備えていた。

▽パーティーの来客のようにもてなす

 「カナディアン」は2両のディーゼル機関車が、旧型ステンレス製客車を引いている。2024年8月12日にバンクーバーのパシフィックセントラル駅を出発したトロント行きの列車は夏休みの繁忙期とあって計22両という長大な編成で、食堂車が2両連結されていた。

「カナディアン」に連結された食堂車の外観(2024年8月14日、大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」に連結された食堂車の外観(2024年8月14日、大塚圭一郎撮影)

 利用できるのは最上級クラス「プレスティージ寝台車クラス」と、次いで料金が高い「寝台車プラスクラス」の乗客で、料金に食事代が含まれている。プレスティージ寝台車クラスの利用者はアルコール飲料も無料で注文できるのに対し、寝台車プラスクラスの場合は追加料金が必要だ。VIA鉄道の職員にチップについて尋ねると「食事のたびに支払う必要はないが、担当してくれたウェイターか、ウェイトレスに下車前に寸志を封筒に入れて渡すと喜ばれると思う」と助言されたので、そうした。

 客室の位置によって2両の食堂車のどちらかに割り当てられ、私たちは後ろから4両目に連結された車両だった。車内はテーブルごとに4席、計48席を備えている。車内の仕切りのガラスには鳥のイラストが装飾されているなど、気品が漂う空間だ。

 横長の窓からの車窓を眺めながら、シェフが併設された台所で調理したばかりの料理に舌鼓を打つ時間は格別で、列車旅ならではのぜいたくな時が流れる。

 VIA鉄道は食堂車について「楽しさと満足感を得られることを保証する」と太鼓判を押す。2023年12月に息子とともにトロントからバンクーバーまでの全線を乗り通した前回は、食堂車を担当するベテランのサービスコーディネーター、ショーン・ピジョンさんが「私は全ての利用者を、パーティーの来客のように歓迎し、もてなしている」と教えてくれた。

 もてなす手法が、VIA鉄道の食堂車の魅力を倍加させる“スパイス”として利いているのだ。しかし、それは実は「高級ホテルのレストランの常識に反する」(ホテルマン)というものだった。

▽クライマックスはいつ?

 2024年8月に再びカナディアンに乗車した際は、息子に加えて妻も伴った家族3人の総出となった。私の関心の的は「あの絶品の料理がいつ供されるのか」ということだった。それは23年12月にトロントからバンクーバーへ向かった際、“最後の晩餐”となった4日目の夕食の選択肢にあったメーンディッシュだった。

 それは、生後12カ月未満の仔羊の骨付きのロース肉を調理したラムチョップだ。世界中で鉄道旅行を楽しんできたという男性も「カナディアンのラムチョップは食堂車で食べた中で最高だった」と絶賛するほどの美味だった。

 トロントからバンクーバーへ向かう「VIA1」と名付けた1番列車でラムチョップが用意されたのは4日目の夕食で、BC州を走行中のことだった。

 これに対し、今回乗り込んだ反対方向のバンクーバー発の列車「VIA2」は、ラムチョップが前回提供されたBC州の区間がいきなりやって来る。その場合、初日の夕食で味わえることになる。

 一方、もしも“最後の晩餐”に取っておいているのならば、オンタリオ州を走る4日目の夕食に待ち受けているはずだ。その場合、ラムチョップの出番はいつになるのかと首を長くして待っていた私と息子は肩を落とすことになる。今回は途中のカナダ中部マニトバ州ウィニペグで下車するため、ラムチョップにはありつけないことになるからだ。

 果たして初日の夕食のメニューは何か。それが気になりながらバンクーバーを出発した2024年8月12日、予約時刻の午後7時に食堂車へ足を踏み入れた。4人掛けのテーブルに3人で着席し、渡されたメニューのページを繰った。

 願いが通じ、なんとラムチョップが入っていた。何とウェルカムドリンクならぬ“ウェルカムディナー”で早くもクライマックスが訪れた展開だ。味はもちろん、期待通りの素晴らしさだった。

「カナディアン」の食堂車でラムチョップを味わう筆者(2024年8月12日)
「カナディアン」の食堂車でラムチョップを味わう筆者(2024年8月12日)

 他にはケイジャンのスパイスを利かせて焼いたサケ、カナダの特産品のメープルシロップで味付けしたローストチキン、そしてベジタリアン用の料理が用意された。妻はサケを選び、「とてもおいしい」と満足そうだった。

▽「ブランチ」の定義に新説!?

 1日目にしてヤマ場を迎えた食堂車での体験は、2日目に帳尻を合わせてきた。この日は朝食ではなく昼食を兼ねた「ブランチ」という設定で、午前9時半から午後1時までの好きな時間に訪れる仕組みだ。

 反対方向の列車に乗り込んでいた2023年12月の前回乗車時も、西部アルバータ州の有名保養地のジャスパーを通る4日目だけブランチだった。このときはオープン直後の午前9時半にブランチのオムレツを食したため、午後9時に予約していた夕食まで半日近くの間が空いた。

 夕食で同席したアルバータ州エドモントン在住の心理カウンセラーの女性は「朝食が早くて昼食はなかったので、展望車両に置いてあったビスケットを食べてしのいだわ」とぼやいた。私も首を縦に振って「息子と私も同じ状況でした」と話した。

 すると、同席したジャスパーに住むカナダ国立公園局(パークス・カナダ)元職員の男性は「へー、そうなんだ」とどこ吹く風と言わんばかりの様子だ。女性が「あなたはどうしたの?」と質問すると、男性は「『ブランチ』と言っているのだから、そういう時はブレックファスト(朝食)とランチ(昼食)の2回行けばいいんだよ」と得意げに答えた。

 女性が「つまり朝と昼の2回食堂車に来て、どちらもブランチのメニューを注文したということ?」と確認すると、男性は「そういうこと。1回目は朝食のために午前9時半に来て、2回目は昼食を取るために午後1時に再訪したんだ」と説明した。

 男性は「別に注意されることもなかったよ。だって、映画『ロード・オブ・ザ・リング』では『2回目の朝食はないの?』という台詞が出てくるじゃないか!」と笑いながら解説した。

 確かにロード・オブ・ザ・リングでは、道中にピピンがアラゴルンに「朝食は?」と尋ね、アラゴルンが「食べただろ?」と返すと、ピピンが「1回だけしか食べてない。2回目の朝食は?」と食い下がる場面がある。

 男性の〝告白〟は、思わぬ相手にも伝わっていた。隣のテーブルの乗客が平らげたケーキの皿を下げようとしていたウェイターが、こちらに視線を送りながら「よろしければ2個目のケーキはいかがですか?」と声を張り上げたのだ。

 「2回目の朝食」を皮肉られたことに気づいた男性はすかさず「それは僕のアイデアだぞ!」と返し、皆で大笑いした。

▽「ホテルマンの常識」と異なる流儀

 このときの夕食で相席になった心理カウンセラーの女性も、パークス・カナダ元職員の男性も全くの初対面だった。ウェイターが4人掛けのテーブルに私たち親子と女性、男性を案内して同じテーブルになった。これは「相席にはしないのが常識」(ホテルマン)という高級ホテルのレストランでは見られない光景だ。

 食堂車を担当するピジョンさんは「食事の機会に新たな出会いが生まれるといいとの思いから、できるだけ同じテーブルに他の人と同席してもらっている」と教えてくれた。食堂車を利用するのは最上級のプレスティージ寝台車クラスの利用者と、次いで値が張る寝台車プラスクラスの乗客だけに、社交的で旅慣れた利用者が多い。

 したがって、ウェイターまたはウェイトレスから「相席でお願いします」と言われれば快諾し、互いにあいさつして会話を楽しむ場面が多く見られる。

 心理カウンセラーの女性も「知らない人たちと出会えるのがこの列車の楽しいところだわ」と語り、パークス・カナダ元職員の男性も、私たち親子もうなずいた。

 別の時の昼食では韓国人の親子と相席になり、「僕は日本のアニメのファンなんだ」という子どもの豊富な知識量に舌を巻いた。

 こうしてひとたび同席した人たちとは列車内で顔を合わせるとあいさつをしたり、会話をしたりするようになる。「パーティーの来客のように歓迎し、もてなしている」(ピジョンさん)という言葉通り、パーティーのように食事の席でも知己を広げ、交流できるように仕掛けられているのだ。

▽裏ワザを繰り出すチャンス到来!?

「カナディアン」に乗車した2日目の2024年8月13日、食堂車に提供されたブランチのメニュー(大塚圭一郎撮影)
「カナディアン」に乗車した2日目の2024年8月13日、食堂車に提供されたブランチのメニュー(大塚圭一郎撮影)

 さて、「2回目の朝食」という裏ワザを耳打ちされて迎えた2024年8月のブランチはどうしたのか。さすがに3人連れでブランチ時間帯に2度訪れると目立つのに加え、他の乗客の分や、乗務員のまかない飯が足りなくなっては申し訳ないので自粛した。

 ところが、公式な形で1日に3食を味わうことは可能だったのだ。2日目となる8月13日は午前6時半~8時という限られた時間に食堂車へ足を運ぶと、普段よりも簡素ながら朝食を出してもらえた。

 提供されるのはオートミールとシリアルに加え、ヨーグルトまたはトースト、マフィンの付け合わせだった。私たちは午前8時前に食堂車を訪れ、付け合わせにはトーストを選んだ。

 続いて3時間後の午前11時に再び足を運び、ブランチをいただいた。メニューは5択で、卵料理とハッシュドブラウンのハッシュドブラウンポテトなどを盛り合わせた「トランスコンチネンタル」、オムレツ、チキンポットパイ、パスタ料理、ビーガン向けのハッシュドブラウンと野菜、豆腐を組み合わせた料理が用意されていた。

ブランチのチキンポットパイ(2024年8月13日、大塚圭一郎撮影)
ブランチのチキンポットパイ(2024年8月13日、大塚圭一郎撮影)

 私は選んだチキンポットパイを食しながら、元パークス・カナダ職員の男性がドヤ顔でブランチ時間帯に2回訪問したことを明かした8カ月前の情景を思い浮かべた。そして、心の中でこう叫んだ。

 「今度こそ『2回目の朝食』にありつけたよ!」

共同通信社元ワシントン支局次長で「VIAクラブ日本支部」会員の大塚圭一郎氏が贈る、カナダにまつわる鉄道の魅力を紹介するコラム「カナダ “乗り鉄” の旅」。第1回からすべてのコラムは以下よりご覧いただけます。
カナダ “乗り鉄” の旅

大塚圭一郎(おおつか・けいいちろう)
共同通信社経済部次長・「VIAクラブ日本支部」会員

1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学外国語学部フランス語学科を卒業し、社団法人(現一般社団法人)共同通信社に入社。2013~16年にニューヨーク支局特派員、20~24年にワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。24年9月から現職。国内外の運輸・旅行・観光分野や国際経済などの記事を多く執筆しており、VIA鉄道カナダの公式愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員として鉄道も積極的に利用しながらカナダ10州を全て訪れた。

 優れた鉄道旅行を選ぶ賞「鉄旅(てつたび)オブザイヤー」(http://www.tetsutabi-award.net/)の審査員を2013年度から務めている。共同通信と全国の新聞でつくるニュースサイト「47NEWS(よんななニュース)」や「Yahoo!ニュース」などに掲載されている連載『鉄道なにコレ!?』と鉄道コラム「汐留鉄道倶楽部」(https://www.47news.jp/column/railroad_club)を執筆し、「共同通信ポッドキャスト」(https://digital.kyodonews.jp/kyodopodcast/railway.html)に出演。
 本コラム「カナダ“乗り鉄”の旅」や、旅行サイト「Risvel(リスヴェル)」のコラム「“鉄分”サプリの旅」(https://www.risvel.com/column_list.php?cnid=22)も連載中。
 共著書に『わたしの居場所』(現代人文社)、『平成をあるく』(柘植書房新社)などがある。東京外大の同窓会、一般社団法人東京外語会(https://www.gaigokai.or.jp/)の広報委員で元理事。