オンタリオ州南部に位置するナイアガラ・オン・ザ・レイクは、ナイアガラの滝の北に広がる風光明媚な町。カナダ有数のワイン産地としても知られるこの地域が初夏の雰囲気に包まれる6月にワイナリーを訪れた。
歴史息づく古都 ナイアガラ・オン・ザ・レイク

ナイアガラ・オン・ザ・レイクは、オンタリオ州南部に位置する小さな町だがその歴史は古い。1779年、アメリカ独立戦争を機にカナダへ移住したイギリス・ロイヤリスト軍の補給基地として設立され、短期間だがアッパー・カナダの首都として機能した。その後1813年に火災で焼失したが、ロイヤリストの入植者によって再建された。現在も歴史地区(ヘリテージ・ディストリクト)には英国風の建築が並び、土産店、劇場、カフェなどが軒を連ねている。
ナイアガラ・オン・ザ・レイク観光局によると、今まではカップルや中高年層が中心だった旅行者だが、近年はミレニアル世代やZ世代など若者が増加しているという。背景には、小規模なワイナリーへの関心や、サステナブルな観光、自然を取り入れたウェルネス体験など、新たな旅のスタイルへの注目があるとのこと。観光の傾向は環境意識の高まりとも連動して、旅行者は環境負荷の少ない目的地を選ぶ傾向にあるそうだ。
また、年間を通してイベントが多いことも人々を引き付けている。8月にはピーチ・フェスティバルやガーデン・ツアー、ジャクソン・トリッグス・ワイナリーでは屋外コンサートも開かれる予定だ。
ワインを育てる風土と地域の強み

ナイアガラ・オン・ザ・レイクはカナダ有数のワイン産地として知られる。シャルドネ、リースリング、ピノ・ノワールなど主要品種のワインと共に、冬に凍結したブドウを使ったアイスワインも世界的に評価されている。
ナイアガラ地域には多くのワイナリーがあり、ワインテイスティングやガイド付きのツアーなどを楽しめる。観光局によれば、2026年1月には恒例の「Icewine Gala in Niagara」が開催予定で、希少なアイスワインを堪能できる貴重な機会となりそうだ。
地元のワイナリーStratus Vineyardsによると、ナイアガラ地域はカナダ国内の他の産地と比較して、ワイン造りで多くの利点を備えているという。夏に温暖な気候を必要とするブドウ品種の栽培に適し、オンタリオ湖に近いため秋の霜害も防ぎやすい。さらに、土壌の多様性もワインに良い影響を与えている。
こうした良質なワインが醸造される条件が揃うナイアガラ・オン・ザ・レイクは、最近の高品質なワイナリーの増加とトロントへのアクセスの良さが相まって、カナダのワイン文化を支える重要な拠点のひとつとなっている。
カナダと日本の食文化をつなぐ Stratus Vineyards

訪れたStratus Vineyardsは、4階建ての重力式醸造施設で、ワインをポンプで移動させず上階から下階へと自然の力を利用して工程を進めていると関係者が教えてくれた。こうすることで果汁やワインの繊細な風味を保つことができるのだという。
醸造ではワインの原酒を混ぜ合わせる伝統的な手法「アッサンブラージュ(Assemblage)」を使い、バランスや奥行きを引き出しているとのこと。「ミニマル・インターベンション」という考え方に基づき、畑の個性がそのままワインに表れるよう細やかな手法が取られているという説明に、作り手の思いが伝わってきた。
施設のデザインも特徴的だ。セラーには障子に着想を得たという窓が設けられ、施設全体として禅のミニマリズムに通じるデザインが施されている。こうした空間設計は日本からの旅行者にも親しみを持って受け入れられることが多いと話してくれた。
Stratus Vineyardsのワインは、東京のカナダワイン専門店「Heavenly Vines」で取り扱われていて、カナダと日本の食文化をつなぐ存在にもなっている。9月25日には、トロント市内の和食レストランで、Stratusワインと日本料理のペアリングイベントが開催される予定だ。

(取材 田上麻里亜)
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