予防接種と薬局DX

 今年もインフルエンザ・COVIDの予防接種のピークシーズンがやって来ました。皆さんは、もう接種を受けられましたか?

 私の薬局では今年は少し特殊な状況が生まれています。ギブソンズには2軒の薬局がありますが、そのうち1軒が「人手不足のため、一切の予防接種を行いません」と宣言しました(と患者さんが教えてくれました)。さらに、毎年恒例だったパブリックヘルスユニットによる集団接種も見送りとのこと。つまり、私が勤務するロンドンドラッグスが町で唯一の接種拠点という形になってしまったから大変です。

 これはビジネス的には追い風に見えるかもしれませんが、現場は人手と時間のやりくりが勝負です。予防接種業務自体は、過去16年間も続けてきたので目新しいことはありませんが、これまで他の場所で接種を受けていた方々が一気に私の薬局に流れてくるとなれば、例年以上に気を引き締めて臨む必要があります。

 ただ、人の気合いで仕事が回っていたのは昔のこと。最近では、人手不足を補い、薬剤師が専門性に集中できるよう、薬局のDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速しています。私の店舗でも、この1、2年の間にいくつかのシステムが導入されましたので、紹介したいと思います。

 まず、お薬の用意が完了した際にテキストメッセージ(SMS)を送る機能です。従来は、希望する患者さんにお薬ができた旨を電話でお知らせしていたものが、テキスト送信で済むようになり、この作業は1秒もかかりません。薬局が患者さんに電話をかける時間を節約し、逆に患者さんが「お薬できていますか?」と確認の電話を入れる手間の両方が省け、双方の負担が軽減し、利便性が向上したと思います。

 また、セントラルフィル(Central Fill)というシステムも取り入れられました。店舗で入力・監査まで行った処方データを、本社にある大規模調剤センターに送り、機械が計数・包装・ラベル貼付までを行います。調剤済みの薬が店舗に送られたのち、最終照合して患者さんに渡すという流れで、いわば社内アウトソーシングです。

 ブリスターパック(朝・昼・夕・就寝の仕切り包装)の作成には、10年以上前からセントラルフィルが利用され、「機械で作る+スタッフが目視で確認する」の二重チェックで運用してきました。しかし、昨年新たに本社に導入されたマシーンでは、画像認識機能によるコンピューター監査が行われるようになりました。具体的には、原薬ボトルのバーコードで薬品名、規格、ロット、有効期限を照合し、各マス目の錠剤はカメラ画像で形と色、薬の数を自動判定します。どこかに不一致があれば機械が自動停止し、スタッフが再確認します。

 最近は、これに加えてバラ錠を正確に数えてバイアルに充填する巨大な自動調剤機もセントラルフィルで稼働を始めました。患者さんが、電話やアプリでオーダーしたリフィル処方せんを、セントラルフィルの自動調剤機で調剤し、翌日には薬が用意できるという仕組みが出来上がりました。店舗レベルでは患者さんの対応により多くの時間を割くことができ、また反復的な計数作業の量を減らすことにつながっています。

 もちろん、すべての薬がセントラルフィルで調剤されるわけではありません。当日ピックアップ、調製・混合が必要な薬、冷蔵・冷凍品、麻薬などの規制薬、在宅向けの細かなオーダーなどについては、店舗レベルで対応していますのでご心配なく。

 最後に、お薬保管場所検索システムです。これは準備済みのお薬に専用クリップを装着し、ピックアップ時に患者さんの情報を入力すると、該当の薬が光や音で所在を知らせてくれます。これで薬局スタッフが「できている薬を探す時間」を大幅に短縮。バーコード照合で薬の取り違いも未然に防げ、またレジ前での待ち時間が減りますから、スタッフと患者さん双方のストレスを軽減できます。

 これらの工夫は、薬剤師が本来担う相談・服薬指導・予防接種に集中できる環境づくりに直結します。ピックアップのワークフローを最適化すると、エラーが減ってスピードが上がり、最終的にサービスの質を上げることができます。DXは時間を生む強力な味方で、私自身この流れが大好きです。人とテクノロジーが協働することで、大量の処方を正確かつ効率的に処理し、患者さんの声に耳を傾ける時間を増やすことができるからです。

 今後私が楽しみにしているのは、AIによる処方入力支援と問題検出です。日本では一足先にQRコードで処方せんの内容をコンピューターに取り込むシステムが普及していますが、ここはカナダでも追いつきたい領域です。さらなるDXにより薬物治療上の問題を素早く見つけて解決し、より安全で満足度の高い治療に貢献できれば、薬剤師としては本望です。もちろん、テクノロジーの進化に置いていかれないよう、私自身もアップデートを続け、また予防接種も頑張っていきたいと思います。

*薬や薬局に関する一般的な質問・疑問等があれば、いつでも編集部にご連絡ください。編集部連絡先: contact@japancanadatoday.ca

佐藤厚(さとう・あつし)
新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。 2008年よりLondon Drugsで薬局薬剤師。国際渡航医学会の医療職認定を取得し、トラベルクリニック担当。 糖尿病指導士。禁煙指導士。現在、UBCのFlex PharmDプログラムの学生として、学位取得に励む日々を送っている。 趣味はテニスとスキー(腰痛と要相談)

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